ニッスイ【1332】水産品相場が変動しても安定した業績が期待できる理由
日経平均に採用されている企業を全て取り上げる、このnote今回取り上げるのは株式会社ニッスイです。
水産企業として知られている企業です。
事業内容と業績のポイント
それではまずは事業内容から見ていきましょう。
ニッスイの主要な事業セグメントは以下の3つです。
①水産事業:漁業や養殖による水産品の調達、加工、販売
②食品事業:家庭用・業務用冷凍食品やサバ缶、フィッシュソーセージ、鮭フレークやちくわなど加工食品の製造・販売
③ファインケミカル事業:医薬・化粧品の原料製造、販売
水産事業を行う他にも、水産品を活用して食品事業を展開していたり、水産品で使う冷蔵能力を生かして冷凍食品なども展開している企業です。
セグメント別の売上と(営業利益額)の構成は以下の通りです。
①水産事業:42.7% (185億円)
②食品事業:49.7% (114億円)
③ファインケミカル事業:3.3% (17億円)
④物流事業:2.0% (15億円)
⑤その他:2.2% (7億円)
売上・利益ともに水産事業と食品事業が主力事業です。
主力の水産事業についてもう少し詳しく見ていきましょう。
水産事業のより詳細な売上と(営業利益)は以下の通りです。
(1)漁業:204億円 (▲2億円)
(2)養殖:691億円 (89億円)
(3)加工・商事:3262億円 (99億円)
売上では加工・商事が大半を占めており、水産品の加工や商社機能が中心です。
利益面では加工・商事事業の他にも養殖事業も大きな規模を持っています。
漁業では漁獲量に左右されますが、養殖事業では安定した漁獲量が期待されますから、養殖事業の規模が大きいというのは強みの1つですね。
また、水産事業は水産品の相場変動の影響を受けます、相場が高騰すれば販売価格が上がり好業績が期待できますし、低迷すれば苦戦しますので相場環境には注目です。
ちなみに養殖魚の水揚げ数量は以下の通りです。
(1)鮭鱒(海外):62%
(2)鮭鱒(国内):6%
(3)ぶり:23%
(4)まぐろ:8%
(5)かんぱち:1%
鮭鱒やぶりの養殖が主力となっていますので、特に鮭鱒やぶりの相場変動の影響を受けるという事ですから注目です。
続いて業績の推移を見ていきましょう。
長期的な推移を見てみると2000年代は売上は横ばい傾向でしたが、2010年代以降は増加傾向にあり、コロナ禍では一時的な悪化を見せたものの、2021年度、2022年度はコロナ以前を大きく上回り拡大しています。
営業利益は2000年代は増減ありつつの低調な推移で、売上が増加していた2010年代に入って以降はそれ以前を上回る高水準となっています。
そして2010年代後半あたりからは、コロナ禍で一時的な悪化があった2020年度以外は200億円台で推移しており堅調な状況です。
水産関連の事業は相場環境に業績が左右される側面がありますが、ニッスイは比較的安定した業績です。
というのもこれはニッスイの事業構成も関連しています。
主力の水産事業と食品事業では水産市況が逆の動きを見せるためです。
水産市況が下落すれば水産事業にはマイナスに働きますが、食品事業では原料コストが下がる事でプラスに働きます。
なので水産事業と食品事業を主力として共に行っているので、相場変動の影響を受けにくく安定した業績が期待できる企業となっています。
さて、2023年3月期は売上と純利益は過去最高となっていました。ですが純利益は日水製薬という子会社を売却した影響で、営業利益は前期比では減益と事業の収益性は悪化していました。
そんな2023年3月期の業績をもう少し詳しく見ていってみます。
まず、セグメント別の営業利益の前期比は以下の通りです。
①水産事業:+58億円
②食品事業:▲39億円
③ファインケミカル事業:▲23億円
④物流事業:▲4億円
水産事業は好調ですが、食品事業やファインケミカル事業が悪化した事で営業利益では減益となっています。
ファインケミカルは日水製薬の売却による影響が大きいとしていますので、今後もしばらくはファインケミカル事業では低迷が続く可能性が高いという事ですね。
営業利益には一定のマイナスの影響が続きそうです。
また、食品事業の減益要因は原材料・エネルギーコストなど、コストの増加です。
水産物市況価格が上がっておりコストアップにつながっています。さらに市況や為替も非常に大きく変動しており、事業環境が複雑化したとしています。
値上げは実施したものの、コストアップに追いつかずに減益となったようです。
市場別では特に減益の幅が大きいのが国内事業です。
市場別のコストアップ・値上げの影響を見てみると、最も影響が大きいのが日本市場で▲28億円となっています。
一方で北米は▲2億円、欧州は▲0億円と値上げのしやすい欧米や欧州は影響が小さく済んでいます。
値上げに抵抗感のある日本市場での影響が大きいんですね。
日本市場でもさらなる値上げを進めていますので、どこまでコストアップの影響を打ち返していけるかに注目の状況です。
一方で好調だったのは水産事業です。
先ほど見たように水産物市況の値上がりは食品事業にはコスト増でマイナスの影響がありますが、水産事業では好影響があります。
さらに、利益面では大きな規模を持っている養殖が拡大した事でも好調だったとしています。
安定した漁獲量が期待できる養殖が成長しているのは今後も好影響が期待できます。
養殖ビジネスの高度化と拡大を通じて水産事業の収益安定化を進めるとしていますので、今後もさらに養殖事業が成長していくかに注目です。
ちなみに、面白い取り組みのひとつとしてマグロ養殖があります。
通常ははマグロの養殖では通常は養殖に3~5年を要するものを、一定サイズに育ったマグロを確保しそれを半年程度養殖するビジネスの展開を進めようとしています。
漁業も行っているので、その連動を進められるのも一つの強みだという事ですね。
続いて今後の投資計画を見てみると養殖の拡大だけでなく、海外展開にも積極的です。
海外では事業拡大だけでなく、M&Aなども想定しているようです。
値上げもしやすくインフレにも強いので、特に食品事業は海外市場での拡大に力を入れていこうとしています。
北米では販売カテゴリーの拡大、欧州では販売エリアの拡大を進めていくとしています。
2021年度は海外比率が34%とでしたが2030年には50%を目指していますので海外展開の進捗にも注目です。
その他にも、現在は規模の小さいファインケミカル事業も大きな成長を目指しています。
欧州展開を急ぐとしていますので、ファインケミカル事業でも海外展開が進むかに注目です。
という事でニッスイは水産品の調達・加工・販売を行う水産事業と食品事業を主力としています。
事業自体は市況の影響を受けますが、水産事業と食品事業で市況の変化による影響は逆に影響するため比較的安定した業績が期待できます。
また、水産事業は利益面では養殖の規模が大きく、安定した漁獲量が期待できる養殖の拡大は業績の安定に繋がりますので、その成長には注目です。
また、業績は2023年3月期では営業利益は悪化していました。
ファインケミカル事業が日水製薬売却による影響で悪化し、原料高の進む中で食品事業も業績が悪化しています。
企業自体を売却したファインミカル事業の悪化は続くと考えられます。
食品事業では値上げを進めていますのでそれでどれだけ原燃料高を打ち返していけるかに注目な状況です。
直近の業績
それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2024年3月期の2Qまでの業績です。
売上高:4071億円(+7.9%)
営業利益:163億円(+22.1%)
経常利益:170億円(+15.6%)
純利益:117億円(▲0.5%)
増収で純利益は微減ですが、営業利益や経常利益は増益となっています。
純利益に関しては前期にあった日水製薬の売却益の反動なので、事業自体は好調だという事ですね。
主力事業のセグメント別の営業利益の推移は以下の通りです。
①水産事業:▲27億円
②食品事業:+72億円
③ファインケミカル事業:▲18億円
水産事業が減益となり、ファインケミカルはやはり日水製薬の売却の影響で減益となっているものの、前期は苦戦していた食品事業が大幅増益となった事で好調です。
水産事業では南米を除いた養殖は好調なものの、南米養殖は鮭市況が調整局面となった事で苦戦し、加工・商事事業も市況が調整局面となった影響と、今後を見据えた買い控えが起きて苦戦したようです。
買い控えは起きていますが、トータルの消費量が大きく変わる事はありませんので、どこかで買い控えの反動による好影響はありそうですからその点は注目です。
また、養殖は市況悪化の中でも南米以外は増益でした。南米に関してもトラウトサーモンの市況が大きく悪化した影響が大きく減益でしたが、養殖のオペレーション改良は進んだとしています。
養殖の事業自体は堅調な状況ですね。
南米でもトラウトサーモンの付加価値を高めて市況に打たれ強い安定した収益構造を構築するとしていますのでその点にも注目です。
水産事業は業績悪化となっていたものの、市況悪化の影響が大きく養殖は堅調ですから事業の状況としては堅調だと考えられます。
また、好調になっていたのが食品事業です。
水産市況が下落した事による原料のコストダウンがあった事に加えて値上げの効果も出ているようです。
市場別だと、特に国内が大幅増益となりました。
前期は国内では値上げで、コスト増に十分な対応は出来ていませんでしたが値上げが進んだことで好調です。
今後も値上げの好影響が期待できますので、食品事業も良好な状況だと言えそうです。
とはいえ食品事業では、数回の値上げを行った事で数量減の影響が出始めているとしています。
数量面の悪化から業績悪化に繋がる可能性もありますので、その点には注意が必要そうです。
とはいえ、ある程度安定した需要は期待できます。
今後は水産事業では買い控えの反動による販売増加や、食品事業では日本市場の値上げによる好影響によって好調が期待できそうです。
そういった中で、通期予想でも増収増益を見込んでいます。
ファインケミカルでは日水製薬売却の影響で低水準が続き、水産事業は市況の悪化を受けて減益が続く事を見込んでいますが食品事業の好調によって好業績となる見通しです。
販売数量の面に一定の悪影響が出ている中でも、しっかりと食品事業の好調が続くかに注目です。
という事で直近では増収増益で好調です。
ファインケミカルでは日水製薬売却の影響で減益、水産事業も市況の悪化を受けて減益となっていますが、食品事業が市況が悪化した事で原料コストが下がった一方で値上げを進めていた事で好調となっています。
今後も食品事業の好調によって増収増益が見込まれます。
とはいえ食品事業では値上げの結果販売数量の面に悪影響が出ていますので、その点には注意が必要です。
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