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Excelで婚姻届を作ってみよう!〜10分間で法務の仕事体験〜

この記事は弊社のメンバーみんなでやっている「LAPRAS Advent Calendar 2020」の12/17分の記事です。他にも面白い投稿がたくさんあるので、ぜひ覗いてみてください!

なお、Excelで記入できる婚姻届雛形を配布する記事ではないので、あらかじめご了承下さい。

簡単な自己紹介

LAPRASで法務部門の責任者をしています、飯田裕子です。LAPRASでは法務全般にプラスして、労務、働く環境づくり、新入社員オンボーディング 等 興味のある仕事を欲張ってやらせてもらっています。

今回は自社のアドベントカレンダーということで、いつもと違って法務職ではない方も多いと思うので、Excelで婚姻届を作ってみよう!という企画を通して、法務の調査業務の紹介をさせてもらいます。

是非お時間がある方は、記事タイトルを見る→e-Govで自力で調べる→続きを読む という方法でやると、法務体験ができるのでトライしてみてください!

この記事は、「普段法務に質問したらなんであんなに時間がかかるの?」「どういうことを調べているの?」という法務ではない方や、「他の人ってどういう思考回路で調査業務やっているの?」と思っている法務の仲間に届くと嬉しいです。

ちなみに完全自己流なので、もっと良い方法があれば是非教えてください!

婚姻届って何を書けばいいの?え、なんで??

実はこの質問「ねぇ、この新規事業さ、何かの法律に引っかかる?」という質問と結構似ていると個人的には思います。

なんとなく本人も「制約がありそう」「ルールがありそう」とわかっているけど、明確な根拠は分からない。その状態で、法務に対して質問が事業部から来て、期限が決められて、楽しい楽しい調査業務が始まります。

ステップ1:関係しそうな条文を探し当てよう

さて、まず質問がきたら「一番の大元となる根拠」を探します。今回であれば「なぜ結婚したら、婚姻届を出す必要があるの?」というとこですね。

質問されたことから、該当法を連想できるかは、普段の勉強や社内に蓄積されたノウハウ、あとは法務の野生の勘(意外と馬鹿にできない)によります。本当に手がかりがない場合は「結婚 法律」とかで検索してもOKですが、そこで得た情報は信じすぎずに、条文の確認から必ず行いましょう!

今回であれば私は法務担当なので「結婚だし...なんとなく民法の親族法かな...?」という感じで、e-Govで民法を開いて「婚姻」で検索すると、このような条文がありました!

民法第739条第1項 
婚姻は戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる。

なるほど、戸籍法で決まった方法で届け出ることで、効力を生ずるから、婚姻届を出す必要があるのか!!

ただ、そこがわかっても、まだ私の「婚姻届.xlsx」はこの状態です。何を書けば良いのかは民法からはわかりません。

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でも次は、戸籍法のルールを確認して、指定された何かを書いて、届け出れば良いことが分かったので、一歩前進です。

ステップ2:記載のある条文を探し当てよう

さて、先ほどの民法の条文から、次は戸籍法とわかったので、戸籍法の条文を探します。なんとなく、婚姻届って書くことがたくさんあるから、条文ひとつじゃないだろうな〜と思って目次を見ると、こんな記載があります。

戸籍法 第六節 婚姻

うわもう絶対ここじゃん。ここに書いてあるじゃん。

そう思って、e-Govを鬼のようなスピードでスクロールすると、こういう記載がありました。

戸籍法第七十四条 婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
一 夫婦が称する氏
二 その他法務省令で定める事項

あった!!!!「夫婦が称する氏」+αを出せば良さそう!

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私の「婚姻届.xlsx」が8KBから9KBになりました!!
ちなみに、この時点で私が誰と結婚しようとしているか分かった方は、是非友達になりましょう。

でもなんか、イメージしている婚姻届にはまだ全然届かない...きっと「その他法務省令で定める事項」というのがメインなんだろうな。と気付きます。

ステップ3:より詳細な省令を探し当てよう

さて、こういった行政法には「〇〇法施行規則」があるのがお約束だということを、法務の私は知っています。そこで、戸籍法施行規則を探してみます。

ちなみに、施行規則はすごくざっくり言うと法律の「運用マニュアル」の様なものです。

戸籍法施行規則
第二十一条 市町村長は、附録第五号様式によつて毎年受附帳を調製し、これにその年度内に受理し又は送付を受けた事件について受附の順序に従い、次の事項を記載しなければならない。(一部略)
一 件名
二 届出事件の本人の氏名及び本籍又は国籍
(以下略)

第三十五条 次の各号に掲げる事項は、当該各号に規定する者の身分事項欄にこれを記載しなければならない。
(中略)
四 婚姻又は離婚に関する事項については、夫及び妻

お、いろいろ出てきた...。受理した人が届出事件の本人の氏名及び本籍又は国籍を記載しないといけないなら、それも記入必要そうだな。あと夫と妻の欄も必要なのか...。

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お!かなりそれっぽくなってきた!

この、少しづつだけど進んでいる感覚、宝探しのような不安と興奮、これが法務の醍醐味だと思っています。まぁ実際の法務調査は、この辺から入り組んだ条文と戦うことになり、大体基本書や解説書を読みながら、条文片手に長い長い奮闘が始まりますが...。

ステップ4:より詳細な解説を探し当てよう

そして、ある程度条文や省令等の原文に当たったけど、これじゃなかなかラチがあかないぞ...と思う場面がくると、今度は行政が出しているガイドラインや雛形等(担当省庁のHPで見れたりするよ!)を見て確認することもあります。

(もちろん、そのまま過去の判例を調べたり、いろいろな基本書を読み漁り続けたり、場合によってはこの時点で弁護士の先生に相談したりもある)

今回のケースはガイドラインではないのですが、施行規則を最後まで頑張って読んでいくと、あれ...?

第五十九条 出生の届書は、附録第十一号様式に、婚姻の届書は、附録第十二号様式に、離婚の届書は、附録第十三号様式に、死亡の届書は、附録第十四号様式によらなければならない。

様式載ってる!?

附録第十二号様式[PDF]

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引用元:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322M40000010094

はい、全部載ってたー!!!これ書けば終わりー!!

ということで、今回の婚姻届調査は、しっかりと答えが出て終了です。
ここから、あえてExcelで作る方がまどろっこしいので...私の「婚姻届.xlsx」は10KBで力尽き、行政の様式に結局手書きすることになりましたとさ。
はい!解散!!

ただ、実際の法務業務としては、「この辺の条文に規制がありそう」と思ったらなかったり、逆に存在を知っているはずの判例をうまく探せなかったり、書籍ごとに書いてあることが微妙に違ったり、昔勉強したけど法改正が入っていたり...となかなかこんな真っ直ぐは進めません。六法と書籍と行政のサイトとGoogle先生と勘所を駆使して、たまに法務互助会に泣きついたりして、なんとか調査を進めていきます。

ステップ5:専門家にレビューしてもらおう

さて、ここまで体験していただくと少し分かるかもしれませんが、「ここかな?」と思ったところが図星ですぐに条文や判例や解説にたどり着けるか、なかなかたどり着けないかで、調査にかかるコストが全然違います。

だから、法務は「業務に直結する」法律はもちろん、「一見業務に直結しない」ような法律まで、狭く広くと広く浅くを良いバランスで勉強し続ける必要があります。個人的には結構楽しいポイントです。

ただ、やはりこの世の全ての法律を網羅したり、限られた時間で調べきるのは難しいため、ある程度自分で調べたら、弁護士の先生等にレビューを依頼します。特に、新規事業等でリスクが大きかったり、あまり自分の勘所がない領域では、必ず先生に確認します。

もちろん全てを弁護士の先生に投げても良いのですが、タイムチャージの料金との兼ね合いや、似たような質問が来た時の対応力、またレスの速さやリスクの大きさによって、実際にはそこを使い分ける能力も、法務に必要なスキルの一つかもしれません。

終わりに&ちょっとだけ採用募集の話

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!Excel婚姻届は失敗に終わりましたが、この記事を通して、少しでも法務業務に興味を持っていただけると嬉しいです。結構タノシイヨ!

そして、ちょっとだけ採用告知を。実は現在弊社ではエンジニア&ビジネスメンバーを募集しております。ぜひ、ご興味を持っていただけた方いましたら、カジュアルにお話するところからでも、よろしくお願いします。

fさてさて、明日の担当は弊社CTOのrockyさんです。クリスマスまであと1週間、予定がぱっつぱつやで...師走とは本当に良く言ったものですね〜。

まぁでも無事にLegalとLAPRASのアドベントカレンダーが出せて、私は年末に向けて思い残すことなく過ごせそうです。
皆さんも、良いクリスマス&良いお年をお過ごしください!!

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