東京電力【9501】大赤字から一転して好調の理由と今後の業績

日経平均に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのは東京電力ホールディングス株式会社です。

もちろん電力会社で、2022年度時点の販売電力量は2428億kwhで首都圏への電力供給でトップの企業です。

事業内容と業績のポイント

それでは事業内容から見てきましょう。

東京電力の事業セグメントは主要な事業会社ごとによる以下の5つです。

①東京電力HD:持ち株会社で配当収入がメイン、原子力事業や福島復興など
②東京電力フュエル&パワー:燃料、発電事業会社の運営、燃料発電会社として規模が大きい「JERA」が持分法適用会社
③東京電力パワーグリッド:一般送配電事業会社で送配電が中心
④東京電力エナジーパートナー:小売り電気事業会社で電力販売が中心、自由化したガスの販売も
⑤東京電力リニューアブルパワー:再生可能エネルギー発電事業会社

発電から送電、電力小売りまで一貫して行っている企業で、ガスの小売りも展開しています。

続いて2022年度時点での電源構成は以下の通りです。
①火力:73%
 (1)石炭:21%
 (2)LNG・その他ガス:52%
②FIT電気:7%
③再エネ:3%
④卸電力取引所:6%
⑤水力:3%
⑥原子力:0%
⑦石油:0%
⑧その他:8%

原発事故があって以降、東京電力の保有する原発の稼働は無く火力発電が中心で、その中でもLNGや石炭を中心とした構成になっています。

近年はLNGや石炭など資源価格が高騰し電気料金が高騰した事で、原発稼働への政治的な動きもあり、柏崎刈羽原発では2024年夏の稼働を目指して動いています。

長期間にわたり使用していなかった事もあり、再稼働への取り組みは難航しているようですが、低コストで発電ができる原発の稼働があれば業績にはポジティブな影響がありますので、その進捗には注目です。

ちなみに、原発事故関連の影響を見ていくと、2023年3月期でも特別損失では原子力損害賠償金が5073億円となっています。

ですがその一方で、特別利益として原賠・廃炉等支援機構資金交付が5074億円ありますのでトータルすると影響はほぼありません。

とはいえ、この原賠・廃炉等支援機構へは東電も負担金を支払っていますので、そもそもの収益性には影響が出続けています。

また、原子損害賠償関連のコストは計23.4兆円となっており、その内被災者賠償や除染、中間貯蔵施設の計15.4兆円は、交付国債によって国が立て替えそれを、東電含め電力会社の負担金や国が保有する東電株の売却益、国の特別会計などで回収する流れになっています。

一方で廃炉費用8兆円は東電の負担となっています。

そういった事もあり、廃炉積立金と負担金で計年間5000億円程度の資金捻出をつづけており、現在も経営面へ影響は残っています。

さて、それでは続いて業績の推移を見ていきましょう。

2010年度~2012年度は原発事故によって大きな赤字となっていますが、2013年度には業績は回復し2014年度までは堅調な業績です。
ですが、それ以降は売上・利益ともに減少傾向となっています。
そして2022年度は大幅な増収となりながらも、大きな赤字に転落したという状況です。

2022年度を除くと近年は売上・利益ともに減少傾向でしたが、その大きな要因の一つに電力自由化があります。
2000年以降、電力自由化は徐々に進み2016年からは一般家庭でも使われている低圧電力が自由化されました。

その結果、東京電力の電力需要の動向を見ても2019年度までは減少傾向となっています。
電力自由化の影響もあり、需要は減少し業績は低迷傾向だったことが分かります。

ですが2019年度以降は、電力需要は横ばい傾向となり若干の増減がある推移で下げ止まっています。

なぜ下げ止まったのか、内訳を見てみると増加しているのは卸売です。

新電力の多くは自社で発電しておらず、市場から電力を買って売るという小売業です。
大きな発電力を持っている東京電力はその電力市場に卸しておりその量を増やしているという事ですね。
自社での小売りの量は減少が続いていますが卸売りが可能なので、今後も一定の需要で安定する事が期待されます。

とはいえ基本的には市場へ卸す場合、利幅は小さくなります。
そういった事もあり、電力需要は横ばい傾向にある中でも2019年度以降も利益面は悪化傾向にありました。

国内では人口減少も進みますし、電力関連の事業の成長は容易ではない状況だという事が分かると思います。


ですが、直近の2024年3月期では総販売電力量は減少したものの、小売りの販売量は増加に転じ、一方で卸売りが減少しています。

近年は電力価格が高騰しました、多くの新電力の企業にとっては仕入れ価格の高騰に繋がり収益性が悪化した事で苦戦し、撤退した企業も多いです。
そういった中で東電への乗り換えが一定程度あったと考えられます。

総販売電力量は減少しており好調とは言えないものの、小売りの方が利幅が大きいですから、この変化は今後の業績に対しても一定の好影響はありそうです。

また、電力事業だけでの成長が難しくなる中で、成長のためには電力以外の事業を拡大させていく事も重要で、東京電力では規模の大きな事業に2017年4月に全面自由化されたガス事業があります。

電力での大きな顧客との接点を活かして拡大していける事が強みで、近年は東電全体の売上の4~5%ほどを占める規模の事業となっています。

ガス事業は基本的には成長が続いていましたが、2023年度の販売量は前期の272万t→259万tへ減少しており、直近は伸び悩んでいます。
今後、再拡大を進めていけるかに注目です。

さて、改めて業績に目を戻すと2023年3月期はこれまでの推移とは一変して、大幅な増収となりつつも、大きな赤字となっていました。
その要因について見ていきましょう。

2023年3月期のセグメント別の売上の前期比は以下の通りです。
①東京電力HD:+136億円
②東京電力フュエル&パワー:▲12億円
③東京電力パワーグリッド:+5516億円
④東京電力エナジーパートナー:+2兆166億円
⑤東京電力リニューアブルパワー:+31億円

送配電を行う③東京電力パワーグリッドも伸び、小売りを行う④東京電力エナジーパートナーが特に大幅増収となっています。

続いてセグメント別の経常損益の前期比は以下の通りです。
①東京電力HD:▲59億円
②東京電力フュエル&パワー:▲372億円
③東京電力パワーグリッド:▲463億円
④東京電力エナジーパートナー:▲2617億円
⑤東京電力リニューアブルパワー:+60億円

大半の事業で利益面が悪化していますが、大幅増収だった④東京電力エナジーパートナーが特に大きく利益面を悪化させ、さらに②東京電力フュエル&パワーや③東京電パワーグリッドも大きな悪化を見せています。

電力小売りを中心に大きく収益性を悪化させていた事が分かります。

ではどうしてそういった状況だったのか、というと燃料費調整制度による影響が大きいです。

電力価格には燃料費調整制度という制度があります。

これは、電気料金に原油・LNG・石炭などの燃料価格の変動を自動で反映する仕組みです。
そしてこの反映は3か月の遅れが出ます。例えば6月の電気料金は、その年の1~3月の燃料費から算定されます。
なので実際の燃料費の動きと電気料金に「期ずれ」が起きるという事です。

例えば、1~3月の燃料価格が100円で、それが上昇を続け6月に200円になっているとすると、200円で燃料を仕入れて発電し、100円の時の価格で販売する事になるので業績は悪化します。
一方で下落相場になれば、その逆で安く仕入れて高く売れるので好影響があります。

さらに、この燃料費調整制度では燃料価格の上昇を反映できる価格には上限が設定されています。
上限を超えるような燃料価格の高騰が起きると、逆ザヤ状態となり大きく業績が悪化するという事です。

燃料費が100円→200円へ上昇しても、150円までしか電気料金に反映できないので売れば売るほど赤字、というような事が起きます。

そしてこの2023年3月期は上限を超えるような原油相場の高騰がありました。
円安も進み、燃料を輸入に頼る日本にとってはこれも輸入価格の上昇要因になります。

先ほど見たように、東京電力は燃料市場に左右されない原子力発電が稼働していないという事もあり、その影響が大きく逆ザヤ状態となり業績が大きく悪化しました。

電力会社の業績に相場変動が大きな影響を与えることが分かります。

2024年3月期以降の相場環境を見ていくと、燃料相場は高水準を維持するものの、大きな高騰を見せた2023年3月期からは下落傾向にあります。
なので期ずれによる好影響が期待される状況です。

また、値上げには上限があるので十分な電気料金への反映が出来ず、逆ザヤ状態が続いていたわけですが、そういった中で規制料金の変更申請をしています。
それが認可され、2023年6月1日から平均15.9%の値上げを実施しています。

工場などで利用される高圧電力でも、燃料価格の最新値へ置き換えし、市場の変動を料金に反映する仕組みに料金メニューの見直しを実施しています。

燃料価格高騰の影響をきちんと電気料金に反映できる状況が整ったという事ですから、2024年3月期以降は燃料相場の高騰があっても一定の収益を確保できる体制が整ったと考えられます。

現在も燃料相場の変動は大きな状況が続いており、期ずれによる業績悪化は今後いつ起きてもおかしくないものの、逆ザヤ状態になり2022年度ほどの大きな業績悪化になる事は考えにくいという事ですね。

そして2024年3月期は、期ずれと値上げが同時に期待できますので、大きく業績が改善しやすい時期だという事が分かります。

という事で東京電力は発電、送電、電力の小売りと電力関連の事業を一貫して行っている企業です。
近年は電力自由化を受けて業績は低迷傾向で、さらに2023年3月期には燃料費高騰と円安が進む中で、燃料費調整制度によって業績は特に悪化していました。

ですが、2023年度は燃料費は落ち着きを見せていますし、逆ザヤ状態が続く中で上限引き上げの申請が認可されました。
高圧電力でも料金プランの変更があり値上げが進み業績が改善しやすい時期にいると考えられます。

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2024年3月期の通期の業績です。

売上高:6兆9184億円(▲14.7%)
営業利益:▲2290億円→2789億円
経常利益:▲2854億円→4255億円
純利益:▲1236億円→2679億円

減収ながらも、大幅な黒字転換となっています。

経常利益に関してはここ15年でも非常に高水準ですから、事業の収益性が大きく改善していた事が分かります。

利益面が好調となった大きな要因の1つには、やはり燃料相場が下落した事による期ずれの影響があります。

期ずれがポジティブに働き、今期は前期比で+4350億円もの好影響がありました、これが好業績に繋がったという事ですね。

ですが、今後の2025年3月期ではこの期ずれの好影響が無くなる事によって反動での業績悪化の可能性が高いという事です。

特に原油相場に関しては2024年に入って以降は、再度上昇傾向にあり、むしろ期ずれによるマイナスの影響が出てもおかしくない状況です。
そういった中でどのように燃料相場が推移するかには注目です。

続いて、期ずれの影響を除いたセグメント別の経常損益の前期比を見ていくと以下の通りです。

①東京電力HD:▲1941億円
②東京電力フュエル&パワー:▲107億円
③東京電力パワーグリッド:+848億円
④東京電力エナジーパートナー:+4353億円
⑤東京電力リニューアブルパワー:▲68億円

電力やガスの小売りを行うエナジーパートナーが大きく収益性を改善させたことで好調だった事が分かります。

エナジーパートナーの経常利益の変動要因を見ていくと、最も大きな影響は単価上昇で+5684億円となっています。
燃料価格や市場下落による調達費用の減少などが好影響が大きかったようです。

収益性改善の要因も調達費用の下落が大きな影響を与えています、先ほども触れましたが2024年以降燃料相場は上昇傾向にあり、今後は一定の悪影響が想定されます。

とはいえ、規制料金の変更申請や料金制度の改定など、料金決定の仕組み自体に変化がありましたので、2022年度のように逆ザヤ状態による収益性の大きな悪化は考えにくく、安定した利益水準は確保できる可能性が高いでしょう。

2025年3月期以降は期ずれの反動による業績悪化は想定されますから、2024年3月期のような好業績を持続する事は難しいものの、しっかりと利益水準を確保した状態が続くと考えられます。

という事で直近では燃料相場の下落を受けて、期ずれや単価面の好影響によって業績は好調です。

2025年3月期は期ずれの高影響の反動や、燃料相場が再上昇による業績悪化が考えられますが、料金制度の改定がありましたので一定の利益水準は確保できると考えられます。

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