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ギャルになりた〜い!

ギャルになりたい。

わたしが思うギャルの三大条件は、明るさ、強さ、元気の良さ。他に、素直さ、優しさ、自分に対する自信の大きさなどの項目が続くが、とりあえずこの3つを満たす女性はもれなく「ギャル」と認識して憧れている。

10年近く前、同窓生のほぼ全員がきっちり4年で卒業する私立の女子大を半年遅れで卒業し、保険会社に就職した。入社直後の研修では「亡き父から愛のメッセージ」「子供たちに形のないプレゼント」「家族の愛は永遠」といった文言が散りばめられた涙を誘うエモーショナルなストーリーとともに、コブクロやゆずなどのいわゆる“泣ける”J-popが流れるVTRを見せられた。無言の指示通り涙する同期たちを横目に、自分はここではやっていけなさそうだとすぐに気付き、社会に舐められていると心底ムカついた。無記名と言われたのにあらかじめ座席番号が振られているアンケートに「感情的な研修で驚きました」と書いて半年後に注意を受けた。仕事の意義について、しきりに「晴れた日に傘を手渡す仕事です」と聞かされたが、1年以上経ってもそのスローガンに納得することができず、そもそもわたしは雨の日でも傘を差さない主義だった。

ある日、熊本から大阪にやってきたばかりの若い上司Aさんに「明日の契約をスムーズに行うために、このお客さんの名前の印鑑を用意しておいて」と言われ、「そんなんありですか?」と言いながらも会社近くの100円均一ショップでシャチハタ印を購入した。Aさんは営業チームのリーダーになったばかりで、とにかく1件でも多く契約を取りたいと焦っていた。わたしはいつ退職届けを出そうかと迷っていて、仕事のことはどうでもよくなっていた。

ちょうどその日、抜き打ちで部長による持ち物検査が行われ、わたしのデスクから印鑑が見付かった。Aさんから「どうしよ、ヤバイかも、ごめんけど誤魔化せる?」とラインで連絡があり、大変困った。わたしは部長に「お守りとして買いました」という苦しすぎる言い訳をし続けて1時間以上にわたる長い面談を終え、会社の外でスマホを握りしめて泣きながら待っていたAさんに「大丈夫ですか?リーダーのお名前は出してません。あと退社します!」と笑顔で伝えた。この瞬間、わたしはギャルだった。

保険会社の営業社員が客名義の印鑑を隠し持っていることは大問題のはずだが、この件は結局誰にも報告されず有耶無耶になった。Aさんの指示だったとはいえ、何故印鑑を購入してしまったのか、しかもわざわざデスクに入れたのか、私は大馬鹿者である。でも、ギャルになれてよかった〜!






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