見出し画像

右眼球破裂と診断書に書かれた時の話

noteをやってみたら?と何人かから言ってもらえたので、ふと思い立ってアカウントを立ち上げてみました。妖精大図鑑という団体で舞台作品などを作ったりなんだりしています。飯塚うなぎと申します。

さて、何を書いてみようかしらと考えて、なんか面白い話あったかな…
他の人はあんまり経験してないんじゃなかろうかと思ったので、ここはひとつ、「右眼球破裂」と診断書を出された時の話でも。
もう10年くらい前のことなので、正直ところどころあやふやだけど。完全に忘れる前に書き出してみます。

大学生だった頃のこと、あの日の飯塚は学内での演劇公演を終え、バラシ作業をしていたんですね。天気がいい日で、外に美術を運び出して釘を抜いてて。
釘を抜いたことがある人は分かると思うのですが、こう、釘の頭が完全に木に埋まってると抜きにくいんですね。なので、釘抜きを押し込んでなんとか隙間を作ります。釘抜きをトンカチで叩いて、釘と木材の間にねじ込んでいくわけです。

痛い予感がしましたか?大丈夫です。痛みはありませんでしたのでね。で、平和な昼下がり、コンコンコンと釘抜きをトンカチで打っておりましたら、どうやらトンカチが欠けたらしいんです。欠けたと言ってもほんの小さなカケラで、なんか飛んで来たかな?あれ?と思った瞬間、右目から涙かパタタっと出て、右手にかかりました。うん?ゴミかな。と目を開けると、あんまり見えなくなっておりました。あとで考えるとあれは涙じゃなくて眼球内から漏れ出たなんか液体?だったのかな?知らんけど。

釘を抜くの図

理科の授業で顕微鏡を使ったときの、プレパラートをうまく作れなかった時みたいな視界です。右側の世界は白っぽい液体の中になっていました。
その白っぽい液体越しに、灯りがうっすら透けて見えます。ので明るいか暗いかは分かります。で、その液体の中に、黒い泡みたいなものがコロコロと転がっています。こいつは重力に合わせて顔を右に倒せば右に、左に傾ければ左へと転がります。痛みはありません。ただ右目は完全に正常ではないことが分かります。

ミスったプレパラート

学校の先生の助言で、直接大きい病院には行かずに、まず近隣の眼科に行きました。紹介状を手に入れた方が後々スムーズだろうという考えです。(これがマジで先見の明と言うやつ)街の目医者さんで経緯を説明したところ、受付がざわつき即診察、からの大きい病院への紹介状が書かれました。見立て通りすぎる。出来立ての紹介状と先生が渡してくれたお金とを握りしめ、私は一人タクシーに乗り込みました。いざ大学病院へ!

今までありがたいことに、大きな病気や怪我もしたことがなく、(普通の子供がする程度の怪我はもちろん一通りやった)大学病院なんて初めて一人で行ったもんですから、で、でかい!入り組んでる!混んでる!と、まずロビーでビビり倒しました。頼みの紹介状を出しながら、えーとえーとと受付の人に話します。すると「この棟の何階のどこそこに行ってくださいね~」と案内されて、気分はちょっとした探検。ダンジョンはここにあったのだ…

病院ダンジョン

どデカい病院の中にあるどデカい眼科の受付に行って、これまたかくかくしかじか。待合室と廊下には待っている人、人、人。これは待ち時間長そうだな…と思っていたのですが、ここで紹介状が火を吹きます。スタンバイ列を横目に、ファストパスを使用した時みたいなもんです。待っている人たちを総スルー(主観)して診察室へ。なるほど!これはこういうふうに使うものだったのか…!(多分違う)

結果、トンカチの破片が眼球ど真ん中にあるから、今日の夜に摘出手術!そんで入院よ!と告げられました。曰く、破片は角膜と水晶体を突き破って硝子体のど真ん中に居るんだとか。水晶体は破片通過時に濁ってしまっているので、これも手術で取り出すことに。おお…!なんかすごい話になってきた…

こういう状況

親が到着したり、先生も学校での授業を終え駆けつけてくれたり、看護師さんから3種類の目薬を渡されたりとてんやわんや。この目薬を3分おきに代わりばんこに差すのだ…と言われたものの、根っからのズボラなのでどれをいつ差したのか分からなくなり、もはやシャッフル状態。入院なんかも初めてだから、何が必要なのかしら?とワタワタしているうちに夜がきて、あっという間に手術室に向かうことになりました。バタバタ。

手術は部分麻酔でした。右目だけが外に出ていて、左目を含め顔は覆われて居たので、視覚的にはほぼ見えません。光を当てられてるな~というのは分かりました。まず目薬タイプの麻酔?を点眼し、感覚なくなってきたら注射での麻酔。白い視界のなかに器具の影が見えます。

こんな感じ

ウヒョ~!理科の実験映像を見せられている感じです。手術室の中は何か音楽が流れていて、和やかな空気でした。その中でお医者さん達が「ど真ん中だね~」「本当だ~ど真ん中ですねえ」と話す声が聞こえます。…あれ?結構楽しそうだな?うん?これ、飯塚の右目の話だよな…?

理科の実験映像を、和やかめの音楽と共に見せられるのを想像してください。
人の話し声はするけれど、特にテロップが出たりとか、解説の音声などはありません。

すると人間はどうなるか。
はい。すみません私手術中に寝落ちしました。はい。
言い訳させていただきますと、慣れないこと続きで疲れていたのです。
そもそも昨日まで公演してたのです。仰向けで適温で特にすることがなかったら、そりゃもうスヤッと寝てしまうわけでして…
終わりましたよ~と起こされて、歩いて病室に帰りました。

手術翌日、念のためにと貼られていたガーゼが外されました。水晶体がないのでピントはボケボケだけれども、ボヤッとした世界が見えるようになっていました。お~。
左目で鏡越しに右目を見てみると、ちょっと充血しているけれど、あまり変化はありません。黒目のあたりに縫い目があるけれど、これも抜糸をしたら元に戻るんですって。へ~。眼球に縫い目があるのが不思議で、しげしげと眺めました。(この後しばらくの間「見てみてー!黒目に縫い目があるのー!」と見せびらかすようになる)

プチ自慢するの図


それから大事をとって10日間ほど入院しました。
異常がないかを毎日見てもらいながら、特にやることはありません。ヒマ。正直めっちゃヒマ。
眼球以外は元気なので、ただ暇を持て余した状態です。友達が差し入れてくれるお菓子だったり本だったりで時間を溶かします。今思えばステイホームの予習みたいなことしてましたね。

ある時、お見舞いに来てくれた友達が、これは見える?と指を三本立てました。思うに「流石にそれは見えるわ!」という反応待ちだったのかもしれません。
が、正直それに即答できない事に気付きました。というのもピントがずれているのと同時に、視野に欠けているところが有ったのです。視野欠損があるというのは事前にお医者さんから聞いていました。でもそれがどういう感じなのか、欠損部分にかかっていると、そこに指が一本あるのか二本あるのか、右目だけだと自信が持てないのです。

ええと〜

ほへー。そうなのそうなの。
残機2は残機1になっちゃったってわけなの。
文字を読むのも絵を描くことも、右目だけではできなくなっちゃったのね。

7月の終わりから8月の頭にかけて、外は猛暑でしたが、連日空調の効いた病室ではぼんやりとした時間が流れていました。

退院した日もちゃんと猛暑で、あっつ!世界あっつ!と思いました。
あと眩しい。10日間室内にいたせいか、太陽光がものすごく眩しく感じます。
右目と左目とを交互に開けてみると、なんか色味違くない?うん?
調べてみると、加齢によって水晶体は新品に比べると、どうしてもうっすら濁ってきちゃうらしい。だから子供の頃に見た青空の方が、鮮やかだった気がするってのは、あながち気のせいじゃないんですって。うんうん。なんだか右目の方が色は鮮やかな気がします。ていうか眩しい。まだ慣れていない感じ。今まで通りの左側と、変わってしまった右側とで、ものすごいガチャ目。それを脳が処理するのにももちろん慣れてないもので、なんだかものすごく疲れます。うーむこれは困ったぞ。日光の下を歩く時、慣れるまでは眼帯をする事にしました。

人間の体というのはすごいもので、段々と慣れていきます。眩しさも徐々に落ち着き、この見え方にもどんどん馴染んでいきました。

生き物が目を二つ持つのは、遠近感を得るためだと言います。
おそらく、二つの目で見ている皆さんに比べて、飯塚の見え方は遠近感が薄いのだと思います。とはいえ、もう比較ができないので、正直どのくらい分かっていないのかがよく分かりません。
球技とかやってたらものすごく落ち込んでいたかもしれません。が、飯塚は元々運動神経クソ悪いの民なので、無問題。良かった!運動神経悪くて良かった~~!
あと多分右目は人と目が合いにくいんじゃなかろうかとも思いますが、元々人と目を合わせて喋れないタイプなので無問題。根暗で良かった~~~!
あとあと、左目が二重なのに右目が一重なのはケガのせいかと思わせて、これは元からじゃい!関係なかった~~!!!

これは関係あるな…と思うのは遊園地です。魔法の眼鏡をかけると飛び出して見えるよ!のアレです。ある程度飛び出して見えているけれど、周りのリアクションを見るに、みんなは飯塚の1.5倍くらい飛び出して見えてるんじゃないか?!くそう!!!これはちょっと損してそう…VRとかもやったことが無いのだけれど、あれも片目だと見え辛かったりするのでしょうか…?スカウターとか。全人類が片目に装着するデバイスで戦闘能力を測る時代が来たらどうしようかな。ピピピピピ。

遊園地繋がりでもう一つ。
退院するとき、ほんのちょっとだけ期待したんですよ。邪気眼。
いやだってなんかこんな事になったなら、特殊な何かが見えるようにならねえかなって期待しません?!オカルトなものが見えるようになったらどうしよ?!まあそんなことは当然無かったんですけど。一個だけあったんですよ。
どうもブラックライトが視認できるみたいなんですよね。
いや、なんでや。
事故ってから初めて遊園地に行ったときに、妙に左右の視界の明るさが違う場面があって、ん?これなんだ?右目ばっかり妙に明るいぞ?で、観察してった結果、これブラックライトだなあと。ブラックライトって、通常あまり見えないのだけど蛍光塗料の部分だけ光って見える。といった効果がありまして、例えば蛍光塗料で星空が描いてある壁にブラックライトを当てると、星の部分だけ光って見えると言うやつです。なので、飯塚の場合左目には星空、右目だとただの青く照らされた壁に見えます。なんでなのかはよく分かりません。定期検診の時にお医者さんにワクワクしながら聞いたら、「それ日常生活で困りますか?」「いえ特には…」「あ、良かったです~」で終了しました。誰か詳しい人居たら教えて欲しい。困ってはいない…困っては居ないけど単純に興味があるので…

ブラックライトに気付くの図

そんなこんなで、あれから10年以上がたち、すっかりこの視界での暮らしに慣れました。慣れって凄い。
保険の手続きで診断書を発行してもらったら「右眼球破裂」と記載されていて、わ!文字にするとインパクトすごいな?!と親とヒエ~と言ってたのも10年以上前のこと…
周りの人にも「右目あんまり見えて無いんだ」と言うとビックリされるくらいには傍目には分からないですし、自分でも忘れてる時があります。段差が分かりにくいデザインの階段とか、ブラックライトが設置されてる時に「ああそうだったそうだった」と思い出す感じです。
ああそうそう、右目は視力矯正できないの?と思われる方もいらっしゃいますかね?
答えとしてはある程度はできるといったところです。一応専用のハードコンタクトがあるんですけど、(ソフトだと矯正しきれないらしい)こいつをつけると若干視力を上げられます。といっても文字を読んだりするのは難しいですし(できなくはないけど視野欠損してなくてうまく読めるポイントに文字列を入れるのに時間がかかる)、グッと疲れるのと、2時間くらいで乾燥してきてポロポロ落ちてきちゃう(目から鱗)ので日常生活ではあまりつけません。舞台や映画を見るときにつけていたりします。
上演直前の劇場トイレで、ハードコンタクトを急に右目につけている奴がいたら多分飯塚です。

あと太陽光だと右側若干青みが強くなります

そんな感じです。
うーん、ちょっとは面白い話ができたでしょうか?
右目に関するお話は、これでおしまいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?