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新しい人間関係を築く

■ 気楽にまじめな話ができる関係


 近年、企業を取り巻く外部環境の劇的かつ急激な変化により、「風土・体質改革」そのものにパラダイム転換が必要になってきています。

 じつは、同じようなパラダイム転換がコンサルテーションにおいても必要になってきています。現状でのコンサルタントとコンサルテーションを受ける側の間には「教える側と教えを請う側」という関係が厳然として存在しているように思えます。そして、教える側と教えを請う側という立場がはっきりすればするほど、両者の間のやりとりや情報の流れは一方通行になりがちです。先生と呼び、呼ばれるような関係では、一方が他方に対して自由にものが言えなくなります。

 もともと企業行動とは、そんなに単純なものではありません。まして人の心を伴う風土・体質の改革となると極めて複雑なもの、つまり「複雑系」そのものといってもよいのでは。

 常に変化している現状に対しては、いかに優秀なコンサルタントといえども、過去の知見からのみ企業の現実を把握することなど不可能です。
 つまり、現状とのたゆまない対話によってしか現状をより正確に把握することなどできはしないのです。

 単なるヒアリングという意味ではなく、企業の現状をその現場にいて基もよく知っているクライアント企業の人々との情報の交流、担当者とのやりとりを通じてこそ新しい知恵も生み出され、コンサルタントとしての役割も果し得ると言えます。

 「クライアント企業の中に信頼関係に基づく仲間をつくっていくこと」と「仕事が成功すること」がほぼ同じ意味です。このお互いに信頼し合う関係、相談し合える関係を組織の中に築いていくことこそが、「言ってもムダ」とお互いが牽制し合う安定状態を崩していく上でのキーワードであるということは、風土・体質の改革というのは、「牽制し合う人間関係」を「信頼し合い、相談し合える人間関係」に変えていくことです。

 互いに目線を合わせて相手を人間として尊重しながら、お互いに学び合うことこそ風土・体質改革の出発点です。

 牽制的な機能が働いている状態というのは、お互いに「~しない方がいい」というように、自らの行動に自己規制をかけていく状態です。こういう状態の時も、教える側と教えを請う側という関係の場合と同じく、情報の流れが一方通行になりがちです。なぜそうなるかと言えば「問い返し、聞き返しが行われにくくなるから」というのが要因の1つです。

 それだけではありません。

 最も大きな要因は、お互いが牽制し合っている状態では「気楽にまじめな話をする」機会がほとんどなくなってしまうということにあります。

 組織がまだ新しかったり小さかったりすると、比較的「言ってもムダ」というようなお互いの牽制的な機能は働きにくいです。若い組織では、時と必要に応じて、ちょっとまじめに雑談をしたりすることはあります。

 組織が老化してくると、素朴な疑問や改善意欲も薄らいで次第にそれが少なくなります。アフターファイブに同僚と飲みに行っても、せいぜい上司の悪口を言うぐらいで終わってしまったりします。この「気楽でまじめな話」がどのくらい出来るかというのは、組織の老化を計るバロメーターでもあるのではないでしょうか。

 では「気楽にまじめな話をする」ことは、どのような効用をもたらすのでしょうか。一番大きいのは、ふだん聞かれないような話がバラバラと出てきやすい点です。たとえば、まだ頭の中ではしっかりまとまっているわけではない何らかの「思い」であるとか、「もしかしたら重要ではないかな」と思う程度の断片的な情報を気楽に口にしやすいのがこういう場です。

大切なことは、そういう情報が露出することによって、お互いが刺激され、そのことによってイメージがはっきりしてきたり、断片的な情報の寄せ集めで全体像が見えてきたりすることです。

 また、そういう情報の中には断片的であるがゆえに見逃しがちですが、しかし本当は非常に重要な問題というのも存在します。
そういう問題は、正式な会議のデーブルの上にはなかなか乗ってきませんが、こういう「気楽にまじめな話をする」なかで顕在化しやすく、カバーされやすくなります。

 つまり雰囲気こそ気楽であっても、いわゆる会議をいくらやっても集めきれないような濃密な中身をもちやすい。そういう場では公式会議にはどうやっても出てきにくい情報が出てきて、会議とは違うざっくばらんな雰囲気でその情報が話題にされます。こういうところで拾った生の情報、やりとりの中で育ってきた情報というのは意外に戦力になるものです。しかし、組織が老化してくると「気楽でまじめな話」は減ってきます。

「気楽でまじめな話」は組織の青さ、若さ、みずみずしさを保つ一種の”潤滑油的な役割”を果たしているということもできるわけです。その潤滑油が切れると組織は老化状態に陥るということです。

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■ 風土・体質を変える具体的な方策

 牽制的に安定している風土・体質を変えようと思うと、老化している組織体質に潤滑油を入れてやらねばなりません。どうすればいいかというと、一つの方法として、意識的、組織的に、より質を高めて「気楽にまじめな話をする場」をつくることです。

 これは一見、簡単そうで何でもないことのようですが、実際にやってみると意外に難しい。特に「質の高い」となると、かなりの努力と技術を要することになります。それなしにつくられた場というのは往々にして、単なるつまらない雑談で終わってしまうか、気楽になれずに終わってしまうか、どちらかになる可能性が高くなります。

 そういう意味では、「社長対話」が失敗するのもごく自然ななりゆきでです。ただ何となく企画して、それで成功するほど簡単なものではありません。まず、社長対話になると、いくら社長が気楽にやろうと思っていても社員の気持ちの中には牽制的な働きが充満しています。もちろん、中にはチャンスとばかりに言いたいことを言ってやろうという向きも時にはいます。

 しかし、全体としてはそういうことは部分的、散発的にしか起こりません。もちろん、そういう場も、例えば気のきいたコーディネーターが一人いるだけで雰囲気はずいぶん違ってきます。

つまり、成功させる為のノウハウというのは明らかに存在します。

 問題は、多かれ少なかれ管理職ぐらいになると、自分はこういうコーディネーター的役割がそこそこできると思っていることです。ところが残念なことに、たいていの場合、そういう、”場をコーディネーションする能力”そのものがずっと狭い範囲でしか、とらえられていないことが多い。誰にでも出来そうでいて、じつは難しい。それがゆえに、かえって失敗しやすいというのが、この種の場づくりの特徴です。

 たとえば、いわゆる司会のうまい人(仕切るのがうまい人)がコーディネーターに向いているわけではありません。
むしろ、仕切るタイプより「人の話をうまく引き出す能力をもっている人」のほうが向いていることもあります。

 漫才のボケとツッコミで言えば、ボケタイプのほうが適している。少しボケながら人の話をどんどん引き出して、要所では流れをうまくリードできる、そういうタイプが一番合っています。

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■ オフサイトミーティングとは

 「気楽にまじめな話をする場」という場づくりのコンセプトで組織的に行なっているのがオフサイトミーティングです。

 「オフサイトミーティング」は「職場を離れて」行うミーティングです。このオフサイトミーティングは、ミーティングとしても研修としても使える汎用的な性格をもっています。

 今までの研修を「旧世代研修」と呼び、研修のパラダイムを転換する目的で行っているオフサイトミーティングを「新世代研修」と呼ばれています。

近年では、野外でのチームビルディング研修が効果的な「新世代研修」として、多くの企業が実施しています。


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