東レ【3402】繊維大手企業が好調な理由

日経平均に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのは東レ株式会社です。

繊維の大手として知られている企業です。

事業内容

事業セグメントは以下の5つです。

①繊維:ナイロン、ポリエステル、アクリルの3台合成繊維の全てを展開し、糸、綿、紡績糸、織絹物や産業資材用途などとして提供

②機能化成品:樹脂・ケミカル、フィルム、電子情報材料などの事業

自動車向け樹脂、PETフィルム、リチウム二次電池用バッテリーセパレータフィルム、有機EL関連材料等が主力

③炭素繊維複合材料:PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維

航空宇宙用途や環境エネルギー産業など様々な用途で利用され、この分野世界最大のメーカー

④環境・エンジニアリング:逆浸透膜や海水淡水化システム、環境関連機器やプラントエンジニアリングなど

海水淡水化システムでは世界トップ

⑤ライフサイエンス:医薬事業や人工腎臓などの医療機器事業、DNAチップなどのバイオツール等

合成繊維の繊維事業を展開する他に、その技術力を生かし機能化成品や炭素繊維複合材、環境製品やライフサイエンス事業などを展開し、その他にもプラントの建設能力を活かしたエンジニアリング事業なども展開している企業となっています。

セグメント別の売上構成と(利益の額/利益率)は以下の通りです。
①繊維:40% (547億円/6.4%)
②機能化成品:36% (367億円/4.1%)
③炭素繊維複合材料:12% (132億円/4.5%)
④環境・エンジニアリング:10% (232億円/9.5%)
⑤ライフサイエンス:2% (▲13億円)

繊維事業や機能化成品を主力とした構成ですが、炭素繊維複合材や環境・エンジニアリングも利益面では一定の規模を持っています。
比較的分散した構成ですから、各事業とも重要性が高いという事ですね。

続いて特に規模が大きい、繊維と機能化成品事業はどういった市場の影響を受けやすいのか見ていきましょう。

まず、繊維事業はやはり衣料の用途が多いですからアパレル市場の影響を強く受けます。景気や消費の影響を受けるという事です。

さらに内装用・エアバックなど自動車用途でも多く活用されていますので、自動車市場の影響も受けやすい事業です。

機能化成品は多様な製品を展開していますが、主力の自動車向け樹脂やリチウム二次電池用バッテリーセパレータフィルムはPCやスマホなどの電子機器にも活用されますが、EVにも活用されますので、自動車市場やEV市場の影響を受けやすい事が分かると思います。

また、PETフィルムは多様な用途で活用されますし、有機ELは関連材料も一定の規模がありますので、こういった製品は景気の影響を受けやすいと考えられます。

主力事業を見てみると、自動車市場の影響を受けやすく景気の影響も受けやすい企業だという事が分かります。

続いて市場別の売上構成は以下の通りです。
①日本:40%
②アジア:37%
③欧米他:23%
日本が主力ですが、6割が海外となっていますのでグローバルの影響を受ける企業となっています。

日本やアジア、欧米での自動車市場や景気動向の影響を受けやすいですからそういった市場には注目です。

業績の推移

事業内容がある程度分かった所で、続いて業績の推移を見ていきましょう。

2016年度以降の業績の推移を見てみると、増減ありつつの推移となっています。
売上はコロナ以前が2兆~2.4兆円ほどで推移していましたが、2022~2023年度は2.4兆円を上回っており堅調です。

一方で、営業利益は2010年代は1300~1500億円ほどで推移していましたが2022年度以降では1000億円前後となっています。

売上の拡大要因は円安が進んだ為替の影響が大きいですから、近年は一定の苦戦傾向だという事が分かります。

コロナ以前の2019年3月期と2024年3月期の事業利益の変化は以下の通りです。
①繊維:729億円→547億円
②機能化成品:677億円→367億円
③炭素繊維複合材料:115億円→132億円
④環境・エンジニアリング:122億円→232億円
⑤ライフサイエンス:13億円→▲13億円
主力の繊維事業や機能化成品事業が苦戦している事が停滞の要因だと分かります。

繊維事業ではコロナ禍で外出需要の減少を受け衣類市場が減退した影響や、半導体不足による自動車生産の停滞などもあり苦戦しており、そこから十分な需要の回復が進んでいません。

機能化成品事業も2022年度に自動車生産の停滞によって日本市場が停滞した影響や、中国市場でも景気の停滞などを受けて苦戦して大きく苦戦して以降業績の回復が進んでおらず苦戦しています。

2024年3月期は自動車市場や航空機需要の回復を捉えているとしており一定の業績の改善は進んでいますが、インフレによる消費停滞など景気停滞も見られており今後も需要面への一定の悪影響が想定されます。

主力事業では一定の停滞も想定される状況だという事ですね。

そんな中で東レが取り組んでいるのが、事業構造改革です。
成長性や収益力で事業を分類し、低収益低成長の事業は大規模な構造改革、炭素繊維複合材や、半導体関連、水処理などの成長事業や高収益事業は拡大を進めていこうとしています。

炭素繊維複合事業では、今後活用が期待される水素タンクや洋上風力、さらに次世代航空機や宇宙分野での拡大を目指しています。

水素タンクは2025年比で2030年には4倍、宇宙関連の市場規模も2.3倍など成長が見込まれる市場です。

こういった分野の成長は進むでしょうから、その需要を捉えて拡大していけるかに注目です。

水処理では、アメリカや中国での拡大を目指しています。
海水淡水化ではトップを維持し、下排水の再利用や半導体生産工程向けの超純水の拡大を進めるとしています。

半導体分野や水処理分野、炭素繊維複合材分野の成長が続くかに注目です。

また、面白い取り組みだと光電融合関連の分野への研究開発や投資を進めています。NTTの進めるIWON構想のように、今後データセンターなどで電力需要が大幅に増加する事が見込まれる中で注目されているのが電力消費を大きく削減できる光融合を活用した通信です。
大きな市場の拡大の可能性がある分野ですから今後の進捗に注目です。

また、構造改革や収益性改善の取り組みも積極的で、プライシング面の強化とコスト競争力の強化を進めています。

2023年~2025年度で2000億円のコスト削減を進めるとしていますので、プライシングとコストダウンで収益性の改善が進捗しているかにも注目です。

そしてこういった取り組みを進める事で、2025年度まででは事業利益で1800億円を目指して取り組みを進めています。

成長領域の拡大や収益性改善の取り組みの進捗に注目です。

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回取り上げるのは2025年3月期の2Qまでの業績です。

売上高:1兆2941億円(+7.9%)
営業利益:795億円(+78.9%)
純利益:605億円(+83.2%)
増収で大幅増益と直近は利益面の改善が進んだ事が分かります。

これは2Q時点の事業利益としては過去最高だとしており、近年の苦戦から一転して利益面が好調となっています。

ではどうして好調だったのか、営業利益の変動要因を見ていくと、需要の回復と構造改革の推進による成果が+207億円、プライシングの取り組みによる影響が+132億円とすすめていた取り組みの成果が出ています。

需要の回復に加えて、取り組みの成果も見られています。プライシングの取り組みや構造改革が進捗していますから今後も一定の堅調な業績が期待されます。

また、セグメント別の事業利益の前期比は以下の通りです。
①繊維:+72億円
②機能化成品:+195億円
③炭素繊維複合材料:+41億円
④環境・エンジニアリング:+16億円
⑤ライフサイエンス:▲1億円
機能化成品を中心に主力事業が軒並み増益となっている事が分かります。

各事業の状況も見ていきましょう。

繊維事業では衣料用は堅調な推移を見せており、産業用途では自動車需要の回復の影響を受けたとしています。
とはいえ、衣料用では欧州市場の低迷や、競争激化の影響が続いているとしていますし、自動車用途では国内メーカーの減産や中国EV市場の競争激化の影響は受けているとしています。

事業利益の変動要因を見てみると、価格差による影響が+64億円となっていますのでプライシングの取り組みが進捗していますが、需要面では一定の懸念点もある状況です。

今後の景気や自動車市場の動向には注意が必要そうです。

機能化成品は、樹脂が国内自動車メーカーの減産の影響を受けたものの、中国やASEANの非自動車用途が回復したとしています。
フィルムも、サプライチェーンの在庫調整の反動があったとしており堅調です。

自動車用途では一定の悪影響があるものの、非自動車の一定の市況の改善に加えて、在庫調整が続いていた反動も出ていますから今後も堅調な状況が期待出来そうです

成長事業の炭素繊維複合材料では、航空宇宙用途や風力発電用途の回復があったとしています。
成長領域の拡大が続いている事が分かります。

環境・エンジニアリングでは、国内のエンジニアリング子会社が堅調に推移した事に加えて、水処理も拡大しており堅調です。

半導体工場を中心に今の日本ではプラントなどの建設需要は大きいですし、成長事業の水処理事業も拡大が続いていますから、今後も堅調な業績が他期待されます。

という事で、成長事業の炭素繊維複合事業や水処理事業が拡大していますし、プライシングや構造改革の取り組みも進捗しており、今後も堅調な業績が期待出来そうです。

とはいえ、自動車市場や景気低迷によるアパレル市場の停滞など懸念材料もありますので、そういった市況には注目です。

そんな中で通期予想を見てみると、国内外の一定の景気の回復を見込む中で増収増益を見込み上方修正もしています。
今後の市況改善を見込み、堅調な業績が続く事が期待されるという事ですね。

とはいえ、その一方で米国の関税などの通商政策や中国の不動産不況の長期化、欧米の消費動向などの懸念材料は、やはりあるとしています。

今後の市場環境に注目です。

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