名前を呼ばれない子
私は、世間から見れば相当恵まれた子供だっただろう。
働き者の父、優しいけどしっかり者の母、愛嬌たっぷりのかわいい弟との4人家族だった。
父は小さな会社を経営し、順調に業績をのばしていった。愛情たっぷり注いで育てている2人の子供を私立の中学高校一貫校に入れてくれた。
年に一度は海外旅行に行き、冬は北海道にスキー旅行。かなり裕福に育ててもらったと思う。
私たち家族は完ぺきだった。ある点を除けば。
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私の名前はえま。
でも、あるときから私の名前は家族から呼ばれることがなくなった。
そのある時というのが、弟の誕生である。
弟が生まれて以来、私のことを
「えま」
「えまちゃん」
と呼ぶ家族はいなくなった。
代わりに、
「おねえちゃん」
と呼ばれるようになった。
その日から私の人生は大きく曲がり始めることとなる。
続く
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