見出し画像

映画の思い出 (10代)

20歳を過ぎる頃まで映画をほとんど観たことがなかった。アニメを除いて、映画館で観たことのある映画は「踊る大捜査線」と「ロードオブザリング」だけだったと思う。

「踊る大捜査線」は小学校六年生のとき、クラスメイトに誘われて桜木町まで観に行った。おもしろかったはおもしろかったけれど、だからなに?という感じがした。漫画を読んでいる方がよっぽど楽しいと思った。映画の内容よりもはっきりと覚えているのは、一緒に行った友達三人とどうしてもノリが合わなくて一人だけ先に帰ったことだ。映画を観たあとでみんなは「もっと遊びたい、次はどこへ行くか」という話で盛り上がっていて、「映画を観に行く」としか聞かされていなかった俺は、え、話が違うじゃんと思った。子どもだけで知らない場所に行くのも怖かったし、早く家に帰りたかった。みんなに文句を言われながらも適当に言い訳をして帰ることにして、ようやく一人になれたのはよかったけれどどのバスに乗れば家に帰れるのかがわからず、母親に電話したら涙が出てきた。

「ロードオブザリング」は中学三年生のときに観た。受験が終わってあとは卒業を待つだけという時期に、学校の行事としてみんなで観に行くことになった。横浜相鉄ムービル。まだ一般公開前で、映画館を貸し切って観たはずだ。(誰が発案して誰が段取りをしたのかわからないが) それにしても長すぎた。何がおもしろいのかさっぱりわからなかった。特に俺はSFの良さが理解できなくて、実在しないキャラクターに持たせる過剰なリアリティに親しみを持てなかった。テレビゲームでもやってる方がよっぽど楽しいと思った。ロック音楽とも出会ってすでに自我が芽生えていた俺は、ふてくされながら五番街を歩いて帰った。

他には英語の授業で「マトリックス」を、金曜ロードショーで「アルマゲドン」を観た覚えがある。どちらもおもしろかったはおもしろかったかもしれないが、まぁ30分で事足りるだろうと思った。体力が有り余っていた俺は、椅子の上でじっとしていることに耐えられなかったのだろう。観て終わり、だなんて満足できなかった。おもしろかった。良い映画だった。で、俺はどうすればいいの?自分が映画を撮れるとも思わなかったし、演技をできるとも思わなかった。桜木町が怖くて泣きながら一人で帰った俺だぜ。そもそも、映画が誰の作品なのかがわからなかった。監督なのか、原作者なのか、役者なのか。お金をかけて、時間をかけて、なにか壮大な作品が目の前に現れてはいるが、それは誰か人間が作ったというよりは、俺の知らない異次元で研究者たちが作り上げたミュータントのように感じた。いまならもっと、そのときの気持ちを明確に代弁することも出来る。映画の問題として説明することも出来る。でも端的に言えば、映画を観ても「自分にも何かできる」という気持ちになれなかったのだ。

10代の俺に「好きな映画はなに?」と聞いたら、「菊次郎と夏」と答えたかもしれない。テレビで放送していたのを一度だけ観たことがある。ような気がする。よくわからないところもあったが、なんとなく好きだった。夏休みのあの感じ。家族を見失ったときのあの感じ。20歳を過ぎてからも何度か観たが、今でも好きだ。テーマ曲を気に入ってピアノで練習したこともある。もし中学三年生のときに映画館でこれを観ていたら、五番街の風景はもう少し明るかったかもしれない。もし小学六年生のときに観ていたら、母親に電話せず一人で歩いて家まで帰ったかもしれないのに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?