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KEYTALKのライブが観たくてKAWASAKI一泊二日プチ遠征記録〜きっかけ編〜

■プロローグ〜やってみよう(※WANIMAとは無関係です)〜


皆さんは、遠征をした事があるだろうか。



〈遠征(えん-せい)〉

① 敵を討つために遠くまで出かけること。 「大軍を率いて-する」

② 研究・調査・探検・試合などの目的で、グループを組織し、遠くまで出かけること。 「ヒマラヤ-隊」

(Weblio辞書より引用)



一般的な意味合いではきっとこうだろう。しかし、世の中にはこの正しい意味合いに属さない“遠征”がある。



ライブ遠征だ。



主にアイドルオタク界隈にて使用される事が多い呼称だが、自分の住む地域から遠いライブ会場やイベント会場へ行くため、泊まりがけの予定を立てる事を“遠征”と呼ぶ事がある。他にもコスプレイヤーなら地方の広いスタジオでの撮影やロケ撮影のために県外へ足を運んだり、鉄オタなら全国各地の有名鉄道駅へ行ってみたり、と様々な遠征のかたちがあるだろう。

僕、五十嵐文章のような音楽好きの邦ロックバンドオタクの場合は、好きな――ここでは敢えて“推している”と表現させて頂こう--バンドのライブを観に行く、と言うのが主な遠征の目的となるだろう。ツワモノならばツアー全通なんかザラ、海外公演にまで足を運ぶ場合だってあるだろう。



僕?

ないない。だって、引きオタ(引きこもり傾向のあるオタク)だもの。

いがを



僕にとってはライブは戦、チケット確保は鎧のメンテナンスみたいなもんだ。この鎧修理に出しちゃったから次の戦行くしかないな、みたいな。己を追い込み、戦いの場へ向かわせるモチベーションを無理矢理にでもぶち上げる口実。

勿論ライブが楽しくないわけでは決してなく、明日から一生ライブに行けないなどと言われた日にはすかさず隠し持ったデパスを大量服用する勢いだ。でも体力がもたないんだもん、二、三時間立ちっぱなしで上見て拳を振り上げ続ける体力が。立ちくらみも終演後の朦朧とした意識も翌日以降の筋肉痛も愛おしい想ひ出だが、それをツアー一本分、数日おきに何ヶ月も続けて体験するのは正直勘弁。



と言うわけで基本地元東京公演だけ観られれば満足な無欲の権化(嘘)五十嵐なのだが、今年否が応でも遠征しなければならない事態へ追い込まれた。



愛するロックバンド達の中でも最上位レベルに属する四人組バンド・KEYTALKのツアー東京公演のチケットを、確保し損ねたのだ!



意気揚々と改行しちゃったけど改行する程のものでもない、よくある話である。所詮はご用意されませんでした案件、オタクの宿命とでも言うもの。寧ろメジャーデビュー四年目のまだ若い彼等なのだから、ヨッシャ売れたじゃねえか流石やでとファンとしては悦ばしい物事だ。

しかしはてさて、それとチケット確保とは話が別。なんてったって今回のツアーに伴いリリースされたアルバムが最高of最高の極みな仕上がりだったため、万難を排してでもナマで聴きたいと思っていた僕はかなしみに膝をつく暇もなく各種プレイガイドをザッピング、見つけました一番東京に近い会場!!!



CLUB CITTA’川崎。



…………日帰り出来ねえ!!!!!!



いや良いんですよ、僕ひとりならね。過干渉なマイマザーを説き伏せ、幾らでも言い訳を並べてこの東京砂漠をすり抜けてみせましょう。なんなら実は散々己の出不精っぷりを喋り散らかしましたが遠征の経験は今回が初めてではなく、昨年もKEYTALKを追いかけてはるばる横浜アリーナまで行ってきたぐらいだ。

しかし今回のライブには戦友がいました。件の昨年のハマ遠征の際にも共に県境へ立ち向かった過去がある、もう十年以上の付き合いになる気の置けない女ともだちである。昨年も一緒に冒険したとは言え、相談無しにチケット取っちゃったよ!!!どーすんだよ!!!ひとさまの娘さんを預かって一晩以上過ごすのだ、しかも彼女も何か用でもない限り家から出ようとも思わないと言う、僕に負けず劣らずの引きオタ気質である。今回は流石に断られるか……とチケットお譲り致しますと言う字面を心の片隅に忍ばせながら恐る恐るメールを送った。



彼女からの返信。



「成程、鉄腕ユウキが16ビートをクールに奏でると言う事ですね。了解しました、それではその日に向けて私の気持ちの方も製鉄していきたいと思います(意訳)」



お、おう……(笑)



とりあえず、チケットお譲り致します案件は避ける事が出来たようで安心した次第だった。



(※因みに「鉄腕ユウキ」とはおそらく、KEYTALKのカリスマイケメンドラマー八木優樹氏の名前にかの手塚治虫御大の不朽の名作と製鉄で有名な川崎工業地帯を引っ掛けた彼女なりの小粋なジョークである。彼女は八木氏の事を「限りなく天使に近いサムワン」と言う程の心酔っぷりを露呈しながらも最も尊敬するのはギターボーカル巨匠a.k.a寺中氏と宣言してやまない複雑な乙女心。)



兎にも角にも、こうして我々引きオタロックバンドオタク二名による二度目の遠征@川崎が決定したのであった。やってみよう。



■男には、帰れない夜がある


六月二十一日、木曜日。

ド平日である。

チケット確保と共に休みをもぎ取った僕はその日、旅の道連れと揃いのTシャツ(前回のKEYTALKのライブ会場にて手に入れた、いわゆるバンT)を身に纏い電車に揺られていた。



浮かれて撮った自撮り。



彼女の家と自宅の丁度中間地点となる駅で待ち合わせた僕達は、会場付近の混雑を避けるため昼食を済ませてから向かう事にした。白地に小さく胸元にKEYTALKのロゴが入ったオーバーサイズのTシャツを着た彼女は、パーカを腰に巻いてフラットソールの黒いスニーカーを履いていた。長い脚を惜しげも無く出した短パンがライブキッズ感を醸し出している。



そんな彼女だが、その実なかなか年季の入った二次元オタクである。



五十嵐も元々週刊少年ジャンプ文化にどっぷりの、いわゆる銀魂語で喋るタイプのオタクだったのだが、上質な二次元に触れた中学二年生当時に椿屋四重奏に出会ってしまったのが運命の歯車を大きく狂わせ、銀魂語べしゃりアッパーオタクなノリそのままに邦ロック沼に滑り落ち今に至るのだった。

大学進学と同時に邦ロックオタクが更に根深くなった五十嵐の周到な布教により下北沢をホームタウンとした彼女の精神世界では、現在空前の名探偵コナンブームが巻き起こっているらしく、その日も昼飯を食うために入った駅ビルの定食屋にて、工藤新一から江戸川コナンに不遇の変身を遂げた彼の心境の変化とその魅力について力説を受けた。



曰く、

「工藤新一であった頃の彼は己の頭脳を誇示したいと言う言わば自己顕示欲から探偵行為に身をやつしていたが、江戸川コナンとなった後の彼は目立つ行動を避けなければならない境遇故に純粋な正義感・誰かを救いたいと言う良心から探偵を続けるようになった。その心理の変化の尊みが深い」



成程、確かに尊みが深い。



馬鹿みたいな返事しか出来ない五十嵐である。それもそのはず、川崎駅までざっと一時間以上、存分に談笑する時間があったはずのその日の会話内容をあろうことか僕は殆ど覚えていないのであった。あんなに語り合ったのに。



覚えている事と言えば、「かさばる化粧ポーチを持参するためにパジャマを家に置いてきた」と言う彼女に向かって「パジャマを生贄に化粧ポーチを召喚!!!」と言う超絶ピンポイントなターゲットにしかフィットしなさそうなジョークを飛ばした事ぐらいのように思う。俺のターン。



都内近郊でありながら殆ど千葉である地元から県外へは何処へ行くにも二時間以上かかるのが常なのだが、実は今回目指す川崎までであれば大体一時間半程度で辿り着ける。これは多めに見積もった時間であり、乗り換えで迷ったりしなければ一時間半を切る可能性もなくはない。頑張れば当日中に帰れない時間ではないのだが、ここには大きな問題があった。



ライブハウスの夜は遅いのだ。



前回の遠征のように、アリーナレベルの大箱であれば開始時間は大体午後五時ぐらいと結構早い。いわゆるホールと言われる会場の場合も早く開場・開演される事が多く、自ずと終演も早くなる傾向にある。



しかし、今回向かうクラブチッタや都内だとZeppTokyo、クラブクアトロのような小規模〜中規模のライブハウスの場合、開演は大体夜の七時ぐらい。ミュージシャンがエモくなりすぎてMCが間延びしたり観客がエモくなりすぎてアンコールが延びたりすれば平気で終演十時は過ぎる。終電にはギリで間に合ったとて、入場前にディナーを済ませておかなければいずれ死ぬ。



しかも引きこもりオタクは体力がない。戦場からたとえ生きて戻れたとて、「近所のカフェーで一旦休憩☆」などと言った時間が取れない限り、翌日翌々日中にはいずれ死ぬ。



更にオタクには仲間と語りたがる習性がある。“推し”の艶姿をナマで目にした帰りには、さぞかし言語中枢のタガが外れる事だろう。アツい想いを分け合える同志と言葉を交わさなければ欲求不満でいずれ死ぬ。



そのような理由から我々は当日中の帰宅を断念し、言わば“プチ遠征”とでも呼ぶべきスタイルを選択したわけだ。会場の近隣にちゃっかり宿も取ってある。ツーステで足首くじいてもなんとかシャワーを浴びに戻ってこれる距離だ。因みに五十嵐はツーステを踏めない。相方も踏めない。



などと言っている間に到着、未知の領域神奈川県は川崎駅。大体午後の二時半の事だった。



写真を撮ってくるのを忘れたのが非常に悔やまれるのだが、駅前の雑居ビルに非常に興味深い看板がデデンと掲げられていたのが第一印象。



曰く、

「男には、帰れない夜がある。」



そう、男には帰れない夜がある。

オタクにも、帰れない夜があるのだ。



■未知との遭遇


先に「未知の領域」と述べたが、実は僕にとって川崎は決して全く馴染みのない場所ではなかった。

昔、仲が良かった母方の従姉が住んでいたので何度か家に遊びに行った事があったのだ。

彼女は大ぶりな眼鏡がよく似合う細身で小柄な優しい女の子で、僕の中では未だに「川崎=彼女」と言う方程式が成立している。

だから、昨年発売された音楽ライター磯部涼氏の著書『ルポ川崎』のインパクトは大きかった。

実はまだ立ち読みしかした事がなく、追々読みたいと思い続けている本ランキングの上位入賞作品なのだが、それでもその凄まじい取材力と描写力はなんとなくだがわかる。そんな治安がDOPEでILLな街だとは露知らず、と言う感じである。

多分僕と同じような感情を抱いているひとは少なからずいるだろうし、実際ご同行頂いた相方もそう思ってたっぽいし、そんな人々の何割かは今後誰かしらのライブに参戦するためクラブチッタに行くかもしれない。そんな時に必要以上にビビらないよう、参考までに僕の感想をここに書き記しておこうと思う。



僕達はクラブチッタのあるラ・チッタデッラと言う商業施設と同じ方角の路地にあるビジネスホテルに滞在した。チェックイン時間よりは少し早めの時間、無事入室出来るか少々不安になりながらも道をゆく。大きな駅ビル「川崎ルフロン」を右手に横断歩道を渡り、突っ切ると途中で何やらやたらオシャンなゾーンが右手に広がっている。そこがチッタデッラだ。

イタリアの街並みをイメージしたらしい目抜き通りは確かに欧風のカラフルな建物がぞろっと並んでいて可愛らしい。地元の近所の、ディズニーリゾートと一緒に並んでいる商業施設「イクスピアリ」に近いものがある。

本日のメインディッシュ・クラブチッタはここを進んでいくとすぐ見えて来るそうだが、とりあえず今は保留。重たい荷物もそろそろ肩に食い込んで痛いし、更に歩みを進めてホテルを目指そう。



ここまでだが、わりかし地元の開けた駅前と同じような印象。いわゆるアウト〇イジなひともヒ〇ノシス〇イクなひともおらず、早い時間だったためか客引きだとかにも遭遇しなかったので恐れず凸してOKだ。正直もっとコクのある未知との遭遇を期待していた五十嵐はなんだよーつまんねえなーなんて身も蓋もない感想を抱いたりしたものだった。



しかし。



五十嵐「ホテルそろそろかな?地図にはパチンコ屋の角を曲がるって書いてあるんだけど」

相方「パチンコ屋あったよ!葬儀屋と向かい合ってる」



なかなか世紀末な会話を交わしながら目的地へと続く路地を発見し、角を曲がる前に今来た道を振り返った時、僕は気がついてしまった。



何の変哲もない何処にでもある雑居ビルの隙間にちらりと覗いた、錆びて脂っぽい通路。



飲食店から吐き出される濃厚な生活臭が滲み出す黒光りした室外機。



向かいの通りで大きく口を開けた、「銀柳街」と言うやたら強そうな名前のアーケード。



さっきまで「ホテルまで行く道の背景」でしかなかった景色が、少し立ち止まり振り返ったそれだけで一瞬にして色づき、有機的でジャンクな表情を見せている事に。



西日に変わりゆく蜂蜜色の陽の光を浴びた、見知らぬ鈍色の街を目にして、僕は、きっと今夜は素晴らしく楽しい夜になるぞ、この二日間の短い旅は、きっと素晴らしく愉快なものになるぞ、と、なんの保証もないのにわくわくしていた。






ホテルの手前でカエルちゃん夫妻とご挨拶。



しかし、この時の僕の無根拠な“わくわく”は、この後想定外の形で第一顕現を見せるのだった――(続く)。





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