商船三井【9104】地政学リスク、為替変動、景気動向、海運企業は市況の変化を大きく受ける話

日経平均に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのは株式会社商船三井です。

国内では日本郵船に次ぐ2位の売上規模を持つ海運企業です。

事業内容と業績のポイント

それではまずは事業内容から見ていきましょう。

商船三井の事業セグメントは以下の6つです。

①トライバルク事業:鉄鉱石、原料炭、木材チップ、穀物などのばら積みによる輸送
②エネルギー事業:原油やLNGなどの海上輸送や電力会社向けの石炭輸送など
③製品輸送事業:自動車や建機輸送、コンテナ輸送など
④ウェルビーイングライフ事業:不動産事業、クルーズ船事業、フェリー事業など
⑤関連事業
⑥その他

海上輸送の事業を展開する他に、不動産事業やクルーズ船、フェリー関連の事業なども行っています。

2024年3月期時点でのそれぞれの事業ごとの経常利益は以下の通りです。
①トライバルク事業:372億円
②エネルギー事業:669億円
③製品輸送事業:1255億円
④ウェルビーイングライフ事業:90億円
⑤関連事業:29億円
⑥その他:43億円

製品輸送事業が主力で、エネルギー事業やトライバルク事業も大きな規模を持っています。
商船三井はやはり、海運関連の事業が主力だという事ですね。

海運事業が主力となっていますから、為替の影響や燃料相場の影響を受けます。
2025年3月期の経常損益への影響は以下の通りです。
ドル円(1円の変動):26億円
燃料単価(千キロ当たり1ドル):0.2億円
特に為替の影響を受けやすい事が分かります。

業績を考える際には為替の動向には注目の企業だという事です。

事業内容が分かったところで、続いて近年の2020年3月期~2024年3月期までの業績の推移を見ていきましょう。

まず売上高の推移を見てみると、コロナ禍で2021年3月期は大幅減収になるなど2022年3月期までは増減ありつつの推移ですが、2023年3月期では大きく増加しており、2024年3月期も堅調な状況です。

営業利益も同様で、売上も悪化していた2021年3月期はコロナ禍での物流の停滞もあり赤字になるなど苦戦していますが、2022年3月期までは増減ありつつの推移です。
そして2023年3月期以降は堅調な状況です。

売上や営業利益は2023年3月期以降は堅調な状況だと分かります。

続いて経常利益や純利益の推移を見てみると、2022年3月期~2023年3月期は大幅増益で非常に好調となりましたが2024年3月期は大幅減益となっています。

営業利益と経常利益や純利益では全く違った推移を見せている事が分かります。

さらに、2023年3月期~2024年3月期の営業利益(本業の利益)の水準は1000億円ほどですが、それに対して経常利益は2023年3月期で7960億円、2024年3月期では2617億円と営業外利益(本業以外の利益)の額が非常に大きな企業だという事も分かります。

ではそれがなぜなのかというと、それには「持分法による投資利益」が影響しています。
「持分法による投資利益」は2023年3月期が6684億円で、2024年3月期は919億円となっています。

この損益の規模が非常に大きく、2024年3月期は経常利益や純利益が減益となっていましたが、その要因も「持分法による投資利益」だと分かります。

では、持分法による投資損益とは何なのかというと、個別の事情によりますので必ずしもではありませんが、20%以上50%以下の株式を保有しており子会社ではないものの一定以上の影響力を持っている企業の利益を、その保有比率に応じて利益計上するというものです。

例えば30%の株式を持っている企業が1000億円の利益を出した際には300億円の利益だけを計上する事になります。
なので売上は計上されませんが利益だけが計上されます。

つまり、商船三井は一定以上の出資をしている企業によって業績が左右されていたという事です。

それがどんな会社なのかというと、ONE(Ocean Network Express)という世界6位の規模を持つコンテナ定期船の運搬企業です。

コンテナ定期船事業は、リーマンショック後競争が激化しました。
大型のコンテナ船の方が効率的に運搬できるため、各企業とも投資を進める中でコンテナ船の大型化とそれに伴う低価格化が進んだためです。

ですが日本の海運企業は業績も低迷気味で、大型のコンテナ船への投資余力が十分ではなく競争力の確保が難しくなっていました。

そういった状況の中で国際的な競争力を獲得するために、日本郵船と商船三井、川崎汽船の日本の大手海運会社3社がコンテナ定期船事業部門を統合させることで2018年4月にONEが開始されました。

その出資比率は日本郵船が38%、商船三井が31%、川崎汽船が31%となっています。

なのでONEは、国内海運大手3社ともに持分法適用会社となっており、海運大手3社は同様に持分法による投資損益の影響を受けるようになっています。

そして2022年3月期と2023年3月期では、コロナ禍から国際物流の需要は大きく回復しましたが、その一方で労働力の確保など、物流能力の回復は十分に進みませんでした。
さらに海運事故などもあり海運は停滞し、需給がひっ迫した事で海上運賃が異常な高騰をみせました。

結果としてONEは異常な高騰を見せる海上運賃を受け取る事が出来たので、好業績となっています。

ですが、2024年3月期には物流の正常化が進み、この高騰していた海上運賃が落ち着きを見せ大きく業績が悪化しています。

そういった中でこのONEの影響によって、持分法による投資利益が大きく変動していたという事です。

実際にセグメント別の経常利益の推移を見てみると、2022~2023年3月期では、コンテナ船事業を含む製品物流事業が大幅増益となり利益の大半を稼いでいました。

それが2024年3月期では、製品輸送事業は前期比で5780億円の減益で、その中でもコンテナ船事業が5686億円の減益となっています。
ONEの減益による影響が大きく出ていた事が分かりますね。

さらにONEの今後に関しても、市況としては業界全体で新造船竣工量の多さの影響を受け利益面が苦戦する可能性が高い時期だとしています。

今後は競争環境悪化によって苦戦する可能性が高いという事です。
今後も以前のような好業績となる可能性は低いでしょう。

ですが、近年は地政学リスクが高まっており海上運賃の高騰も起きやすくなっています。
2024年に入って以降でもイエメンの親イラン武装組織フーシ派が紅海で船舶への攻撃を繰り返しており、海運各社は紅海の運航停止を決めています。

そういった中で、物流には停滞が出ており再び海上運賃には一定の高騰が見られています。

社会情勢が不安定な状況が続いており、今後も地政学リスクによって海上運賃に変動が出る可能性がありますから、その点には注目です。

また、2023年度ではトライバルク事業では、パナマ運河の渇水による通峡制限やスエズ運河の通峡回避に伴い船舶需給は引き締まったものの、中国景気の悪化によって市況は上値が重い展開が続いたとしており、製品輸送事業では欧州消費回復の遅れの影響などが出たとしています。

海運事業ですから、業績は景気動向にも左右されるという事です。
インフレも進む中で景気面への影響も懸念される状況が続いていますから景気動向にも注目です。

という事でここまで見てきて、海運事業は地政学リスクによっても影響を受けますし、為替や景気動向といった市況の変化の影響も受ける事業となっている事が分かりました。

つまり、ボラティリティが高い事業だという事です。
そういった中で、現在は非海運事業の成長による安定収益の増加を目指しています。

海洋事業や洋上風力、代替燃料事業や不動産事業などへの投資を進めています。
2022年度では、市況の影響を受ける海運系事業が75%、非海運が25%という構成でしたが、それを2035年度には6:4に変化させる事を目指しています。

近年は特需的な好調となり、投資余力が拡大していましたからそれを投資する事が出来るのは、非海運事業の拡大にとっては強みとなります。

近年の特需を活かして非海運事業の拡大が進むかには注目です。

また、改めて経常利益の推移を見てみると2024年3月期は大幅な減益となっていますが、特需的な好調だった2022年3月期~2023年3月期以前の業績は大きく上回っています。

実際に2023年度では、ケミカル船・自動車事業が好調に推移し取り組みは概ね順調だったとしています。

海上運賃高騰の反動で減益となりましたが、業績自体は比較的堅調な状況だという事ですね。
特需からは落ち込んだ状況とは、なりそうですが、今後も一定の堅調な状況は期待できそうです。

為替、地政学リスク、景気といった市況の動向は業績に影響を与えますから注目です。

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2025年3月期の1Qまでの業績です。

売上高:4359億円(+13.2%)
営業利益:407億円(+66.2%)
経常利益:1087億円(+20.2%)
純利益:1071億円(+17.5%)
増収増益で堅調な状況です。

原油相場は上昇するも為替は円安に推移しており、その好影響もありました。

また、セグメント別の経常利益の前期比は以下の通りです。
①トライバルク事業:▲194億円
②エネルギー事業:+33億円
③製品輸送事業:249億円
④ウェルビーイングライフ事業:+34億円
⑤関連事業:+0億円
⑥その他:+6億円

トライバルク事業の苦戦は続いていますが、その他の事業は好調です。
ちなみに、ウェルビーイング事業では不動産関連の事業が大幅増益となっていますので非海運事業も堅調に成長している事が分かります。

続いて海運関連の各事業の状況についてもう少し詳しく見ていきましょう。

まず、トライバルク事業の苦戦の要因は前期の一時要因である、貸倒引当金の戻り入れの反動となっています。
市況は堅調だったとしていますので、事業自体は堅調な状況だったことが分かります。

エネルギー事業では、事業自体も堅調な状況が続いていますし、紅海情勢の長期化による船舶需給のひっ迫による海上運賃上昇の好影響などもありました。

製品物流でも紅海情勢の長期化など、海上運賃が高騰した影響が出ています。

さらにONEでは欧州の消費が回復する中で、運賃は欧州往航が大きく上昇しています。前期は悪影響のあった消費面も一定の回復が進んでいる事が分かります。

事業自体も堅調ですし、さらに欧州での消費の回復、さらに円安の影響に加えて紅海情勢による船舶需要ひっ迫で海上運賃が高騰と好影響が大きく好調だったという事ですね。

そしてそういった中で通期予想も上方修正をしており、増収増益を見込んでいます。

特に製品物流事業が紅海情勢は長期化や堅調な経済状況の中で、920億円の大幅増益となる見通しです。
事業や市況も堅調な状況ですから、業績の改善が期待されます。

ですがこの通りに推移するかには一定の不透明感はあります。

というのも現在は日本円の利上げや米国景気低迷が懸念される中で、為替に関しては急速に円高方向へ推移しました。
ですが、商船三井の想定為替レートは151.6円となっています。
現在の円高傾向が続けば為替面から、想定以上の悪影響が考えられます。

さらに景気面に関しても、米国景気停滞の懸念も出始めていますから景気面も想定を下回る事も考えられます。

為替や景気動向は、想定通りの進捗となるかは不透明感があるという事ですね。

紅海情勢に関しても長期化を予想していますが、それもどのように推移するかも一定のリスクがありますので、地政学面も注意が必要です。

直近では好調な商船三井ですが、今後は一定の不透明感がありますので市況の変化に注目です。

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