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個展『BEACH』セルフライナーノーツ はじめに

カラムーチョ伊地知の個展第一弾『BEACH』のセルフライナーノーツです。セルフライナーノーツの使い方、合ってますかねこれ??

この度はライナーノーツをお読みいただき、ありがとうございます。

今回の個展には『BEACH』というタイトルをつけました。主に妻の故郷である島根の海を描いています。
僕は千葉県の北西部に育ち、北は利根川、東には手賀沼、ちょっと走れば印旛沼という湿地帯で育ちました。関東平野のど真ん中。どちらかというと、川に育ち。海には年に一回、一族総出で海水浴に行くくらい。その日は特別でした。
だから、妻の出身地が僕には、たまらなく、羨ましく感じました。海が目の前にあるなんて!

僕は島根の海を描くことにしました。
海はこの世界のすべての"圧力"を受け流しているように見えました。その頃の僕はとにかく混沌で、身体の内部ははちゃめちゃでありました。そんなはちゃめちゃな僕には、子どものころに見た海よりも、空の色を受け止めて、どこまで深く青く発光しているように見えました。
絵を描くとき、僕は写真を"観察"します。海の絵を描いているうちに、いつの間にか、僕はその海の内部まで、観察するようになりました。
海の中で起きている、神秘的な出来事を観察します。例えば食物連鎖。捕食されるイワシの群れ。例えば卵から孵化するウミガメ。例えば遊泳するマンタ。真夜中に海上を跳ねる飛魚。遠い海のことも想像します。ペンギンや、シャチ。セイウチ。潮を吹くザトウクジラ。親子で泳ぐマッコウクジラ。
海の中では、きっと、僕らの想像し得ない、奇跡的な瞬間が、毎日毎日毎日毎日、繰り返されている。命が生まれ、喰われ、排泄され、海に融け、あらゆる生命体と一体化する。そしてまた命が生まれる。

描けなかった絵があります。それはイルカの絵です。
まだ絵を描く前、義父と漁港で釣りをしている時、20メートル先にイルカが尻尾を海面から出したんです。僕と義父は「イルカだ!珍しい!」「珍しいですか!そりゃあ、ラッキーですね!」と一通りはしゃいだんですが、写真を撮るのをすっかりと忘れていたようで、後々に写真を振り返っていると写真を撮っていないことに気がつき、大いに後悔しました。記憶を手繰り寄せながら、あの、イルカが海面から尻尾を出した瞬間を描こうと思ったのですが、描けませんでした。

あれは、海が"呼応"してきた瞬間でした。あの"呼応"を、目の前に具象化してみたい。そんな想いで、海を描き続けてきた気がします。

イルカを見た港


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