宝ホールディングス【2531】海外で大きく需要が拡大する日本食、日本酒事業の現状

日経平均に採用されている企業を全て取り上げる、という事でやっているこのnote今回取り上げるのは宝ホールディングス株式会社です。

宝酒造としてよく知られている企業で、甲類焼酎、清酒、本みりんにおいてはトップシェアを持っていて「和酒」に強みを持っている企業です。

事業内容と業績のポイント

それではまずは事業内容から見ていきましょう。

事業セグメントは以下の3つです。

①宝酒造:清酒、焼酎、本みりんなど

②宝酒造インターナショナル:
  (1)海外酒類事業:海外で清酒を中心に和酒を展開
  (2)海外日本食卸事業:海外の日本食レストランなどに日本の食材の卸

③タカラバイオ:試薬やCDMO(医薬品の受託製造)など

酒類の事業を国内外で展開する他に、海外では日本食の卸を行い、バイオ関連の事業も行っている企業となっています。

セグメント別の売上と(利益)の構成を見ていくと以下の通りです。
①宝酒造:35.1% (12.9%)
②宝酒造インターナショナル:39.2% (28.5%)
③タカラバイオ:22.3% (54.1%)
④その他:3.4% (4.5%)

売上面は宝酒造インターナショナルが最も大きく、比較的分散した構成で、利益面はタカラバイオが非常に大きな規模を持っている事が分かります。

国内の宝酒造は利益面は小規模にとどまっています、実は国内の宝酒造で稼いでいる企業ではなく、バイオ事業を中心に稼いでいる企業なんですね。

とはいえ、バイオが利益面で大きな規模を持つ構成になっているのはコロナによる一時的な要因が大きいです。

タカラバイオの業績の推移を見ていくと、それ以前も成長傾向ではありましたが、コロナ禍で特に大きく成長しています。

ここ5年ほどの営業利益の推移は以下の通りです。
2019年3月期:54.6億円
2020年3月期:62.7億円
2021年3月期:139.5億円
2022年3月期:289.0億円
2023年3月期:205.4億円

このコロナ禍での好調の要因は、コロナの検査需要の急増です。
コロナが5類に分類されたこともあり、当然今後はこの需要は落ちていく事が想定されます。

なので、グループ全体のここ数年の営業利益の推移と今後の予想を見ていくと以下の通りです。
2020年3月期:158億円
2021年3月期:215億円
2022年3月期:433億円
2023年3月期:379億円
2024年3月期:263億円
2025年3月期:309億円
2026年3月期:380億円

2024年3月期に大幅な減益を見込み、そこから再成長していく予想を立てています。
ここ2年ほどのバイオによる好業績はあくまで特需的なものだという事ですね。

とはいえ、バイオ事業に関しては、需要が増えて大きな利益を出した事で、グローバルなサプライチェーンの再整備も進み、中期経営計画以上の研究開発費を投下出来たとしていますので、この好影響は今後も続いていきます。
コロナ禍で特需があったのは、大きなプラスだったという事ですね。

続いてバイオ以外の2事業についてももう少し詳しく状況を見ていきましょう。

まず、宝酒造の業績の推移を見ていくとコロナ以前から売上は横ばい傾向で、利益面も伸びていませんでした。
そしてコロナ以後は利益面は横ばい傾向を維持するものの、売上は悪化してしまっています。

長期的な伸び悩みを見せている大きな要因の1つが、そもそも市場が縮小しているという事です。
缶チューハイなどが好調で、リキュールの市場だけは拡大しているものの、その他の酒類は苦戦し、酒類の市場全体でも縮小が続いています。

市場自体が伸びていませんから、国内事業の拡大は容易ではなく、業績も停滞していたという事ですね。

そのような状況ですから、国内事業で進めているのが高付加価値化、高収益化の取り組みです。

そのためのアイテム数の削減を進めており、2023年3月期は1300アイテムから201アイテムの終売を行ったとしています。
さらに2024年3月期に関しても70アイテムの終売を予定しています。

そして広告費などの投資を焼酎の「極上」や「焼酎ハイボール」重点8ブランドに集中し、商品開発力やブランド育成力を強化して利益を改善していくとしています。

重点8ブランドの売上の構成比率は2023年3月期では35%でしたが、これを2026年3月期には44%まで増加させていく計画です。

最近は原料高が続く中で、利益面はその悪影響を受けています。
そんな中で価格改定も進めていますので、そういった面からも高付加価値化の取り組みは重要性を増しています。

宝酒造は重点的な投資でブランド力を強化し、収益性を上げていく事が出来るかに注目です。

続いて宝酒造インターナショナルの業績の推移を見ていくと、2021年3月期はコロナ禍で業績が悪化していますが、長期的に成長が続いており、直近の2022年2023年3月期の2年間は特に好調です。

2019年3月期に45億円だった営業利益は、2023年3月期には108億円とコロナ以前の倍以上になっています。

国内では市場自体が縮小し、業績も伸び悩む中で海外事業に力を入れる事で成長してきたんですね。

その結果、2013年3月期には9.1%だった海外比率は2023年3月期には48.3%(実績)まで増加しています。

ちなみに、市場別の売上の構成を見ていくと以下の通りです。
日本:51.7%
アメリカ:24.8%
欧州:16.1%
アジア・オセアニア:6.7%
その他:0.7%

アメリカや欧州に積極進出をして業績を伸ばしてきたという事ですね。

インターナショナル事業についてもう少し詳しく見ていきましょう。

インターナショナルの売上構成を見ていくと以下の通りです。
海外酒類事業:12.8%
海外日本食材卸:85.2%
その他:2.0%

日本食材の卸が大半を占めています。卸の成長によって海外事業の比率が拡大してきたという事です。

ではどうして卸がこれだけ成長してきたのかというと、それは積極的な企業買収を進めてきたからです。
2011年3月期の参入以来、2023年3月期までに11社の買収を行っています。

2023年10月にもテキサス州を拠点とする日本食材卸会社の「ミナモトホールセール社」を取得していますし、今後もさらなるMAも進めようとしており積極的な投資姿勢を見せています。

これだけ積極的な投資を続け、卸が成長してきた背景には良好な市場環境があります。

海外でも日本食ブームがあり、日本食レストランの数は大きく増加しています。
2013年には5万5000店ほどだったのが2023年には18万7000店まで3倍以上です。

日本の農林水産物・食品の輸出額も増加が続き2012年には4000億円強だったのが2022年には1兆4000億円まで増加しています。

市場環境自体が良好ですから、今後も海外卸の事業は成長が期待されます。
なので中期経営計画でも日本食材卸の事業の役割としては飛躍的な成長としていますので、しっかりと成長が続くかに注目です。

また、もう1つ飛躍的な成長の役割を担う事業だとしているのが、宝酒造が強みを持っている和酒です。

海外での日本酒ブームなどもあり、ここ2年は日本酒もアルコール飲料全体でも輸出額が急激な成長を見せており、成長が期待される市場です。

そういった中で現地ニーズをとらえた新商品の開発や、既存市場の深耕や新規市場の開拓を進め、スパークリング日本酒の「澪」を中心に輸出も拡大していくとしています。

新商品としては高品質なイメージ醸成を図るために、「松竹梅」ブランドの高付加価値商品を海外で発売したとしています。

そもそも卸よりも自社商品の方が利益率が高いですし、高値を付けやすい海外市場でで高付加価値ブランドとして浸透すれば、値付けの面でも好影響があります。
自社で高付加価値ブランドが成長していけば、利益面への大きな好影響が期待できます、市場も成長していますので海外展開は注目です。

また、海外比率が増加してきたため為替の影響も受けやすくなっています。
宝酒造インターナショナルは、ドル円が1円円安に動くと98億円ほど営業利益にプラスの影響があるとしています。

とはいえ、その一方で国内の宝酒造では原料高に繋がりますので、ドル円が1円円安に動くと76億円ほど営業利益にマイナスの影響があるとしています。

なので、国内事業と海外事業で相殺されて1円円安の影響は22億円のプラスとなるようです。

想定レートは、ドル円で140円と現在の水準から考えると円高の想定ですが、その場合は合計での為替の影響は軽微だとしています。
国内外の事業で、影響が相殺されるのでそこまで大きな影響はないという事ですね。

という事で宝ホールディングスは、よく知られている通りで国内外で和酒関連の事業を行っていますが、その他に海外では日本食材の卸、さらにバイオ関連の事業を行っており、そちらの事業規模の方が大きな企業となっています。

特に利益面はバイオ事業が大きいですが、これはコロナの特需によるもので今後はその反動による業績悪化が見込まれます。

市場縮小が進む国内事業は収益性の改善、市場拡大が進む海外事業は積極投資の姿勢を見せています。
2024年3月期はバイオの反動によって業績は悪化するでしょうが、国内外のその他事業が成長していけるかに注目です。

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきます。
今回見ていくのは2024年3月期の2Qまでの業績です。

売上高:1631.7億円(0.7%減)
営業利益:124.6億円(36.5%減)
経常利益:130.3億円(34.7%減)
純利益:80.4億円(26.0%減)

減収で大幅減益と業績は悪化してしまっています。

主要な事業セグメント別の売上と(利益)の推移は以下の通りです。
①宝酒造:▲1% (+91.9%)
②宝インターナショナル:+21.1% (+10.6%)
③タカラバイオ:▲41.3% (▲87.0%)

前期からの想定通りで、コロナ特需の反動があったバイオが大きな悪化をみせ、全体の業績悪化に繋がっています。
ですが、その他の2事業では収益性改善を進めていた宝酒造は大幅増益で、成長投資を進めていた宝酒造インターナショナルは増収増益と、取り組みが成果を見せ好調だと分かります。

5/11日時点での予想比では売上は4%減となったものの、営業利益は12.3%増と想定以上に利益面が好調だったようです。

それぞれの事業についてもう少し詳しく見ていってみましょう。

宝酒造の営業利益の変動要因を見ていくと、為替影響を含めてコスト増で1790億円ほど利益を押し下げたものの、価格改定の好影響が3704億円ほどあり大幅増益を達成しています。
価格改定が結果を見せていますね。

とはいえ、下期の予想を見てみると粗利は値上げの効果で横ばいを見込むものの、販管費の増加による大幅減益を見込んでいます。
販管費の増加によって利益面の成長は鈍化しそうです。

宝酒造インターナショナルでは、為替の後押しもあり海外酒類事業と日本食材卸事業が両事業とも販売面の高調によって増収増益となっています。

為替の影響を除いても大幅増収で成長が続いています。

しかし、海外でのインフレの影響を受けて成長が鈍化しているようです。特に9月は厳しい状況で1Qがピークで業績が落ちていく見込みだとしています。

市場の潜在成長率が高いので、翌年から再び成長の方向に戻る事を想定しているとしていますので、2024年以降に改めて成長していくかに注目ですね。

つまり、下期に関しては、宝酒造も宝酒造インターナショナルも伸び悩みを見込んでいます。

そういった要因に、バイオ事業が大幅に下方修正されたことも加わり、通期予想は売上が2.8%減、営業利益は42.2%減と2Q時点を超えるような減収減益を見込んでいます。

5/11予想比では売上は3.9%下方修正し、営業利益は17.5%ほどの下方修正となっています。
2Q時点では利益面が想定以上に好調でしたが、その状況が継続する見通しではないんですね。

海外事業が成長軌道への回復を見込んでいる、翌年以降に注目です。

また、先ほども見たように、為替の想定は現在の水準より円高を想定していますので、その好影響も考えられますので為替面にも注目です。

という事で直近では、想定通りバイオ事業の反動があり減収で大幅減益となっていました。
ですが、国内事業の値上げが奏功している事や、海外事業でも堅調な成長を見せた事によって、利益面は想定以上の状況です。

とはいえ、国内は販管費の増加による減益、海外はインフレによる鈍化と下期は伸び悩みを見込んでいます。

海外事業は翌年以降の成長を見込んでいるとしていますので、まずは翌年以降海外事業が再び成長を見せていくのかに注目です。

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