見出し画像

奄美大島が教えてくれること

先週、奄美大島にいた。一体何が良かったのだろうと、青々とした山が目の前に広がる奄美大島からの帰路、コンクリートジャングルの品川、武蔵小杉を通過するあたりで、ふと考えた。今思い浮かぶ言葉は、自然が自然のままである場所、というところだろう。

コンビニは奄美空港を出て、車で30分ほど走らせてやっとファミリーマートが一軒ある。奄美大島の繁華街である名瀬に行っても、これが街の中心?と思いたくなるほど、全体的にこじんまりとしている。その一方で、名瀬から車で20分も走らせると、天然のマングローブに出会える。ちょうど仕事で、建設業における建材の環境や人権リスク分析をする中で、生物多様性について調べる機会があり、頭ではなく、もっと身体感覚として分かっていたいと思っていたので、マングローブを直接見れたことは本当に良かった。

参加したツアーガイドさんによると、マングローブは、海水と淡水が混じるところに生えていて、普通の植物では海水によって枯れてしまうところが、メヒルギ(背の低いマングローブ植物の一種)は根で塩水を浄化できる機能を持ち、真水を給水できるとのこと。オヒルギ(背の高いマングローブ植物の一種)は根で浄化機能を持っていないために、葉に塩分を吸収させるようにしているとのこと。そして塩分を吸収した葉は黄色くなっている。こうした、環境に順応するようにして生きるマングローブは、通常の植物に比べて数倍の二酸化炭素を吸収し、また同様に数倍の酸素を排出してくれている。

人生初のカヤック。最初は大丈夫か?と思ったが、途中からとにかく気持ちよく漕げた。

私は、3月の仕事が忙しかったのもあり、体調を崩したりで、そしてまた久しぶりの運転もあってトンネルでの運転に緊張し(そしてマングローブに着く最後のトンネルはやたらと暗い)ツアー開始当初は、自分でも大丈夫かなと思っていたけれど、カヤックでマングローブの間を漕いでいくと、とても気持ちが良くって、1時間後にはすっかり気持ちも良くなっていた。

ちょうど奄美大島にもっていた本が、マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険というもので、地中の菌根たちが補完的な役割として、森林の成長を支えていることを研究しているものだったので、マングローブの体験と重なることが多かった。つまり、生態系の中で、それぞれの植物が役割をもって補完して支えあって生きている、ということ。これは、シンプルで、とても重要なメッセージを人間に教えてくれていると思う。現代社会では、いろんなものが金銭価値で評価され、取捨選択される。作家の桐野夏生さんが「安易なレッテル張り」と呼ぶように、人に対してあの人はこういう人間だと、簡単にレッテルを張り付ける社会。でも、そうではなくって、本来、どんな人も、それぞれに価値があって、役割があるのだということ。そしてそれぞれが補完して生きれば、もっとこの社会が居心地の良い場所になるのになと思う。

夜ご飯を食べながら見ていた、坂本龍一さんを追ったNHKの映像の中で、お亡くなりになられる最後の数年間の取組みとして、日常の色んな音を拾い集めるということをされていた。坂本さんは、人は自分にとって必要な音しか聞かずに他は無視をしている。でも、それぞれの音には同一の存在理由があって、それを聞けるようになれば、自分で自分を縛っている檻から解放できると思うということを話されていた。奄美大島で自然の持つ知性を学んだ今、彼の言葉が自然にすっと入ってきて、その通りだなと心から納得した。奄美大島から学んだ自然の知性を、忘れることなく心にとどめておきたい。

帰りのフライト前に見た樹齢400年のガジュマルの木。神秘的だった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?