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私がカズ・ヒロに惹かれる理由(映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」前編)

「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」を見た。
主役のゲイリー・オールドマンと、カズ・ヒロ(辻一弘)の特殊メイクが見たかったのである。※映画のネタバレなし。というかこの映画は、歴史をもとにしてるのでネタバレするような映画ではないですが…。

▼特殊メイク

「めっちゃ似てた」~!
・・・この特殊メイクでアカデミー賞を受賞してるんだから、似ていて「当然」なのである。
確かに目はゲーリー・オールドマンなんだけど、顔形がチャーチルっぽい!
全然メイクとの境目がわからん。

ゲーリー・オールドマンも私はとても好き。このメイクがあっても、俳優がその「顔」を使いこなせないと意味ないので、そういう意味では最強タッグだと思った(ゲイリー・オールドマンは、すでに映画の世界から距離を置いていたカズ・ヒロに「あなたがメイクやってくれないんだったら、私はこの映画の主役をやらない、だから映画に参加してくれ」とまで言ったという)。

自分の顔が変わるって、どういう心境なんだろう。ある種、「役のために整形した」くらい顔が変わっているので、役に入りやすいんだろうか。


▼顔に惹かれるカズ・ヒロ、に惹かれる私

カズ・ヒロは「人の顔」に異常なほど惹かれているように見える。
(取り憑かれているといっても過言ではないと思う)
私にはそれがとても興味深い。その「取り憑かれっぷり」も含めて。カズ・ヒロ自身の顔も含めて。

私が彼に興味を持ったのは、実はその技術や受賞によってではない。
もちろん「アカデミー賞を日本人が獲った」というニュースには「へえーすごいー」と思ったが、私が彼に決定的に興味を持ったのは、その後、彼が「日本国籍を離脱して米国籍になり、名前も変えた」とニュースになったことだ。
なぜかそのことが、私に衝撃を与えた。しかもそのニュースは全然それ以上のことを伝えてこなかった。たぶん、カズ・ヒロ自身が詳しい事情を語らなかったんだなと思った。
私の知る限り、彼は日本をルーツとしている。
すでにアメリカで地位を築いているのだから、日本国籍のままであっても仕事に支障はないだろう。
ということは「本気で”日本”を脱したかった」ということが容易に読み取れた。
それは、日本人かどうかを必要以上に気にするマスコミの報道姿勢とともに、私に強烈な印象を残した。(当たり前ですが、国籍を選ぶのは自由なので、「なんで日本を捨てるんだ!」という怒りではないです。そこまでして、自分が生まれた国を切り離したかったということは、そこには、めちゃくちゃ切実な逼迫した理由があったはずで、それは何だったのかな、と純粋に興味を持ったのだ。アメリカ国籍を得たからといって、彼は例えばアメリカが大好きでアメリカ人になりたかった、ということではなく、とにかく「切実」さが伝わってきたのだ・・・。そこには「言っても伝わらない」というあきらめのようなものも多分あっただろう。)

これまでも、映画などの特殊メイクに携わる人(マスクを作る人)のインタビューを見たことはある。
が、カズ・ヒロは「特殊メイクが好きで、面白いし、人の顔をCGに頼らずどこまで変えられるか、技術的に高めていきたい!」という以上の気持ちで、その仕事をしてきたと思われる。もちろんそれも大いにあったとは思うが、彼は、そもそも映画の仕事がしたかったわけではなく、とにかく「ものづくり」「顔」に関わる仕事がしたかったのだと思う。


▼精神は顔に現れるか?

カズ・ヒロは顔の”非対称性”に惹かれるのだそうだ。
彼によると、”精神的な疾患を抱えた人は、ストレスで顔の左右のバランスが崩れていく”のだという。
(NHK BSドキュメンタリー「よみがえる オードリー・ヘプバーン 顔に魅せられた男 カズ・ヒロ」で、そのような趣旨のことを話していた)

でも、特に社会的に問題になるような精神疾患でなくても、地球上のほとんどの人の顔は、多少は非対称である。
しかし顔の歪みに「精神の異常性」「苦悩・心の葛藤」を見出そうとする、カズ・ヒロの考え方が、私はとても興味深い。
その考えが、医学的・人類学的に正しい・正しくないとかではなく、彼はそこに「自分」を見出しているのだと思う。
前出の番組でも彼は親との関係があまり良くなく、家庭環境も良くなかったと言っていた。(ドキュメンタリーとしては珍しく)幼少期や家族の話や写真もほぼ出なかった。親も実家の映像もなし。
親との関係が影響しているのかはわからないが、彼は結局、日本国籍を離脱して米国籍になり、名前も変えた。

自分の顔とは何か。

顔は親から受け継いだものか、自分が作るものか。

たしかに、テレビなどで明らかに口元などが曲がっていたりする人はいる。
それに日本ではよく「生き方は顔に出る」「顔相」という言葉が使われる。
私も、それはある程度的を射ているのではないかと思う。
「うそばかりついていると口がひん曲がるよ!」という言葉を聞いたことはある。
もちろん「爽やかな顔で心が邪悪」という輩もいるし、口元が曲がっているからといってその人の心が曲がっているというのはあまりに短絡的だ。
一方で、邪悪ことをした人間が、数年後に見たら顔つきが変わっていたという実例を見たこともある。

私の顔も非対称です。
生まれつき目の形が違う(まぶたがの「二重度」が違う、おそらく骨格もちょっと違う)。
そして、私には頬杖や歯を食いしばる癖があるので、顔の下半分と口元が少し歪んでしまっている。

カズ・ヒロからしたら私も「異常」なのだろうか。
(彼は特に「著名人(大事を成し遂げた人)の顔」に興味があるようなので、私の顔は特に関心ないと思うけど)


▼トリつかれ

カズ・ヒロはおそらく自分でも、
どうして人の顔に惹かれるのか、
半分は説明がつくが、半分はわからないんだろうと思う。

惹かれるというのはそういうことだし、
すべて理屈で説明がついたら、興味を持ち続けることはできない。

わからないから続けられるのだ。

私もカズ・ヒロのことをなぜそんなに気になるのか、半分は説明がつくが、半分はわからない。

面白いなと思うのは、私も親との関係がうまくいかなかったが、しかし、それを「顔」というものには求めなかった。
私は(多くの、親との関係に悩んだ人がこの道を選ぶとおり)精神分析とか心理学とか、そういうものに興味を持った。

彼が「人の顔」に理屈抜きにトリツカレているように、
私もカズ・ヒロに理屈抜きにトリツカレていく気がする。

彼は、現在は、現代美術家として活躍しており、
ポートレイト、という一連の作品群を作っている。
著名人(リンカーン大統領とか、ダリとか)の本物そっっくりの、大きな顔(大首絵の彫刻版みたいなもの)を作るのだ。

▼カズ・ヒロ公式サイト (アートワークより、リンカーン大統領)
http://kazustudios.com/lincoln


カズ・ヒロは、いつか自分の顔の彫刻を作るだろうか?

「顔」。
めちゃくちゃいいテーマだと思う。
顔は自分で選べない。その顔には「親」が必ずついてくる。一生逃れられない。
たとえ整形しても、自分の顔を見ないで生活することはほぼ不可能だし、他人に顔を見せないで生きることもほぼ不可能だ。

私がNHK Eテレの「SWITCHインタビュー 達人達」に呼ばれたら、今一番会いたいのはカズ・ヒロです(笑)

私はいまだ自分が人生を通して追及するテーマを、きちんと見つけられていない。


カズ・ヒロの話でいっぱいになってしまった。
・・・映画については、また来週(笑)


これからも書き(描き)続けます。見守ってくださいm(__)m