マンガとドラマ(ウィッチャー編)
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マンガとドラマ(ウィッチャー編)

「ウィッチャー」1話は“オープニング”の教科書

Netflix「ウィッチャー」を観始めた。作家仲間が妙に推してくるので、ひとまず1話2話くらいは観ておくかなと。

もともとは小説で、ゲームが先行し、満を持して映像化……という流れは、この文章を書く数分前に知ったくらいの予備知識だったぼくは、ウィッチャーの第1話のオープニングは、マンガの教科書のようだと感じた。
これから純粋にファンタジーマンガを描こうというマンガ家志望者はオープニング10分くらいでも観ておくといい。

1)まず恐ろしいモンスターを登場させ、それをカッコ良く一瞬で退治する主人公。アクションで目を引きつけておく。(お、コイツかっけーじゃん!)

2)街の様子で世界観のビジュアルを提示しつつ、住人達の反応により主人公が蔑まれ、厄介者と見られていることがわかる。(カッコいいし強えのに何でこんな扱いなの?)

3)住人達の中で、唯一主人公に優しくする人物が現れる。(この人なんだろう?=モブではなく、物語の重要人物のひとりとして認識する)

4)子供が登場。何も知らない無邪気な態度で主人公に接し、街や状況を勝手に説明し、世界観を補填する。(なるほど、そういう世界だったのね)

(上記のカッコ内は視聴者の反応を示す)
ここまでで約10分。
原作小説も未読、ゲームも未プレイ、今の今までウィッチャーを知らなかったぼくでも、この10分の構成だけで充分に世界観を把握し、ウィッチャー(リヴィアのゲラルト)がどういうキャラなのか充分理解することができ、あとは彼の身に何が起きるのか……と不穏な状況を提示されれば、もう10分だけだなんて言わず、最後まで観てしまうだろう。

この10分というドラマのツカミ部分は、マンガで言うなら表紙込みで5、6ページといったところだろうか。

映像とマンガの違い

ただし、ここからの「ウィッチャー」は映像作品として普通の展開だ。
映像(脚本)を志すならまだしも、この文章を読んでくれている人はたぶんマンガが好きで、なんならマンガ家やマンガ原作者になりたいと思っている人だと思う。

正直ウィッチャーの第1話はここからちょっとタルい。
舞台は変わらないまま、説明や依頼、その返事まで長々と会話で説明される。
視聴者がそれでも観てしまうのは、ソファから立ちコーヒーを用意しているからだ。またはスマホをいじっているからだ。
テレビ画面から目をそらす。それくらいで、テレビの電源を切ったりはしない。テレビは流しっぱなしのものだから。

マンガはそうはいかない。
長い説明セリフは読み飛ばし、単調なカットが続けば飽きてページを閉じてしまう。そこで終わり。

特にウィッチャーの最初の「依頼」のシーンは、マンガで言うところの「顔マンガ」と揶揄される、会話する2人の顔(バストアップ)を交互に映すだけの単調なカットになっている。マンガでそのまま描いたら4、5ページくらい消費しちゃいそう。

そんな心配にやきもきしていると、今度はどこか別の国の城での別の人物の話になっている。
まだぼくはウィッチャーは2話までしか観ていないが、どうやらこのドラマは、3人の主要キャラクターが絡んでいく群像劇のようだ。
OPから15分。まるで別の人物――第2の主人公の話が始まっても、ドラマは流し見の映像だから視聴者は観続ける。
そこに「リヴィアのゲラルトを探せ」――どうやら最初の主人公と絡んでいくみたいだぞ……と気づけば、「お、これ面白そうじゃん」となる。

これもマンガでは基本NG。特に読切や、連載ものの最初の数回ではやってはいけない。
気を付けて構成したオープニングで「主人公1」を認識した読者にとって、「主人公2」も「主人公3」も、「主人公1」に対する「脇役」でしかない。
せっかく「カッコいい」と思った最初の主人公1が出て来ず、「脇役ばっかで主人公全然出てこないじゃん」と飽きてページを閉じてしまうのだ。

(キャラクターが多く、群像劇となり、主人公が半年以上出てこない……という状況が週刊少年マンガにはけっこう多いが、それはあくまで連載が軌道に乗り、主人公だけでなくサブキャラクターの掘り下げによってまた人気が高まる――という、人気作品に限った話だと考えよう。読切や連載初期でこれをやるのは、悪手だ。)

マンガは映像ではない

当たり前の話だが、マンガは映像ではない。音もなければ音楽も鳴らない。
流し見はしてもらえないし、映画のように映画館に監禁(!)されるわけでもないので、少しでも飽きたと思われればページを閉じてそこまでだ。

マンガを作るには、読者がページを閉じないよう、飽きないよう、それこそ1ページ単位で組み立て続けねばならない。ここは説明なんですよと言い訳しても、群像劇だからもうちょっと待って!なんて言っても、読者は聞いてくれないし待ってくれない。

ウィッチャーのオープニングは、マンガに活かせる教科書のような構成です。でもそういうドラマが、全部そのままマンガに活かせるかはまた別の話。
あくまでドラマや映画は映像で、マンガはマンガなのだから。

で、「ウィッチャー」どうなの?

1話約60分で、全8話。Netflixのいいところは、一気に全話配信してくれることと、続けて観るとOPとEDをカットしてくれること。
全話配信だと、次の話が更新される1週間の間に忘れちゃう(←内容も、更新すること自体も)こともないし、OP・EDカットで早送りの手間もなく、ここでも実は「飽きさせない」ことに気を使っていることがわかる。

1話2話を観たくらいだと「まあこんなもんかな」と思いつつも、群像劇だから3人の主人公がどう絡んで来るか、その辺りがわかってくるときっと面白いんだろう。特に子ブタちゃんがかなりキー・パーソンになってるんじゃないか?
そんなわけで、このまま続けて最後まで観てしまう気がする。そこがNetflixのドラマの怖いところ。

あと原作の小説を読みたくなって来たよ。


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猪原賽

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漫画原作者。代表作は「学園ノイズ」「悪徒-ACT-」「伴天連XX」。現在コミックビームで「宇宙戦争」(原作・H.G.ウェルズ/漫画・横島一)連載中。Facebookページ👉 https://www.facebook.com/Sai.IHARA/