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やらない善よりやっちゃう悪?!?!

やらない善よりやる偽善」を素で実行する国民がいる。トルコ人である。

今年の三月にトルコへ行った際、現地人からミニ手伝いのようなものを度々施された。
 例えば、空港で荷物から物を取り出したあと、何気なくトランクを股に挟み閉じようとしていた時。見知らぬ中年男性が走り寄って、私のトランクに手をかけ力を合わせて閉じようとしてくれる。何かを持ち去られると勘違いしてしまい手を振り払いそうになったが、グッグッとトランクを閉じて鍵までガチャッと閉めてくれた。親指をあげ微笑み、ポカンとしている私に何も言わずに去っていく。
 どう考えてもあの時の私から困ってる感は出ていなかったし、あの距離をあのスピードで駆け寄るようなインシデントではなかった。困ってる人を見たら動くというシナプスが過剰発現しており、渡る世間は困ってる人ばかりだと思っているお助けおじさんに出会ったのかもしれないな、程度にその時は思っていた。
 しかし他にも、目的地への道を教えてくれるに留まらず、友達との会話をやめて入り口まで連れて行ってくれた人など、この国の人は親切だなぁと思わされることが度々起きた。

トルコは歴史、地形、文化どれをとっても
奥が深くぜひ訪れてみてほしい


 帰国してしばらく経ってから、

トルコ在住歴の長い方とお話しすることがあり、この国民性について語ったところ、「そーゆーのはわりかし普通だね、確かに」とおっしゃった。
 曰く、全知全能の神アッラーは全ての心の内を覗いているため、「なんか困ってそうだけど、ダルそーだしいっか。」と困ってる人をスルーする悪の心は咎められる。逆に一日一善的に良いことをすれば、アッラーは見ているため天国行きの演出が赤保留になるという行動原理なのだそうだ。

 なるほどトルコ人はアッラーポイントを貯めて天国行きの片道切符をゲットしようとしていたわけなのだ。しかし別にそのような行動原理を知った上でそれらの記憶を思い返しても、悪い気などするはずもなく、トルコ人並びにイスラム教に対するイメージが上がるばかりだった。

「あっでもさ、嘘つかれなかった?ちっさい嘘。道とか。」

と言われる。あぁ、確かにあった。しかも何回か。
そう、こと口頭での道案内に関してはトルコ人は嘘八百を並べるのだ。

 トルコに到着してホテルに向かっていた時のこと。次に利用するバス停が目の前のもので合っているかわからず、マップを見せながら「このホテルに行くのはこのバス停でいいのか」と尋ねる。すると「ここじゃない、あっちだ」と即答する。彼女の指差す「あっち」には明らかに海しかなく、バス停があるはずもないことは私でもわかったため「本当か」と聞くと「そうだ。」と確信めいた口調で返ってくる。「揶揄われているのだろうか?」と首を傾げながら歩き始めたその時、乗るはずのバスが目の前のバス停に停車した。「なんだこいつ、バカにして」と心の中で文句を言いつつ、彼女から出る気まずさを汲んで目を合わせないように前を失礼し乗車した。

彼女が指差した方角。バス停はおろか車道がない。


 他にも、電車の乗り換えホームを聞くと全く違うことを言われたりした。しかしよく思い返してみれば、東洋人を馬鹿にしてやろうだとか、観光客を揶揄ってやろうといった反アッラー的理由で嘘をついている様子には思えなかったので、どうしてこんないい加減なことを言うのだろうかと不思議に思っていたのだった。

知り合い曰く、アッラー的行動原理には続きがあるのだそうだ。
「あの人たちね、困ってる人を助けたと自分で思ったらそれでもういいのよ。困ってる人に知らない道を聞かれたのに対して、『分からないから他を当たれ』と見捨てるのは反アッラー的で、なんでもいいからその場で答えを提示する。その時点で、相手のその後は知るところではないけれども困った人に何か聞かれてそれに答えた!私は人助けをした!ってなるのよ。」

 予想だにしない嘘の理由に思わず笑ってしまった。
 ふとスレイマニエ・モスクで話しかけてきたトルコ人宣教師が言っていたことを思い出した。
「アッラーはあなたの心の中にいるの。誰も見ていないけど悪いことをしてしまった時、嫌な気持ちになるでしょう。そこにアッラーはいるの。誰も見てなくても、いいことをしてみて。いい気分になったあなたをアッラーは見ているわ。」

王室のコーラン
美しい


 トルコにおいて、アッラーの思惑とは違うかもしれない方向へ進化を辿っている人助けのあり方に、神を偶像化することを許さず、心に神は宿るとした一神教とそれを信じる健気な人間の面白さを感じた、そんなお話でした。(完)

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特定の何かを貶めようだとか、どーなんそれ?とか主張する気は全くございません。逆に宣教師の方が必死に伝えてくれたイスラームの奥深さに胸を打たれました。また行きたいな、トルコ。

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