夢と魔法の国のはたらきもの(2020.4.3)

今日、ひさしぶりに長めです(5000字くらい)。

2020/3/31放送のプロフェッショナル(NHK)は
「“夢の国”スペシャル 知られざる、魔法の秘密」
であった。
世界一有名なネズミさんたちの国の話だ。
どうしても名前が出せなかったんだろうな・・・どっちかの(両方の)事情で・・・。

▼NHK ホームページ
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/284/1669572/index.html


私はネズミーランド(仮)の大ファンではないが、行こうと誘われたら喜ぶ程度には好きである。
37年間の人生で、ランドに2~3回行った。行ったらめっちゃ幸せな気分になった! 寒かったけど。千葉の海風が・・・。

で、「よく許可とったよNHK」と思った私は録画して見ました。
私としては、いつものプロフェッショナルくらいには満足して見終えた。

が、後日、Twitterで批判的な感想が上がっているのを見かけた。(炎上というほどではない)

番組では主にキャスト(はたらいている人。お客はゲスト)2人が特集されていた。
そのうちの1人は「15年間清掃員を続けているアルバイト女性」で、もう1人は、閉園後にアトラクションの裏で1つ1つのメカを丁寧に点検する、エンジニアの男性(正社員かアルバイトなのか不明)。

そしてラストに、清掃員の女性が「15年アルバイトだったが、最後に正社員に昇格した」というシーンで終わった。
私はそれをあまり何も考えず見ていたのだが、批判的な感想はこの辺りのことが引っかかっていたようだった。

私個人は、番組がラストに「ようやく正社員になれました!」という大団円的な作りにしたのが、一部の人をざわつかせた原因のような気がした。

番組によれば、その清掃員の女性は32歳、この魔法の国に1000人くらいいる清掃員から憧れの目でみられており、“ホウキに水をつけて地面にキャラクターの絵を描いて来園者を楽しませる”ことを発案した1人で、しかも「すべてのキャラクターを描いて良い」数少ないキャストの1人なんだそうだ。
非常に優秀で、園の中ではよく知られた存在だということだ。

でもよく考えたら、確かにはっきり冒頭で「アルバイト」と紹介されていた。
(いちいちアルバイトだのパートだの正社員だの紹介する必然性はないので、もしかしたらラストへの伏線として強調していたのかもしれない)

その紹介を見た時点で、私はなんとなく「ああ、夢の国は、おそらく正社員枠が極端に少ないから、働き続けるとなるとアルバイトという身分でしかいられないんだろうな」と思って見ていた。他にもそういう業界あると思いますし。

彼女も、この番組も、おそらく「アルバイトから正社員を目指す」という趣旨の物語にするつもりはなかったと思う。
あくまで、取材陣は、彼女の「プロフェッショナル」ぶりを取材・報道したかったと思う。
当然だが、彼女の「正社員になりたいですね、なれたらいいな」みたいな発言は、正社員昇格の話が出るまで一切なかった。彼女はアルバイトだから正社員になりたくて、あるいは、正社員に負けたくないから仕事を徹底してやっていたのではない。仕事が好きで誇りをもっているからだ。それは明らかだった。

なのに、最後にいきなり「正社員になれて良かったですね!(≒報われましたね)」というように受け取れるような構成にしたために、そこに敏感に反応した人がいたのかなと思った次第である。

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批判の内容としてぱっと目に入ったのは以下である(読んでてネガティブな内容が辛くなってきたのでざっとしか見てませんが)。

批判①こんな優秀な人を15年もアルバイトのままにして、可哀想だしひどい~

この批判は
▼正社員はアルバイトよりいいもの
ということが無条件に前提となっている気がする。
そうなんですか? 私も長らくそれを信じていましたが、それは、この国特有の事情なだけのような気がする。
正社員とアルバイトって本質的に何が違うんだろう。


批判②やりがい搾取

「やりがい搾取だ」と言ってそれが外の世界に対して意味を持つのは、現在そのランドで働いている人か、そこで働いたことがある人だけだと思う。
なぜなら、我々はオリエンタルランドの正社員がどういう働き方をしているか、アルバイトがどういう働き方をしているか(時給は晒されてましたが、仕事の良し悪しって時給だけじゃないでしょう)、そして一番大事な彼女がどういう思いでアルバイトという地位を受容していたのか、という情報を持っていない。
もしかしたら、いろんな面から検討すると「ネズミーランドでは、アルバイトで働くことが、正社員で働くことと比べてそれほど損ではない、モンダイにならない」という結論に達する人もいるのかもしれない。それはわからない。情報がないから。


批判③カルト集団じゃん

“本人がアルバイトでいいからここで働きたい、というのを許すなら、カルトに入信してもその人が幸せならいいと言うのと同じ。目を覚まさせなければ”
・・・・・・・。いや、あのー、原則は「そう」なのです。
本人が信じたいと思っていたら、例えカルトからでもその人を連れ戻すことはできないし、原則ではそうしちゃいけないと思う。
客観的に見たらDV夫だけど本人が「彼と離れたくない」と言ったら、原則、別れさせることはできない。
明らかにブラック企業でおかしな会社なのに、本人が「私はがんばれる、ここで成長したい」と言ったら、原則、無理に辞めさせることはできない。

もちろん上記の場合、子供に害が及んでいたり本人が衰弱していたりしていることがほとんどだろうから、何らかの強制措置は講ずることがあると思う。それも本質的には、「おせっかい」である。

もし本当に、カルト・DV・ブラック企業ならば、本人が「抜けたい」「別れたい」「辞めたい」と思えるようにするのが本筋であって、強引にそこから連れ戻したりするのは解決ではない。
もちろん私だってわかりますよ現実では命に関わるので強引に連れ出すことも必要な時があることは!そして本人が選んだんからどうなっても知らんとまでは言いません。そもそも正常な判断能力が奪われてる可能性があるので。

でも原則論は、大事だと思うんです。
でないと、「自分の幸せを他人が規定する」ことになってしまう。
命は助かったけど精神的に不幸、では、その人は安全な場所に連れ戻された後で生きる気力を無くすかもしれない。生きる気力を奪ってまで、身体を保護する必要があるのかは難しい問題である。(念のため申し添えますと、今回のネズミーランドは、もちろん、そこまでの事態ではありません。)


批判④「アルバイト」がよく働く。人件費が削減できて、経営側に都合がいい

もちろん経営側に都合がいいが、逆にアルバイトであろうが正社員であろうが、区別せず、あれだけの教育が行き届いているともいえる。「やりがい搾取」かもしれないけど、「やる気があるから接客技術がめっちゃ高い」ってことになってるんだと思う。

「経営側に都合がいいから改革せよ(例えば、正社員割合を増やせ)」という声が「内部から」上がっていないと思う(少なくとも私は寡聞にして知らないです)。つまり、よほど強い圧力がかかって握り潰されているか、キャストが「満足」と思っているからではないのか。
外野は「そんなすごい仕事してるのに、その給料・待遇で満足しちゃダメだ!」と言うことはできる。しかし、最終的に「それじゃダメ」かを決めるのは、ネズミーランドではたらく人たちの自由である

それに、今これだけネットが発達している中で、「あまりにヒドい搾取をする大手企業は世論が許さない」と思う。
(ヒドいことする政権や官庁は、世論が許さなくても野放しだけど・・・)

「こんなことを言って夢を壊したくないけど、後進のために言います。私たちの夢の国は全然夢の国じゃない!」という声が上がる
→ざわつく
→その告発が真実なら、ネット民が様々なエビデンスをアップ
→ブランド下がる、客離れ
→売上落ちる
→会社変わる
・・・という自浄作用が働くくらいには、日本は民主国家なのでは?

もしかしたら、働いていた人たちは守秘義務か何かで縛られて声が上げられないようにされているのかもしれない。でも、あのクラスの大企業で、今時そんなやり口が通用するとは思えない。特に「夢」を売るエンターテインメント企業だし。。。バレたらそっちの時の方がダメージがでかい。それがわからない社長じゃないと思う。

キャストたちはトータルで「アルバイトでも納得して働いていた」ということなのではないの? それで、(様々な事情で)辞めたいときに辞めているのでは? それは「やりがい搾取」なのか?
批判①に戻ってしまうけど、それは当事者から声を上げない限りは、外野は助けてあげようがないし、なんともしようがないと思う。

・・・つまり外野が「15年もアルバイトで可哀想」というのは、少なくともこの番組に出ていた彼女に限っては、筋違いなのではないかと思ったのです。
それは彼女が決めることです。

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みんな「正社員>アルバイト」って無条件に思っている。

私は昔、正社員だったけど「夢持ってる社員ほど、やりがい搾取されてるな」と思えたカイシャもあった。でも、そんなカイシャでも、「納得して」ずっと働いている人もいた。

本人が納得しているのであれば、その組織が反社会的な行為に加担しているとか、本人の心身を害しているのでない限り、基本的には止められない。

私は今、アルバイトである。この騒ぎでもし「出勤停止」になったら無給だ。まだ有給もらえる期間じゃない。補償対象としても順位は一番下だろう。

それでも、「正社員だから無条件に良い」とはもう思わない。
日本では正社員とアルバイト(非正規)には確かに待遇の差があるし、
生涯年収も違うけど、それは昭和の仕組みがそうだっただけだ。
「同一労働、同一賃金」がテッテイされて、社会保障が整ったら、正社員とアルバイトの差って何だろう?ということになると思う。


一番大事なのは「正社員」であること?


「その仕事が、自分にとってどんな対価があるか?」ではないの??

労働条件・内容と対価が、自分が納得できるものであれば、第三者が(法律違反でない限り)「そんな待遇は間違っている!」とは言えないのではないだろうか。対価ってお金だけじゃないし。経験値かもしれないし。

だからこそ、「自分」で決めないといけない。

自分は「給料は高いけどイヤな仕事」をするのか、
「給料は安いけど魅力的な仕事」をするのか。

「そこそこ働いて定時で帰れるアルバイト」か、
「バリバリ働けるけど残業もある正社員」だったら
どっちを選ぶのか。

どっちでもいい。選べる。
正社員もアルバイトも時給に換算したら大した差はないようなところもある。アルバイトでも社員でも、お客さんから見たら何も変わらない。仕事中は誠実に仕事をする義務がある。

ネズミーランドは確かに、やりたい人が多いから、ちょっと待遇が良くなくても回ってしまう(辞めてもまたすぐ人が入ってくるとか)という面はあるだろう。
それは、マスコミとか制作現場とか、広告業界とか芸能界とか「やりたい人が多い」現場はみんなそうだろう。

でも、もしネズミーランドがいわゆる「ブラック」なのであっても、「ホワイト」になった方が長期的に見て効率がいいと気づけば、パワハラセクハラ搾取は減るはずである。というか、そうなってきてる。

そして、最終的には、中で働いている人が「どんなに尽くしてもアルバイトなのはイヤです!」と声を上げないと、それは変わらない。


本質的にそこは当事者でなんとかすべき領域だし、はたらく一人一人が、自分にとってのメリットを自分で決めればいい。

外野は「そんな会社辞めなよ」「それはひどいよ」って言える。でも、その人の人生丸ごと背負えない。

私もそういうことをつい言ってしまうけど、正直、「あなたの助言に従って会社辞めました! 養ってね!」って言われても、その人の人生は背負えない。

だから、自分で決める。そうできるように、自分の心の声を聞けるようになっておけばよい。

正社員だからスバラシイわけじゃないし、
バイトだから可哀想なわけじゃないよ。

自分が「搾取されてる」と思ったら、戦ってもいいし、辞めてもいい。
ほんとそれだけだよ。ダメな企業や業界は淘汰される。ガマンしなくて逃げてもいい、後輩のために声を上げたいなら上げればいい。どちらの決断であっても尊重されるべきだ。

自分で決めればいいし、自分にしか決められない。

私は「アルバイトだろうが正社員だろうが、納得して働いているプロ意識のある人はすごいな」って思った回でした。

次行く時はシーに行って、ダッフィーのぬいぐるみをゲットしたい。

これからも書き(描き)続けます。見守ってくださいm(__)m