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「法務担当っていつ採用したら良いの?」という質問から、社内法務の存在価値について改めて考えた話

顧問弁護士になくて、社内法務にあるものってなんだろう。

実は先月にご縁があり、設立間もないベンチャーの方に「一人法務を入れるまでに法務上気をつけた方が良いこと」についてお話し(正確にいうと座談会)する機会をいただきました。

また同時期にLegalOpsLABさんの取材で、「一人法務としての価値提供の仕方」について考えることもあり、せっかくなのでそれらのタイミングで色々と考えを整理したものについて今回は書いていこうと思います。


いつもの簡単な自己紹介


LAPRASで法務部門の責任者をしています、飯田裕子です。LAPRASでは一人法務にプラスして、働く環境づくり、新入社員オンボーディング 等 興味のある仕事を欲張ってやらせてもらっています。

現在事業企画のポジション募集しているので、ご興味があれば是非。

ちなみに前職は士業ベンチャーで社長・副社長に続く1人目社員、その前は司法書士事務所で起業コンサル&商業登記をしていたので、創業周りのお困り・お悩みには少し詳しいかと思います。(今回のテーマではそういうバックボーンがあることも多分重要なので補足)

「会社に法務がいない」とはどういう状態か

そもそもベンチャーでバックオフィス採用をする際に、だいたい1人目って人事か経理の方がほとんどで、いきなり法務を雇う会社はないと思います。

そうすると、当面は別のバックオフィス担当や役員の人等、社内に「ざっと契約書を見れる」かつ他の専門性のある人がいて、それに加えて「重い契約書や事業レビュー」を別途弁護士の先生にお願いする状態なのではないかと思います。
または、全てを先生にお願いする場合もあるかと。
(先生にお願いすらしない状態で規模を大きくしようとしている会社は、リスクが高すぎるので、いますぐ顧問弁護士を探していただきたい)

それで会社が回っていると、「1人月分の法務の仕事はないんじゃないか?」という発想になりがちなのですが、そうしてどんどん採用時期を遅らせて、IPOに向けたスケジュールが走りだしてから法務を採用すると、採用された法務の人が血反吐を吐く事態になるという、本当にあった怖い話を良く聞ききます。

「せめてもう少し前に採用してくれれば...」というベンチャー法務の方も多いと思いますし、個人的に求人を見ていても「いやそのフェーズでまだ一人目の法務担当募集しているの!?」と驚くこともたまにあります。

じゃあ「一人目の法務を採用する」タイミングってどんな時なんだろう?

ということ座談会のために考えていたのですが、結局は「顧問弁護士では"足りない”と感じた時」というのが私なりの答えです。以下、もう少し具体的に3パターンを例に出して説明していこうと思います。

ちなみに弊社は前任の経理担当者が相当法務もできる方だったことで引き継ぎもスムーズであり、全社として顧問弁護士の先生に頼るべき部分をしっかりと頼っていたこともあり、一人法務担当としては割とタイミングも引き継ぎ内容もハッピーなキャリアスタートだったので、結構感謝しています。

①顧問弁護士の先生のレスが、「遅い」と感じた時

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この場合おそらく社内で起こっていることは
①法務上確認したいことが多すぎて弁護士の先生のレスが追いついていない ②弁護士の先生のレスが遅くなったのではなくて、ビジネスが法務に対して求めるスピードが上がった のどちらかだと思います。 

そこに法務担当者(ここでは法務専任になれるスキルのある担当者くらいの意味で使っています)がいると、
①弁護士の先生に聞くべきことをフィルタリングしてくれる(=弁護士の先生の時間を有効に使えるようになる)
②弁護士の先生に聞くまでもないような簡単な質問にすぐに回答してくれる(=レスが早くなる)

という形で、会社にも顧問弁護士にもメリットが出せるかと思います。

また、顧問弁護士の先生の時間を節約できることは、タイムチャージを節約できるだけでなく、「些細な問題」「弁護士でなくてもできる業務」には会社としてもお金をかけずに、「本当に重要な問題」にお金と時間を使うことにも繋がります。そういう意味では法務担当者は「フィルタリング」と「トリアージ」を同時に行うような存在だと思っています。

さらに付け加えると、新規の質問だと思っていたものが、以前弁護士の先生に質問した回答を法的に解釈できればすぐに回答が出るものだった、ということは良くあります。
その辺の質疑応答の履歴を、法的に解釈して、会社のナレッジとしてしっかり残すことで、そもそも社内Wikiで検索すれば答えがわかるような状況まで持っていくことも社内法務がいれば可能かと思います。

逆にいえば、「顧問弁護士の先生に聞いた方が楽」と思われたら、一人法務は存在意義があんまりなくなるんですよね...。

もちろん、先生の専門分野の質問とかは先生に聞いたほうがレスも早いし正確なので勝ちっこないのですが、質問を先生に説明する手間を考えると法務に一旦投げた方が楽だと思割れたいです。
あと、簡単な質問や規約に対する見解とか、今ある雛形の修正依頼とかは、絶対に「よーいドン」で比べたら、自分の方が早く返せる法務でありたいと思っています。

(まぁ、大体の場合弁護士の先生は顧問先を複数持っており、相談の緊急度やご自身の業務量なども加味すると、流石に一人法務がレスの速さだけでは勝てるはずなんです....。ですが、たまにありえない速度で返事が返ってくるので、あまり細かい勝ち負けというよりはスタンスとして持っています)

あとは、「トリアージ」もやっぱり法務の大事な仕事で、もらった質問を全て先生に流すだけでは存在意義がないので、「自分で調査してレスしてOK」「先生に聞くけど自分で調査して叩きまでは作る」「メールじゃ無理だ!なる早でMTGさせてもらおう」等を個別にちゃんと判断して、回答した後にその判断を振り返って、どんどんトリアージの能力を上げていく必要もあると思っています。

②顧問弁護士の先生に、質問よりも説明している時間が長くなった時

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この場合、恐らく社内で「事業説明はできるが、その事業のどこにリスクがありそうかを法的に把握ができる人がいない」状態だと思います。

そうなると「どういう情報を顧問弁護士に渡したら、先生が判断できるのか」が分からないので、もはや会社説明会のように、ビジョンの説明から次の事業展開から今回のやりたいことまでをひたすら説明する必要が出てくる。
そして、弁護士の先生も要点が分からないので、質問を繰り返して、どんどん時間もタイムチャージも嵩んでいく...という状況かと思います。

そうなると①と少し似ていますが、法務の人間が間に入って「フィルタリング」や「トリアージ」することで、説明の論点を絞ることができます。
加えて、法務の人間が間に入ることで「恐らくこの辺に規制がありそう」「最近ニュースになったこの事例とここが類似しそう」等と要点が絞られ、また事業説明にしても「法務の観点」で通訳したものをお伝えできます。

また、事業部サイドにしても、弁護士の先生が説明したものを噛み砕いて法務が説明したり、補足したり、類似事例がこの件に当てはまるかを判断してもらえたりと、通訳が入ることで理解がスムーズになる部分があります。

この点についてもブーメランで、一人法務として自分が変なフィルタリングやトリアージをすることで自社の不利益になったり、勝手に要点を絞ってリスクヘッジができなかったりといったことを起こさないように、十分注意する必要があると思っています。
また、先生と事業部メンバーが法務抜きで直接話して盛り上がっていて、法務だけが議論に着いて行けずに存在意義が薄れている場合があると、とても焦りを感じます。

特に一人法務だと、「自分が気づかないと漏れる」という怖さは常にあるので、この辺はとにかく自分の知識を広げる努力をすることで補おうとしています。
法務の知り合いを増やしてコミュニティにも積極的に参加する、メルマガや法務雑誌などで改正情報や今のトレンドを追う、勧められた本はできるだけ買って手元に置いておく(読むとは言っていない)...等で置いてけぼりにならないようにしています。

それでもやはり自分だけに依存していたら抜け漏れの恐怖はあるので、一人法務で一番大事なのは結局「迷ったら弁護士の先生に聞く」という臆病なメンタルを持ち続けることなのではないか、と思っている最近です。

③「弁護士の先生に全部聞いたら、すごくお金がかかる」と思った時

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この場合の背景は「法務1人月分の仕事がある」のに気づいていないパターンが多いと思います。
①法務担当者レベルで判断できるような簡単な質問も全部弁護士の先生にお願いしてしまっている 
②一般的な雛形や適切な雛形を渡せばレビューが早いのに、白紙でお願いしてしまっている 
等の理由で、タイムチャージや相談料が嵩んでしまっているケースです。

この場合の目安としては、「1人正社員で雇える金額」を「毎月」弁護士に支払っている時点で、法務担当を採用した方が良いかと思います。

理由としては弁護士費用の節約ももちろんですが、その量の相談や契約書が発生している時点で、社内の契約書管理や契約締結フロー、役員・株主周りの手続き、新規事業の法務レビュー、ナレッジ蓄積等のどこかが破綻しているor破綻しかけていることが多いからです。

加えて、社内法務を抱えるメリットは、ある程度「勝手に」リスクを検知して騒いでくれるところで、このアラート機能は外部機能である弁護士の先生にはありません。
、相談内容から見通せる範囲や、一般的に起こりやすいリスクについては指摘してもらえますが、基本的にこちらが相談できていないものは、先生が検知できるはずがないのです。

そのため、見えている問題だけで相当量があるため、法務担当者を入れて「見えていない問題」も検知したり、今後の事業拡大に向けて一度業務フローを整える必要があると思います。
簡単な契約書レビューをロースクール生のアルバイトの方等をお願いして一時的に弁護士相談の量を減らすことも考えられますが、その場合は単に法務の業務量が減るだけで、リスクまでは減っていないことは認識しておいた方が良いかと思います。

これも裏を返せば、一人法務は「相談される」ことを待っていると価値がなく、それなら経験豊富な顧問弁護士の先生がいれば法務は要らないということだと思っています。

自分から問題がありそうなものを検知して、「どーもどーも」と踏み込んで、そこにあるリスクを探し出すせる必要があるし、それが許されるためには社内の信頼関係が必要なので小さな恩で徳を積んでおく必要がある。

極論、予算が無限にあれば全部弁護士の先生に投げてしまえばいいから、トリアージやフィルタリングも必要なく、社内法務はいりません。
でも、問題発見ができなければ、顧問弁護士の先生に丸投げすらできません。

この「リスクだと思われていないリスクを見つける」ことは、今まで挙げた中で一番「社内法務」が価値を出せる仕事だと思っています。
またこの仕事は、「その事業や業界に興味を持って情報を集め続け、リスクの勘所を掴み、社内メンバーとの信頼関係も作り続けた」法務部員にしかできないものであり、よく議論になる「弁護士資格のない法務が、社内外の弁護士と比較して、どういった差別化をしていくのか」という点についても、この辺にヒントがあるのではないかと個人的には思っています。

まぁでも、法務を採用するタイミングはそれぞれだと思う。

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とここまで書いておいて何ですが、結局は法務を採用するタイミングは本当にそれぞれだということは理解しています。(匙を投げた訳ではないですが、画像はインク壺を投げるルターさんです)

何かしらのトラブルや炎上に巻き込まれて痛い目を見たとか、既存メンバーが法務を片手間でやっていたのを業務量的に巻き取らせたいとか、IPOを見据えているとか、理由は1社ずつ異なると思います。

でも共通して言えるのは、一人目の法務を求めるには理由があって、何かしらの課題を解消するために、新たに採用する訳で。私の場合は兼任からの社内異動でしたが、その異動にもやはり解消してほしい課題がある訳で。

そうすると、やっぱり一人目の法務としては求められていることには応えたいし、「法務いても変わらなくない?」とか「顧問弁護士で良くなかった?」とは言われたくないと思うので、個人的には社内法務だからできることをしっかり続けることで、社内法務としての存在価値を出していきたいと思っています。

・できるだけ早く正確に問題を「トリアージ」や「フィルタリング」すること
・弁護士に直接相談するより法務に相談したほうがスムーズにすること
・そして社内のリスクと思われていないリスクを宝探しすること等

あと繰り返しですが、法務の採用が遅い時に血反吐を吐くのは「その時採用された法務の人」なので、是非この記事が少しでも参考になって、一人目法務の採用タイミングがみんなにとって幸せなタイミングになるといいなって願っています。

みたいな話を多分して、プロにより今までのキャリアや仕事観のような話も深ぼっていただいたので、是非この記事もどうぞ。


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