ヒオカ「死ねない理由」
我々はあまりにも貧困に対して無知すぎる
「普通に働いていれば非課税世帯にはならない」
「生理用品が買えないくらいの貧困層ってマジでいるの?」
「貧乏なのに子供産むのが悪い」
ネットを見れば低所得者に対する偏見、バッシングで溢れています。
自分がたまたま貧困家庭に生まれなかった、運が良かっただけなのに、低所得者について何も情報を得ようとせずに憶測だけで叩くのはあまりにも傲慢です。
ただし、裕福な人が自分の優位性を自覚することが難しいのも事実です。
我々ができることは「知ること」です。
自分が当たり前に享受している権利を、持てない人たちが世の中にはいる。
自分の想像の範疇を超えた困難に置かれた人たちがいる。
その事実をまずは知ることです。
ヒオカさんは「自覚することからすべては始まる」と言います。
著者のヒオカさんは貧困、それも超ド級の極貧と呼べる家庭の出身です。
進研ゼミをやったり、塾に通わせてもらえるような経済的余裕は当然ありませんでしたが、それでも本人の努力によって国公立大学に行きました。
奨学金制度を利用したものの、完済には至っておらず今も返済を続けています。
ヒオカさんは現在ライターとして活躍されています。
メディア側の人間は有名大学を出ていたり、裕福な家庭の出身だったりと社会的強者が多いです。
弱い者の取材はするけど、本人が貧困当事者というわけでありません。
ヒオカさんの書かれた記事や著書は、貧困家庭出身の当事者によって書かれたという意味で大きな価値があります。
ヒオカさんの訴える問題の一つに奨学金制度があります。
日本は、奨学金の返済を苦に自殺する人がいる国です。
日本の奨学金制度は世界的に見ても厳しく、一応減額返済や返還期限猶予の制度はあるものの、完済までの期間が長くなるだけで支払う総額は変わりません。
死ねない理由を一つずつ数える
本書のタイトルは「死ねない理由」ですが、著者にとって「これが死ねない理由だ!」とはっきりと言い切れる明確なものは、まだないと言います。
著者はこれまで様々なものを諦めなければいけませんでした。
友達が着ているような「新品で身の丈にあった可愛い服」は着れず、中高生の時は、色褪せたりほつれていない、オーダーメイドの制服に憧れました。
成人式の時は、あでやかな振袖を着る同級生の中で一人、黒一色のリクルートスーツで参加しました。
著者は今「死ねない理由」と呼べるものを一つずつ数えている最中です。
著者にとっての死ねない理由の一つに、推しの存在があります。
しかしやはり、前提として経済的安定や、心理的安全性の保たれた人との繋がり、安心して暮らせる場所がなければ「生きたい」と思うことはできません。
では衣食住があれば良くて、エンタメは無くても良いのか?
それも違います。
物理的な安定と、心を生かしてくれる存在、どちらも揃って初めて、本当の意味で生きていけるというのが著者の主張です。
「身の丈を知って我慢しろ」という社会のメッセージ
ライターという職業は「安定を捨てて夢を追っている人」というイメージがあるらしく、貧困家庭出身のライターというだけで叩かれるそうです。
世間はまだ夢を成しえていない「夢追い人」を嫌います。
嫌味を言うだけでは事足りず、精神がへし折れるほど叩かないと気が済みません。
貧困家庭出身者は常に、身の程をわきまえることが要求されます。
「自助努力のみで貧困を抜け出し、誰にも頼らず、夢を追わず、安定的で自立した生活を送ることだけ考えるべき。」そんな社会からのメッセージを、著者はまだ上手く呑み込めずにいると言います。
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