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「街とその不確かな壁」村上春樹さん直筆サイン本・愛蔵版

私が初めて村上春樹さんの本を読んだのは大学生の時です。医学部に入学して最初の2年間は教養課程でとにかく時間が余っていました。私は中高時代にあまり小説を読んでおらず、村上春樹さんの作品も読んだことがなかったのですが、「せっかく今は時間もあるし色々読んでみよう!」と手にとったところどっぷりとその世界観はまってしまいました。

まず村上春樹さんの文章は辞書を引かないといけないような難しい日本語や回りくどい表現はほとんど出てこないですし、文章1つ1つが比較的短くリズム良く展開されていきます。また描写も鮮やかで「くどさ」が全く無く、常に静謐で洗練された雰囲気が漂っています。私はそれまで一部の文学作品のいたずらに凝った文章や内臓をひっくり返すような感情表現、また回りくどく脂っぽいベタベタ感が苦手だったのですが、村上春樹さんの文章にはそういったものが一切なく、爽やかで透き通った美しさがありました。

”目を閉じると、風の匂いがした。果実のようなふくらみを持った五月の風だ。そこにはざらりとした果皮があり、果肉のぬめりがあり、種子の粒だちがあった。果肉が空中で砕けると、種子は柔らかな散弾となって、僕の裸の腕にのめりこんだ。微かな痛みだけがあとに残った。”

村上春樹「めくらやなぎと、眠る女」 冒頭

私は大学生でこの冒頭を読んだ時に「この短い文章でここまで鮮やかに人の心を打つ表現できるのか」と衝撃を受けたことを今でも覚えています。助走も何もなくいきなり冒頭からいきなりガツンとノックアウトしてくる表現です。もちろん小説においてストーリー性も重要とは思いますが(逆に近年ストーリー性が重要視されすぎている傾向も感じますが)、こうした素敵な表現に出会うことができるのも小説を読む上での楽しみです。

そして「ダンス・ダンス・ダンス」という作品に出合い、完全にノックアウトされました。この本は自分の座右の書としてこれまで何度も読み返しています。

そんなこんなで村上春樹さんの作品にどっぷりはまり、エッセイ、短編、長編含めてほぼ全作品を読んでしましました。その過程で「この村上春樹さんっていったいどんな人なんだろう?」という興味と疑問が沸々とわいてきました。

「職業としての小説家」や「走ることについて語るときに僕の語ること」などの自叙伝的内容や、小澤征爾さんや川上未映子さんとの対談集、村上朝日堂シリーズのエッセイでは村上春樹さんの私生活の一部を知ることができます。しかし、村上春樹さんは滅多に公の場に姿を現わさないですし、本のサイン会もなく、SNSをされていらっしゃらないため、情報に乏しく「謎」が多い方です。

しかしここ2年くらい徐々に村上春樹さんが公の場に姿を見せる機会が着実に増えている印象があります。「村上ラジオ」もその一つかと思いますし(物理的に人前にでていらっしゃる訳ではないけれど)、先日の朗読会(私は参加させていただきその時の様子はブログに記載しています)、そして今回初めてサイン本の販売になりました。

さらに先日「音楽とデザインの幸福なコラボレーション」と題した村上春樹さん×村井康司さんのトークショーも開催されました。こちらのイベントは私の職場の同じ村上春樹ファンの先輩がなんと高い倍率を勝ち抜いて参加され、その時の様子をこちらの"note"レポートしてくださっています!

そして今回、新潮社から最新作の小説「壁とその不確かな壁」の村上春樹さん直筆サイン入り本(愛蔵版)が販売されました。その数限定300冊、そしてお値段は・・・・なんと10万円!

「まあ3万円くらいかなー」と思っていたのですが、10万円という衝撃的な値段にさすがにひるみました。ただ今後サイン本が販売されないかもしれないかもしれないですし、そもそも300冊なんて村上春樹ファンの争奪戦になり、ここで購入しないと一生後悔するだろうし開き直って争奪戦に参戦する決心をしました。

決戦の日は2024年3月15日(金)の11時00分、事前に新潮ネットショップの会員登録もバッチリ済ませて(購入手続きでタイムロスをしないため)、いざ決戦に臨みました。普通のPC、普通のWIFI環境で果たしてこの戦いに勝てるのか?と一抹の不安を抱えながらも、11時になった瞬間に申込サイトにアクセスし、必要事項を記入していき、購入ボタンをクリックしました。意外と順調に進んだので「んっ、これは購入できたっていうことなのか?」と最初は自信がなかったのですが、購入完了の確認メールが届きほっとしたと同時に、「やばい本当に10万円で買ってしまった・・・」という小さな罪悪感を感じました。どうやら販売開始から数分で売り切れてしまったようで、私は非常に幸運でした。

そして先日遂に自宅にサイン本が届きました。本体が非常に大きいかつ重く、包装用の段ボールにすら高級感が漂っていました。段ボールを開けると分厚い木箱(ブラックウォルナット製ブックケース)があり、その中に本が入っています。本の表紙にはタイトルが刻印されている真鍮のプレートがあります。そして表紙の裏に村上春樹さんの直筆サインが記されています。全体を通じて高級感と重厚感に溢れています。

包装用の段ボール
段ボールの中には重厚感のあるブラックウォルナット製ブックケース
街とその不確かな壁 真鍮のプレートにタイトルが刻印されている
表紙の裏に村上春樹さんの直筆サインと240冊目の記載

先日朗読会で村上春樹さんを直接目の当たりにし、そしてご本人のサイン本まで手にすると感慨深いものがあります。ここまで誰かのファンになったことって人生でないかもなーと感じました。

あまりに高級感から、コーヒーをこぼしてしまったらどうしよう・・・、さっき食べたお菓子の砂糖や油が指先についていたらどうしよう・・・、と心配ばかりが重なり気軽に読めません・・・・。きっと飾る専用になってしまいそうですが、宝物として一生大事にしたいと思います。

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