【6.3】パーパス~天上の星に導かれて~(Purpose as the guiding star)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/63.html

■翻訳メモ
本パートの最初のビデオで、「存在目的」とは、単に組織の目的を明確に定義しただけのものではなく、それ以上の存在であることを話しました。今回のビデオでも引き続き、そしてさらにここを深めていきたいと思います。「存在目的」を知ることは、それほどまでに重要だからです。そして、それは、組織を運営していく上で、必要不可欠な要素でもあるからです。そこに至るには、「存在目的」は生命体であるという認識はたいへん重要です。そして、そのためには、組織の声を聞き取ること、つまり、「存在目的」を感知し、感応できるようにならなければなりません。

現在は多くの組織が「目的」を定義しています。しかし、そのほとんどは間違った設定の仕方をしていると言わざるを得ません。最近、それが流行しているから定めているという組織がとても多いように思います。年次報告書に書くために作りました、という組織もあります。ホームページに何か置かなくては、という目的で作った組織もあります。もしくは、マーケティング的な観点で、あるいは、従業員向けに発信するために作るというパターンさえあります。ビジョンを上手くバリューに落とし込めば、給料やエンプロイアビリティという観念からの切り離しに成功し、働く人たちをモチベートできる可能性があります。ただし、ティールで高い月給に言及しないのは、従業員のモチベーションを高めるためでも、ホームページを良く見せようとするためでもありません。そうではなく、組織とは、世の中で何か特別な使命を帯びているがゆえに存在している、そういう存在であることを忘れてはなりません。組織は多くの真実や美を世の中にもたらすために存在しています。また、組織とは、「世に現れたがっている何か」を乗せた船のようなものでもあります。それは、この世のものではないので、まだ名前はありません。それを表す言葉もありません。組織がそれを実行すること、つまり、その「存在目的」にずっと耳を傾ける続けることで、「その何か」はヴェールを解き、世に出現します。無理に「出現させる」というものではありません。耳を傾けるのは、ある意味、受動的なプロセスです。

私は以前、ロミー・ゲルハルトの書いた記事を読んで、心が吹き飛ぶような思いをしました。彼女は「システミック・コンステレーション」という、一種の認知療法を用います。この記事の中で彼女は、イタリアとオーストリアとの国境にある、あるホテルのオーナー家族の、信じられないような素晴らしいストーリーを紹介しています。彼らは、山の中に、以前のものより大規模な、そして、ハイエンドのスパホテルを建設する計画を持っていました。しかし、彼らはその計画だけで、6年、7年という歳月を費やしていました。その建設の過程は非常に困難で、たいへんなことが予想されたので、彼らは建設を開始できずにいました。そしてロミーはそれに手を差し伸べたのです。それはプロジェクトに対する家族それぞれも想いを、彼らの身体を通して湧き上がってくる感情に従い明らかにしていくというものでした。その身体の声だけがただしい答えというわけです。そして、結局、彼らは、そのプロジェクト自体を止めたいという感情を持っていることに気づきました。もしくは、継続するにしても、すべてをご破算にして、完全にゼロからやり直したいという感情も合わせて持っていました。そして、最終的には、彼らはゼロに戻って、最初から始める道を選んだのです。つまり、誰が図面を引くかというところから検討し直し、その設計にも計画が必要なのか、見直しました。そのため、建築許可も再度取り直すことになりました。担当する建築家も変わりました。部屋の価格設定やネーミングといったマーケティング的な要素や、それ以外にも、数えきれないほどの決定を変更することになりました。しかし、つまるところ、この主要な決断、要するに、最終判断を下すもとになる納得感は、内側にしかないのです。「正しい決定」というものが存在するのなら、それは、そのプロジェクトの「目的」に耳を傾け、そこから湧きあがってくる感情に気付く以外にはないのです。そして、その後、何が待ち受けていたか?—それは、信じられないほどのスムーズな進捗でした。彼らが再度計画を練り直す作業を始めてから、最初の顧客が宿泊したまでの時間は、わずか、1年強というものでした。私が先程、「心が吹き飛ぶ」と言った意味をお分かりいただけたかと思います。すべてが解放されたことによって、「容易」と「優雅」とが出現した、という表現がこの場合にふさわしいでしょうか。彼らには、「システミック・コンステレーション」という手法が適用されました。今、その瞬間に何が必要とされているのか、その直感的な答えを身体に求めるという方法でした。「存在目的」が語りかけてくることに耳をすますことが必要です。そして、感じ取った答えも、それが表面をひっかいただけのものでないか検証が必要です。それが、唯一の、明確な「存在目的」に至る道筋です。常にその声を聞こうとする態度が、私たちを導いてくれるのです。常にそうである続けることができれば、物事は信じられないほどスムーズに展開していくはずです。

「存在目的」を持つことが大切だという別の理由は、「セルフマネジメント」における様々なケースで、それがアライメントの役割を果たしてくれるからです。「セルフマネジメント」とは、すべての人に「力」が行き渡ったことによって「権力の階層」が解消した組織です。しかし、その組織が機能するには、なんらかの方向感、つまり、アライメントが必要になってきます。組織の「共有目的」が明確であるとそれがアライメントの役割を果たしてくれます。ただし、それは口でいうほど単純ではないことは先に申し上げておきます。

その流れで、次は、「ミッション・ステートメント」についてお話しします。組織の「目的」文章化することの是非についてです。ビュートゾルフを例にとると、彼らはステートメント、つまり「目的」を文章化することについては、その必要性を微塵も感じていません。彼らが「存在目的」を、本当にどこにも載せていないのか、それを調べるために彼らのウェブサイトを隅々までくまなく調べました。しかし、それらしきものは見当たりませんでした。また、それらしい表現さえも発見できませんでした。しかし、ビュートゾルフは「存在目的」に導かれた組織です。組織の「今の声」に絶えず耳を傾け、その「求め」に従っている組織です。彼らの「存在目的」は彼らのストーリーや日々の会話の中に生きていて、そして、はぐくまれています。

ではここで、あなたに質問します。あなたは「存在目的」を紙に書きだす必要があると思いますか?そして、その文章をホームページに載せる必要があると思いますか?

その答えは・・・、非常に個人的な見解ではありますが、すべてが始まるきっかけとなった本、『ティール組織』の中に私の考えを書いておきました。この、「存在目的」に耳を傾けるという行為に対して、なぜそこに至ったのか定かではないのですが、しかし、なんらかの観点で、私はそれについて知る必要があると思ったのは事実です。この本を書こうと思ったきっかけになった、その理由はそこにあります。私はコンサルタントという仕事を通して、どんな形態の組織であっても、その組織にふさわしい「ミッション・ステートメント」が必要だという衝動にかられたことは一度もありません。対象が進化型の組織とその周りに形成されたエコシステムであっても同様です。それゆえに、もしあなたがホームページには企業の「目的」が書いてあることが当然と思っているのなら、先ほどの「ミッション・ステートメントを書くことは必要ですか」と尋ねた問いは意味があるはずです。ミッションやビジョンを文章に書き表すことが無意味だとは言いませんが、それによって、組織の持つ「いのち」を失うことは避けなければなりません。ミッションやビジョンを端的な表現で表すことが、必ずしも、生命エネルギーを失うことにつながると言っているのではありません。私も正解は分からないのです。例えば、それを載せるにしてもデザインの良し悪しという観点はあります。魅了するような言葉なのか、当然それも関連してきます。センテンスの長さ、あるいは、図のあるなしも関係してきます。動画という手段もあります。いずれにせよビジュアルは重要です。もし、ホームページにミッションやビジョンを掲載したいと思うなら、こだわりを持たなければ、ないほうがまし、ということにもなりかねません。

もし、今、あなたが、組織の「存在目的」を感じたい、それを明確にしたいと思うのなら、耳を傾け続ける以外に方法はありません。あなたがそれを感じとったならば、その「存在目的」自体も、あなたに合わせて変化するかもしれません。「存在目的」の感知を習慣化することは、組織におけるどんなチームにとっても意義があります。そして、次には、その「存在目的」に対する、自分たちにしかできない「貢献」とは何かを探求することが重要になります。多くの人は、文章化することにこだわりますが、それはたいして重要ではないのです。むしろそれよりも、いま言った、そのチームにしかできない「貢献」について、チーム内で対話を進めた方がはるかにいいのです。そうやって、その組織にとっての「正しい」貢献とは何か、その声を聞き分ける感覚が備わっていきます。もうお分かりだとは思いますが、私たちに求められているのは、「存在目的」に対しての、私たちにしかできない「貢献」なのです。

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。