草陰テラス
やあ、こんな深夜にどうしたの? あるいは君にとっては深夜ではないのかな。まあどちらでも構わないがね。
そんなことよりも、今日は何とも貴重な紅茶が手に入ったんだ。一緒にどうだい?
ああ、誤解させては申し訳ないんだが、貴重と言っても決して高価な茶葉ではないんだ。ただ僕の好みを的確に突いた味というだけなんだよ。だから君にとっては何の感動もない、つまらないお茶かもしれない。
それでも良ければ、是非とも付き合ってくれよ。
湯を沸かす間、君の話を聞かせてほしいな。たとえば、今日見た春の気配とか。冬の名残とか。あるいは、昼の騒がしさとか。夕方の焦燥とか。部屋の片隅のホコリについてでも、頭の片隅のシコリについてでも。
君の言葉なら何だって今の僕には丁度良いのさ。
ちなみに僕が一番すきなのは、美味しい食べ物の話かな。現物を持ってきてくれるなら尚更ね。
なんて、僕ばかり話してしまうな。
どうだい、それじゃあ一緒にふつふつと湯が沸く様をぼんやり眺めてみないか。そしてゆっくりお茶を飲みながら、君の口が緩むのを待とうじゃないか。
良いものだよ、カップを覗くようにふーふーと息を吹きかけて、鼻先を湿らせてみるのも。それから口の先を尖らせて、火傷しないか恐る恐る飲むのさ。そしてじんわり熱が腹の内に流れるのを目を瞑って辿るんだ。
ああ、もちろんこれは僕の楽しみ方に過ぎないよ。君は君の楽しみ方で楽しんでも、無理に楽しまなくたっても良い。もちろん、君のための時間なんだ。君の自然のままにしたら良い。
さて、また僕ばかり話してしまった。そろそろ湯が沸くし、お茶にしよう。夜はまだ長い。あるいは、瞬く間に過ぎる。
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