【令和版】魔女の寄り道(3)
前回の話はこちら。
男は、橋の真ん中で火縄銃を構え、銃口を美智子に向けていた。
いつでも発砲できる体制だ。
美智子と男との距離は約20m。
美智子は防御魔法があまり得意ではない。
バリアを張っているものの、弾丸を受け止めきれる強度ではない。
直撃すれば無事では済まないだろう。
空を飛ぶための箒などは持っていない。
弾丸を避けるのは難しそうだ。
美智子は男に向かって歩き出した。
「パァン!」
男が発砲した弾丸は美智子に命中せず、少し横に逸れた。
美智子はバリアを斜めに展開していた。
弾丸を正面から受けるのではなく、軌道を逸らしたのだ。
さらにバリアは完全な透明ではなく、濃い紫色に染められていた。
ただでさえ視界が悪い夜に、色付きガラスのようなバリアを展開したことで、美智子の姿はかなり見づらくなっていた。
男が次の弾の準備をする。火縄銃の装填時間は約30秒。
美智子は急いで接近した。
「バンッ!」
再び発破音が轟く。
しかし今度は男が銃を発砲したのではない。
美智子が爆発魔法を発動したのだ。
男は驚いて、火縄銃を橋の上に落とした。
男の持っている火薬に引火して誘爆するのを期待していたが、
そこまでダメージは与えられなかった。
美智子は火縄銃を奪い取り、火縄銃の上にまたがった。
体がふわっと浮かび上がり、上空に向かって急上昇した。
「じゃあね、さようなら~」
男は、美智子が空へと逃走していくのを眺めることしかできなかった。
*
人はなぜ、お城を訪れると「自分だったらどうやってお城を攻めよう」
という妄想をしてしまうのか?
沼森 美智子は、大阪城の橋の上を歩きながら、
火縄銃を持った足軽と対峙するという設定で思いを巡らせた。
今日はウォーキングのために大阪城に来た。
天守閣までの道のりは、ジグザグの坂道が続いており歩きにくい。
敵が進攻しにくい構造になっているのだ。
しかし美智子はお城の周辺をぶらぶらするだけで満足だった。
駅から橋まで歩いたので、そろそろ引き返すつもりだ。
こうしてお城を偵察(?)しているだけでも様々な気づきがある。
自分が大阪城を攻めるなら、やはり上空から内部に侵入するだろう。
昼間は目立つので、夜がいい。
真実かどうかは分からないが、
昔の忍者は大凧に乗って空から侵入したらしい。
空ではなく地上から城を攻めるのは、魔女でもかなり苦戦するだろう。
道中には、火縄銃の集中砲火を浴びるスポットがいくつもある。
物理攻撃を完全に遮断する強力なバリアを張ればいけるだろうか?
頑丈な城壁が、爆発魔法で壊せるとも思えない。
魔法陣からデーモンを召喚するという手もある。
一人で大量の魔法陣を描くのは無理があるので、人海戦術が有効だ。
意外と行けそうな気がしてきた。
美智子は一人で勝手に満足し、駅に向かって歩きはじめた。
大阪城は2月になると梅の花が咲く。その頃にまた訪れたい。
*
こういう観光地は外国人観光客ばかりなのかと思っていたが、
意外と日本人が多かった。
大阪城の周囲にはランニングコースがある。
ショートコースが約2.9km、ロングコースが約3.5kmなので、
東京の皇居よりは短い。
皇居のランニングコースは昔、一度だけ走ったことがあった。
車の交通量が多く、排気ガスが気になった。
それに普段ランニングをしない美智子にとって一周5kmは長すぎた。
それ以来、一度も皇居ランはしていない。
頑張ってランニングをするのは美智子の性に合わないのだと思った。
気楽なウォーキングの方が向いている。
続きはこちら。