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バンド 【完結】

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#青春

【小説】 ハルの風が吹いた。

 死んだつもりで生きようと決心したその日から、私の心に平和が訪れるようになった。平和とは…

井川文文
2年前
6

【小説】 死んだ気で生きる。

「どうして音楽を作り続けるのですか?」  真っ白なスタジオの中。私はカメラの前に立ってい…

井川文文
2年前
5

【小説】 本物の淋しさ。

 何を思い出したかのか、リオンくんはアキちゃんのお墓参りに行こうと言い出した。私は意味も…

井川文文
2年前
4

【小説】 悲しい導火線。

 式場で私たちはアキちゃんの生前について何も語ることができなかった。いや、語るほどの余裕…

井川文文
2年前
6

【小説】 母と娘。

 この時の時計ほど埒のあかない遅いものはなかった。清々しい太陽を遮光カーテンで締め切った…

井川文文
2年前
4

【小説】 血の気と、腹の虫。

 私は分別なくリビングをぐるぐる歩き回っていた。脳が無意味でもそうして動いていろと命令す…

井川文文
2年前
3

【小説】 運命の恐ろしさ。

 その日の朝は、やけに静かだった。いつも聞こえてくるはずの子どもたちの声が聞こえてこない。家の前を走る車の音さえも聞こえず、静かすぎて寂しいくらいだった。朝の冷え込みが、さらに寂しさを誇張させたんだと思う。  朝にクラシックを流すのがルーティンになっていたのに、私はたまたまテレビをつけていた。消音にしていても、画面が明るくなるだけで部屋を彩ってくれる。五分ほど画面を眺めていたが、改めてテレビとは変なハコだと思った。事故のニュースが流れる。コメンテーターが物悲しそうな顔をしてる

【小説】 雲の影。

 楽屋に戻ってからも、しばらく頭がボンヤリしていた。身体には疲労感があり、終演した手触り…

井川文文
2年前
1

【小説】 俯瞰したライブ。

 身体がビリビリと震える。  ステージ奥に設置された巨大スクリーンにオープニング映像が流…

井川文文
2年前
8

【小説】 チグハグの開演前。

 私たちはチグハグのまま時を過ごしていた。  私はチグハグを見ないフリをしながら過ごして…

井川文文
2年前
3

【小説】 波紋。

 芸能の世界は水商売だと言われたりする。それは音楽も同じこと。ミュージシャンだって、源流…

井川文文
2年前
2

【小説】 実感のない、告白。

 プロポーズされた。でも、あまり実感がなかった。  メールをもらってから数日後、同じ言葉…

井川文文
2年前
3

【小説】 違和感とビート。

 タオルで額の汗を拭う。大きく息を吐き、鏡に映る自分を見た。肌には張りがあり、毛穴も閉ま…

井川文文
2年前
1

【小説】 楽しくないライブ。

 誰が見ても順風満帆なバンド人生だった。デビューして間も無く注目を浴びて、人気者になった。知名度に自分達の技術が追いつかず、苦しんだこともあったが、私たちは努力を怠らなかった。楽器には時間が刻まれる。練習の軌跡が演奏に現れる。それこそが私たちの売れた要因だとも思ってる。  誰も慢心しなかった。現状に甘んじる者が一人もいなかった。日々の積み重ねを後押しするように、大きな会場、贅沢な環境を与えられ、演奏技術は掛け算のように向上していった。もちろん、まだまだ未熟な部分はあるけれど、