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「暗黙知の次元」マイケル・ポランニー,2003 #bookreview01

初回の投稿から随分時間が経ってしまいましたが、積読消化の意味も込めて読んだ本の感想をbookreviewとして書いていきたいと思います。bookreview第1回はマイケル・ポランニーによる「暗黙知の次元」です。

「発見とは現行の知識が示唆する探求可能性によって、もたらされるのである。」p112

では早速、本書のハイライトともいえるこの一文から始めてみましょう。
1891年にブダペストで生まれたマイケル・ポランニーは大学で医学を学び、戦後には物理化学者として地位を確立、そしてその後は科学哲学へと傾倒し本書を書き上げました。
そんなポランニーは自身の関心について、「生きる事と考える事の論理的な相互関係について」であると述べています。もう一歩踏み込むと、人間の進化と科学の発達に共通する部分があるとすると、それは何によってもたらされているのであろうかという問い・関心をポランニーは抱いてきたようです。
こうした関心で思考してきた中で彼が出した答えこそが題名にもある通り、そう暗黙知です。
現行の知識の中で物事の潜在的な可能性を知覚し、高次元なものに挑戦を挑む。そして低次にフィードバックし、また前進する。この一連のダイナミクスをポランニーは暗黙知と呼びました。

さて以降では各章の内容を追い、暗黙知への理解を深めていきたいと思います。

第Ⅰ章 暗黙知

近位項と遠位項

まず、暗黙知を理解するための2つの項目・条件について。
・第一条件(近位項):暗黙知を形成するための諸要素
・第二条件(遠位項):結果や全体像
例えば、
人には人相というものがありますが、これは第二条件(遠位項)にあたります。そして、人相に対する第一条件(近位項)は目や鼻、口など顔のパーツのことです。
人相は分かっても、目や鼻を思い出せと言われても難しい。この遠位項と近位項の関係性が重要で、近位項は遠位項から遡る事で認識されるという位置にあります。

内面化という作用

続いて、暗黙知を形成する内面化について。
「内面化は、ある種の事物を暗黙知における近位項として機能させるための手段になるのだ」p40
引用にもある通り、内面化は事物を近位項として機能させる手段にもなります。
ゲームを例に例えると、
AボタンがこれでBボタンがこれと最初は操作を認識しながらしていた時から慣れてきたころに、この操作はどのボタン?と逆に言われてえーっと、となる現象が挙げられます。
つまり、技術や道具が体に浸透して近位項として機能する事で、行為や現状がもはや認識に入らないほど近く知覚されるようになる事を内面化と呼びます。

問題と発見と暗黙知

問題と発見/ダイアグラム

さて1章の〆です。
ポランニーはこれまでの近位項と遠位項、内面化をふまえて、人間の発見のプロセスに踏み込んでいきます。
一般的には、まず問題があり解決方法を見出す事で発見が生まれるという認識があると思います。それに対して暗黙知をふまえて発見のプロセスを考察すると、暗黙知の重要な役割が見えてきます。
そもそも人間は数多くの事物を内面化し、その末に次なる高次な問題を知覚しています。そして、人相を思い出すときの様に問題に対する可能性を暗黙知による言葉以下の知覚として受け取ります。そして、その可能性はその段階では高次のもので、不確実なものになります。
したがって、今の次元に戻って、問題の再自覚が行われます。
少々ややこしいかもしれないので要約すると、暗黙知が、可能性という現行の知識より高次元なものを形成し、突き動かします。そして検証しにまた低次の問題に戻る。その繰り返しで少しずつ知の前進が行われるという事です。

第Ⅱ章 創発

続いて第二章では第一章の最後の問題と発見のプロセスについて更に深堀りが行われます。

多層な実在

多層な実在/スケッチ

「上位レベルの機能を下位レベルの規則で説明する事はできない」p65
この一節を読んでふと映画のインターステラー(2014)を思い出してしまったので例に挙げてみます。

インターステラー(2014)

「制御は効かない。高次元の中だ、我々の3次元とは別次元だ。観察して記録するしかない。」(1:00:40〜)
このフレーズは、ワームホールという4次元の空間に侵入した時に乗組員が発したまのです。我々の扱うことの出来る次元を超えた高次元な状況において、低次元の操作・規則が通用しない描写としてとても体感的だと思います。
また本文の中では語彙と文について例えられています。語彙によって文法は導かれず、文法から文体も導かれないという同様の関係です。
これらの例で、上位レベルの機能を下位レベルの規則で説明できないという事の感覚がお分かりになったかと思います。

創発

上記の多層な実在で示した階層構造は様々な例えが適応される通りに、重要且つ普遍的なものです。そして、ポランニーは、この例えを生物の進化にも適応し、無生物から生物、そして各生物へといった様に生物界の全体像をこの理論で示すことができると述べています。
お分かりかもしれませんが、この普遍的な階層構造のキーポイントは階層を飛び越えるアクションが見えてくるという事です。ポランニーはこのジャンプの事を「創発」と名付けました。

不意の確証

「発見とは現行の知識が示唆する探求可能性によって、もたらされるのである。」p112
ここで冒頭の引用に帰ってきました。発見のプロセス、多層な実在、創発の話をふまえて、この一文を読むと意味が深く読めてくるのではないでしょうか。
コロンブスによるアメリカの発見が地球が丸い事を示してしまったように、やはり現行の知識が示唆する探求可能性が不意の確証を生み、人類や科学の前進が行われてきたのです。
この様に、発見・創発のプロセスと暗黙知というものが明らかになってきたところで2章はおしまいです。

第Ⅲ章 探求者たちの社会

さてこれまでポランニーの考えを見てきました。そして彼は最後の章であるこの3章で社会の問題にこれまでの考えを投影していきます。

科学的懐疑主義

1935年、ポランニーはブハーリンと対面し、科学は党の五ヵ年計画に奉仕すべきだという理論に衝撃を受けたそうです。
その衝撃の内訳についてポランニーは、知識のために知識を追求するという科学の正当性を否定していたからであると述べました。
近代実証主義はあらゆるすべての超越的価値を切り捨て、科学的合理性へと向かった。神なき後、懐疑に満ちた人間の心にぽっかり開いた穴には科学的合理主義がピッタリとハマってしまった。その結果あまりにも人間を置きわすれた機械論的世界観が世に流布したのだと彼は述べます。
そしてこの現状に対しポランニーは警笛を鳴らし、「探求者たちの社会」こそが科学が正しく、そして自由に機能した社会であると提案しています。

探求者たちの社会へ

さあ最後のトピックスまでやってきました。
ここまでのポランニーの理論が社会に接続していく段階です。探求者たちの社会とはどの様なものなのでしょうか。
探求者とは他の人々には見えない問題を見て、自分自身の責任においてそれを探求するという能力をもつものであるとポランニーは述べています。そしてそのエネルギーは隠れた真実の暗示によって人間の精神に呼び起こされるものだ、とも述べています。
つまり、暗黙知がもたらす高次への志向性のもと、隠れた真実、隠れた次元を感知する能力は人のDNAに刻まれておりそれらが自由に、且つ責任を持って各々の見える問題に向かっていく事で探求者たちの社会は形作られるという事です。
我々は基本的に探求者としての素養は人間として保持しておりそれを発揮する社会といったところでしょうか。

以上、「暗黙知の次元」マイケル・ポランニー,2003 でした。
ポランニーの文章は付け足しが多く、読んでいる間にあれ、何の話だっけとなる事が多くあり難儀しました。(笑)
読み始めは全然理解できませんでしたが、読み進めていく(高次へ進む)うちに前の項目(低次の意味)が意味するところが分かっていくという体験はとても暗示的な体験でした。
#bookreview 、初回という事で張り切って書きましたが次回以降はさらっとしたものになるかもしれません。が継続する事を優先にしていきたいと思います。ではまた次回

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