デンソー【6902】自動車部品メーカーでも、好調で成長も期待されている理由

主要指標に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのは株式会社デンソーです。

事業内容と業績のポイント

もちろん自動車部品メーカーで、売上高は6.4兆円でドイツのボッシュ社に続き、グローバルでも2位の規模を持つ企業となっています

また、デンソーはもともとトヨタから分社化された企業でもあり、現在の主要株主もトヨタ自動車が24.1%、豊田自動織機が9.2%、トヨタ不動産が4.4%など、トヨタ系列の企業が多く、いわゆるトヨタグループと呼ばれる企業の1つとなっています。

なので2022年度の顧客別の売上を見てみると
トヨタグループ:50.4%
その他自動車メーカー合計:38.4%
自動車以外の商品や市販品:11.2%
となっておりトヨタグループ向けの売上が非常に大きいです。
トヨタの動向に業績が左右されやすい企業だという事ですね。

続いてセグメント別の業績を見ていきます。

事業セグメントは①日本②北米③欧州④アジア⑤その他と地域別の区分となっています。
それぞれの構成比率は
①日本:46.5%
②北米:18.9%
③欧州:8.6%
④アジア:24.2%
⑤その他:1.3%
となっており、顧客各社の工場があるアジアや、フォードやGMにも部品を提供している事もあり北米の規模も比較的大きいですが、日本が中心の構成です。

トヨタ自体が国内生産の規模が大きい企業ですから、日本の比率が高いという事です。


とはいえ、グローバルで事業を行っているため為替が業績に与える影響も大きく、1円の円安が利益に与える影響は
ドル:21億円
ユーロ:9億円
元:156億円
となっています、為替面も重要な企業だという事です。

つまり、デンソーは
①トヨタグループを主要顧客として自動車部品の製造販売を行っている企業で、トヨタの影響を受けやすい
②主力市場は日本市場だが海外比率も高いので、為替の影響も一定程度受ける
という事ですね。

さて、現在の自動車業界はご存じの通りで、100年に1度ともいわれている大変革期を迎えています。
Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとったCASEと言われている変化が大きく進んでいく事が見込まれています。

それは部品メーカーに与える影響も多大です。
例えば、電動化が進むと、ガソリン自動車の部品点数は少なくて済むようになります。そしてすり合わせの技術や内燃機関に強みを持っている日本の自動車産業、部品メーカーは苦しくなっていく事が見込まれています。

さらに、自家用車は稼働率が10%以下で駐車場に止まっている時間が大半です。自動運転化が進むと、自動車が所有から移動サービスに代わる、MaaS化が進むと考えられます。
自動車を所有する必要がなくなり、移動の時にサービスとして利用する事になるので、自動車の稼働率が大幅に上昇し、市場で必要とされる車両の台数が減少する可能性があるという事です。

こういった変革の中で、日本の部品メーカーも縮小が進むことが考えられています。

そういった市場環境ですから、デンソーの将来の見通しも暗い状況なのかといえば、実はそうではありません。

例えば、自動車業界ではアップルの自動車参入が話題となったように、電気自動車化によって、車両を作ることが容易になり新規参入企業が増えることが見込まれています。
ですが大きな増加が見込まれるのは、ソフト面に強みを持っている企業が完成車メーカーとしての参入です。
なので必要な部品を外部調達するという状況は変わりません、電気自動車化や自動運転化など、変化に対してハード面で競争力のある商品を持っていれば部品メーカーも将来性があるという事です。

そしてデンソーはCASE化の中で、重要性を増してく商品を多数展開しています。

デンソーの主要な製品別の区分を見ていくと
(()内は売上構成)

モビリティエレクトロニクス(25.2%):内燃・HEV・EV向け含めエンジンコントロールユニットというエンジン制御の商品や画像センサ、ミリ波レーダなど、安全機能や自動運転でカメラや物体検知に必要な商品など
サーマルシステム(24.8%):カーエアコンなどの冷熱系の商品
パワトレインシステム(23.3%):内燃系の商品
エレクトリフィケーションシステム(16.3%):インバータやモータジェネレータなど電動化関連の商品
先進デバイス(5.6%):パワー半導体などCASE化で重要性の増すデバイスなど
⑥その他(2.0%)
となっており、③のパワトレインシステムは内燃機関向けの事業ですが、それ以外の事業ではCASEの変化の中でも期待できる商品も多数扱っており、その事業の規模もすでに大きいです。

今後成長が見込まれている商品についてもう少し詳しく見ていきます。

例えば電動化の中では、エレクトリフィケーションシステム事業では、BEVの比率が増加する中でモーター回転数の制御に使われるインバーターは2025年には2021年の4倍近い水準の1200万台の生産目標を立てていますし、他社比で航続距離を7%アップ可能だとしている電源システム(BMU)も倍増の計画を立てています。

競争優位性

その他にも、カーエアコンなど冷熱系の商品を扱うサーマルシステム事業の商品も重要になります、電気自動車では効率的に温める、冷やすという必要性が増すからです。

BEVの重要な課題に航続距離をどう伸ばしていくかというものがあります、電力消費を抑えることが重要なのです、そして暖房に使われる電力量が大きく課題が残ります。

そんな中でデンソーは大気の熱を暖房の熱源として利用する「ヒートポンプシステム」を提供しており、これによって電気エネルギーの消費をおさえる事が出来ます。
さらに、このヒートポンプを利用した「熱マネジメントシステム」によって、廃熱の活用などで車両の効率的な温度調整や、電池冷却を行う事が出来て、電池劣化の抑制、充電時間の短縮につながるとしています。これによって航続距離は20%UPするとしています。

なので熱マネジメントシステムに関しては、2025年度には2021年度の約3倍、2030年までの8年ほどで約6倍近くまで売上を増やす目標を立てています。

その他にも、先進デバイス事業で提供しているSICパワー半導体では、EVで使われるモータの駆動、制御するインバータに採用したところ、従来の半導体に比べて、特定の条件下では電力損失を70%低減したとしており、航続距離を延ばすことが出来るとしています。
一方でコストは10%ほど抑えることが出来るとしています。

なので、このSICパワー半導体も2025年には倍増となる8000万枚の生産となる目標を立てています。

そして、このSIC領域では2023年10月10日には、SiCウエハーというSICパワー半導体材料の開発を行うアメリカの「シリコンカーバイド社」に約745億円を出資し、株式の12.5%を取得するとの発表もしており、積極的な投資を進めています。

他にも、モビリティエレクトロニクス事業では、カメラで前方環境を検知する「画像センサ」と車両や道路の形状を検知する「ミリ波レーダ」を組み合わせ運転支援のシステムを提供しており、事故回避など重要性を増している安全性能を高める事が出来ます。

この生産台数も2025年には50%以上の増加目標を立てており、成長が期待されています。

このように、電動化や安全性能の追求といった変化の中で成長が期待できる商品をすでに提供している事が分かります。

2021年度時点での事業ポートフォリオを見ても、全体売上5.8兆円のうちCASE化の中で成長性、収益性の拡大していく事業の売上が4兆円、縮小していく内燃機関系の事業が1.8兆円と、成長領域を中心とした構成になっています。

今後はさらにポートフォリオの変革を進めて2025年までには、CASE化の中で成長性の高い事業が4.9兆円、内燃系の事業が1.5兆円、2030年にはそれぞれ7兆円、1兆円という目標を立てています。

すでに変化の中で強みを持ったポートフォリオとなっており、今後はさらなる成長目標を立てている事が分かりますね。

今後の投資の方向性も明確で、2023年度からは内燃系の設備投資、研究開発共に1割未満としていく見通しです。

すでに大きなポートフォリオの変革が進んでおり、CASE化の中で、内燃機関系の事業縮小によって、縮小していく企業ではなく、成長が期待される企業だという事が分かったと思います。

続いて近年の業績の推移を見ていきましょう。

2020年3月期からの業績の推移を見ていくと、2021年3月期はコロナで自動車生産に大きな悪影響があった事もあり、業績は悪化していますがそれ以降は売上と利益、利益率も増加しています。
ちなみに、2023年3月期には売上・利益ともに過去最高の業績で非常に好調です。

では2023年3月期の業績が堅調だった要因をもう少し見ていくと、原燃料高など外部環境の悪化の影響はあったものの、自動車生産の回復、円安の影響、固定費の抑制や合理化の影響が大きく業績は好調だったとしています。

営業利益の変動要因を見てみると、労務費の増加355億円やエネルギー費・素材費の増加の影響が580億円、部材・物流費の増加1155億円など、外部環境の変化も受けたマイナスの影響が出ています。

一方でプラスの影響は合理化・対応力強化の影響が1794億円、操業度・構成の変動による影響が565億円、為替の影響が1100億円など、プラスの影響が大きく増益となっています。

先ほど見たように、円安の好影響も受けやすい企業ですから、円安が進む中で為替の影響も大きかったことが分かります。

その他にも操業度の影響も大きいです。
工場は稼働率が下がれば収益性は悪化します、なので自動車生産が回復傾向で、稼働率が増加していたのも好影響があるという事ですね。

2024年3月期に入って以降は半導体不足の影響も薄れ、新車の生産が大きく回復していますから、操業度面での好影響は期待できると考えられます。

さらに、最も大きい影響は合理化でした。
現在の状況を考えてみると電気自動車化が進んでいるとはいえ、ガソリン車の販売がまだまだ規模が大きいです。
一方で成長は見込まれていませんから、内燃機関系の事業には積極的な投資をしているわけではなく、積極的な合理化を進めています。

つまり、将来的な成長は難しいものの、現状は収益性が高まりやすく利益が出やすい時期だと考えられます。

その点と新車生産回復の状況を考えてみると、現状は利益面の好調が期待できる時期だと言えるでしょう。
円安の影響も大きかったものの、だからこそ過去最高益となるほど好調だったと考えられます。

という事で、デンソーは日本市場を主力市場、トヨタグループを主要顧客として自動車部品を提供している企業です。
自動車業界はCASEという大変革期を迎えていますが、そのCASE化の中で強みを持った商品を多数保有していて、すでにその事業規模も大きく、大きな変革の中でも今後の成長が期待されています。

直近の業績としても円安や、自動車生産の回復、さらに合理化の中で過去最高の業績と好調な企業です。
特に内燃系の事業を考えてみると、現状は規模が大きい一方で投資は縮小し合理化を進めやすいと考えられますので、高収益性が期待できると考えられます。
半導体不足が落ち着き、自動車生産が回復する中で好調が期待できる状況です。

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2024年3月期の2Qの業績です。

売上高:3兆5135億円(16.3%増)
営業利益:2118.2億円(36.3%増)
親会社の所有に帰属する四半期利益:1856.0億円(59.3%増)
となっており大幅な増収増益で好調が続いています。

中国市場では外資系車両の販売不振が続く一方で、日米を中心とした車両販売の好調や、円安の進行、注力領域製品の拡販で増収。
電子部品を中心とした資材高騰は継続したものの、操業度の改善や為替差益、合理化によって増益となったとしています。
前期からの好調要因が継続しているという事ですね。

注力領域も拡販が続き好調な事が分かります。

営業利益の変動要因を見ていくと、特に大きいのが操業度の好影響1141億円です。
先ほども見たように工場は稼働率が重要なので新車生産の回復の中で好影響が大きかったことが分かります。

また、営業利益の変動要因をの通期予想を見ていくと、最も大きな好影響は合理化・対応力強化となっています。
やはり、現状は合理化による利益が出しやすい時期だと考えられますのでその好影響が期待できるという事ですね。

また、円安が続く為替レートの修正を行い、業績の上方修正を行っています。
前提の為替レートはそれでも140.5円となっていますので、今後の為替次第ではさらなる修正があるかもしれません。

自動車生産の急激な落ち込みや、大きな円高への推移が無ければ好業績が継続する事が期待できそうです。

という事で、直近のデンソーは大幅な増収増益で非常に好調です。
その要因は、半導体不足緩和による新車生産の回復、円安の進行、合理化など前期からの好調要因が継続している事です。

さらに、成長領域の商品の販売も好調ですから、その点を考えても好調な状況だと言えるでしょう。

通期でも、現在進めやすいと考えられる合理化の好影響が期待できますので、好調の継続が期待されます。

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