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別に毎日こんなんじゃないんだけどさ

携帯のアラームがなる二時間前に目が覚めた。
昨日は夜遅くまで起きていたし、
そうでなくても惰性な僕のことだから普段ならもう一度ベッドに潜り込むはずなんだけれど
今朝に限って何故か眠気はさっぱり失せていた。

頭がまだぼんやりとしたまま、カーディガンを羽織ってベランダに出る。
肌を刺すと言うにはまだそこまで寒くない空気を体に浴びて
僕の頭はやっと覚醒しだす。

向こうに見える斜面の奥から日の光がにじみ出ている。
朝焼けと夕焼けって区別がつかないらしい。
誰かがそんなことを言っていたのを思い出す。
透き通る朝の空気を意識して吸ってみる。
夏の残滓をまとっているけれど、それは確かに秋の空気だった。

見下ろす県道ではもう一日が始まっていて
バスに詰め込まれた人や歩いている人、ジョギングしている人
それぞれにそれぞれの朝があるんだなんてこと、改めて思い知る。

黎明の世界は、少なくとも今触れている僕にとっては
紛れもなく美しい世界だと思えた。
まだ灯り続ける街灯も
濃淡をつけた雲の色も
溶け出す太陽の光も
髪を揺らす微風も
今この瞬間だけは綺麗だと思えた。

ポケットから煙草を取り出す。
火をつけてゆっくりと吐き出す。
紫煙はほんの少しだけ空気に漂うと、やがてふっと消える。

居場所なんて無くたって
生きていけるんだろうなとさえ思えたのは
いったいどんな心境だろう。
朝の空気にあてられただけで、
救われたような気持ちになれるのだから
僕ってばつくづく単純なんだなと笑ってしまいそうになる。

こんな気持ちがいつまでも続けば良いのにな
そう思って
ベランダのガラス戸を閉めると
僕の中を満たしていた穏やかな気分は
跡形もなく霧散してしまった。
まだ電気もつけていない薄暗い部屋。
振り返ってガラス戸越しに外を見る。
ただ取り残されてしまったような
ざわついた焦燥感と寂寥感が
僕の中で生まれ始めていた。

どうしてこうなんだろう。

僕の一日はこうして始まる。

#コラム #エッセイ #失われた青春を求めて

貴方のその気持をいつか僕も 誰かに返せたらなと思います。