社内には「運命の仲間」がいるかもしれない。ーFNCTR
プログレッシブロック、マスロック、テクノ等々・・・あらゆるジャンルを吸収し、圧巻のグルーブ感でフロアの観客を巻き込むライブ。今、にわかに話題を呼んでいる京都の4人組インストゥルメンタルバンド「FNCTR」。
その攻めた音楽性ながら、彼らは驚くべきことに、同じ社内の、同じソフトウェアエンジニアで結成された「社内バンド」だ。
今回のインタビューで彼らからにじみ出ていたのは、同じ社内、同じ職種だからこそ生まれるメンバー同士の信頼関係。
彼らが社内でバンドを組むことになったきっかけから、仕事も家庭もある中で、バンドをすることへのそれぞれの想い。そして、メンバー同士の絆について。今回は顔出しNGながら、穏やかな口調で語ってくれた。
Profile
FNCTR(ファンクター)
2017年5月に、同じ社内のソフトウェアエンジニア同士で結成。メンバーは、Baの16:32(ヒロミツ)KeyのFey(フェイ)DrのOz(オズ)Saxの11x2(ケイ)。
アルトサックスをフロントに据えた知的好奇心に忠実な4人組インストゥルメンタルバンド。マス/プログレ/ハードコア/テクノ/モダンジャズ/ビートミュージック/ミニマル/コンテンポラリーを飲み込みタイトに絡まった振動を吐き出す。反復する攪乱的グルーヴの上で炸裂する圧倒的熱量が観るものを異空間に引きずり込む。2018年の初ライブ以降、京都を中心に精力的に活動している。
社内でこのメンバーが集まったのは、ほぼ奇跡なんです。
ーFNCTRは同じ社内のソフトウェアエンジニア同士で組んだバンドだとお聞きしました。元々はどんなきっかけでバンドを結成したんですか?
16:32(Ba) 結成のきっかけは、会社の中でバンドが好きな人が集まって開催したコピバン大会なんですよ。ドラム以外の3人は元々、音楽好きの知人を通じて知り合っていて、そのコピバン大会でドラムのOzが叩いているのを見て、「この人が叩いてくれたら自分がやりたい音楽ができるかもしれない!」と思って声をかけたんです。それがFNCTRを結成したきっかけですね。
ーFNCTRがやっているジャンルはプログレッシブインストやマスロックに影響を受けた、かなりニッチなジャンルの音楽性ですけど、よくバンドの方向性が固まりましたね。
Fey(key) それは16:32のリーダシップがあってこそだと思いますね。
16:32 ほぼ僕のわがままで集めたようなものなんで(笑)
11x2(Sax) 僕は最初に16:32から音源を渡されて、「いい!」と思ったんです。でも、最初はサックスが何本も入る編成だと思い込んでいたんですけど、一本だよって言われて(笑)
Oz(Dr) 僕は16:32と音楽の趣味が合ったのが加入した理由ですね。僕は元々、メタルをやっていたんですけど、プログレやポストロックも好きで結構やっていたんです。だから、彼が「やりたい」って思っている音楽性にとても魅かれました。
ー16:32さん中には、結成当初からFNCTRの音楽性のイメージがあったということでしょうか?
16:32 そうですね。僕は最初からマスロックやプログレをやりたいってイメージはありました。僕らがやっているプログレッシブインストやマスロックって、演奏するには根性のいるジャンルだと思うんですけど、社内である程度演奏経験のある人たちが集まって、しかも僕が「やりたい」って思っていることを面白いと思ってくれる人が集まったのは、ほぼ奇跡だなと。バチっとパズルがハマったっていうか。
ー今はどのようなペースで活動されているんですか?
Fey 子供がいるメンバーもいるので。仕事と家庭のバランスを考えて活動していますね。先々の予定とかは、みんなで集まって話し合うようにしています。
16:32 最初にバンドやろうと決めた時に、一番に優先するのは家庭、次に仕事、三番にバンドっていうルールを4人で決めたんですよ。
Oz 例えば誰かがバンドを優先したとしても、バランスが崩れてしまいますから、このルールを大原則として活動のペースを都度、考えていますね。
ーバンド内のコミュニケーションはどのように取っているんですか?
16:32 みんなで週に一回社食でランチミーティングをしています。みんなでわいわいご飯を食べながら、次の練習とかライブの日程を決めていますね。
11x2 あとはLINEのグループでとかで連絡を取り合っているよね。
ーソフトウェアエンジニアという仕事がバンドに影響を与えている面はありますか?
Fey ああ。それはちょっとあるかも。みんな分析するのは好きだよね(笑)
16:32 一言にソフトウェアエンジニアにといっても、それぞれがやっている仕事はバラバラなんです。でも、エンジニアの仕事で共通していることは「失敗を検証して解決する」ということなんですね。だから、四人とも率先して、今ある問題を解決をしようっていう意識がありますね。
11x2 バンドの中でも、仕事と同じようにPDCAサイクルを回しているよね(笑)
ー同じ社内、同じ職種だからこそ、「やりやすい」と感じる部分はどんなところでしょう?
Oz 同じ社内だと例え話が通じるよね。お互いが分かり合える共通言語があるというか。
11x2 あとは同じ社内だから、今の状況が把握できているかな。これが違う業種だったら難しかったかもしれない。自然とお互いを思いやることができていると思いますね。
Fey 「ああ今、彼は忙しい時期だろうなあ」「大変だよね」とか、想像がつきやすいですね。
ーFNCTRの皆さんは、家庭もあって、仕事もあって、とても時間が限られている中で活動されていますが、メンバーの皆さんがバンドをやるモチーベーションはどこから生まれていると思いますか?
11x2 実は僕は最初、正直受け身だったんですよ(笑)
Oz えっ。そうなの?
11x2 いや、正直ね(笑)でも、ライブを見に来てくれた方や、音源を聞いてもらった方達から、僕が思った以上に人からのフィードバックをもらえたんです。しかも、それは、僕が今まで経験したことない、もらったことのないタイプの反応だった。例えば「変態だった」「やばかったです」とか。だから、「もしかしたら俺たちは今まで聞いたことないものを提供できているんじゃないか」と思って。それが僕はモチベーションになってますね。
Fey このバンドはお互いが同じ社内でやっているし、同じ目標を共有しているからこそ、背筋が伸びるんですよね。このバンドなら、今やっているジャンルを突き詰められると思っていますし、ライブをする度に、次は一体どんな反応をもらえるんだろう、って。それが本当にワクワクするんですよね。
Oz 僕は就職してからバンドはやってなかったんですけど、ずっと心の中には音楽に対する想いがくすぶっていたんです。そしたら、子供も落ち着いたタイミングで16:32から声がかかった。「やりたい!」って即答しましたね。だから、バンドが組めて、ドラムを叩けること自体が嬉しいんですよね。
16:32 僕の場合は、バンドを始めて、職場や家庭以外にも新しいコミュニティや新しいアイデンティティができたのも、個人的なモチベーションになっていますね。ステージで演奏してる時は、仕事の時とも、家庭の時とも、違う自分がそこには存在している。そういう自分の新しい一面を確立できた。それはバンドをやっているからこその面白さですよね。
出会いはどこにあるかわからない。常にアンテナを張ることが大事です。
ーFNCTRの皆さんは、学生の時にもサークルや部活などで音楽活動を経験されていますが、学生の時と違って、社会人でバンドを続けるにあたって難しいと感じる部分はどんなところでしょうか?
16:32 社会人は学生と違って、「なぜやってるか」ってところをはっきりさせないと続かないんじゃないでしょうか。バンド内で目標が全員で一致していないと、長く続けることは難しいんじゃないかな。
Fey うん。それに、その目標を共有するためのコミュニケーションが大切ですね。僕らは、週に一回、社食でミーティングもできますし、恵まれた環境だなって思います。
Oz 密にコミュニケーションをとっているから、深刻に意見が対立することはないよね。
16:32 僕らは、この間、りんご音楽祭のオーディションに出たんですけど、そのオーディションに出たことによって、今後の方向性が固まった部分もあるんです。人からどう見られたいか、どう聞いて欲しいか。衣装のこととかも話して。
Fey ステージングとかもね。
16:32 今回の場合は、さっきのPDCAの話で言うところの、Pの部分が大きかったですね。りんご音楽祭に出るような、レベルの高いバンドの中で、自分たちがどこまで行けるのか試したかったんです。結果的に二次選考で落ちてしまったんですが、オーディションに出たことによって、自分たちが今後、FNCTRをどうしたいのかってところを再認識できたんです。
11x2 この音楽性でいいんだ、間違ってないんだ、っていうのが改めてメンバー同士で確かめ合って、「なぜやっているのか」を明確にできたと思います。
ー学生の時より社会人になって、音楽やバンドに対する向き合い方で、変わったなと思うところはどんなところでしょう?
16:32 僕は時間という面で、コストパフォーマンスを意識するようになりましたね。自分がバンドにかけた「コスト」「時間」に対して、どれだけの人からフィードバックがもらえて、活動に反映できたか。そういうことを強く意識するようになりました。
Fey 僕はひとつ一つのライブに対する向かい方が変わりましたね。「このライブに出て、得るものがあるのか」っていうところはシビアに考えるようになりました。
Oz 僕も学生の時は楽しさ優先でした。でも、今はバンド内で目標を共有して、その目標に向かって進んでいる。その点で、社会人バンドだからこその、シビアな面もあります。
ーシビアな面、というと?
Oz 単純に、僕らの目標に対して、残り時間が少ない、ということです。
16:32 今はまず目標として、京都の中で知る人ぞ知るバンドみたいな立ち位置になる、というのを掲げています。着実に京都のシーンで存在感を出したい。ゆくゆくはフェスにだって出たいしグラストンベリー(※イギリスで行われる大規模な野外ライブ)にも呼ばれたい(笑)そうなると、あと5年後にはどうなっていたいか?3年後には?というのを考えますね。
Oz 僕らも30代の半ばになって、人生の残り時間もある程度わかってくる。先ほど話したようにバンドは家庭や仕事の次の優先度と決めているので、割ける時間の割合も限られています。
16:32 これからの人生、みんなのライフステージにどんなイベントがあるかわからないですから。例えば、一年海外出張があるとか全然あり得る。僕はFNCTRは誰も足せないし、誰も引けないバンドだと思っているから、その時は活動を休止するっていう選択をすると思います。だからこそ、時間に対してよりシビアに考えなければいけない。
Oz なので、さっきFeyが言ったように、一回一回の練習や、ライブにしても、その密度を気にするようになりましたね。
ー今日のインタビューを通じて、同じ社内にいるからこそ、それぞれの歩調を合わせて、お互いにお互いの環境を想いやって、同じ目標に対して進んでいるバンドだなと思いました。社会人で、しかも同じ社内でバンドを組もうと思っても、なかなか声をかけられない方もいると思います。
11x2 はじめるのに遅いことはないけど、絶対に早いのに越したことはない。「ここだ!」と思ったら、自分で動いた方がいいと思いますね。出会いはどこにあるかわからないので、常にアンテナを張ることが大事です。
16:32 僕らがこのメンバーで集まったのも、さっき言ったように奇跡に近い。もしかしたら、毎日通っている職場でも、運命の出会いがあるかもしれない。
だから、もし気になる人がいたら、たとえ同じ社内でも、勇気を出して声をかけてみるべきだと思います。
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