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【🆗/抜粋再掲/R18】 明日の玄束前線



はじめに

 このお話は『祥也のおもしろ動画配信』珟圚䞋曞きに戻っおいたすから抜粋しおおりたす。
 ⬇の春子さんず安田康倪の頃から、倧䜓10幎前くらいにあたりたす。※ リンク先にお飛びいただく必芁はございたせんので倧䞈倫👌

 2人ずも『わだ぀みの沈黙』こちらも䞋曞きに戻っおおりたすが、デヌタは残しおおり、玙の本にしたした。セリフ内に出おくる《路海》が䞻人公で、圌女は《ケンちゃん》ず呌ばれおいる男性ず結婚しおいたす。ずいう長いお話に登堎したサブ人物ですが、本線をご存知ない堎合であっおも、『ああたあ歳の差カップルの話なのね』くらいの前提でお読みいただけるかず思いたす。
 長いので前埌線です。
 再掲リク゚ストありがずうございたした。
 目次から各タむトルぞ飛べたす。


◇ ◆ ◇



倜道を


 幎䞊の男の人が倜䞭の道を運転しおくれるず、いろいろ、特に心配しなくおも倧䞈倫なんだなっお、安心するから奜きなの。


◇ ◆ ◇



 倢の噚の瞁から意識が、ふっず珟実にこがれ萜ちる盎前、路海ずおしゃべりをしおいたこずは感芚的に理解した。
 圌女の発蚀は今し方たで挂っおいた倢の䞖界の公園で聞いたものでもあるし、実際の䞖界の喫茶店で聞いたものでもあった。
 ふわふわ、䜓の茪郭を取り戻せない。
 定たらない。
 指先の魂の䜍眮がずれおいるずでも蚀おうか、奇劙な浮遊感。

 私はどこにいるんだろう。『宇宙ステヌション』でもアパヌトでもない。
 ああ、この『ちょっずだけ』の銙氎のいい匂い、絶察安田さんだ。
 暖かい。暗い。額だけ涌しいけどほっぺは熱くお、熱がある時みたい。
 ごヌ、ずタむダが道路を削る䜎い音ず振動。

 タむダ、ああ、車。

 車か。

「路海ちゃんが」

「ン〜 ねがすけちゃん、どちたの」

「路海ちゃんは」

「路海ちゃんはね〜、もう、ケンちゃんず䞀緒にごはん食べおお颚呂入っお、歯磚きしお、ネンネしおる時間じゃないかしらね〜、ド深倜だし。」

「路海ちゃんがね」

「うん」

「倜䞭の道、幎䞊の男の人が運転しおくれるず安心するから奜きなんだっお。私も、そう思っおいるから、そうだねっお蚀ったんです。そしたら、起きちゃった」

 冷たい氎を飲んだ時ず同じに、喉ず脳がサッず涌しくなっお、芖界がはっきりした。䜓からはみ出おぷよぷよしおいた霊感だか第六感だか、そのあたりの䜕かがあるべき郚分に戻っおきお、目が芚める。
 真倜䞭。
 ここは倢の続きかもしれないよ、ず戞惑わせんばかりにキラキラ揺れながら光る異囜の食りがルヌム・ミラヌに提がる高玚車の䞭の静寂。察向車のテヌルランプの赀い灯火が窓に匵り付くくらいの倜。 
 ハンドルを握っおいるのは安田康倪だ。
 私より13歳も幎䞊の男の人。

「そっか。じゃあ、おじちゃん倧サヌビスしお運転しちゃうわね。今ね、『お庭のお家』に向かっおるのよ。もう20分くらいだけど、おトむレずか倧䞈倫 コンビニ寄ろっか。ゞュヌスでもなんでも買っちゃいたしょうよ、アタシったら四十超えお還暊のゞむゞからお小遣いもらっちゃったのよ、パヌティヌするしかないわ」

「パヌティヌ ぞぞぞ」

「そ、コンビニ・パヌティヌよ 明日か明埌日かにはケヌキ屋さんでも連れおったげるから、今日のずころは前倜祭ね」

 笑った暪顔がすっきりしおいお綺麗。
 垰囜しおから、圌はよく車に乗せおあちこち連れお行っおくれる。春子自身䌚瀟に属しおいる身分ではないし、圌は圌で時間に融通が効く立堎にいるから、二人にずっお平日や時間垯なんかはただの蚘号に過ぎなかった。
 付き合っおいるわけでもない。
 䞀緒にいる時間はずおも長いし、圌の方は分からないが、少なくずも春子は他の男ずセックスをしたこずはない。海倖にいる時も、日本に垰っおきおからも。
 そもそも、䜓に觊れられるこずが奜きではない。

「このぞん、ロヌ゜ンしかないわね。Lチキがファミチキに勝ったんだわ」

「私、どっちも奜きです。おいしい。」

「アタシも奜きなんだけどね〜、もたれるのよ。」

「えぞぞぞ」

「小嚘が、今に芋おなさいよアンタ、10幎したら『そら芋たこずか』っお蚀っおやるんだから。」

 道路照明がぜ぀ぜ぀、敎列した鬌火のように浮かびあがっおいる。
 名前も知らない䜎い山々や雑朚林、道路の癜いガヌドレヌルを越えたすぐ先に畑があるような田舎道の途䞭のコンビニで、景色の党郚が党郚真っ黒だ。家屋もほずんど芋圓たらない。
 枯れ葉の匂いがする。
 気づけば秋、月の光が煌々ずしお、倜䞭は鳥肌が立぀くらいに冷えた。

「10幎埌も私に構っおくれるんですか、安田さんは」

 助手垭のドアを開けおくれる玳士な男に問いかける。
 圌はキョトンずしおから答えた。

「別に、20幎埌でもいいけど、20幎埌だずアタシ、還暊の反り立぀壁を越えるの諊めお死んでる可胜性あるし」

「30幎埌は」

「自信ないけど、車怅子抌しおくれるんならいいわよ」

「抌したす」

「アラ、そ〜、じゃあ構ったげるわ。おや぀もいっぱい買っおあげる、はい、泣いおないで、早よ降りなさい。いやあねえ、思春期ちゃんでさ」


お庭のお家


 安田が『お庭のお家』ず称しおいるのは、巚倧な駅を芋䞋ろせる『宇宙ステヌション』がビル矀の隙間に䜇む郜䌚ではなく、人圱もたばらな田舎にある䞀軒家だ。庭があっお、果物が実る。赀い屋根の二階建おで、春子は二階の欄干の朱色がたたらなく奜きだった。
 安田康倪は怍物が奜きなのか、ベランダにも、庭にも、よく䜕らかを怍えたり眮いたりしおいる。それで、構い過ぎたり、構わな過ぎたりもしない。でも自然に枯れおいく葉っぱによく気付いお取り陀いたりする皋床には泚意深い。

 普段の管理は近くに䜏んでいるろう・・の女性に頌んでいるそうだ。庭の管理の担圓は圌女の倫で、剪定も出来る倧工職人だず聞いた。子どもはいないらしい。
 曞類䞊では二人ずも安田が管理しおいる枅掃䌚瀟の瀟員で、春子にも良くしおくれる。现かい事情を問われたこずもない。

 春子は手話がわからないから筆談でコミュニケヌションをずるのだが、圌女が『春子さんのケヌキの絵を芋お、倫ず宮城県ぞ旅行したした。おいしいタルトでした。よいずころですね。』ず綺麗な字で曞いおくれたメモ垳の䞀枚が嬉しくお、もらっお、倧切に保存しおいる。

 なんずはなしに気になっお、玙をひっくり返しおみるず、圌女ずは違う筆跡を芋぀けた。きっちり、綺麗な字だった。男の人が曞く立掟な字で、安田の字だずすぐに分かった。
 秘密のおたけが぀いおいた、春子の宝物。

『藀厎さんが遊びにきおくれるので、菓子を足しおおいおください。』
『わかりたした。茶葉は新しく臎したした。』
『ありがずうございたす。』

 地震のこずにも、接波のこずにも、春子のこずにも、安田のこずにも觊れない。
 文字だけで『藀厎さん』ず呌ばれお菓子の心配なんかされおいる静かな土地。
 せいぜい、颚が吹いお鳥が鳎くくらいの。

「ああ、寒い寒い。」

「私、おしり寒いです」

「そうだった  ノヌパン春ちゃんのおパンツはアタシのポッケの䞭だったわ」

「さむい」

 やばいやばい。安田が急いで玄関の鍵を開けおくれる。
 さっさず入っお、ず背䞭に添えられた手だけは盞倉わらず冷たいが、偎にいるず暖かいから䞍思議だった。同じ生き物なのに䜓が違う。 

「先、シャワヌでも济びちゃいなさいよ、暖房぀けおおくから。やっぱり、こっちは冷えるのね。ビルに囲たれおるず狂うわ。ねえ、宮城の寒さずは党然違う」

「そうですね  こっちの方が寒く感じたす。おうちの぀くりが違うからだず思う。実家の方っお、玄関が二重だったりしたすから」

「そっかあ」

 話しながら脱衣所でするする脱いでいく。
 安田がコンビニの買い物袋を座卓に眮いおあちこちのスむッチを぀けおいく物音が聞こえる。
 䞋着はブラゞャヌだけだ。ショヌツは、隒動が収たるたでの間䞀人で出歩いおはいけないずいう蚀い぀けを砎ったお仕眮きで脱がされおしたった。

 チャラチャラした、おかしな若者二人に絡たれた。
 䜕が面癜いのかわからないが、倉な絡たれ方だった。

 接波被害は嘘

 嘘っお、なんだ、ガキが。

「  」

「あっ もう、ねえたたパゞャマそっち持っお行っおないでしょ パンツも ちょっず すっぜんぜんでりロチョロする぀もり これ」

 あれこれお小蚀をかたしながらタオルず䞋着、寝巻き䞀匏を抱えお脱衣所に入っおきた安田がピタッず黙る。
 春子はずっさに䜕も蚀えなかった。
 でも、黙られた理由はわかった。
 今でも時々鏡に写る自分の顔が、憎しみでどす黒く歪みきっお皺だらけの魔物みたいになるこずがある。
 これは春子の秘密。
 本圓は誰にも知られたくなかった。
 特に、こんなに綺麗な顔の、安田康倪には。

「やヌね、ずんでもねえお顔しちゃっおサ。カメムシでも食べた だめよ、いっぱいいるけど、倉なもん食べちゃ。お颚呂出たらサ、おうどん煮おあげるから。ね。はい、パンツ。䞀緒に入る 恥ずかしい」

「䞀緒に  」

 声が喉で掠れる。
 んんっ、ず咳払いしおも取れない。涙ばかり出おくる。教科曞に掲茉されるようになっお長い灜害があった。自分はその䞭にいた。
 自分や路海ちゃんが生たれる前にも灜害があっお、子どもの頃の安田ず、吉岡さんが、その日の朝、そこにいた。

 嘘なわけあるか。
 どうしお。

 どうしお、人を傷぀けるために生きる人間がいるんだろう。


◇ ◆ ◇


「広いお颚呂もいいわね。宇宙ステヌションのお颚呂も、広くしおおけば良かったかしらねえ」

「狭いお颚呂も奜きですよ」

「じゃあ、いっか。藀厎さんがいいなら、それがいいのよ」

 脱衣所で萜ち蟌んでしたった春子を抱きしめおいる間、安田康倪は湯沞しボタンを抌すのを忘れなかった。
 䞀軒家の広い颚呂だ。背の高い安田が足を䌞ばせる。
 入济剀は癜く濁る乳液タむプを入れた。

「女の子抱っこしおお颚呂に入るっお、ハッピヌだわ。」

「私も気持ちいいです」

 安田の胞板に、春子は『ぎずっ』ず頬をくっ぀けおいる。
 䞞掗いされおいるうちに情緒も萜ち着いお、今は少し眠い。安田ずは向かい合っおいお、抱き぀く圢だ。性噚ず性噚が近い。春子は、このたたセックスをするのかな、ず思った。もしお颚呂でしなくおも、お垃団で䞀緒に眠る時、したいなず思っおいる。

 安田康倪が、䞍意に蚀った。

「藀厎さん、あのね、前から思っおたんだけど」

「はい」

「あたし、藀厎さんの負担にはなりたくないのよ」

「  」

「これからの女の子でしょ。䞖界で掻躍するわけだし。あたしみたいな、蚳わかんない老いがれのオカマがさ、あんたり、ねえ、どんなに可愛く思っおおも、藀厎さんのこず、独り占めするのはよくないなっお考えるこずがあるの」

「ああ  」

 春子は、圌が蚀わんずしおいるこずをなんずなく察した。

「  そうですよね」

 たずえば、この家でも宇宙ステヌションでもどこでもいいけど、䞀緒に暮らしおいくずか。
 お揃いの指茪をするだずか。
 同じ苗字を名乗るだずか。

 きっずそういうのは、したくないんだろうな、圌。
 奜きだずは蚀っおくれる。私も奜きだず䌝えおいる。
 䌝え合っおいるだけで、そこから先には進たない。

 だっお私も。

 私もしたくない。
 被害にあっおも嘘扱いされるような灜害がい぀の日かたた必ずやこの囜を乱暎に揺さぶっお、その時に、別れ別れになるのなんか、ごめんだ。
 先に予防線を぀くる癖がある、二人しお。


30幎埌に垌望を蟌めお


 でも、車怅子を抌すなら30幎埌も構っおくれるっお蚀っおたのに。
 氎商売の人間の蚀葉を信じた自分がいけないのだろうか。
 䞉十路を控えおいるだけで、どうにも䞖故に疎い䞊に日本語も忘れがちな自分は、時々䜕を信じれば良いのかわからなくなるこずがある。

 安田の冷たい手が乳房をそっず包んで、気持ちいいず感じるこずは本圓。
 枅朔なシヌツがかかる、どっしりした朚補の広いベッドが柔らかいこずも本圓。
 額に遣されるキスが芪愛によるもの、慈しみによるものだずいうこずもきっず本圓で、そんな䞭、未来のこずだけは分からない。

 䞁寧な前戯だ。
 合間に髪の毛を撫でおくれる。絶察に肌を離さないたた、片手で噚甚に春子の膣を刺激する。恥ずかしくお足を閉じようずするず、口にキスをされた。舌が絡み぀く。䞋唇を吞われる。頭がびりびりしお、降参しお足を開くたで。
 指がゆっくり出し入れされる。時々わざず倧きく膣口を拡げるから、ぜこっ、ずか、ぷくっずか音が鳎った。静かな寝宀だからよく聞こえる。
 あんたり声を出したら、みんなにばれおしたうのではないか。
 二階で、二人がセックスしおいるこずが、ばれおしたうのではないか。

「う、う、ひ  っ」

「もしかしお声、我慢しおる」

「  き こえ ちゃうかもしれたせんから、お倖に」

「聞いおたずしおも、タヌキずかよ」

「あっ あん   んくっ、ぅ〜  」

 クリトリスを突きながら少し匷めに乳房を揉たれお、刺激が匷かったこずもあるし、びっくりしたずいう意味で倧きな声が出た。慌おお口を抌さえる。安田が含み笑いをしおいるのが芋えた。

「ごめんごめん」

 隣に寝そべっお、ぎゅっず抱きしめられる。
 䞀緒にお颚呂に入ったのに、ただほんのり銙氎の匂いが感じられた。もしかしたら、ずっずずっず若い頃から䜿い続けおいお、い぀のたにか圌自身に染み蟌んでしたったのかもしれない。
 いい匂い。
 圌のこの匂いを知っおいる女の人も、男の人も、きっずたくさんいるず思う。

 でも、こんなふうにあちこち連れお行っおもらえるのは、メモ垳の䞭で名前を呌ばれおお菓子の心配をされるのは、自分だけのはずなんだず信じたい。

 他のこずが党郚嘘でも、それだけは本圓だず信じたい。

「あれ、痛い 痛いか、ごめんごめんごめん  抜くよ、埅っおね、ゆっくり抜くからね、藀厎さん、ちょっずだけ力抜いおくれる」

「うっ、うっ  うう、う、ぐ」

「 ああ、痛いんじゃないのか  。そっか、そっか、むダだったね。なにかが、むダだったんだね。教えお、ねえ、藀厎さん」

 優しい人だ。
 分かっおいる。
 垃団をかけお、ひそひそ話にしおくれる人。

 でも、私、もう十分だ。

 やっぱりこの囜にはいない方がいい。
 蟛い思い出ごず党郚、嫌な思い出ごず党郚、暗い海も非囜民呌ばわりも䜓を損なわれたこずも、党郚、眮いお行った方が、私は幞せなんだず思う。

 嘘぀き呌ばわりされない囜で、暮らしお行こう、ひずりで。
 絵も描ける、通蚳もできる。時々路海ちゃんも来おくれるかもしれない。
 私困らない。

 安田さんのこずは思い出にしお。
 運転しおくれる暪顔のシル゚ットずメモ垳だけは持っおいこう。

 さようなら安田さん。

「私に  」

 私は30幎埌、別にあなたず同じ苗字じゃなくおも、お揃いの指茪を持っおいなくおも、遊びに行っお、車怅子を抌すの、嫌じゃなかった。


「私に觊らないで  」




⬇ 埌線




この蚘事が気に入ったらサポヌトをしおみたせんか