日立造船【7004】日立造船は造船事業を行ってない話と業績の積み上がりが期待できる話

日経平均に採用されている企業を全て取り上げる、という事でやっているこのnote今回取り上げるのは日立造船株式会社です。

事業内容と業績のポイント

それでは早速ですが事業内容から見ていきましょう。

日立造船の主要な事業セグメントは以下の3つです。

①環境事業:国内外でごみ処理発電施設やバイオガスプラントなどのEPC(設計・調達・建設)とその後の運営・保守などの継続的事業が主力

②機械・インフラ事業:自動車用プレス機や半導体関連、食品、医療関連機器等の精密機器など

③脱炭素化事業:船舶エンジン、圧力容器等各種プロセス機器など

環境事業の、ごみ焼却発電施設に特に強みを持っており、2022年の世界シェアが49.7%で世界トップの企業となっています。

祖業は社名の通りで造船事業ですが、その船体製造技術や機械製造技術、プラント技術などを活用し事業領域を拡大させてきました。
そして造船業界が苦しくなっていく中で、撤退し現在では陸上での事業の比率が100%の企業となっています。

社名のイメージと違い造船事業はもう行っていない企業なんですね。

2022年度のセグメント別の売上構成を見ていくと以下の通りです。
①環境事業:71%
②機械・インフラ事業:18%
③脱炭素化事業:9%
④その他:2%

セグメント別の利益の額を見てくと以下の通りです。
①環境事業:150億円
②機械・インフラ事業:34億円
③脱炭素化事業:4億円
④その他:7億円

ごみ焼却発電施設のシェアが世界トップだったように、環境事業が売上、利益ともに大半を占める主力企業です。
それに次ぐのが機械・インフラ事業で、投資段階の事業も多い脱炭素化事業はそこまで大きな規模を持っていません。

改めてもう少し詳しく、環境事業の売上構成ついて見ていくと施設のEPC(設計・調達・建設)が53%、運営、保守などの継続的事業が47%となっており、継続的事業が約半分を占めています。

その他の事業でも継続的な収益があり、2022年時点ではグループ全体でも継続的事業からの売上が42%を占めています。
比較的安定した業績が期待できる企業だという事です。

さらに、主力の国内環境事業では継続事業から利益が出ており、EPCは赤字という状況が4期ほど継続しています。
建設面での赤字を、その後の運用で回収する状況になっており、その点から考えても継続事業の重要性が分かります。

現在稼働中の主要なプロジェクトに関しても、完成後の運営まで予定されているものが多いです。
建設した累計の施設が増えるほど、運用する施設も増えていきますので、徐々に積み上げ式で業績が拡大していく事が期待できると考えられます。

2025年には継続事業からの売上50%を目指すとしていますので、その進捗にも注目です。

続いて市場別の売上構成を見ていくと以下の通りです。
日本:62%
欧州:22%
中東:6%
アジア:4%
北米:4%
その他:2%

日本が主力市場でそれに次ぐのが欧州市場です。
欧州では企業買収も行っており規模が大きくなっています。
国内の動向が最も重要ですが、欧州市場の影響も一定程度受けるという事ですね。

続いて近年の業績の推移を見ていきましょう。

売上の推移を見ていくと右肩上がりで成長が続いています。

営業利益に関しても増加が続いており、近年の業績は好調だった事が分かります。

では、どうして好調だったのかを、もう少し詳しく知るために、セグメント別の業績の推移を見ていきましょう。

主力の環境事業では売上が右肩上がりで成長が続いており、これが企業全体の売上の成長もけん引していた事が分かります。

一方で利益面の推移を見ていくと、2023年3月期は前期比では増加しているものの、2020年3月期に及ばない水準です。
利益面の好調を支えていたのは環境事業ではないようです。

機械・インフラ事業を見ていくと、ここ3期ほどの売上は横ばい傾向ですが、2020年3月期からは悪化した状況が続きます。
設備投資需要の影響を受ける事業ですから、コロナ禍で一定の悪影響が出ていた事が分かります。

一方で利益面を見ていくと、大きな改善を見せており、収益性は大きく改善していた事が分かります。
利益面の成長には機械・インフラ事業も貢献していたんですね。

脱炭素化事業の売上は、増減ありつつ横ばい傾向で推移しています。

一方で利益面を見ていくと、2020年3月期は大きな赤字となっていましたが、ここ3期ほどはわずかながらも黒字と改善を見せています。

つまり、ここ数年の業績では売上は増加していましたが、それは主力の環境事業の成長に支えられており、利益面の好調は機械・インフラ事業の収益性改善や、脱炭素化事業の黒字化による影響が大きかったという事ですね。

売上は増加が続きながらも、利益面は2020年3月期に及ばない水準だった、環境事業の業績についてもう少し詳しく見ていきます。

まず、欧州事業のInovaを除いた環境事業の業績の推移を見ていくと、売上は横ばい傾向ではありますが、継続的事業の積み上がりによって比較的堅調な推移を見せています。
一方で利益面ではEPC(設計・調達・運用)が大きく悪化した事によって、苦戦傾向となっています。

物流費や人件費の高騰、原料高などを受けて建設面は苦戦に繋がっていると考えられます。

継続的事業は堅調ですし、業績が積み上がっていく事が期待できますので、EPCの利益面が改善すれば大きな業績改善に繋がります。

2025の目標では新設事業の黒字化というのも掲げておりますので、その進捗に注目です。

また、Inova(欧州)事業は非常に好調で、増収増益が続いています。
売上は成長が続いていた環境事業ですが、その成長を支えていたのはInova(欧州事業)だったんですね。

こちらは特に、EPCによって業績が拡大している状況で、継続的事業も成長が続いていますがまだ規模は小さいです。
今後このInovaでも継続的事業からの業績が拡大してくれば大きな強みとなりそうです。

円安が続いている状況も後押しになりますので、その点から考えてもInovaには注目です。

ちなみに長期的な事業が多いので、今後の業績を考える上では受注残高も重要な先行指標になります。
受注残は増加を続けており受注面は好調な状況です。

主力の環境事業の受注残が大きく増加し、長期運営の受注残も増加しています。
環境事業は業績が積みあがっていきやすいモデルですから、今後も堅調な業績が期待できそうです。

環境事業のEPCの収益性改善が進めば、利益面は大きな好調が期待されます。

続いて今後の取り組みについても少し見ていきましょう。

2030年のビジョンとしては既存事業の成長以外にも、成長事業として、脱炭素化事業として風力発電や原子力関連機器などで+900億円、資源循環事業として産業廃棄物処理などで+1600億円、水事業として産業排水処理や廃棄物処理、上下水事業などで+750億円など、計3350億円の売上を創出しようとしています。

2030年の売上目標が9000億円ほどですから、4割弱を成長事業が占める目標になります。

営業利益は200億円→900億円への拡大を目指しており、その要因としては既存事業の成長が+485億円で、成長事業が+350億円、事業ポートフォリオ改善とDX効果などが+65億円と、利益面でも既存事業だけでなく、成長事業も大きく拡大する事での成長を描いています。

売上、利益ともに成長事業も大きな規模をもつ目標となっていますので、その進捗にも注目です。

という事で、日立造船はその社名とは違い造船事業は現在は行っておらず、ごみ焼却発電施設で世界トップシェアの企業で、こういった施設のEPC(設計・調達・建設)や保守・運用などの継続的事業を行う環境事業を主力として、国内と欧州を中心に事業を展開しています。

そして、継続的事業の規模が大きいため、ある程度安定した業績が期待できる企業です。

建設した施設の増加共に、その後の運用を行う施設数も増えていきますので業績が積みあがっていきやすい企業でもあります。

近年は環境事業の中でもInova(欧州)事業が大きな成長を見せていますが、一方でInova以外ではコスト高の中でEPCの収益性が大きく悪化している状況です。

受注高は伸びており継続的事業は積み上がりが期待できますので、EPCの収益性改善が進むかは業績に大きな影響を与えますから注目です。
また、成長事業での大きな成長も見込んでいますので、その取り組みの進捗にも注目です。

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2024年3月期の2Qまでの業績です。

売上高:2321.9億円(+12.0%)
営業利益:11.2億円(+652.2%)
経常利益:▲27.6億円→19.1億円
純利益:▲32.1億円→3.5億円
増収で営業利益は大幅増益、経常利益や純利益は黒字転換と好調です。

日立造船は4Qに集中して業績が大きく伸びるため、2Q時点では赤字であることが多いのですが、2Q時点としては営業利益が前期に10期ぶりに黒字化したのに続き、経常利益や純利益は11期ぶりに黒字化したとしています。

業績の上方修正もしており、想定以上に好調だった事が分かります。

セグメント別の売上と(利益)の前期比を見ていくと以下の通りです。
①環境事業:+18.2% (▲1億円→5億円)
②機械・インフラ事業:+4.3% (3億円→7億円)
③脱炭素化事業:+1.9% (▲5億円→▲3億円)

全事業とも好調で、特に主力の環境事業の業績改善が大きく影響していた事が分かります。

営業利益の変動要因を見てみると、環境事業のEPC(設計・調達・建設)はバイオマス発電案件での追加費用発生で30億円ほど業績を押し下げるものの、環境事業の継続的事業が22億円、環境事業の欧州事業であるInovaグループが14億円ほど業績を押し上げてます。

EPCの収益性が悪化しているものの、継続的事業が成長し、海外事業も好調という状況が継続しているという事ですね。

環境事業のInovaグループを除いた状況を見ていくと、通期でもEPCは赤字拡大を見込んでいます。
EPCの収益性の改善はまだ進んでいないようですから、やはり今後もその点に注目です。

Inovaグループに関しては好調で、通期の見通しでもEPC、継続的事業ともに大きな拡大を見込んでいます。
海外事業の成長で、国内EPCの悪化を補っていけるかが重要になりそうですね。

また、新規の受注獲得は堅調で、受注残は継続事業も含め拡大しています。今後も売上面は堅調な状況が期待できそうです。

機械・インフラ事業は、中国の景気低迷や半導体ではメモリの過剰在庫による需要低迷ななどを受けて、通期では減収減益を見込んでいます。

機械・インフラ事業による業績改善は見込みにくい状況ですので、やはりEPCの収益性改善の取り組みがどこまで進むかは非常に重要です。

という事で直近では増収で黒字転換と好調になっていました。
国内環境事業のEPC(設計・調達・建設)の収益性は悪化した状況が続いていますが、継続事業の成長とInova(欧州)事業の成長でそれを補っている状況が続いています。

通期でも営業利益・経常利益ベースでは増収増益を見込んでいますが、EPC自体は赤字幅拡大を見込んだ状況となていますので、EPCの収益性改善が進むかに注目です。

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