【4.3.2】元マネージャーに何が起こるのか?(What about former managers?)

※ティール組織の著者Frederic Laloux によるINSIGHTS FOR THE JOURNEYの日本語訳の個人的なメモを公開しています。
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■元のURL
https://thejourney.reinventingorganizations.com/432.html

■翻訳メモ
今回は、元マネージャーがテーマです。組織は管理職に依存しないシステムに切り替えようとしていますが、そういった状況で彼らの身にどんなことが起こるのか、考えていきましょう。

多くの元マネージャーにとっては、本当につらい経験になります。そして、何度も耳にすることだと思いますが、この移行に際して最も抵抗す示すのは、この層の人たちだということです。ただ、ある程度の時間が経ち、自身の社会的地位や組織の中でのポジションが見えてくると、その痛みも落ち着いてくるものです。いずれにしても、人生の大部分を仕事に投入してきた人たちが元マネージャーです。中には、仕事の本質を見失い、出世レースにしか興味を見いだせなくなった人もいたはずです。そして、彼らにしてみれば、ある日突然、出世のハシゴが外されるという経験をしたのです。多くは痛みを抱えることになります。しかし、ただ単に、痛みを経験しただけでは済みません。その痛みがどこから来るのか見極める必要に迫られるのです。

数多く接してきたことで1つ分かったことがあります。彼らが苦しむ本当の理由は、自己のアイデンティティの崩壊だけでないのです。彼らは、「セルフマネジメント」のことを、かつてなかったもので、しかもパワフルなものだと感じるそうです。そのため、どうやら、それが苦しみに転嫁するようなのです。つまり、自分自身の中に矛盾を抱え、それを隠しきれなくなるというわけです。多く場合、彼らは、過去に長年自分たちがやってきたことは間違っていて、しかも怠惰にまみれていたというメッセージを自分自身に送ってしまっています。そういう時は彼らに、今やろうとしていることはまったく新しいことだと伝えなければなりません。そして、それは、以前できていなかったことをやろうとしているのではないと正確に伝えることが必要です。過去はきちんとやってきたというものであり、メンバーもそのことはよく分かっていて、そのことは尊重していると伝えなければなりません。私たちは今までの延長線上にない、まったく新しい世界を見る準備を整えているという事実をしっかりと伝えていく必要があります。

しかし、彼らも、皆が等しく痛みを抱えているわけでもありません。中には、古い権力構造の、特定の環境の中でしか効力を発揮しないアイデンティティにしがみついている人もいます。そうはいっても、多くのマネージャーにとって、「セルフマネジメント」への移行は苦痛を伴うものでることに変わりありません。ただし、その「苦痛」は、時間の経過とともに和らいでもいくものでもあります。私はそれを何度も見て、そして、何度も聞いてきました。その「苦痛」は典型的な経験曲線を描きます。最初はつらくても、しばらく経ったら、徐々に仕事にも取り組めるようになっていったと彼らは言います。マネージャーであった彼らは、本来、生産性や付加価値の高い仕事ができる人たちです。しかも、元マネージャーという立場は、周りに対して大きな安心感を与えるものです。彼らは、今まで、自分の部下をやる気にさせなければならないというプレッシャーに常にさらされてきたと言います。生産性の上がらないことは抑制して、パフォーマンス向上のために部下に圧力を加えてきたとも言います。彼らは、もう、そんなゲームからは解放されたのです。

数ヵ月という時間が必要になりますが、多くの人は、再びクリエイティブなことができ、仕事を楽しめるようになったとも言います。考えてもみてください。ほとんど管理ばかりやっていて、仕事を楽しむという経験はしばらくできていなかったはずなのです。ほとんどの旧来型の組織は、会社の中の上下で情報が行き来しているだけなのですから。情報の多くは会議のためであり、また、その情報自体もワードやパワーポイントによって運ばれているだけというありさまです。それ以外といったら、誰もがやりたがらないメンバー同士の「いさかい」の対応くらいです。そして実際には、多くの場合、組織で最も創造的な人が、その対応に追われています。紛争の解決には創造性が必要とされるからです。そして、袖をまくり上げて、自分の出番だと喜び勇んで対応にあたった情熱型のマネージャーは、そういった場面で活躍してきたのです。

ここで問題となってくることがあります。元マネージャーが、移行プロセスの開始直後に「痛み」を感じるであろうと分かっていても、それを前もって伝えることはできないということです。仮に前もって、「6ヵ月後にこんな思いをするかもしれないよ」と告げたとしても、その時点ではきっと何の役にも立たないでしょう。身をもって体験しなければ、向こう側にあるものの存在は理解できないものです。ある元マネージャーは、「最終的には、言葉に言い表せないほどの幸せな境地を体験することになる」と言いました。すぐに理解はできないかもしれませんが、最後にはそんな心境を迎えられる可能性のことは、そっと告げておいても良いかもしれません。

さて、この「痛み」のプロセスの中で、「痛み」そのものを和らげる方法が存在します。それは、できるだけ早い段階で、その「痛み」を明確にするということです。新しい環境になっても、マネージャー経験者は、以前よりはるかに重要な役割を担う可能性があります。早い時期にそれを知っていると、「痛み」を経験しないで済むかもしれません。もちろん、過去の権力とは関係がありません。今後は、アドバイスプロセスを使用することになると思いますが、その際、マネージャーの経験やスキルがとても重要となってくるのです。アドバイスプロセスには承認のための書類などはありません。承認決議を出すためのエンドレスな会議に座わり続ける必要もありません。あらゆるイニシアチブ、変化を起こすために持っているすべてのエネルギーはアドバイスプロセスを通して実現されて行きます。ですので、アドバイスプロセスの使い方を学べば、以前より強力ではないにしても、多くの点で、以前と同じくらいの強い力が発揮できるのです。

理解しておかなければならないのは、「セルフマネジメント」においても、自然発生的な階層のルールは存在するということです。もし組織が依然として、「競争」を原動力としているのなら、「評価」が競争の対象に変わります。貢献度合いが競われるということです。出世のスピードを競うのではなく、人から何回アドバイスを求められるかが評価になります。元マネージャーはある分野の専門家で、これまでも本当に多くの貢献をしてきました。そのため、彼らは、あなたはすでに多くのソーシャルキャピタルを持っているはずなのです。周りのメンバーはそのように見ているはずですし、そんな特別な存在ともいえるのです。元マネージャーは、これから始まるゲームにすでに有利な立場にいるともいえます。ですので、そっと役に立ち、貢献していることが皆に伝われば、それで十分に勝者だと言えるのです。「セルフマネジメント」を目指す組織の多くは、実力主義の給与体系を維持したままになっていることが多いものです。つまり、まだ道はあるということです。ヒエラルキーの梯子はなくなっても、給与レンジの梯子はまだ残っている場合が多いのです。

次に、もし、彼らの持つ「痛み」が、かなりきつそうに感じた場合は、それを解消する目的で会議体を持つのがよいでしょう。それは対話式のもでもグループ形式のものでも、どちらでも構いません。とにかく、集まって話せるスペースを作ってください。「共有サークル」や「学習サークル」といった名前で、元マネージャーたちがそこに集まって、何がつらいのか、もしくは、この移行の中でも良いと思うことがあるのかなど、それぞれの想いや体験を話します。それをやっていると、次第に、「セルフマネジメント」が楽しくなってきたという発言が聞こえてくるようなります。ただ、そこに長居する弊害もあります。それについては別のビデオで詳しく説明します。

「セルフマネジメント」が馴染んでいくスピードは組織によって異なり、一様ではありません。中には、最初から「セルフマネジメント」を待ち望んでいたという人が一定数いる組織もあります。しかし、中には、そうは見せかけても内心は権限を捨て切れていない人もまぎれています。そんな人は、これから自分がどうなるのか、他のマネージャーの身に何が起こるのか、常に不安でいっぱいなはずです。私が見てきたいくつか組織には、ある法則性が存在しました。そのことをお話しします。

ファビ社の場合、元リーダーは、不安を抱えているなら、積極的にほかの人と話すようにと勧められます。組織にどんな貢献ができるかは、原則は自分で探すものですが、他人に聞きながら探すということも有効な手段になります。その中で、引き続きチームに留まる人は、「役割」の一部をチームメンバーに委譲し、その代わりに、チームの中にある「タスク」を選択します。中には、現場の仕事が懐かしいと、とても満足する人も一定数います。中には、チームの外で、指導的役割を担う人も出てきます。これまでは、新しいアイデアや新しいプロジェクトなど、時間に追われるばかりで、まったくゆとりがなかったという人もいます。また、働き出した頃から初めて休日を満喫することができるようになったという人も出てきます。

ファビ社では、元マネージャーは、自分自身を探求する期間として、何カ月間か、考える時間が与えられます。今までよりも、もっと自分に合った仕事、組織に貢献できる仕事を探し出す時間です。元マネージャーたちが集まる対話会もあります。これならできるかもしれないというアイデアがある時、それについて誰かと話して、自分が正しい道を歩んでいるという感覚を得るのは素晴らしいことです。それゆえ、元マネージャーのためのメンタリング・グループを設置することはとても有効に働きます。

また、どうしても、マネージャーのポジションにこだわりたいという人のためには、退職のパッケージの準備も視野にいれなければなりません。ごくまれに、会社によっては、次へのステップが容易に進むようなプログラムを持っているところがあります。その場合、彼らは、自らの意志で選択することになります。中には、社員のキャリプランを考えるのは人事の仕事だと思っている人がいるようですが、それは古い考えです。「セルフマネジメント」への移行は、そこから一歩踏み出し、主体性を取り戻すことでもあります。組織に付加価値をもたらす、ワクワクするようなことを探し続けるのは、自分自身の仕事です。それに困った人のために、キャリアの相談ができるグループがあれば望ましいと思います。受け入れられないことがあるのなら、組織を去るというのも選択肢の一つです。組織の外を視野に入れた人向けに、選択肢が広げるようなキャリア支援が準備されているのが理想です。


■お願い
動画の最後にもあるとおり、この取り組みはすべてギフトエコノミーによって成り立っています。
この取り組みを支援されたい方は、以下のリンクからLalouxへのご支援をお願い致します。
https://thejourney.reinventingorganizations.com/in-the-gift.html

■翻訳メモの全体の目次
https://note.mu/enflow/n/n51b86f9d3e39?magazine_key=m3eeb37d63ed1

最後まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。