飴と愛
チュッパチャップスという響きは、抜群に良い。用事もないのに立ち寄ったコンビニで、唐突に思う。
ディスプレイも良い。ぶすぶすと何本も刺さってツリーのような黒ひげの樽のような存在は、何味かわからないくじ引き的な要素も相まって、うっかり引き抜きたい欲をなんとも唆る。
一つ問題があるとすれば、僕がどうしようもなく飴が苦手だということだ。
一度口に入ればベトベトから逃れられないところも、口の中が甘ったるくなるところも、そもそも口に何かを入れっぱなしになるところから嫌だ。
コンビニ限定のカップ麺やチップスをスルーして、アイスケースを覗き込む。
アイスの実は良い。一口で食べられて、すぐに溶けて、美味しい。僕の苦手に触れない、実用的なアイスだ。
値段を確認してから、ぶどう味を手に取る。用事もないのに立ち寄ったコンビニでの買い物は二百円以内に留めるのが僕のポリシーだ。
喧嘩のたびに行くあてもなくコンビニで散財していたのでは身が持たない。近頃は本当に喧嘩が増えた。軽々しく同棲なんかするものじゃない。不自由が増えていくだけのように思う。
レジで支払いを終えて、名残惜しくも店を出る。
初夏、休日、昼下がり。もう夏のような厳しさを持つ日差しに晒されて、僕以外だれもが爽やかに生きているんじゃないかと錯覚する。
いや、僕と、もう一人居るか。
彼女は、どっちなんだろう。
僕の好きなアイスが太陽と共謀して、早くしないと溶けるぞと脅す。気の強い日差しに鼓舞されて、バツが悪くも家路につく。
行くあてはないし、結局帰りたい部屋は一つだ。
僕はもう相当、いつ溶けるとも知らない甘ったるさに浸っている。
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