「ガロア理論三段解説」改訂版


はじめに

本書では、ガロア理論を用いて5次方程式の解の公式が存在しないことを証明しています。同型写像、自己同型写像といった用語は用いずに、極力初等的な記述でガロア理論について述べてみました。

第1章ではガロア理論の全体像を俯瞰し、第2章では、第1章で紹介した各定理の証明をまとめました。また第3章では第1章、第2章の証明を補足しました。第3章は通常の本の脚注にあたりますが、本書では1つの章にまとめています。必要に応じて参照していただければ、と思います。

タイトルの「ガロア理論三段解説」はこの記述スタイルをさしています。
私は、数学の専門家でもなんでもない、アマチュアの数学ファンにすぎません。そんな私がガロア理論に関する文章をまとめてみようと思ったのは、この三段解説のスタイルに魅力を感じたからです。
三段解説が読者の皆さんの勉強に少しでも役に立てばうれしく思います。

以下に主な参考文献を列挙します。
1「ガロア理論の頂を踏む」(石井俊全著/ペレ出版)
2「方程式 解ける鎖、解けない鎖」(志賀浩二著/岩波書店)
3「群論への30講」(志賀浩二著/朝倉書店)

特に「ガロア理論の頂を踏む」には大きな影響を受けました。私は「ガロア理論の頂を踏む」のおかげでガロア理論を理解できたので、著者の石井俊全先生に深く感謝します。


第1章証明俯瞰

§1.1 アーベルの既約定理

 代数的数とは、有理数係数の方程式(Q上方程式)の解になりうる数をさしている。θが代数的数ならば、θを解にもつQ上方程式が存在する。その中で、最も次数が低い式をθのQ上最小多項式という。代数的数θのQ上最小多項式はQ上既約な式であり、定数倍を除いて一意に定まる(第3章※1参照)。
 また、θのQ上最小多項式の解になる数をθのQ上共役解という。
 これらの用語に関連して、以下の定理が成り立つ。

 (定理1 アーベルの既約定理)
 θを代数的数とする。θを解にもつQ上方程式は、θの全Q上共役解を解にもつ。

 この定理には以下のような応用がある。
 有理数係数の2式f(x)、g(x)についてf(θ)=g(θ)が成り立つとする。このときθの任意のQ上共役解θ’について、f(θ’)=g(θ’)も成り立つ(※2)。したがって、f(θ)=g(θ)をf(θ’)=g(θ’)と書き換えることが可能である。以降、この手法を度々用いることになる。

 アーベルの既約定理の証明には以下の定理が必要になる。

 (定理2)
 f(x)、g(x)をQ上互いに素な2式とする(※3)。
 Y、Zを未知数とする方程式f(x)Y+g(x)Z=1には、解となるQ上の式が存在する。

 互いに素な整数а、bについて、不定方程式аX+bY=1が整数解を持つことが知られているが、定理2はその多項式版にあたる。

 この定理1と定理2は、有理数体のみならず、一般の拡大体においても成立する(※4)。

 (定理1’)
 θを代数的数とし、Lを任意の拡大体とする。θを解にもつL上方程式は、θの全L上共役解を解にもつ。

 (定理2’)
 Lを任意の拡大体としf(x)、g(x)をL上互いに素な2式とする。
 Y、Zを未知数とする方程式f(x)Y+g(x)Z=1には、解となるL上の式が存在する。

 定理2’の証明には次節で紹介する定理3を用いる。また定理2’から定理1’を導く過程は定理2から定理1を導く過程と同様である。

 §1.2 単拡大体
 
 単拡大体Q(θ)とは有理数体Qに1つの数θを付加した体をさしている。Q(θ)には有理数とθの四則演算の結果になりうるすべての数が含まれている。
 
 θを代数的数とし、そのQ上最小多項式の次数をnとする。このとき「1 θ θ² θ³…θⁿ⁻¹」の各数に有理数をかけて足し合わせた式をθ形式とよぶことにする。(※5)でθ形式の実例を挙げている。
 このθ形式に関しては以下の定理3が成り立つ。

 (定理3)
 「θ形式で表記できる数の集合」は体になっており、Q(θ)とは同一の集合である。
 また、Q(θ)の元のθ形式による表記は一意に定まる。
 H
 この定理3の証明にも、定理2が用いられる。また、定理3の証明ではシータ形式に関する方程式h(θ)x=1が解を持つことが示される。このことから定理2’の成立が分かる。(※6)

 さて、Qに有限個の代数的数を加えた拡大体を代数的拡大体という。(※7)では代数的拡大体と代数体の違いについて補足している。代数的拡大体については以下の定理4が成り立つ。

(定理4 原始元の存在)
代数的拡大体は単拡大体である。

 複数個の代数的数をくわえて作った拡大体も、実は1個の代数的数の付加によって構成できるというのが定理4の主張である。この1個の代数的数を原始元という。
 定理4の証明では、この原始元の存在を示すことになる。第2章で述べる証明から分かるように、各拡大体について原始元は一意に定まらず無数に存在する。原子減の選び方によらず同様の議論が成立することを確認する必要が生じている。

 代数的拡大体Lの原始元をθとすると、定理3によりLの元はθ形式によって一意的に表記される。θ形式の項数――θのQ上最小多項式の次数と一致する――をLの拡大次数という。
 拡大次数については、以下の定理5が成り立つ。

(定理5 拡大次数の一意性)
 原始元の選び方によらず、代数的拡大体Lの拡大次数は一意に定まる。

この定理5の証明からは、次の定理6の成立も導かれる。

(定理6 次元の積公式)
Q→M→Lを代数的拡大列とする。Q→Mの拡大次数をа、M→Lの拡大次数をnとするとき、Q→Lの拡大次数はаnである(※8)。


§1.3 ガロア拡大
本節では、ガロア拡大とガロア拡大体の定義について述べ、それらに関する2つの定理を紹介する。

 (定義1 ガロア拡大)
 代数的拡大S→Lについて、Lのすべての元のS上共約解がLに含まれているとき、S→Lをガロア拡大とよぶことにする。

 (定義2 ガロア拡大体) 
 代数的拡大体Lについて、Q→Lがガロア拡大であるとき、Lをガロア拡大体とよぶことにする。

 ガロア拡大とガロア拡大体で定義を分けたのは、以下のような事情による。
 一般に代数的拡大列S→M→LについてS→M、M→Lがガロア拡大であっても、Q→Lがガロア拡大であるとは限らない(※9)。上記の定義に従えば、ガロア拡大を重ねて構成した体がガロア拡大体であるとは限らないことになる。Lのすべての元のQ上共役解がLに含まれているときのみ、Lをガロア拡大体とよぶことにした。

 これらの定義のもと、以下の2つの定理が成り立つ。

(定理7)
Q→M→Lを代数的拡大列とし、Lをガロア拡大体とする。このとき、M→Lもガロア拡大である。

(定理8 ガロア拡大体の十分条件)
代数的拡大体Lの原始元をθとする。θの全Q上共役解がLに含まれているとき、Lはガロア拡大体である。

 いずれの定理の証明にもアーベルの既約定理(定理1、定理1’)が用いられる。
 加えて定理8の証明には、次の定理が必要となる。

(定理9 対称式の基本定理)
 任意の対称式は、基本対称式化可能である。
 ただし基本対称式化とは、変数の対称式について式中に含まれる文字をn変数の基本対称式にまとめる変形をさしている。

 対称式、基本対称式については(※10)で述べている。


 §1.4 ガロア群
 本書の目標は可解でない5次方程式の存在を明示することである(※11)。
 5次方程式f(x)=0の解の一つが根号で表わせたとき、他の4つの解も根号で表わすことが可能である(※12)。したがって、5次方程式f(ⅹ)=0の解の1つが根号を用いて表記できれば、f(X)=0には5個の解が存在する。対偶にかえて、f(X)=0に5個の解が存在しないとき、f(X)=0の解は1つも根号を用いて表記することはできない。あとは、f(X)=0が5個の解を持つ場合について、その非可解性を示せば十分である。
 話を後者にしぼるため以下の定理が必要になるが本書では省略する。(※13)。

(定理10 代数学の基本定理)
複素数係数のn次方程式には、重解を許してn個の複素数解が存在する。
 
 上記をご了承いただいた上で、ガロア群について定義する。

 §1.2で示したように代数的拡大体は単拡大体であり、原始元θが存在する。ここで、このθが代数的数であることを仮定し、そのQ上共役解の集合を「θ₁ θ₂ θ₃…」とする。Lがガロア拡大体であれば、この集合の元はいずれもθ形式によって表記される。各数のθ形式の集合を「θ  f(θ) g(θ)…」としよう。θをこれらθ形式に置き換える置換の集合「θ→θ θ→f(θ) θ→g(θ)…」について、以下の定理11が成り立つ。

(定理11)
 ガロア拡大体Lの原始元θをその全Q上共役解に置き換える置換の集合をMとする。
Mの任意の2つの元をf:θ→f(θ)、g:θ→g(θ)とするときf・g:θ→f(g(θ))と定めると、Mは群の公理をみたし群になる。

群の公理については(※14)で説明している。また、(※15)では定理11にある演算の定義が、いわゆる合成関数の定義とは異なることについて補足している。

 本書では上記で述べた原始元θからθ形式への置換からなる群をガロア群と定義する。ガロア群の実例については(※16)で紹介している。また一般のガロア群の定義と上記の定義の違いについては(※17)で説明している。

このガロア群の定義は、原始元θが代数的数であることを前提としている。原始元の存在(定理4)の証明から分かるように、代数的拡大体の原始元θは代数的数の和の形で表記される(※18)。したがって原始元が代数的数であることは以下の定理からも確認できる。
(※19)

(定理12)
α、βが代数的数ならば、α+βも代数的数である。

 対称式の基本定理(定理9)と代数学の基本定理(定理10)を前提とすると、定理12の証明は以下のようになる。
 αのQ上共役解の集合を「α=α₁ α₂…αn」、βのQ上共役解の集合を「β=β₁ β₂… βm」とする。ただしここで代数学の基本定理を仮定し、方程式の次数と同じ個数の解が存在することを前提としている。
 これらの集合から1個ずつ元を選び足し合わせていくとnm個の数になる。これらnm個の数を解とする方程式を作ると、その係数は「α₁ α₂…αn」についても「β₁ β₂… βm」についても対称式になる。対称式の基本定理により、「α₁ α₂…αn」、「β₁ β₂… βm」について基本対称式化可能である。各基本対称式の値は有理数であることから、この式の係数はいずれも有理数である。したがってその解のα+βは代数的数である。■

 さて、定義3にあるガロア群の定義はもう1つ問題をはらんでいる。§1.2でも述べたように、代数的拡大体の原始元θは一意に定まらない。したがって原始元θの選び方によらず、ガロア群の構造が一意に定まることを確認しておく必要がある。

(定理13)
ガロア群の構造は原始元の選び方によらず一意に定まる。

 証明には、拡大次数の一意性(定理5)が用いられる。

 また、(※20)で示す通り、Q上既約な方程式は重解をもたないことが知られている。
原始元θのQ上最小多項式はQ上既約なので、θのQ上共役解はいずれも異なる数である。したがってガロア群の位数――群に含まれる元の個数――に関しては以下の等式が成り立つ。

 (ガロア群の位数)=(原始元θのQ上共役解の個数)=(原始元θのQ上最小多項式の次数)=(θ形式の項数)

 またガロア拡大M→Ⅼのガロア群とは、原始元θからθのⅯ上共役解への置換の集合をさしている。(※21)では任意の拡大体Mにおいても(ガロア群の位数)=(原始元θのM上共役解の個数)=(原始元θのM上最小多項式の次数)=(M上θ形式の項数)が成り立つことを確認している。

 §1.5 最小分解体
 f(x)=0の解をすべて含む最小の体をf(X)=0の最小分解体という。
Lにf(x)=0の解がすべて含まれており、Q→Lの間にf(X)=0の解のみを原始元とする体の拡大列が存在すれば、Lはf(X)=0の最小分解体である。
 この最小分解体に関する十分条件は、ガロアの主定理(§1.8)の証明で用いることになる。 

さて本節では、最小分解体に関する以下の定理の証明を俯瞰する。

 (定理14)
 既約5次方程式f(ⅹ)=0が実数解を3個もつとき、その最小分解体Lのガロア群は5次対称群S₅になる。
 
n次対称群については(※22)で補足している。また、定理14の条件をみたすf(x)=0の例としては、x⁵-6x+3=0が挙げられる。この点については(※23)で確認している。

 さて定理14ではf(x)=0の最小分解体がガロア拡大体であることを前提としている。まずこの点がみたされていることを確認しよう。 

 (定理15)
 有理数係数f(X)=0の最小分解体Lはガロア拡大体である。

 証明では、ガロア拡大体の十分条件(定理8)を用いて、原始元θの全Q上共役解がLに含まれていることを確認する。
 次に、n次方程式の最小分解体については以下の定理が成り立つ。

 (定理16)
有理数係数n次方程式f(X)=0の最小分解体Lのガロア群は、n次対称群の部分群と同型である。
ただし対称群の演算については、fとgの積をf・g:(123…n)→「(123…n)にfの置換を施した後、gの置換を施した結果」と定義する。
 
なお、「~群の部分群」という用語には「~群」自身も含まれているので注意されたい。定理16からは、5次方程式f(X)=0の最小分解体Lのガロア群が5次対称群の部分群であることが導かれる。
 定理15、定理16を前提としたうえで、定理14の証明にはさらに以下の2つの定理が必要になる。

(定理17)
有理数係数f(X)=0が複素数θを解にもつとき、その複素共役θ’も解になる。

(定理18 コーシーの定理)
群Gの位数をnとし、その任意の素因数をpとする。このときGには位数pの元が含まれている。

定理17にある複素共役については(※24)で補足している。また定理18では、位数という用語を2通りの意味で用いている。2つの用法の区別については(※25)で説明している。

5次方程式f(X)=0が実数解を3個もつとき、残る2解は虚数解である。したがって、その最小分解体の原始元θは虚数になる。θの複素共役をθ’とすると、定理17よりθ’はθのQ上共役解である。
このとき有理数係数の式g(x)について、g(θ)とg(θ’)は複素共役関係になる(定理17証明参照)。したがって虚数を表記するθ形式は、θ→θ’の置換で複素共役へ変わり、実数を表記するθ形式はθ→θ’の置換で不変である。θ→θ’によりf(x)=0の5解のうち虚数2解のみ入れ替わることになる。
n次対称群の元のなかで、2個の数字のみ入れ替える置換を互換という(※26)。定理17からはLのガロア群の中に互換が含まれていることが導かれる。

 一方、f(x)=0の解の一つをαとすると、f(x)の既約性よりQ→Q(α)の拡大次数は5である。次元の積公式から、Lの拡大次数が5の倍数であることが導かれる。したがってコーシーの定理より、Lのガロア群には位数5の元が含まれる。
 定理14の証明では、1つの互換と位数5の元の存在から、Lのガロア群がS₅であることを導くことになる。

なお、本節で紹介した定理15、定理16は方程式の既約性の如何をとわず成立する。ガロアの主定理(§1.8)の証明では、定理15をQ上可約な方程式について用いることになる。


§1.6 ガロア対応
ガロア拡大体Lの体の構造と、そのガロア群Gの群の構造には密接なつながりがある。(※27)ではガロア群が3次対称群の場合について、最小分解体とガロア群の構造を例示している。
体と群のつながりについて記述するため、中間体、群の作用、固定群、固定体という用語を導入する。

まず、Q⊂M⊂LをみたすMをLの中間体という。

またガロア拡大体Lの原始元をθとするとき、Lの元はθ形式によって表記される。各元のθ形式中のθに、ガロア群Gの置換をほどこしていくことを「Gを作用する」と表現することにする。また、このGのある元の作用によってθ形式の値が変化しない場合を「不変に作用する」と表現することにする。

ガロア群Gの元のうち、中間体Mの任意の元に不変に作用する置換の集合をMの固定群という。またガロア群Gの部分群Hの全置換によって不変である数の集合をHの固定体という。

(※28)では、これらの用語とアーベルの既約定理(定理1)の関係について述べている。また、固定群が群の公理をみたしていることと、固定体が四則演算で閉じていることについては(※29)で確認している。

固定体と固定群については以下の定理が成り立つ。

(定理19 ガロア対応)
ガロア拡大体Lのガロア群をGとする。Lの中間体をM、Gの部分群をHとする。
このとき①「Mの固定群がHであること」と②「Hの固定体がMであること」は同値である。

この定理19はLの中間体とGの部分群に1対1の対応がつくことを保証している。
定理19は必ずしも自明な定理ではない(※30)。証明には以下の2つの定理が必要になる。

(定理20)
ガロア拡大体Lとその中間体Mの拡大次数をそれぞれl、mとする。このとき、Mの固
定群の位数はl÷mになる。

 (定理21)
 ガロア拡大体Lの拡大次数をlとし、そのガロア群をGとする。Gの部分群Hの位数をhとするとき、Hの固定体となる中間体Mの拡大次数はl÷hである。

 定理20と定理21を前提とすると、定理19の証明は以下のようになる。

 まず①から②を導く。
 Mの固定群Hの固定体をM’としてM=M’を示そう。
 まず、定理20よりHの位数はl÷mである。次に定理21より、M’の拡大次数はl÷(l÷m)=mである。したがってMとM’の拡大次数は等しい。
 またMの元はHの作用で不変であるのに対し、M’にはHの作用で不変なすべての元が含まれている。したがってM⊆M’。
 あわせてM=M’が得られた。

 次に②から①を導く。
 Hの固定体Mの固定群をH’としてH=H’を示そう。
 Mの拡大次数は定理21よりl÷hである。定理20よりH’の位数はl÷(l÷h)=hである。したがってHとH’は位数が等しい。
 またHはMのすべての元に不変に作用するのに対し、H’にはMのすべての元に不変に作用する全置換が含まれている。したがってH⊆H’。
 あわせてH=H’が得られた。                      ■

 (※31)では定理19の証明について、ガロア群が3次対称群の場合を実例とした解説をしている。
 また定理20と定理21の証明では、任意の中間体Mについて原始元が存在することを前提としている。中間体の原始元については(※32)で補足している。


§1.7 可解群
まず可解群について定義する。

(定義 可解群)
G⊃H₁⊃H₂⊃…Hn⊃eを正規列とする。
各剰余類群「G/H₁ H₁/H₂ H₂/H₃…」いずれもが可換群であるとき、この列を可解列という。可解列をもつ群Gを可解群と定義する。

定義にある正規列、剰余類群、可換群については(※33~※35)で説明している。また可解群の定義については、各剰余類群が巡回群であることを条件とするほうが一般的である。(※36)では巡回群について説明するとともに、2つの定義の違いについて述べている。

さて、説明の簡略化のため表記について以下のような取り決めをする。
ガロア拡大体のなかで、そのガロア群が可解群であるものを「ガロア拡大体・可解群」と表記することにする。また、ガロア拡大のうち、その拡大に関するガロア群が可換群である場合を「ガロア拡大・可換群」と表記することにする。ガロア拡大体とガロア拡大の用法の区別については§1.3で述べたとおりである。
この表記を用いるとき、次の定理が成り立つ。

(定理22)
ガロア拡大体Lのガロア群をGとする。このとき①「Gが可解群であること」と②「Q→Lの間に、各拡大が「ガロア拡大・可換群」である代数的拡大列が存在すること」は同値である。

この定理22の証明には、§1.3で示した定理7に加え、以下の定理23~定理25が必要になる。

(定理23)
 ガロア拡大体Lに関する代数的拡大列をQ →M→Lとし、Lのガロア群をGとする。
このとき①「Q→Mがガロア拡大であること」と②「Mの固定群HがGの正規部分群であること」は同値である。

 (定理24)
 ガロア拡大体Lに関するガロア拡大列をQ→M→Lとする(※37)。また、Lのガロア群をGとし、Mの固定群をHとする。
 このとき、「Q→Mのガロア群」と「剰余類群G/H」は同型である。

 (定理25)
 ガロア拡大体Lに関する代数的拡大列をQ→M→Lとし、Mの固定群をHとする。このときM→Lのガロア群はHである。

 定理23にある正規部分群については(※33)で説明している。定理25ではM→Lのガロア群について「Hと同型」という表現は使わず、単にHと記した。この点については(※38)で説明している。

 定理23~定理25を前提とすると、定理22の証明は以下のようになる。

 まず①から②を導こう。
 ガロア拡大体Lのガロア群Gが可解群であるとする。可解列をG⊃H₁⊃H₂⊃…⊃Hn⊃eとし、それぞれの固定体をQ→M₁→M₂→…→Mn→Lとする。ガロア対応により、このQ→M₁→M₂→…→Mn→Lのそれぞれの固定群はG⊃H₁⊃H₂⊃…⊃Hn⊃eである。

 まず、Q→M₁→Lに注目する。仮定によりH₁はGの正規部分群である。したがって定理23よりQ→M₁はガロア拡大である。また、剰余類群G/H₁が可換群であるという仮定と定理24から、Q→M₁のガロア群は可換群である。あわせて、Q→M₁が「ガロア拡大・可換群」であることが得られた。

 次にM₁→M₂→Lに注目する。M₁→Lがガロア拡大であることは定理7により保証されており、そのガロア群は定理25よりH₁である。仮定によりH₂がH₁の正規部分群であることから、M₁→M₂がガロア拡大であることが導かれる。また、剰余類群H₁/H₂が可換群であるという仮定と定理24から、M₁→M₂のガロア群は可換群である。あわせてM₁→M₂は「ガロア拡大・可換群」であることが得られた。

 同様に繰り返していき、最後にMn→Lに注目する。Mn→Lがガロア拡大であることは定理7により保証されている。そのガロア群は、定理25によりHnであり、可換群である。
Mn→Lも「ガロア拡大・可換群」となる。

 以上でGが可解群であるとき、Q→Lの間に各拡大が「ガロア拡大・可換群」となる代数的拡大列が存在することが示された。

 次に②から①を導く。
 各拡大が「ガロア拡大・可換群」となる拡大列をQ→M₁→M₂→…→Mn→Lとし、それぞれの固定群をG⊃H₁⊃H₂⊃…⊃Hn⊃eとする。

 まずQ→M₁→Lに注目する。仮定によりQ→M₁はガロア拡大なので、定理23よりH₁はGの正規部分群である。また仮定よりQ→M₁のガロア群は可換群なので、定理24より剰余類群G/H₁は可換群になる。

 次にM₁→M₂→Lに注目する。M₁→Lがガロア拡大であることは定理7により保証されており定理25よりそのガロア群はH₁である。M₁→M₂がガロア拡大体であるという仮定と定理23から、H₂がH₁の正規部分群であることが導かれる。またM₁→M₂のガロア群が可換群であることと定理24から、剰余類群H₁/H₂が可換群であることが導かれる。

 同様に繰り返していき、最後にMn→Lに注目する。定理25よりMn→Lのガロア群はHnである。仮定よりHnは可換群であり、剰余類群(Hn/e)=Hnも可換群である。

 以上でQ→M₁→M₂→…→Mn→Lの各拡大が「ガロア拡大・可換群」であることからLのガロア群Gが可解群であることが導かれた。             ■

 3つの定理のうち、定理24の証明では、2つの群――ガロア群と剰余類群――の各元に1対1の対応をつけ、その対応が演算の結果にまで保存されることを示すことになる。前半部分については、以下の定理を用いる。

(定理26)
 ガロア拡大体Lの原始元をθ、ガロア群をGとする。Gの任意の2つの元をf、gとし、Lの任意の元αのθ形式をA(θ)とする。またαの固定部分群をHとする。
このとき、①「A(f(θ))=A(g(θ))が成り立つこと」と②「f、gがHによる同一の剰余類に含まれていること」は同値である。
したがって、A(θ)の軌道とHによる剰余類には1対1の対応がつく。

軌道と固定部分群については、(※39)で補足説明している。
新たに出てきた固定部分群という用語は、固定群という用語によく似ている。Mの固定群とは、Mのすべての元に不変に作用する元の集合のことだった。これに対し、αの固定部分群は、1つの元αに不変に作用する元の集合をさしている。したがって2つの用語はまったく同一の意味というわけではない。
しかし、(※32)でも述べたように中間体Mにはその原始元αが存在する。Mの元はいずれもα形式で表記されるので、αに不変に作用する置換はMのすべての元に不変に作用する。したがってMの固定群とαの固定部分群は一致する。定理24の証明に定理26が用いられるのはこのような事情による。


 §1.8 ガロアの主定理
本節では根号で表せない数が代数的数になりうることの証明について述べる。その証明は以下の2つの定理の証明に分割される。 

(定理27)
5次対称群S₅は可解群ではない。

(定理28 ガロアの主定理)(※40)
f(x)=0をQ上既約な式とし、その解の一つが根号を用いて表記できるものとする。このときf(x)=0の最小分解体Lのガロア群Gは可解群である。

§1.5で示したように実数解3個の5次既約方程式f(X)=0の最小分解体Lのガロア群Gは5次対称群である。定理27よりこの群は可解群ではない。定理28を対偶にかえてLのガロア群Gが可解群でないとき、f(X)=0の解は根号を用いても表記することができない。あわせてf(x)=0の解が根号で表せないことが導かれる。

まず、定理27の証明について述べる。
定理14の証明中に述べるように5次対称群S₅の元は互換の積の形で表記できる(※56参照)。そのなかで偶数個の互換の積で表記することが可能な元の集合は群の公理をみたしており、S₅の部分群になる(※41)。この群を5次交代群とよび、A₅と表記することにする。
A₅については、以下の2つの定理が成り立つ。

(定理29)
5次交代群A₅の位数は60か120のいずれかである。

(定理30)
5次交代群A₅は可解群ではない。

定理27の証明では、S₅が可解群ならばその可解列にA₅が含まれることを示すことになる。これにより定理30からS₅は可解群でないことが導かれる。

最後に定理28の証明を俯瞰しよう。その証明には次の定理を用いる。

(定理31)
「ガロア拡大体・可解群」のLの中間体Mがガロア拡大体であるとき、Mも「ガロア拡大体・可解群」である。

Lはf(x)=0の最小分解体なのでガロア拡大体である(定理15)。L⊂L’をみたすL’が「ガロア拡大体・可解群」ならば、定理31よりLも「ガロア拡大体・可解群」になる。
したがって、定理28を示すには「Lを中間体にもち、「ガロア拡大体・可解群」のL’を構成できること」を示せばよい。

以下、L’の構成方法について述べる。次の①~③がL’の必要条件となる。
①Lを中間体にもつ。
②ガロア拡大体である。
③「ガロア群が可解群である」=「Q→L’の間に各拡大が「ガロア拡大・可換群」となる拡大列が存在する」。

f(x)=0の解のうち、根号で表せる解をαとする。αは根号で表せるので、べき根拡大(※42)を繰り返すことでαを含む拡大体ができる。Q→L’の間にこれらのべき根拡大を組み入れておくことでα∈L’となる。その上でL’がガロア拡大体になるようにすれば、αのQ上共役解はすべてL’に含まれL⊆L’をみたす。

次に順序が前後する形になるが、③をみたすための方法について述べる。
③をみたすL’を構成するうえで重要な役割を果たすのが1の原始n乗根である。原始n乗根については(※43)で説明を補足している。
上記で述べた各べき根拡大のべき根指数――原始元ª√βのa――の最小公倍数をnとし、1の原始n乗根をωとする。最初にQ→Q(ω)という体の拡大を組み入れる。(※44)で述べる通り、このQ→Q(ω)は「ガロア拡大・可換群」である。また予めωを加えたことで、続く各べき根拡大はガロア拡大になる。べき根拡大はガロア拡大であれば、そのガロア群は可換群になる(※45)。したがってここまでの拡大はいずれも「ガロア拡大・可換群」である。
もっとも②をみたすL’を構成するためには、新たに体の拡大を組み込むことになるので、③については再度考察の必要が生じる。

話を②にうつそう。予め加える1の原始n乗根をωとし、続く各べき根拡大の原始元を「α、β、θ…」とする。また「α、β、θ…」のQ上最小多項式をそれぞれ「A(x)、B(x)、C(x)…」とする。ここでg(x)=(xⁿ -1)A(x)B(X)C(X)…とおく。ここまででてきた拡大の原始元はいずれもg(X)=0の解である。したがってさらにg(x)=0の解を原始元とする拡大を組み込むことで、L’をg(x)=0の最小分解体にすることが可能である。これによりL’はガロア拡大体となる(定理15)。
あとは新たに加えた拡大についても「ガロア拡大・可換群」であることを示せばよい。以下の定理を用いる。

(定理32)
ガロア拡大列Q→M→Lにおいて、Mを1の原始n乗根を含むガロア拡大体とし、M→Lをβを原始元とする{n次}べき根拡大とする。
このとき、Lに「βのQ上共役解を原始元とする{n次}べき根拡大」を重ねることでβの全Q上共役解を含む拡大体L’を構成できる。
ただし{n次}べき根拡大とはMの元のn乗根を原始元とする拡大を意味している(※46)。

定理32を前提とすると、L’の構成方法は以下のようになる。
まず、Qにω、αを加え、M₁=Q(ω α)をつくる。M₁はガロア拡大体である。定理32よりM₁に「βのQ上共役解を原始元とする{m次}べき根拡大」(mはnの約数)を重ねてβの全Q上共役解を含む拡大体M₂を構成できる。すでに1の原始n乗根を加えてあることから、新たに加わったべき根拡大は「ガロア拡大・可換群」となる。こうしてできたM₂は(xⁿ -1)A(X)B(X)=0の最小分解体なのでガロア拡大体である。したがって同様に定理32を用いてM₂にθのQ上共役解を加えるべき根拡大――「ガロア拡大・可換群」――を重ねてθの全Q上共役解を含むM₃を構成できる。
同様に繰り返して①~③をみたすL’が得られる。

第2章 定理証明

§2.1 アーベルの既約定理証明
定理2、定理1の順に証明を述べる。

(定理2)
 f(x)、g(x)をQ上互いに素な2式とする。
 Y、Zを未知数とする方程式f(x)Y+g(x)Z=1には、解となるQ上の式が存在する。

証明には多項式の割り算における除法の原理を用いる。この除法の原理については(※47)で解説している。
 証明)仮にf(X)、g(X)の一方が有理数ならば証明は容易である。たとえば、g(x)を有理数аに置き換えたf(X)Y+аZ=1はY=0、Z=1/аという自明な解を持つ。
 以下、定理2の証明がf(X)、g(X)の一方が有理数の場合に帰着することを示そう。
次数についてdeg f(X)≧deg g(X)として一般性を失わない。
 f(X)とg(X)は互いに素という仮定によりf(X)をg(X)で割ると余りがでる。除法の原理によりdeg g(X)≧deg h(X)をみたす余りh(X)が存在する。
 このとき、(1)「定理2を示すにはh(X)Y+g(X)Z =1の解となるQ上の式が存在することを示せばよい」。ここで(2)「h(X)とg(X)は再び互いに素になる」。したがってg(X)をh(X)で割って、さらに次数の低い余りを取り、g(X)と置き換える操作が可能である。
 以下、同様に繰り返していくと、やがて余りは有理数になる。したがって、定理2の証明はf(X)、g(X)の一方が有理数の場合に帰着した。    

 なお、証明中の(1)、(2)については(※48)で補足を加えている。    ■

(定理1 アーベルの既約定理)
 θを代数的数とする。θを解にもつQ上方程式は、θの全Q上共役解を解にもつ。

証明)θのQ上最小多項式をf(X)とし、θを解にもつ任意のQ上方程式をg(X)とする。このときf(θ)=0かつg(θ)=0である。したがって不定方程式f(X)Y+g(X)Z=1の解となるQ上の式は存在しない。
定理2を対偶にかえると、f(X)Y+g(X)Z=1が解をもたないとき、f(X)とg(X)は互いに素でない。
あわせてf(X)とg(X)は互いに素でないことが得られる。仮定によりf(X)はQ上既約なので、g(X)はf(X)で割り切れる。f(X)=0の解はいずれもg(X)=0の解になることが示された。                     ■


§2.2 単拡大体関連証明

定理3~定理6の順に証明を述べる。
(定理3)
 θ形式で表記できる数の集合は体になっており、Q(θ)とは同一の集合である。
 また、Q(θ)の元のθ形式による表記は一意に定まる。
 
 証明)まず、θ形式の集合が四則演算で閉じていることを確認する。以下、θのQ上最小多項式をf(X)=0とする。

 θ形式2数の和・差がθ形式になることは明らか。

 θ形式2数の積h(θ)は、次数がθ形式の定義からオーバーしている可能性がある。その場合、h(X)をf(X)で割って、deg f(X)>deg  h’(X)をみたす余りh’(X)を求める。f(θ)=0よりh(θ)=h’(θ)。したがってh’(θ)が2数の積に等しいθ形式である。

 最後にθ形式2数g(θ)、h(θ)について、g(θ)÷h(θ)の商となるθ形式が存在することを確認する。証明は以下のように変形できる。

→(1)「Yを未知数とする不定方程式g(θ)=h(θ)Yが解となるθ形式をもつこと」を示せばよい。
→(2)「1=h(θ)Yが解となるθ形式をもつこと」を示せばよい。
→(3)「Y、Zを未知数とする不定方程式1=f(θ)Z+h(θ)Yが解となるθ形式をもつこと」を示せばよい。
→(4)「1=f(X)Z+h(X)Yが解となるQ上の式をもつこと」を示せばよい。

各変形が可能な理由は以下の通りである。
(1)→(2) (2)の式の解にg(θ)をかけると、(1)の式の解になる。除法の原理を用いて次数を調整すれば、(1)の式の解となるθ形式が求まる。
(2)→(3) f(θ)=0より。
(3)→(4) (4)の式の解にθを代入すると(3)の式の解となる。次数が定義からオーバーしている場合は、やはり除法の原理を用いて調整すればよい。
(4)→    h(θ)はθ形式という仮定より、deg f(X)>deg h(X)が成り立ち、f(x)とh(x)は互いに素である。したがって定理2から(4)が導かれる。

以上で、θ形式2数の四則演算の結果に等しいθ形式が存在することが示された。

次に、Q(θ)と「θ形式で表記できる数の集合」が等しいことを確認する。
Q(θ)とは有理数とθの四則演算の結果になりうる数の集合をさしている。したがってQ(θ)⊇「θ形式で表記できる数の集合」は明らか。
有理数もθもθ形式のうちに含まれる。「θ形式で表記できる数」が四則演算で閉じていることから、Q(θ)の元はいずれもθ形式で表記できる。よって、Q(θ)⊆「θ形式で表記できる数の集合」が成り立つ。
あわせて、Q(θ)=「θ形式で表記できる数の集合」が得られた。

最後にQ(θ)の元のθ形式による表記が一意に定まることを確認する。
以下、背理法を用いる。ある元のθ形式による表記が2通り存在するとし、それらをg(θ)、h(θ)とする。g(θ)=h(θ)より、θを解にもつ方程式g(x)-h(x)=0が存在することになる。この式の右辺の次数はf(x)を下回るので、θの最小多項式がf(x)=0であることと矛盾する。              ■


(定理4 原始元の存在)
代数的拡大体は単拡大体である。

証明) 以下、2回の代数的単拡大をへて構成された体が単拡大体であることを確認する。代数的単拡大が3回以上の場合に関する証明も、代数的単拡大が2回の場合に帰着する。
 2回の代数的拡大の原始元をα、βとする。またそれぞれの任意のQ上共役解をα’、β’と表記し、有理数qを(α-α’)÷(β-β’)の商と一致しない数とする。このような有理数は無数に存在する。
 このとき証明課題を以下のように変えていくことができる。
→(1)「Q(α β)=Q(α+qβ)をみたす有理数qが存在すること」を示せばよい。
→(2)「α、β∈Q(α+qβ)かつα+qβ∈Q(α β)」を示せばよい。
→(3)「β∈Q(α+qβ)」を示せばよい。
→(4)「βのQ(α+qβ)上最小多項式が1次式であること」を示せばよい。
→(5)「βのみを共通解とするQ(α+qβ)上の2式が存在すること」を示せばよい。

 各変形の詳細は以下のとおりである。
(1)→(2)α、β∈Q(α+qβ)からはQ(α+qβ)⊇Q(α β)が、α+qβ∈Q(α β)からはQ(α+qβ)⊆Q(α β)が得られ、あわせてQ(α+qβ)=Q(α β)となる。 
(2)→(3)α+qβ∈Q(α β)は明らか。また、β∈Q(α+qβ)ならば、α=(α+qβ)-qβより、α∈Q(α+qβ)。
(3)→(4)1次式の解は、定数項の数と一致する。
(4)→(5)アーベルの既約定理(定理1’)による。
(5)→αのQ上最小多項式をf(X)、βのQ(α+qβ)上最小多項式をg(α+qβ X)とする。f(X)にX→(α+qβ-qX)の置換を施しf(α+qβ-qX)をつくる。g(α+qβ X)、f(α+qβ-qX)はいずれもβを解にもつQ(α+qβ)上の式である。また有理数qの選び方から2式はβ以外に共通解をもたない。したがって(5)が示された。                     

上記の証明の変形については、(※49)でも補足を加えている。 ■


(定理5 拡大次数の一意性)
 原始元の選び方によらず、代数的拡大体Lの拡大次数は一意に定まる。

証明)代数的拡大体Lの異なる原始元をβ、θとして、βとθのQ上最小多項式の次数が一致することを示そう。β、θのQ上最小多項式の次数をそれぞれа、nとしてа=nを導くことにする。

 以下、代数的数「α₁ α₂ α₃…」の各数に有理数をかけて足し合わせた式を{}を用いて{α₁ α₂ α₃…}と表記することにする。たとえば、{1 β β²…βª⁻¹}は1+q₁β +q₂β²…+qa‐1βª⁻¹という形の式を意味している。

 定理3により{1 β β²…βª⁻¹}、{1 θ θ²…θⁿ⁻¹}はLのすべての元を一意的に表記することができる。以下{1 θ θ²…θⁿ⁻¹}から1以外の任意の元を取り除き、{1 β β²…βª⁻¹}の元の1つβ’と取り換えても、Lのすべての元を一意的に表記できることを示そう。この操作をn-1回繰り返すと、Lのすべての元を一意的に表記できるn項の式{1 β’ β”…}が得られるが、βも原始元であることからa=nが導かれる。

 以下{1 θ θ²…θⁿ⁻¹}からθを取り除いた場合について考えるが、取り除く元は「θ θ²…θⁿ⁻¹」のいずれであっても構わない。まず{1 β’θ² θ³…θⁿ⁻¹}がLのすべての元を表記できることの証明の概要は以下のようになる。

→(1)「θが{1 β’θ² θ³…θⁿ⁻¹}で表記できること」を示せばよい。
→(2)「β’を表記するθ形式のθの係数が0でないこと」を示せばよい。
→(3){1 θ² θ³…θⁿ⁻¹}によって表記されないβ’が存在すること」を示せばよい。

→(1) Lのすべての元は{1 θ θ² θ³…θⁿ⁻¹}によって表記される。(1)がみたされていればこの式のθを{1 β’θ² θ³…θⁿ⁻¹}に置き換える変形が可能である。したがってLのすべての元が{1 β’θ² θ³…θⁿ⁻¹}で表記できることになる。
(1)→(2) (2)がみたされていれば、β’=q₀+q₁θ+q₂θ²+…(q₁≠0)と表記できる。この式をθについて整理すると、(1)の式が得られる。
(3)→    背理法を用いる。「β β²…βª⁻¹」の各数すべてが{1 θ² θ³…   θⁿ⁻¹}で表記されたとする。θを表記するβ形式の各項「β β²…   βª⁻¹」を{1 θ² θ³…θⁿ⁻¹}に置き換えていくと、θを表記するθ形式――θとは見かけ上異なる――が得られる。これはθ形式による表記の一意性に矛盾する。

次に{1 β’θ² θ³…θⁿ⁻¹}によるLの元の表記が一意に定まることを確認する。
 背理法を用いる。{1 β’θ² θ³…θⁿ⁻¹}によって2通りの表記をもつLの元が存在すると仮定する。
 ここでこの2通りの表記について①β’の係数が等しい場合と②β’の係数が異なる場合について場合分けする。
まず①の場合、2式を引き算すると0を表記する{1 θ² θ³…θⁿ⁻¹}が得られる。したがって0に関するθ形式の一意性から①は起こりえないことが導かれる。
次に②の場合、2式を引き算すると、β’の係数は0にならない。そこでこの式をβ’について整理すると、β’を表記する{1 θ² θ³…θⁿ⁻¹}が得られるが、これはβ’の選び方に反する。β’の選び方から②も起こりえないことが導かれた。
                                 ■


(定理6 次元の積公式)
Q→M→Lを代数的拡大列とする。Q→Mの拡大次数をа、M→Lの拡大次数をnとするとき、Q→Lの拡大次数はanである。

証明)代数的拡大列Q→M→Lにおいて、Q→M、M→Lの原始元をそれぞれα、βとする。また、αのQ上最小多項式、βのM上最小多項式の次数をそれぞれа、nとする。「1   α α² α³…αª⁻¹」「1 β β² β³…βⁿ⁻¹」の元を1個ずつ選び積をつくると、ahn個の積ができる。
(1)「これらan個の数に有理数をかけて足し合わせたan項の式によってLのすべての元が一意的に表記されること」を示そう。定理5により、Lのすべての元を一意的に表記できる式の項数は一意に定まることが保証されている。したがって、(1)からLの拡大次数がan次であることが導かれる。

以下は、定理3の証明とまったく同様の流れをたどるので、概要のみのべることにする。
「1 β β² β³…βⁿ⁻¹」の各数にQ(α)の元をかけて足し合わせた式をQ(α)上のβ形式とよぶことにする。
このとき「Q(α)上のβ形式で表記できる数の集合」は四則演算について閉じており、体になっている(※50)。そのため、L=「Q(α)上のβ形式で表記できる数の集合」が成り立つ。また、Q(α)の元のα形式による表記は一意に定まる。したがって、Lの各元はα形式上のβ形式によって一意的に表記される。この式を展開すると、(1)の条件をみたすаn項の式となる。                      ■


§2.3 ガロア拡大関連証明
定理7、定理9、定理8の順に証明を述べる。
(定理7)
Q→M→Lを代数的拡大列とし、Lをガロア拡大体とする。このとき、M→Lもガロア拡大である。

証明)Lの任意の元をαとする。仮定によりαの全Q上共役解はLに含まれている。定理7を示すには、αの全M上共役解がLに含まれていることを示せばよい。式にすると「αの全Q上共役解」⊇「αの全M上共役解」…①が必要となる。
Q⊂Mより、αのQ上最小多項式は、M上の式でもある。アーベルの既約定理(定理1’)をM上で用いると①が得られる。                     ■


(定理9 対称式の基本定理)
 任意の対称式は、基本対称式化可能である。
 ただし、基本対称式化とはn変数の対称式について、式中に含まれる文字をn変数の基本対称式にまとめる変形をさしている。

証明には対称式の変数・次数に関する二重帰納法を用いる。

 まず対称式の変数・次数の意味について説明する。
 対称式の変数とは、対称式に含まれる文字の個数をさしている。たとえばXYZの変数は3である。
 また、1つの項のすべての文字のべき指数の和を次数という。X²Y²Z²の次数は6である。
通常の多項式の場合と同様に、各項の次数の中で最大の数をその式の次数という。X²Y²Z²+XYZの次数も6である。

一般にn変数の基本対称式はn個存在する。その次数は1からnまでの各数である。n-1変数の基本対称式とn変数の基本対称式について、次数が等しいものを「対応している」と表現することにする。(※51)では、この対応関係について例示している。証明にはこの対応関係を用いることになる。

証明)まず、変数1の対称式は、次数を問わず基本対称式化されている。また次数1の対称式は変数を問わず、基本対称式化可能である。

次に「変数m未満・次数n以下の対称式が基本対称式化可能であること」と「変数m以下・次数n未満の対称式が基本対称式化可能であること」を仮定して、「変数m・次数nの対称式が基本対称式化可能であること」を確認する。

変数m・次数nの対称式f(X Y Z…)について、以下の手順①~③で対称式gをつくる。このgの作り方については、(※52)で実例を挙げている。

①任意の文字の1つrに0を代入し、変数m-1の対称式f’に変える。
②帰納法の仮定を用いて、f’を基本対称式化する。
③式中のm-1変数の基本対称式について、rを加えてそれぞれを「対応する」m変数の基本対称式に直し、得た式をgとする。

gはその作り方より基本対称式化された式である。
またf、f’、gの次数については、degf≧degf’=deg g…①が成り立つ。degf’=deg gは対応する基本対称式の次数が等しいことによる。

さて、fとgはrに0を代入するとf’になるという共通点をもつ。したがってf-gのすべての項の因数にrが含まれており、f-gはrで割り切ることができる。rは対称式に含まれる任意の文字なので、f-gは基本対称式(XYZ…)で割り切れる。その商をhとするとdegh<deg(f-g)≦degfより、hの次数はn未満である。なお、deg(f-g)≦degfのところで①を用いている。
f-g=(XYZ…)hより、f=(XYZ…)h+g。帰納法の仮定によりhは基本対称式化可能であり、gが基本対称式化された式であることとあわせて、fが基本対称式化可能であることが示された(※53)。                   ■


(定理8 ガロア拡大体の十分条件)
代数的拡大体Lの原始元をθとする。θの全Q上共役解がLに含まれているとき、Lはガロア拡大体である。

 証明)Lの任意の元をαとし、そのθ形式をα=А(θ)とする。αの全Q上共役解がLに含まれていることを示せばよい。

 θのQ上共役解の集合を「θ=θ₁ θ₂ θ₃…」とすると、仮定によりこの集合の元はすべてLに含まれている。したがって「A(θ₁) A(θ₂) A(θ₃)…」∈Lである。

ここで以下の式を考える。
(X-A(θ₁))(X-A(θ₂))(X-A(θ₃))…=0…①
この①式は「θ₁ θ₂ θ₃…」に関する対称式になっているので、係数は「θ₁ θ₂ θ₃…」について基本対称式化可能である。したがって、①式はA(θ)を解にもつQ上の式である。アーベルの既約定理(定理1)より、αの全Q上共役解は「A(θ₁) A(θ₂) A(θ₃)…」の中に含まれている。

あわせて、αの全Q上共役解がLに含まれていることが示された。    ■
                                     


§2.4 ガロア群関連証明
定理11、13を証明する。
(定理11)
 ガロア拡大体Lの原始元θをその全Q上共役解に置き換える置換の集合をMとする。
Mの任意の2つの元をg:θ→g(θ)、h:θ→h(θ)とするときg・h:θ→g(h(θ))と定めると、Mは群の公理をみたし群になる。

 以下、θのQ上最小多項式をf(x)=0とする。
 証明)群の公理①~④について順に確認していく。

 この集合が①「定められた演算で閉じている」ことについては、g(h(θ))がf(X)=0の解であること、すなわちf{(g(h(θ))}=0を示せばよい。
 f(g(θ))=0にアーベルの既約定理を適用すると、f{g(h(θ))}=0が得られる。

 ②「単位元の存在」については、恒等置換θ→θがその役割を果たす。

 次に③「逆元の存在」を確認する。ガロア群Gの元を「g₁ g₂ g₃…」とし、θの任意のQ上共役解をθ’とする。θ→θ’の逆元の存在を示すには、θ∈「g₁(θ’) g₂(θ’) g₃(θ’)…」を確認すればよい。
まず①の結果より「g₁(θ’) g₂(θ’) g₃(θ’)…」はいずれもf(X)=0の
解である。
 また、アーベルの既約定理(定理1)よりg(θ’)=g’(θ’)ならばg(θ)=g’(θ)、対偶にかえてg(θ)≠g’(θ)ならばg(θ’)≠g’(θ’)である。したがって、「g₁(θ’) g₂(θ’) g₃(θ’)…」の中に同一の元は含まれない。この中にはf(x)=0の解すべてが含まれており、θ∈「g₁(θ’) g₂(θ’) g₃(θ’)…」が得られた。
 θ=g(θ’)をみたすgが、θ→θ’の逆元となる。
 なお、g⁻1・g=eならば、g・g⁻¹=eも成り立つことについては(※54)で確認している。 

 最後に④「結合法則をみたしている」ことについて述べる。
 f・g:θ→f(g(θ))である。f(g(θ))にさらにθ→h(θ)の置換を施すと、f(g(h(θ)))に変わる。したがって(f・g)・h:θ→f(g(h(θ)))である。
 またg・h:θ→g(h(θ))である。f(θ)にθ→g(h(θ))の置換を施すと、f(g(h(θ)))に変わる。したがってf・(g・h):θ→f(g(h(θ)))である。
 あわせて(f・g)・h=f・(g・h)が得られた。         ■
                               

(定理13)
ガロア群の構造は原始元の選び方によらず一意に定まる。

証明)ガロア拡大体Lの異なる原始元をθ、βとする。θ、βを原始元とみた際のガロア群をそれぞれG、G’としてGとG’が同型であることを示そう。

βのθ形式をβ=B(θ)とし、θのQ上共役解の集合を「θ=θ₁ θ₂ θ₃…」
とする。ここで以下の①式をつくる。
 (X-B(θ))(X-B(θ₂))(X-B(θ₃))…=0…①
対称式の基本定理より、①式はβを解にもつQ上多項式である。次数の比較から、この式がβのQ上最小多項式である。

 そこでGの元f:θ→f(θ)に対し、これと対応するG’の元f’を「β→f’(β)」=「B(θ)→B(f(θ))」が成り立つように選んでいく。これにより、GとG’の各元に1対1の対応がつく。

 次に、この1対1の対応が演算の結果に保存されることを確認する。f・gとf’・g’が対応していることを示すには、f’(g’(B(θ)))=B(f(g(θ))を示せばよい。
 f’(B(θ))=B(f(θ))にアーベルの既約定理を適用して、θ→g(θ)を施すと
f’(B(g(θ)))=B(f(g(θ)))。B(g(θ))=g’(B(θ))より、求める等式が得られた。                            ■
 

 §2.5 最小分解体関連証明
定理15~定理18、定理14の順に証明を述べる。
(定理15)
 有理数係数f(X)=0の最小分解体Lはガロア拡大体である。

証明) Lの原始元をθとする。その任意のQ上共役解θ’がLに含まれていることを示せばよい。
 f(x)=0の解を「α₁ α₂ α₃…」とし、各解のθ形式を「A₁(θ) A₂(θ) A₃(θ)…」とする。
 Lはf(x)=0の最小分解体なので、その解のみ――解の一部もしくは全部――を原始元とする体の拡大列が存在する。したがって原始元θは(α₁ α₂ α₃…)形式で表記される。θを表記する(α₁ α₂ α₃…)形式を{α₁ α₂ α₃…}と表記することにする。
このとき、以下の等式が成り立つ。
 θ={α₁ α₂ α₃…}={A₁(θ) A₂(θ) A₃(θ)…}
このQ上の等式はアーベルの既約定理により以下のように書き換えられる。
 θ’={A₁(θ’) A₂(θ’) A₃(θ’)…}
ここで再びアーベルの既約定理を用いると「A₁(θ’) A₂(θ’) A₃(θ’)…」がいずれもf(x)=0の解であることが得られる。
したがってθ’はf(x)=0の解と有理数の式で表記できるのでLの元である。原始元θの任意のQ上共役解がLに含まれており、Lはガロア拡大体の十分条件をみたしている。                               ■


(定理16)
有理数係数n次方程式f(X)=0の最小分解体Lのガロア群は、n次対称群の部分群と同型である。
 ただし対称群の演算については、fとgの積をf・g:(123…n)→「(123…n)にfの置換を施した後、gの置換を施した結果」と定義する。

 証明)Lの原始元をθ、ガロア群をGとする。
 定理15の証明のときと同様に、f(x)=0の解を「α₁ α₂ α₃…」とし、θ={α₁ α₂ α₃…}={A₁(θ) A₂(θ) A₃(θ)…}とする。

 Gの任意の元をgとする。このとき「A₁(g(θ)) A₂(g(θ)) A₃(g(θ))…」はいずれも異なるf(X)=0の解である(定理11証明参照)。したがってGの元の置換によって、解はシャッフルされることになる。

 次に、Gの元g、hについてg≠hならば解のシャッフルのされ方が異なることを背理法を用いて確認する。

gとhによる解のシャッフルが同一ならば、{A₁(g(θ)) A₂(g(θ)) A₃(g(θ))…}={A₁(h(θ)) A₂(h(θ)) A₃(h(θ))…}が成り立つ。

一方θ={A₁(θ) A₂(θ) A₃(θ)…}にアーベルの既約定理を適用してθ→g(θ)、θ→h(θ)の置換を施すと、g(θ)={A₁(g(θ)) A₂(g(θ)) A₃(g(θ))…}、h(θ)={A₁(h(θ)) A₂(h(θ)) A₃(h(θ))…}がそれぞれ得られる。

あわせて、gとhによる解のシャッフルが同一であるときg(θ)=h(θ)、すなわちg=hであることが示された。対偶にかえてg≠hならば解のシャッフルのされ方は異なる。

上記から、ガロア群の元とn次対称群の部分群の元に1対1の対応がつけられる。
たとえば、「A₁(g(θ) A₂(g(θ)) A₃(g(θ))」=「α₁ α₃ α₂」ならばgと(123)→(132)を対応させることになる。

最後にこの1対1の対応が演算の結果に保存されることを示そう。
ガロア群Gの元g、hに対して、これらと対応するn次対称群の元をg’、h’とする。g・hと、g’・h’が対応していることを示せばよい。
g・hによりf(x)=0の解は「A₁(θ) A₂(θ) A₃(θ)…」→「A₁(g(θ)) A₂(g(θ)) A₃(g(θ))…」→「A₁(g(h(θ))) A₂(g(h(θ))) A₃(g(h(θ)))…」とシャッフルされる。したがってg’の置換が施された状態で、さらにh’の置換が施されることになる。対称群の演算の定義によりこの結果はg’・h’の結果に一致する。                            ■


 (定理17)
有理数係数f(X)=0が複素数θを解にもつとき、その複素共役θ’も解になる。

証明)複素数の計算については、次の①~③が成り立つ。
①α・βとα’・β’は複素共役関係にある。式にすると(a+bi)(c+di)と
(a-bi)(c-di)が複素共役関係ということになる。
②実数cについてcαとcα’は複素共役関係にある。式にするとc(a+bi)と
c(a-bi)が複素共役関係ということになる。
③α+βとα’+β’は複素共役関係にある。式にすると(a+bi)+(c+di)と
(a-bi)+(c-di)が複素共役関係ということになる。

上記の①~③を用いて、f(θ)=0からf(θ’)=0を導こう。①よりθのn乗とθ’のn乗が、②よりf(θ)とf(θ’)の各項が、③よりf(θ)とf(θ’)が、それぞれ複素共役関係にあることが得られる。
 0の複素共役は0なので、f(θ’)=0が示された。      ■

(定理18 コーシーの定理)
群Gの位数をnとし、その任意の素因数をpとする。このときGには位数pの元が含まれている。

証明)Gの元について、その積が単位元eとなるようなp個の元の選び方を数える。ただし同一の元を複数回選ぶことを認め、また選ぶ順序が異なるものは異なる選び方としてカウントするものとする。
 このとき(1)「選び方はnの(p-1)乗通りである」。nはpの倍数なので、nの(p-1)乗はpの倍数である。

 次にp個の元の選び方の中で、異なる複数の元を含む選び方を取り除いていく。(2)「異なる複数の元を含むような選び方は(pの倍数)通りである」。
 
 あわせて、単一の元をp乗して単位元eにする方法は、0通りもしくは「pの倍数」通りのいずれかであることが得られた。eのp乗がeであることから、このような選び方は0通りではありえない。したがってpを位数とする元が、最少でもp-1個存在することになり、位数pの元の存在が示された。      

なお、証明中の(1)、(2)については(※55)で補足している。           ■           
  

(定理14)
 既約5次方程式f(ⅹ)=0が実数解を3個もつとき、その最小分解体Lのガロア群Gは5次対称群S₅になる。

証明に用いる互換という用語については(※26)で述べている。また、(※56)では互換に関するいくつかの計算法則をまとめている。

証明) 証明の概要は以下のようになる。
→(1)「GにS₅の互換10個すべてが含まれていること」を示せばよい。
→(2)「Gに、5文字が2回ずつ出てくるような5個の互換が含まれていること」を示せばよい。
→(3)「Gに、1つの互換と位数5の元が含まれていること」を示せばよい。
 
 証明の変型過程について補足する。なお以下の説明は、「а b c d e」にあてはめる数字を問わず成立する。
→(1)(※57)で述べるように、S₅の任意の元は互換の積によって表記できる。したがって全10個の互換からGは生成される。
(1)→(2)互換については(аb)(bc)(аb)=(аc)という等式変型が可能である。したがって(аb)、(bc)、(cd)、(de)、(аe)という5個の互換から残る5個の互換も得られる。
(2)→(3)互換を(аb)、位数5の元をgとする。このとき(аb)、g(аb)g⁻¹、g(аb)g⁻²、g(аb)g⁻³,g(аb)g⁻⁴が(2)の条件をみたす5個の互換となる。                ■


§2.6 ガロア対応関連証明
(定理20)
ガロア拡大体Lとその中間体Mの拡大次数をそれぞれl、mとする。このとき、Mの固
定群の位数はl÷mになる。

 証明)M、Lの原始元をそれぞれα、θとする。このときM(θ)=Lが成り立つ。
 また、αのQ上最小多項式をf(X)、θのM上最小多項式をg(α X)とする。
 
  αのQ上共役解を「α=α₁ α₂ α₃…」として、以下の式をつくる。
 g(α X)g(α₂ X)g(α₃ X)…=0…①
この①式は対称式の基本定理よりθを解にもつQ上の式である。次数の関係からこの式がθのQ上最小多項式であり、①式は重解をもたない。

さて、θのQ上共役解のうち、g(α x)=0の解となるものをθ’と表記することにする。
g(A(θ) θ)=0にアーベルの既約定理を適用して、g(A(θ’) θ’)=0と書き換えられる。ここでA(θ’)は「α=α₁ α₂ α₃…」のいずれかであるが、上記の式のうちθ’を解にもつのはg(α X)=0のみである。したがってA(θ’)=A(θ)が得られた。

次に、θのQ上共役解のうち、g(α x)=0の解でないものをθ”と表記することにする。
さきほどと同様にg(A(θ”) θ”)=0と変形すると、A(θ)≠A(θ”)が得られる。

あわせて、「A(θ)=A(θ’)が成り立つこと」と「θ’がg(α x)=0の解になること」が同値であることが示された。したがって「α=A(θ)に不変に作用する置換の個数」と「g(α x)=0の次数」が一致する。
Mの固定群はαの固定部分群と一致するので、その位数はM→Lの拡大次数l÷mである。                            ■


 (定理21)
 ガロア拡大体Lの拡大次数をlとし、そのガロア群をGとする。Gの部分群Hの位数をhとするとき、Hの固定体となる中間体Mの拡大次数はl÷hである。

証明)M、Lの原始元をα、θとし、θのM上最小多項式をf(α x)=0とする。MはHの固定体なので、Hはα=A(θ)に不変に作用する。
定理20の証明でみたように、「A(θ)=A(θ’)が成り立つこと」と「θ’がf(α X)
=0の解であること」は同値である。Hの元を「e=h₁ h₂ h₃…」とすれば、「h₁(θ) h₂(θ) h₃(θ)…」はいずれもf(α X)=0の解である。反対にf(α x)=0の解は「h₁(θ) h₂(θ) h₃(θ)…」で尽きている。
したがttHの位数とM→Lの拡大次数が一致する。次元の積公式(定理6)より、Mの拡大次数はl÷hである。
                                  ■

 証明については(※58)で補足している。

§2.7 可解群関連証明
定理23、定理26、定理24~25の順に証明を述べる。

(定理23)
 ガロア拡大体Lに関する代数的拡大列をQ →M→Lとし、Lのガロア群をGとする。
このとき①「Q→Mがガロア拡大であること」と②「Mの固定群HがGの正規部分群であること」は同値である。

 証明)L、Mの原始元をそれぞれθ、αとし、αのθ形式をα=A(θ)とする。またG、Hの任意の元をそれぞれg、hと表記することにする。
証明は以下の同値変型から得られる。

  (1)「Mがガロア拡大体である」
 ⇔(2)「A(g(θ))∈M」
 ⇔(3)「A(g(θ))=A(g(h(θ)))が成り立つ」
 ⇔(4)「A(θ)=A(ghg⁻¹(θ))が成り立つ」
 ⇔(5)「ghg⁻¹∈H」
 ⇔(6)「HがGの正規部分群である」
  
各同値変形の詳細については(※59)で補足している。       ■
 

(定理26)
 ガロア拡大体Lの原始元をθ、ガロア群をGとする。Gの任意の2つの元をf、gとし、Lの任意の元αのθ形式をA(θ)とする。またαの固定部分群をHとする。
このとき、①「A (f(θ))=A (g(θ))が成り立つこと」と②「f、gがHによる同一の(右)剰余類に含まれていること」は同値である。
したがって、A(θ)の軌道とHによる剰余類には1対1の対応がつく。

証明)証明は以下の同値変型による。
(1)「A (f(θ))=A (g(θ))が成り立つ」
   ⇔(2)「A (θ)=A (g(f⁻¹(θ))が成り立つ」
   ⇔(3)「gf⁻¹∈H」
   ⇔(4)「g∈Hf」
   ⇔(5)「f、gが同一の剰余類Hfに含まれている」      ■

                                  
 (定理24)
 ガロア拡大体Lに関するガロア拡大列をQ→M→Lとする。また、Lのガロア群をGとし、Mの固定群をHとする。
 このとき、「Q→Mのガロア群」と「剰余類群G/H」は同型である。

 証明)M、Lの原始元をα、θとし、α=A(θ)とする。αにGを作用させた際の軌道は、αの全Q上共役解に一致する。また、αの固定部分群はHである。
 したがって定理26より、Mのガロア群と剰余類群G/Hの各元には1対1の対応がつく。

具体的な対応関係は以下のようになる。
剰余類群G/Hの任意の類をFとし、Fに含まれる任意の元をfとする。「剰余類群G/H」の元Fに対し、「α→f’(α)」=「A(θ)→A(f(θ))」が成り立つよう「Q→Mのガロア群」の元f’を対応させればよい。
 
 次にこの対応が演算の結果に保存されることを確認する。
 F₁・F₂とf’₁・f’₂が対応していることを示すには、f’₁(f’₂(A(θ)))=A(f₁(f₂(θ)))の成立を示せばよい。
 f₁(A(θ))=f’₁(A(θ))にアーベルの既約定理を適用してθ→f₂(θ)を施すと、 f₁(A(f₂(θ)))=f’₁(A(f₂(θ))が得られる。A(f₂(θ))=f₂(A(θ))より、f’₁(f’₂(A(θ)))=A(f₁(f₂(θ)))が示された。   ■


(定理25)
 ガロア拡大体Lに関する代数的拡大列をQ→M→Lとし、Mの固定群をHとする。このときM→Lのガロア群はHである。

証明)M、Lの原始元をそれぞれα、θとし、θのM上最小多項式をf(α X)とする。このときM(θ)=Lが成り立ち、θはM→Lの原始元でもある(※8参照)。
例によって、αのθ形式をα=A(θ)とする。
定理20の証明でもみたように、θのQ上共役解θ’について、①「f(α θ’)=0が成り立つこと」と②「A(θ)=A(θ’)が成り立つこと」は同値である。①→②からH⊇「M→Lのガロア群」が、②→①からH⊆「M→Lのガロア群」が導かれ、あわせてH=「M→Lのガロア群」が得られる。                   ■


 §2.8 ガロアの主定理証明
定理29~30、定理27、定理31~32の順に証明を述べる。

(定理29)
5次交代群A₅の位数は60か120のいずれかである。

証明)A₅の位数が120でない場合、60であることを確認する。

A₅は5次対称群S₅の部分群である。S₅の元のうちA₅に含まれない元の集合をS₅-A₅と表記することにする。

ラグランジュの定理(※34参照)により、A₅の位数は120の約数「120、60、40、30…」のいずれかである。したがって、A₅⊂S₅のとき、[S₅-A₅の位数]≧[A₅の位数]が成り立つ。

またS₅-A₅の元の1つにS₅-A₅を‘作用’させると、いずれも相異なるA₅の元に変化する(※60)。したがって[S₅-A₅の位数]≦[A₅の位数]が得られる。

あわせて、A₅⊂S₅ならば[S₅-A₅の位数]=[A₅の位数]が成り立ち、A₅の位数は60である。                              ■
 

(定理30)
5次交代群A₅は可解群ではない。

証明には、交換子・交換子群という用語を用いる。群Gの任意の元x、yを用いてx⁻¹y⁻¹xyという形で表記できる元をGの交換子という。また、Gに含まれるすべての交換子によって生成される群をGの交換子群という。すなわち、Gの交換子すべてを含む最小の群がGの交換子群ということになる。交換子群が、交換子のみからなるとは限らないことに注意されたい。

証明)A₅の正規部分群のなかで、剰余類群が可換群となる部分群をNとする。定理30を示すにはNにあてはまる群はA₅のみであることを示せばよい。A₅⊇Nは明らかなのでA₅⊆Nを示そう。

 A₅/Nは可換群という仮定より、A₅の元x、yについて(xN)(yN)=(yN)(xN)が成り立つ。等式を変形すると、x⁻¹y⁻¹xy∈Nが導かれる。したがってNには、A₅の任意の交換子が含まれており、N⊇「A₅の交換子群」が得られる。

 またすぐ後に示すように、(1)「A₅の任意の元は、交換子の積の形で表記することができる」。したがって、A₅⊆「A₅の交換子群」。A₅⊇「A₅の交換子群」は明らかなので、A₅=「A₅の交換子群」が成り立つ。

 あわせてN⊇「A₅の交換子群」=A₅より、A₅⊆Nが得られた。

最後に(1)を確認しよう。なお以下の互換に関する等式変形は(※56)の結果を用いている。
A₅の元は偶数個の互換の積の形に書き表せる。したがって2個の互換の積が交換子の積の形で表記できることを示せばよい。
2個の互換の積のうち(аb)(bc)のように、文字の1つが重複するものをAタイプの積、(аb)(cd)のように文字が重複しないものをBタイプの積とよぶことにする。
(аb)(cd)={(аc)(bc)}{(аc)(cd)}よりBタイプの積は、Aタイプの積をかけあわせた形で表記できる。
またAタイプの積については(аb)(аc)=(bc)(аc)(bc)(аc)が成り立つ。したがってAタイプの積は交換子である。
あわせて、A₅の任意の元が交換子の積の形で表記できることが示された。
                                  ■


(定理27)
5次対称群S₅は可解群ではない。

証明)S₅の正規部分群のなかで、剰余類群が可換群となる部分群をNとする。定理27 を示すにはNにあてはまる群はS₅もしくはA₅であることを示せばよい。以下、A₅⊆Nを示そう。

 S₅/Nは可換群という仮定より、S₅の元x、yについて(xN)(yN)=(yN)(xN)が成り立つ。等式を変形すると、x⁻¹y⁻¹xy∈Nが導かれる。したがってNには、S₅の任意の交換子が含まれており、N⊇「S₅の交換子群」。「S₅の交換子群」⊇「A₅の交換子群」=A₅とあわせて、N⊇A₅が得られる。

 N⊃A₅の場合は定理29よりN=S₅なので、NがS₅もしくはA₅であることが示された。              
                                   ■
 

(定理31)
「ガロア拡大体・可解群」のLの中間体Mがガロア拡大体であるとき、Mも「ガロア拡大体・可解群」である。

証明)Lの原始元をθ、ガロア群をGとする。また、Mの固定群をHとする。このときMのガロア群は剰余類群G/Hと同型になる。以下、Mのガロア群が可解群であることを示そう。

 まず、表記について以下の2つの取り決めをする。
 2つの群G、G’のすべての元によって生成される群をG・G’と表記することにする。このとき、G・G’⊇GかつG・G’⊇G’が成り立つ。
 また群Gの固定体を[]を用いて[G]と表記することにする。上記の設定では、[G]=Q、[H]=Mである。

 仮定により、Gは可解群である。Gの可解列をG⊃A⊃B⊃C⊃…⊃eとする。このとき各剰余類群「G/A A/B B/C…」は可換群となる。
 またG・H⊇A・H⊇B・H⊇C・H⊇…⊇e・Hは正規列となる(※61)。したがって、[G・H]→[A・H]→[B・H]→[C・H]→…→[e・H]=Mはガロア拡大列となる。Mのガロア群が可解群であることを示すには、各拡大のガロア群が可換群であることを示せばよい。

 以下、各拡大のガロア群が可換群であることを確認する。[A・H]→[B・H]のガロア群に話を絞って証明を進めるが、その他の拡大についてもまったく同様の議論が成立する。

 一般にLの任意の元α=A(θ)に、Mの固定群Hを作用させると、その軌道はαのM上共役解と一致する(※62)。[A・H]→[B・H]の原始元をβとすれば、β=B(θ)はA・Hの作用により、[A・H]上最小多項式の全共役解に置換される。したがってこの作用による置換が、[A・H]→[B・H]のガロア群となる。

 ここで、βはMの元なのでHの作用で不変である。したがって、A・HのかわりにAを作用させても得られる軌道は変わらない。
 また、B・H⊇Bより[B・H]⊆[B]が成り立つ。したがってβ∈[B]より、βはBの作用により不変である。したがって剰余類群A/Bの剰余類から代表元を1つずつ選んで作用させても、やはり軌道は変わらない(※63)。

 このように、剰余類群の各剰余類の元を1つずつ選んで作用させることを「剰余類群を作用させる」と表現することにする。剰余類群を作用させる際にも、軌道と固定部分群による剰余類群に1対1の対応がつくことについては(※64)で確認している。

さて、可換群では任意の部分群による剰余類群が可換群となる。剰余類群A/Bは可換群
であったから、その剰余類群は可換群である。このことを用いるとA/Bによる作用の軌道「[A・H]→[B・H]のガロア群」と可換群の各元の間に1対1の対応をつけることが可能である。
 
具体的な対応関係は以下のようになる。
A/Bの作用によるβの固定部分群をH/Bとし、剰余類(A/B)/(H/B)の類Fに含まれる任意の元をfと表記することにする。このとき「b→f’(b)」=「B(θ)→B(f(θ))」が成り立つよう、Fとf’を対応させる。

最後にこの対応が演算の結果に保存されることを確認しよう。F₁・F₂とf₁’・f’₂が対応していることを示すには、f₁’(f’₂(B(θ)))=B(f₁(f₂(θ)))が成り立つことを示せばよい。
f’₁(B(θ))=B(f₁(θ))にアーベルの既約定理を適用して、θ→f₂(θ)を施すとf’₁(B(f₂(θ))=B(f₁(f₂(θ))が得られる。B(f₂(θ))=f’₂(B(θ))なので求める等式が得られた。

以上で、「[A・H]→[B・H]のガロア群」が可換群であることが示された。その他各拡大のガロア群も同様に可換群であり、Mのガロア群は可解群である。
                                 ■
  

(定理32)
ガロア拡大列Q→M→Lにおいて、Mを1の原始n乗根を含むガロア拡大体とし、M→Lを、βを原始元とする{n次}べき根拡大とする。
このとき、Lに「βのQ上共役解を原始元とする{n次}べき根拡大」を重ねることでβの全Q上共役解を含む拡大体L’を構成できる。
ただし{n次}べき根拡大とはMの元のn乗根を原始元とする拡大を意味している(※46)。

証明)M→Lは{n次}べき根拡大なので、βはMの元のn乗根である。Mの原始元をαとすれば、βを解にもつM上の式xⁿ-f(α)=0が存在する。
 αのQ上共役解の集合を「α=α₁ α₂ α₃…」とする。Mはガロア拡大体なので、「f(α₁) f(α₂) f(α₃)…」∈Mである。ここで以下の式をつくる。

{xⁿ-f(α₁)}{xⁿ-f(α₂)}{xⁿ-f(α₃)}…=0… ①
対称式の基本定理(定理9)より、①式はβを解にもつQ上の式である。アーベルの既約定理により、βの任意のQ上共役解β’は①式の解になる。

またM⊂Lより、Mの元はLの元でもある。したがって、「f(α₁) f(α₂) f(α₃)…」∈Lより、Lにこれらのn乗根を加える拡大は{n次}べき根拡大である。1の原始n乗根がLに含まれていることから、これらの{n次}べき根拡大によってβの全Q上共役解を含む拡大体L’が得られる。                     ■


第3章 証明補完

(※1)まずθのQ上最小多項式f(X)がQ上既約であることを確認する。f(X)が
Q上可約ならばf(X)=g(X)h(X)と分解される。f(θ)=0より、g(θ)=0またはh(θ)=0となるが、θの最小多項式がf(X)であることに矛盾する。
また、θのQ上最小多項式となる原始多項式――最高次の係数が1である式――複数存在すると仮定し、それらをf(X)、g(X)とする。このとき、f(X)-g(X)=0はθを解にもつが、この式の次数はf(X)、g(X)を下回りやはり矛盾が生じる。

(※2)アーベルの既約定理の応用法について補足する。
 Q上の2式f(X)、g(X)についてf(θ)=g(θ)が成り立つとする。このときf(X)-g(X)=0はθを解に持つQ上の式である。したがってθの任意のQ上共役解θ’がこの式の解となる。f(θ’)-g(θ’)=0すなわちf(θ’)=g(θ’)が成り立つ。本書では、このf(θ)=g(θ)からf(θ’)=g(θ’)への書き換えを多用することになる。

(※3)2つの整数а、bが共通の素因数pをもたないとき、2数を互いに素という。
 同様にQ上の2式f(X)、g(X)が共通の因数となるQ上の式をもたないとき、2   
 式をQ上互いに素という。

(※4)体・拡大体の意味について補足する。ある集合Mが四則演算で閉じているとき、Mを体という。すなわち、Mに含まれる任意の2つの元による四則演算の結果がMの元であるとき、Mは体である。体のもっとも身近な例として有理数体Qが挙げられる。
  また、有理数体に新たに数を加えることで体を拡大することができる。拡大された体を拡大体という。(※2)で述べた最小多項式の既約性、一意性は任意の拡大体上で成立する。
  
(※5)θ=³√2とすると、θはQ上既約な式x³-2=0の解である。したがって³√2形式は、有理数а、b、cを用いてа+b³√2+c(³√2)²と表記された式である。
 
(※6)定理3の証明によってQ(α)が体になっていることが示される。したがって、
 Q(α)上の多項式でも除法の原理が成立する。定理2の証明では、互いに素な2式について除法の原理による変形で一方が有理数の場合に証明を帰着させた。定理2’の証明でも同様に一方がQ(α)上の定数――α形式―の場合に証明を帰着させることが可能である。α形式に関する式h(α)x=1が解をもつことから定理2’の成立が導かれる。

(※7)代数的数全体からなる集合は体になっていることが知られており、この体を代数体という。一方、代数的拡大体は有理数体Qに有限個の代数的数を加えることで構成した体をさしている。したがって代数的拡大体は代数体の部分集合にすぎない。

(※8)M→Lの原始元について補足する。
 Q→M→Lを代数的拡大列とし、Lの原始元をθとする。このときθのM上最小多項式の次数がM→Lの拡大次数となる。
以下、M(θ)=Lが成り立つことを示そう。
M(θ)⊇L=Q(θ)は明らか。また Mの元はLの元でもあるので有理数とθの四則演算で表記できる。したがってM(θ)の元は有理数とθの四則演算で表記できるので、M(θ)⊆L。あわせてM(θ)=Lが得られた。

(※9)Q→M、M→Lがともにガロア拡大であるとする。このときLの任意の元の全M上共役解はLに含まれている。しかし全Q上共役解がLに含まれているとは限らず、Lがガロア拡大体であるかどうかは定まらない。

(※10)まず対称式の意味について説明する。もっとも簡単な対称式の例としてx+y
が挙げられる。x+y=y+xから分かるように、式中のx、yを入れ替える操作をおこなっても式自体は変わらない。一般に、n変数の式がn!通りのシャッフルすべてで不変であるとき、この式をn変数の対称式という。
  また「α₁、α₂、α₃」を解とする3次方程式の「2次係数~定数」は3解を用いて「α₁+α₂+α₃ α₁α₂+α₂α₃+α₁α₃ α₁α₂α₃」と表記される。この3式が3変数の基本対称式である。一般にn次方程式の「n-1次係数~定数」をn個の解を用いて表記した式をn変数の基本対称式という。したがってQ上方程式のすべての解からなる基本対称式の値は有理数となる。このことが基本対称式が重視される理由である。

(※11)可解な方程式とは、四則演算と根号「√ ³√ ⁴√…」を用いて解のすべてを
表記できる式を意味する。可解でない5次方程式が存在することを示すことで、5次以上の方程式に解の公式が存在しないことが示される。

(※12)5次方程式f(x)=0の解の1つαが根号で表わせたとする。
このときf(x)÷(x-α)=h(α X)とすると、4次式h(α X)の各次係数は根号を用いて表記することが可能である。h(α X)に4次方程式の解の公式を適用すると、4解すべてを根号を用いて表記することができる。
あわせてf(x)=0は根号を用いて表記できる5個の解をもつことが示された。

(※13)筆者が代数学の基本定理の証明を理解しきれなかっただけの話である。

(※14)以下の1)~4)が群の公理として知られている。
1)定められた演算について閉じた集合である。
2)任意の元Xについてxe=ex=xをみたす単位元eが含まれている。
3)任意の元XについてXX⁻¹=X⁻¹X=eをみたす逆元X⁻¹が含まれている。
4)結合法則をみたしている。すなわち任意の元X、Y、Zについて(XY)Z=X(YZ)が成り立つ。

(※15)一般に合成関数は、f・g:x→g(f(x))と定義される。本書のガロア群の演算は、合成関数とは代入の順序が逆になっているので注意されたい。

(※16)以下のガロア群に関する実例は「ガロア理論の頂を踏む」に教わった。
  3次既約方程式x³-3x+1=0の3つの解は、三角関数を用いて、2Cos40°、2Cos 80°、2Cos 160°と表記できる。これらが解になっていることは、3倍角の公式Cos3θ=4Cos³θ -1を用いて確認することができる。
   ここで、α=2Cos40°、β=2Cos80°、θ=2Cos160°とおくと、β=α²-1 θ=-α²-2α+2 が成り立つ。各等式の成立は倍角の公式2Cos²θ-1=Cos2θから分かる。
  したがってQ(α)のガロア群は「f:α→α g:α→α²-1 h:α→-α²-2α+2」という3つの置換からなる。

(※17)一般には自己同型写像からなる群がガロア群と定義されている。本書では、原    
 始元の1つθを固定し、θからQ上共役解への置換の集合をガロア群とよんでいる。 
 実質的には同一の群である。

(※18)定理4の証明から分かるように、代数的拡大体Lの原始元は代数的数α、βと有理数qを用いてα+qβの形で表記される。ここでβのQ上共役解の集合を「β=β₁、β₂、β₃…」とすると、これらの各基本対称式の値は有理数となる。「qβ₁ qβ₂ qβ₃…」の各基本対称式の値も有理数であり、qβは代数的数である。あとは代数的数2数の和が代数的数であることを示せばよく、定理12に帰着する。 
 
(※19)より広く代数体は四則演算について閉じていることが知られており、代数的数による四則演算の結果は代数的数になる。したがって代数的拡大体には代数的数しか含まれていない。
  
(※20)以下、Q上既約な式f(X)=0が重解をもたないことを確認する。証明にはアーベルの既約定理を用いる。f(x)=0が重解θを持つとする。f(x)が既約ならば、θを解に持つ式g(x)はf(x)で割り切れる。対偶に変えてg(x)がf(x)を割り切らなければf(x)は既約でない。したがってθを解に持ち、f(x)より時数の低い式が構成できることを示せばよい。
 積の微分公式(f・g)’=f’・g+f・g’や(f・g・h)’=f’・g・h+f・g’・h+f・g・h’を用いる。f(x)=(x-θ)(x-θ)(x-θ₂)…を微分すると右辺の各項は(x―θ)の倍元となり、f(x)より1次低くθを解に持つ式が得られる。
 
(※21)(※20)ではQ上既約な式が重解をもたないことを確認したが、この命題は任意の拡大体Mについて成立する。このことは微分法を用いずとも確認できる。
  M上既約な式f(α X)=0が重解θをもつとする。θのQ上最小多項式g(x)はM上においてf(α X)で割り切れる。したがってg(X)=0も重解θをもつことになるが、これは(※20)の結果に反する。
  (ガロア群の位数)=(拡大次数)という等式は、任意の代数的拡大で成り立つことになる。

(※22)(123…n)というn個の数字をシャッフルする方法はn!通りである。これらn!通りのシャッフルからなる群をn次対称群という。
  対称群の演算についてはf・g:(123…n)→f(g(123…n))と定義するのが一
般的である。この定義に従えば、f・gの結果は、「gの置換を施した後をfの置換を
施した結果」と一致する。しかし、本書では対称群の演算についても、f・gの結果
と「fの置換を施した後gの置換を施した結果」が一致するよう定めている。
  本書の定義に従うと、たとえばf:(123)→(132)、g(123)→(231)とすると
き、f・g:(123)→(213)である。
  いずれの順序で演算を定義してもn次対称群は群の公理をみたし群となるが、その
確認は読者に任せる。

(※23)まず、f(x)=X⁵-6X+3がQ上既約であることを確認する。
f(x)がQ上既約でなければ、(1次式)×(4次式)もしくは(2次式)×(3次式)いずれかの分解が可能である。
  f(X)=(X+а)(X⁴+bX³+cX²+dX+e)とすると、а=±1、±3のいず
れかになる。f(X)=0が±1、±3を解にもたないことから、この分解が不可能で
あることが分かる。

  また、f(X)=(X²+аX+b)(X³+cX²+dX+e)と分解できたとする。このときb=±1、±3のいずれかである。
b=±3とするとe=±1。1次係数を比較して-6=аe+bdよりа≡0(mod 3)。2次係数を比較して0=аd+bc+eとなるが、この等式は成り立ちえない。
b=±1とするとe=±3。上と同様に1次係数の比較からd≡0(mod3)、2次係数の比較からc≡0(mod3)が導かれる。3次係数の比較から得られる0=аc+d+bが成り立たちえない。
   
   あわせてf(X)がZ上――整数係数上――既約であることが得られた。次にZ上で既約な式はQ上既約でもあることを確認する。対偶にかえてQ上既約でなければZ上でも既約でないことを示そう。
   Q上でf(X)=g(X)h(X)と分解できたとする。ただしg(X)、h(X)の各係数に含まれる分数は既約分数とする。
g(x)、h(x)の分母各数の最小公倍数をそれぞれm、nとする。このときmn・f(x)={m・g(x)}{n・h(x)}はZ上の分解である。分数の既約性より{m・g(x)}の係数の中にはmの倍数でない数が、{n・h(x)}の係数の中にはnの倍数でない数がそれぞれ含まれている。
 このとき、f(x)が整係数の式ならば次の①、②が成り立つ。
①{m・g(x)}の係数はすべてnの倍数である。
②{n・h(x)}の係数はすべてmの倍数である。

以下①を示そう。①がみたされていなければ、{m・g(x)}、{n・h(x)} の双方の係数にnの倍数でない数が含まれる。nの倍数でない数が係数となる最小の項の次数をそれぞれа₁次、a₂次とする。このとき、mn・f(x)のа₁+а₂次係数はnの倍数にならない。したがってf(x)はZ上の式ではない。対偶にかえて、f(X)がZ上の式ならば①はみたされている。②についても同様である。
  したがって{m・g(X)}÷nも{n・h(X)}÷mもZ上の式である。
f(x)=[{m・g(X)}÷n][{n・h(X)}÷m]より、Q上既約でないf(X)がZ上既約でないことが示された。 

最後に、f(x)=0の実数解が3個であることを確認する。
実数解が3個以上であることは、f(-2)=-17、f(0)=3、f(1)=-2、f(2)=23から分かる。またf(X)を微分したf’(X)=x⁴-6=0の実数解はx=   
±⁴√6の2個である。したがって、f(X)はx=±⁴√6でのみ、傾きが0になる。
あわせてf(x)=0の実数解は3個であることが得られた。

(※24)実数でない数を虚数といい、実数と虚数をあわせて複素数という。複素数а+bi(а、bは実数 iは√‐1)に対し、а-biをその複素共役という。

(※25)群Gに含まれる元の個数をGの位数という。これに対し、Gの元gについてgⁿ=eをみたす最小のnをgの位数という。

(※26)対称群の元のうち、n個の元のみをサイクルさせる置換をnサイクルの元という。たとえば(12345)→(12453)は3、4、5の3数をサイクルさせているので3サイクルの元である。nサイクルの元については、サイクルさせるn個の数字のみを取り出して表記することもある。「(12345)→(12453)」=(345)がこの表記法の一例である。
  nサイクルの元のうち、特に2サイクルの元を互換とよぶ。

(※27)3次対称群S₃の部分群は、「S₃(位数6)、H₁(位数3)、H₂~H₄(位数2)、単位群e(位数1)」の計6個であることが知られている。ガロア拡大体LがS₃をガロア群とするとき、Q→Lの間には拡大次数2の中間体M₁、拡大次数3の中間体M₂~ M₄が存在する。QとS₃、M₁とH₁、M₂~M₄とH₂~H₄、Lとeがそれぞれ対応している。

(※28)θのQ上共役解をθ’とする。Q上の2式f(x)、g(x)についてf(θ)  
=g(θ)ならばf(θ’)=g(θ’)が成り立つ。したがって「f(θ)=f(θ’)ならばg(θ)=g(θ’)」かつ「f(θ)≠f’(θ)ならばg(θ)≠g’(θ)」も成り立つ。
  このことからf(θ)、g(θ)が見かけ上異なる式であっても等号が成り立てば、これらに不変に作用するガロア群の元は一致することが分かる。したがってMの元の表記のしかたによらず、Mの固定群が一意に定まることが保証されていることになる。

(※29)固定群が群の公理をみたしていることを確認する。
  まずh₁、h₂∈Hからh₁h₂∈Hを導こう。(A(h₁(θ))=A(θ)にアーベルの既約定理を適用してθ→h₂(θ)を施すと、A(h₁(h₂(θ)))=A(h₂(θ))。A(h₂(θ))=A(θ)とあわせてA(h₁(h₂(θ)))=A(θ)よりh₁h₂∈Hが示された。Hは①「定められた演算で閉じている」。
 ②「単位元e∈H」は明らか。
  次にh∈Hからh⁻¹∈Hを導こう。(A(h(θ))=A(θ)にアーベルの既約定理
を適用してθ→h⁻¹(θ)を施すとA(θ)=A(h⁻¹(θ))が得られ、③「逆元
h⁻¹∈H」 が分かる。
また④「結合法則をみたしている」のは、ガロア群Gの部分集合であることから問題ない。

  次にHの固定体Mが四則演算で閉じていることを確認する。 
  Mの任意の元а、bについて「а+b а-b аb а÷b」∈Mを示せばよい。たとえばа÷b∈Mは以下のようにしてわかる。
  A(θ)÷B(θ)=C(θ)…①とする。このときа、b∈MよりHの任意の元hについてA(h(θ))=A(θ),B(h(θ))=B(θ)…②が成り立つ。  
 またB(θ)C(θ)=A(θ)にθ→h(θ)の置換を施しB(h(θ))C(h(θ))
=A(h(θ))より、A(h(θ))÷B(h(θ))=C(h(θ))…③。①~③あわせてC(θ)=C(h(θ))が得られる。MにはHの作用で不変なすべての元が含まれていることからC(θ)∈Mが示された。

(※30)ガロア対応が必ずしも自明な対応関係でないことを説明する。
部分群Hの固定体がMであるとき、Mのすべての元にHは不変に作用する。しかしMのすべての元に不変に作用する置換がHの元であるとは限らない。Hに含まれない元もMのすべての元に不変に作用する可能性が考えられる。
また中間体Mの固定群がHであるとき、Mのすべての元はHの作用によって不変である。しかしHの作用によって不変である元がMの元であるとは限らない。Mに含まれない元もHの作用で不変である可能性が考えられる。
  定理19を示すにはこれらの可能性を否定する必要がある。

(※31)(※27)で述べたように、3次対称群S₃は位数2の部分群H₂~H₄をもつ。H₂~H₄の固定体をそれぞれM₂~M₄とする。定理21よりM₂~M₄の拡大次数はいずれも3である。ガロア対応によりM₂~M₄の各固定群はH₂~H₄である。固定群を異にしていることからM₂~M₄は異なる3つの体である。
  次にM₂~M₄のほかに拡大次数3の中間体がないことを示そう。M₂~M₄のほかに拡大次数3の中間体M₅があると仮定する。このときM₅の固定群H₅の位数は2であり、その固定体はM₅である。H₅はH₂~H₄と固定体を異にしていることから、H₂~H₄とは異なる位数2の部分群である。
M₅が存在すれば、位数2の部分群が4個以上存在することになる。対偶にかえて位数2の部分群が3個のみであることから、M₅が存在しないことが導かれた。

(※32)体を拡大するには代数的数の添加が不可欠である。このことから中間体Mにも原始元が存在することが分かる。
  Lの拡大次数が6であるとき、その中間体Mの拡大次数は2か3であることが次元の積公式からわかる。Mの原始元の最小多項式は2次か3次であることになる。Mは無数に存在する原始元と有理数からなっている。
  
(※33)まず正規部分群について説明する。Gの部分群Hが、Gの任意の元gについてgH=HgをみたすときHをGの正規部分群という。gHとは、Hの元hを用いてghの形で表記できる元の集合を意味しており、この集合をHによる剰余類という。
gH=Hgという等式はgHとHgが集合として一致することを意味する。すなわちGの任意の元gとHの任意の元hについてgh=h’gをみたすHの元h’が存在することになる。gH=Hgを変形するとgHg⁻¹=Hより任意のg、hについてghg∈Hが成り立つ。
  またG⊃H₁⊃H₂⊃…Hn⊃eついて、「H₁がGの H₂がH₁の H₃がH₂の…」正規部分群であるとき、この列を正規列という。

(※34)剰余類gHとはGの元gとHの各元をかけあわせた積からなる集合をさす。剰余類については(Gの位数)=(Hの位数)×(剰余類の個数)が成り立つ。したがって部分群Hの位数はGの位数の約数である(ラグランジュの定理)。以下、この証明について述べる。Gの各元が重複なくいずれかの剰余類に含まれることを示せばよい。

  Hの位数をmとする。このとき各剰余類には異なるm個の元が含まれている。このことはh₁≠h₂ならばah₁≠ah₂であることから分かる。

  次に、各元の含まれる剰余類が唯一つに定まることを確認する。「g’∈g₁H、g’∈g₂Hならばg₁H=g₂H」を示せばよい。
以下g’∈gHならばg’H=gHが成り立つことを確認する。g’∈gHよりg’=ghをみたすHの元hが存在する。代入してg’H=ghH=gHが得られる。
  したがってg’∈g₁Hならばg’H=g₁H、g’∈g₂Hならばg’H=g₂Hが成り立つ。あわせて求める等式が得られた。
 
また、g∈gHよりGの各元がいずれかの剰余類に属する。以上でラグランジュの定理が示された。

  上記をふまえて剰余類群について説明する。
HをGの正規部分群とし、その剰余類をF₁、F₂とする。F₁とF₂の積、F₁・F₂を以下のように定義する。f₁∈F₁、f₂∈F₂をみたすf₁、f₂を選び、f₁・f₂の含まれる剰余類をF₁・F₂と定める。このときf₁、f₂の選び方によらず、F₁・F₂は一意に定まる。
したがって剰余類の集合にこの演算を導入し、剰余類群をつくることができる。剰余類群が群の公理をみたしていることの確認については、正規部分群の性質を用いれば容易にできる。
 
(※35)Gの任意の元x、yについてxy=yxが成り立つとき、Gを可換群という。

(※36)群Gの位数をnとする。Gに位数nの元が含まれるとき、Gを巡回群という
 巡回群の各元は生成元аを用いて「а а² а³…аⁿ=e」の形で表記される。したがって巡回群は可換群である。
  一方で可換群が巡回群であるとは限らない。このことのみをふまえれば、本書のガロア群の定義は、一般のガロア群の定義よりも多くの群を含むように思われる。しかし実際にはどちらの定義でもガロア群となる群は一致することが知られており、2つの定義に実質的な差はない。
  可解でない5次方程式の存在を示すうえでは、各剰余類群が可換群であることを条件とした方が好都合と考え、この定義にした。

(※37)ガロア拡大列Q→M→Lとは、Q→M、M→Lともにガロア拡大であることを意味している。

(※38)ガロア拡大体Lの原始元をθとし、その中間体をMとする。(※8)で示したようにM(θ)=Lが成り立つ。θはM→Lの原始元でもあり、M→Lのガロア群はθからそのM上共役解への置換の集合である。したがって、Lのガロア群の部分群がそのままM→Lのガロア群となる。

(※39)Lの原始元θのQ上共役解を「θ=θ₁ θ₂ θ₃…」とする。Lの元α=A(θ)について「A(θ₁) A(θ₂) A(θ₃)…」をαの軌道という。またα=A(θ)に不変に作用する置換の集合をαの固定部分群という。

(※40)以下の(1)、(2)が同値であることを主張するのがガロアの主定理である。
(1)Q上方程式f(X)=0の解の1つが根号を用いて表記可能である。
(2)f(X)=0の最小分解体Lのガロア群が可解群である。
 本書では(1)→(2)のみを示しており、定理28は正確にはガロアの主定理のうちの半分である。

(※41)5次交代群A₅が群の公理をみたしていることを確認する。
  まず①「定めれた演算で閉じている」ことは、偶数∔偶数が偶数であることから分かる。すなわち「偶数個の互換の積の形に表記された元」を掛け合わせると、その積もやはり偶数個の互換の積で表記されている。
  次に、②「単位元が含まれている」ことは、任意の互換(аb)について(аb)²=eが成り立つことから分かる。
  また、(аb)(cd)の逆元は(cd)(аb)である。このように偶数個の互換の積についてその順序を反転させる操作で、偶数個の互換の積で表記された③「逆元」をえることができる。
A₅が④「結合法則をみたしている」ことについては5次対称群S₅の部分集合であることから自明。

(※42)代数的拡大S→Lについて、その原始元がSの元のn乗根(ⁿ√s)であるとき、S→Lをべき根拡大という。

(※43)xⁿ-1=0の解となる数を1のn乗根という。1のn乗根のうち、n乗してはじめて1になる数を1の原始n乗根という。
  1のn乗根については、ド・モアブルの公式とよばれる以下の式が知られている。
 (Cosθ∔iSin θ)ⁿ=Cosnθ∔Sinnθ…①
この①式にθ=「360°/n、720°/n…」を代入すると1のn乗根が「Cos(360/n)°∔iSin( 360/n)° Cos(720/n)°∔iSin (720/n)°…Cos(360n/n)°∔iSin( 360n/n)°」であることが分かる。
 たとえば1の3乗根は「Cos120°+iSin 120° Cos240°+iSin 240° Cos360°+iSin360°=1」の3数であり、このうち「Cos120°+iSin 120° Cos240°+iSin 240°」が1の原始3乗根である。
 
(※44)ωを1の原始n乗根とする。このときxⁿ-1=0の解は「ω ω² ω³…ωⁿ=1」と表記され、いずれもQ(ω)の元である。ωのQ上共役解はこの中の一部もしくは全部であることからいずれもQ(ω)の元であり、Q→Q(ω)はガロア拡大である。
  ガロア群の元はω→ωªの形をしており、f:ω→ωª¹、g:ω→ωª²とすると、f・g=g・f=ω→ωª¹⁺ª²が成り立ち、ガロア群は可換群である。

(※45)代数的拡大列Q→M→Lについて、M、Lの原始元をそれぞれα、βとする。
 M→Lがべき根拡大であれば、βを解にもつM上の式xⁿ-f(α)=0が存在する。
 この式の解は1の原始n乗根ωを用いて「β βω βω²…」と表記できる。アーベルの既約定理より、βのM上共役解はこのうちの一部もしくは全部である。したがってω∈Mならば、M→Lはガロア拡大である。
またべき根拡大がガロア拡大であるとき、ガロア群が可換群であることは以下のようにしてわかる。ガロア群の元は1の原始n乗根を用いてβ→β・ωªの形をしている。f:β→βωª¹、g:β→βωª²とすると、f・g=g・f:β→β・ωª¹⁺ª²が成り立ち、ガロア群は可換群である。
 
(※46){n次}べき根拡大について補足する。S→Lを{n次}べき根拡大とすると、その原
始元βはS上の式xⁿ-f(α)の解になる。しかしこの式がβのS上最小多項式であ
るかは定かでない。したがって、{n次}べき根拡大の拡大次数は必ずしもn次であると
は限らない。{}を用いて{n次}と表記したのはそのためである。

(※47)整数の割り算a÷b=c…dにおいてb>d≧0をみたす余りdが必ず存在する   
 ことが除法の原理として知られている。同様に多項式の割り算f(X)÷g(X)についてもdegg(x)>deg h(X)≧0をみたす余りh(X)の存在が保証されている。
  多項式の割り算を行う際には係数の四則演算を繰り返すことで「割られる式」の次数を下げていき、「割られる式」の次数が「割る式」の次数を下回ったところで計算は終了する。このことが除法の原理が成り立つ要因である。
  これらの操作はQ上の多項式のみならず、任意の拡大体M上の多項式でも可能なので、除法の原理は任意の拡大体において成り立つ。

(※48)定理2の証明中の(1)、(2)に補足を加える。
 (1)については以下のようにして分かる。а÷b=c…dのとき、d=a-bcが成り立つ。aⅩ+bY=1…①が整数解をもてば、dX+bY=(а‐bc)X+bY=1…②も整数解をもつ。①式の解を(s t)としたとき、(s t+cs)などが②式の解となる。
   またbとdが互いに素でなければ、bとbc+d=аも互いに素でない。対偶にかえてаとbが互いに素ならば、bとdも互いに素である。
   上記の理屈は、а~dが整数であっても多項式でもあっても変わらない。
 
(※49)原始元の存在(定理4)の証明にいくつか補足を加える。

 代数的単拡大列をQ→M₁→M₂→M₃とする。(1)「2回の代数的単拡大をへて構成された体が単拡大体であること」がみたされていれば、M₂は単拡大体であり原始元が存在する。Q→M₂→M₃に注目して再び(1)を用いると、M₃が単拡大体であることが得られる。

α、β∈Q(α+qβ)とするとα、βはいずれも(α+qβ)形式で表記できる。したがって、Q(α β)のすべての元は(α+qβ)形式で表記され、Q(α β)⊆Q(α+qβ)が導かれる。同様にα+qβ∈Q(α β)ならば、Q(α+qβ)の元はいずれも(α β)形式で表記でき、Q(α β)⊇Q(α+qβ)が得られる。

αのQ上共役解をα’、βのQ(α+qβ)上共役解をβ’とする。g(α+qβ X)、f(α+qβ-qX)がβ以外に共通解をもてば、X=β’と(α+qβ-qX)=α’を合わせて(α+qβ-qβ’)=α’。すなわちq=(α-α’)÷(β-β’)となる。したがってこの等式をみたさないようなqを選べばよい。

(※50)定理3の証明では「θ形式で表記できる数の集合」が体になっていることを確認した。その証明をQ(α)上のβ形式におきかえると以下のようになる。
まず、Q(α)上のβ形式の集合が四則演算で閉じていることを確認する。以下、βのQ上最小多項式をf(α X)=0とする。

   Q(α)上のβ形式2数の和・差がQ(α)上のβ形式になることは明らか。

   Q(α)上のβ形式2数の積h(α β)は、βの次数がQ(α)上のβ形式の定義からオーバーしている可能性がある。その場合、h(α X)をf(α X)で割って、deg f(α X)>deg  h’(α X)をみたす余りh’(α X)を求める。h(α β)=h’(α β)より、h’(α β)が2数の積に等しいQ(α)上のβ形式である。

   最後にQ(α)上のβ形式2数g(α β)、h(α β)について、g(α β)÷h(α β)の商となるQ(α)上のβ形式が存在することを確認する。証明は以下のように変形できる。

→(1)「Yを未知数とする不定方程式g(α β)=h(α β)Yが解となるQ(α)上のβ形式をもつこと」を示せばよい。
→(2)「1=h(α β)Yが解となるQ(α)上のβ形式をもつこと」を示せばよい。
→(3)「Y、Zを未知数とする不定方程式1=f(α β)Z+h(α β)Yが解となる
Q(α)上のβ形式をもつこと」を示せばよい。
→(4)「1=f(X)Z+h(X)Yが解となるQ(α)上の式をもつこと」を示せばよい。
したがって証明は定理2’に帰着する。

(※51)2変数の基本対称式は「x+y xy」の2式である。また、3変数の基本対称式は「x+y+z xy+yz+xy xyz」の3式である。次数1の「x+yとx+y+z」、次数2の「xyとxy+yz+xy」がそれぞれ対応している。

(※52)f=x³+y³+z³とする。xに0を代入し、f’=y³+z³=(y+z)³-3xy(x+y)を得る。y+zとx+y+z、yzとxy+yz+xzがそれぞれ対応しているので、g=(x+y+z)³-3(xy+yz+xz)(x+y+z)である。

(※53)対称式の基本定理の証明では、f’、hが基本対称式化可能であることを仮定して、fが基本対称式化可能であることを示した。すなわちfが基本対称式化可能であることを示すには、f’、hが基本対称式化可能であることを示せばよいことになる。このように証明すべき式を変数もしくは次数の低い式に変えていき、最終的には変数1もしくは次数1の式に証明を帰着させるというのが二重帰納法の真意である。

(※54)x⁻¹x=eからxx⁻¹=eを導こう。両辺に左からxをかけるとxx⁻¹x=x、すなわち(xx⁻¹)x=xが得られ、xx⁻¹=eが分かる。この逆元との可換性はコーシーの定理(定理18)の証明に用いることになる。

(※55)コーシーの定理の証明中の(1)、(2)について補足する。
位数nの群Gから重複を許してp-1個の元を選ぶ方法はnのp-1乗通りである。これらについてそれぞれ逆元をかけるとeになることから(1)が分かる。
また、(※54)で述べた逆元との可換性をふまえると、p個の元の積(123…p)がeならば、これをスライドさせた(23…p1)、(34…p12)…の積もeになることが分かる。またpが素数なので、(123…p)の中に異なる複数の元に含まれていれば、p回のスライドで異なるp個の選び方が得られる。あわせて(2)が示された。

(※56)互換2個の積について以下のように分類する。
 2個の互換が同一の互換であるとき、その積は単位元eになる…①。また2個の互換  
に同一の数字が含まれていないとき、その積は可換である…②。2個の互換が共通の数字を1個含んでいる場合は、共通する数字を変えてから積の順序を反転させる操作で不変である…③。
 上記①~③を等式化すると以下のようになる。
①(аb)(аb)=単位元e
②(ab)(cd)=(cd)(аb)
③(аb)(bc)=(bc)(аc)=(аc)(аb)
特に③の変形は以降何度も引用することになる。

(※57)対称群の元を互換の積の形に変形する過程について、具体例を用いて述べる。
f:(12345)→(51432)とする。このときfは互換(34)と3サイクルの元(125)
の積である。一般に、nサイクルの元は(123…n)=(12)(13)…(1n)という変形が可能である。したがって(125)=(12)(15)となり、f=(34)(12)(15)と互換の積で表記できた。

(※58)定理21の証明について補足する。Mの固定群Hによる置換の集合を「h₁(θ)
h₂(θ) h₃(θ)…」とする。この中にはθのM上共役解しか含まれていない。これらを解とする式(x-h₁(θ))(x-h₂(θ))(x-h₃(θ))…をつくる。この式の係数は「h₁(θ) h₂(θ) h₃(θ)…」について基本対称式になっている。したがってHの各置換によって不変であり、Mの元である。この式はM上の式であり、その解にはθのM上共役解がすべて含まれている。このことからも上記の式がθのM上最小多項式であることが確認できる。

(※59)定理23の同値変形について補足する。
(1)→(2)Mがガロア拡大体ならばαの任意のQ上共役解はMに含まれている。
(2)→(3)Mの元はhの作用で不変である。
(3)→(4)両辺にθ→g⁻¹(θ)を施した。
(4)→(5)A(θ)に不変に作用する置換はHの元である。
(5)→(6)gh∈HgよりgH=Hg。

(6)→(5)gH=Hgより、gh∈Hg。
(5)→(4)Hの元はA(θ)に不変に作用する。
(4)→(3)両辺にθ→g(θ)を施した。
(3)→(2)Hの任意の元の作用で不変ならばMの元である。
(2)→(1)Gの元「e=g₁ g₂ g₃…」について、「A(θ) A(g₂(θ)) A(g₂(θ))…」∈Mを解とする式はQ上の式になる。原始元A(θ)のQ上共役解はこのうちの一部なので、Mはガロア拡大体の十分条件をみたしている。

(※60)[S₅-A₅]の元は、奇数個の互換の積で表記される。したがって[S₅-A₅]の元をかけあわせた積は偶数個の互換の積で表記でき、A₅に含まれている。また「аc=bcならばа=b」を対偶にかえて「а≠bならばаc≠bc」である。このことから‘作用’させる元を変えると、得られる積も変わることが分かる。
  なお‘’をつけて‘作用’と表記したのは、作用する集合が群でないためだが必要なかったか。

(※61)G・H⊇A・H⊇B・H⊇C・H⊇…⊇e・Hは正規列となることを確認する。
たとえば、B・HがA・Hの正規部分群であることは以下のようにして分かる。
  A・Hの元をаとして、а(B・H)=(B・H)аを示そう。B・HはB、Hのすべての元から生成される群なので、その元はBの元とHの元による積の形で表記される。
この表記を仮に(bh…)とする。ここでBがAの正規部分群であること、HがGの正規部分群であることから、аb=b’а、аh=hа’という変形が可能である。これらの変形を繰り返すと、а(bh…)=(b’h’…)аをみたすB・Hの元(b’h’…)が存在することが得られる。したがって、а(B・H)=(B・H)аが成り立つ。

(※62)ガロア拡大体Lの原始元をθ、Lの任意の元をβとする。またLのガロア群Gの部分群Hについて、その固定体をM=Q(α)とする。β=B(θ)にHを作用させた際の軌道が、βのM上共役解と一致することを示そう。証明の流れはガロア対応の証明と同様になる。
 
  βのM上最小多項式をf(α x)とする。
f(α β)=f(A(θ) B(θ))=0にアーベルの既約定理を適用しθ→θ’を施すと、f(A(θ’) B(θ’))=0が得られる。したがってA(θ)=A(θ’)ならば、B(θ’)はf(α x)=0の解である。β=B(θ)はHの作用でf(α x)の解の一部もしくは全部に変わることになる。

またHの元を「e=h₁ h₂ h₃…」として(x-B(h₁(θ)))(x-B(h₂(θ)))(x-B(h₃(θ)))…=0をつくると、この式はβを解にもつM上の式になる。アーベルの既約定理より、βにHを作用させた際の軌道にはf(α x)=0の解すべてが(重複を許して)含まれることが得られる。

あわせてHの作用でβがその全M上共役解に置換されることが示された。

(※63)作用させる群をA・HからA、A/Bにかえても得られる軌道がかわらないことを確認する。
  A・HはA、Hのすべての元から生成される群なので、その元はAの元とHの元を用いて表記できる。たとえば、A・Hのある元がa₁h₁a₂h₂(a₁、a₂∈A、h₁、h₂∈H)と表記できたとする。Hの正規性より、a₁h₁a₂h₂=h’h”a₁a₂をみたすh’、h”∈Hが存在する。
  また、β=B(θ)∈MはHの作用で不変なので、B(θ)=B(h’h”(θ))が成り立つ。アーベルの既約定理を適用して、両辺にθ→a₁a₂(θ)を施すと、
B(a₁a₂(θ))=B(h’h”a₁a₂(θ))。 
あわせてB(a₁h₁a₂h₂(θ))=B(a₁a₂(θ))となり、Aの元の作用の結果に書き換えることができた。

また、Aの元a₁、a₂が剰余類群A/Bの同一の剰余類aBに含まれているとする。このときBはAの正規部分群なのでaB=Baよりa₁、a₂∈Ba。a₁=b₁a、a₂=b₂aをみたすb₁、b₂∈Bが存在する。
β=B(θ)∈[B・H]はBの元の作用で不変なのでB(b₁(θ))=B(b₂(θ))が成り立つ。アーベルの既約定理を適用してθ→a(θ)を施すと、B(b₁(a(θ)))=B(b₂(a(θ)))。
   あわせて、B(a₁(θ))=B(a₂(θ))が得られ、同一の剰余類に含まれる元の作用の結果は一意に定まることが示された。

(※64)剰余類群を作用させる場合も、軌道と固定部分群による剰余類に1対1の対応がつくことを確認する。α=A(θ)に剰余類Fの任意の元fを作用させた結果をA(F(θ))と表記することにする。fの選び方によらずA(F(θ))の値が一位に定まることが、剰余類群を作用させる際の前提となっている。
  定理26とその証明を、剰余類群を作用させる場合に書き換えると以下のようになる。
 
(定理26’)
 ガロア拡大体Lの原始元をθ、ガロア群Gの剰余類群をG/Hとする。G/Hの任意の2つの元をF₁、F₂とし、Lの任意の元αのθ形式をA(θ)とする。また、G/Hを作用させた際のαの固定部分群をH’/Hとする。
このとき、①「A(F₁(θ))=A(F₂(θ))が成り立つこと」と②「F₁、F₂が固定部分群H’/H による同一の剰余類に含まれていること」は同値である。
したがって、A(θ)の軌道と固定部分群H’/H による剰余類には1対1の対応がつく。

証明)証明は以下の同値変形による。
(1)「A(F₁(θ))=A(F₂(θ))が成り立つ」
   ⇔(2)「A(θ)=A(F₂(F₁⁻¹(θ))が成り立つ」
   ⇔(3)「F ₂・F₁⁻¹∈(H’/H )」
   ⇔(4)「F₂∈(H’/H)・F₁」
   ⇔(5)「F₁、F₂がH’/Hによる同一の剰余類に含まれている」         
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