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KEYTALKのライブが観たくてKAWASAKI一泊二日プチ遠征記録〜本番(合法)編〜

《前回までのあらすじ》

今年六月、大好きなロックバンド・KEYTALKのライブチケット争奪戦に惨敗し、近場の東京公演参戦を諦めたロックバンドオタク五十嵐。同じくオタクで遠出に慣れていない友人一名と共に遠征の覚悟を決め、やっとこ県境を越えて欲望の街・川崎にビビりながらも足を踏み入れたのだった……!



■HELLO 〇〇〇〇LAND

川崎駅前は意外と平和だった。

後から聞いた話だが、いわゆる『ルポ川崎』的なゾーンは駅よりずっと向こう、僕達が目指す場所からは離れた領域らしかったので怯える必要はなかった。だからこれからクラブチッタにライブを見に行くキッズ達は安心して突撃してくれよな!多分モッシュピットより安全だと思う。



カエルちゃん夫妻に迎え入れられながら、葬儀屋とパチンコ屋に囲まれた角を曲がり路地に入った僕達を出迎えたのは、東京ではイマドキ擦れた下町でしか見かけない憧れのアレだった。



相方「ねえ、あれ……」との控えめな声に、手元の端末に表示された地図から顔を上げる。






何だ単なる平屋のヌードシアターじゃないか、と一瞬思ったが、「ヌードシアター」って言葉、今まで小説書いてても使った事なかったぞ!?ていうかヌードシアターって何だよ。文字通りの意味で良いのか、え!?



http://kawasaki-rockza.com/#confirm



文字通りの意味でした。



ここは川崎でも有名らしい、老舗のストリップ劇場「ロック座」。昨今芸術的観点から再評価がなされ、女性のお客さんも多いらしいものの劇場自体は減少傾向にあるストリップ業界を、長年盛り立てて来たその筋じゃあ名の知れたメッカらしい。

それにしてもロケンロールな名前の劇場だが、ここで毎夜毎夜セクシーな女性達がその艶姿を惜しみなく披露しているかと思うととても胸が高鳴る五十嵐。



五十嵐「……(なかなか年季の入ったネオンサインをファインダー越しに暫く眺める)ちょっと覗いてk」

相方「また今度!も〜同じようなモン後で見るんだから〜」



それはハコのネーミング的な意味合いでかしら?それとも……いや、やめとこ。



セクシーロックンロールを涙を呑んで諦め歩みを進めるが、歩けども歩けどもホテルが見えてこない。見えるものと言えば、



「美麗(仮名)」。

「微笑(仮名)」。

そして、「面影(仮名)」。



なんだかラ〇ドールの名前みたいだが、当たらずとも遠からず。

いわゆる、ソー〇のランド的なアレでした。しかも知らなかったんだけど、こーゆーお店の店舗って結構大きいのね、玄人童貞だからもっとこぢんまりしてるかと思ってた。

ちょっとしたアパートぐらいの面積はありそうな小ぶりなビルに掲げられたやたらお耽美なネーミングのやたらお耽美なフォントの踊る看板を横目に歩いていると、段々と妙な気分になってくる。もうなんか、今右手を通り過ぎた「わんにゃんパラダイス(仮名)」とかまでイ〇クラかなんかかと思っちゃった(ごく普通のペットショップでした)。



もしかして僕、いわゆる恋人たちが依り代を求めて毎夜集まる即席の愛の巣、ラ〇ホテルをビジホと間違えて予約してしまった……?いくらラブ〇女子会が流行りとはいえ、ふたり連れでラ〇ホは流石にあかんやろーあかんやろーと内心ソワソワしながらあかんやろー音頭を踊り踊り彷徨う旅人たちの視界が、不意に大きく開ける。



あった!あれが今日の宿だ!




(※画像はイメージです)



マンション……!?



もうね、ほんとマンション。しかも結構デカい。しかもなんか年季入ってる。一定の世代の方やレトロ好きのひとには、“文化住宅”と言った方がより伝わるかもしれない、そんな趣深さ。五十嵐はレトロ好きなのでちょっぴりわくわくしてしまう。どんな幻想的にライトアップされた中世に

の城が立ち現れるかと思いきや、あれじゃあ高度経済成長期の遺跡じゃあないか!



文化住宅の受付には初老の紳士がいた。紳士は文化住宅の名に恥じぬ上品な笑顔で僕達を迎え入れてくれた。チェックイン予定時間には少し早かったが、部屋の掃除は済んでいたようですんなり通してもらえる。

文化住宅の内部は、当然だが意外と普通にホテルだった。ロビーに水素水販売機があったのだけは少し気になったが、エレベータに乗り込んで案内された部屋へ向かう。

しかし流石は文化住宅、エレベータのヴィンテージ感が凄い。細身の若者をふたり載せただけでガタガタいう。壁には水素水の広告ポスター。悲鳴を上げながら閉まるドア。



ドア「キィィ〜〜〜ガタガタガタッ、ウィーン、ドゥァンッ」

五十嵐「ヒィッ」

名探偵コナンにハマっている相方「なんだか、事件起きそうだね……」



やめえや、工藤。



廊下は完全にマンションだが、部屋の中も意外と普通にホテルだった。広くはないけど清潔感がある。大きめのシングルベッドがふたつ。落ち着く雰囲気。

ホテルに来るとやりたくなるよね〜ベッドにダーイブ!!!!そしてカーテンをバーン!!!!!!



そして我々は気づいてしまった。

川崎シティビューを期待して開けたカーテンの向こう側に威風堂々佇む、ソレの存在に。



そこにあったのは、今まで見てきたどのランドよりも大きな看板で洋服の青山ばりの存在感を放つ「マダムの園(仮名)」の看板だった。


(※取材許可取ってないのでお写真は控えました。)



相方「あ!でも消防署も近くにあるよ!事件が起こっても大丈夫だね!」



せやかて工藤。




部屋で見つけたえっちなビデオの目録様。今回のKEYTALKのツアータイトルが『Rainbow road tour』だったので不思議な縁を感じて思わずパシャリ。お姉さん素敵な笑顔です。





■合掌、そして解脱!マダムの誘惑などサンダラ曼荼羅の彼方へ

時間が有り余ってしまったので、先に物販へ行きグッズを買い込んでからまた部屋へ戻り、お菓子などで軽く空腹を満たしてから会場へ向かう。この短時間のあいだに駅からホテル、ホテルから駅への往復を何度も繰り返したため道順をすっかり覚えてしまった。ついでに駅からホテルへ向かうあいだに遭遇するランドの店名の並び順も覚えてしまった。美麗(仮名)に微笑(仮名)、そして面影(仮名)。



マダムの園からの誘いに後ろ髪引かれつつも、ともあれ遂に本日のメインイベントである。KEYTALKライブツアー『Rainbow road tour2018〜おれ、熊本で2番目に速いから。〜』CLUB CITTA’川崎公演!




The・ライブハウスと言った趣のチッタ。




こちら、今ツアーのゆるキャラ「ぺーい星人」くん。ギターボーカル寺中“巨匠”友将氏が手ずから描いたキャラクター。モデルはおそらくギタリストたけまさ氏と思われますが、ちょっと奥行き無視すぎじゃない?ともあれ傍らの「しゃしん」がチャームポイント。



会場内もすごくライブハウス。壁には夥しい程のフライヤーが貼られ、フロアの天井にはミラーボール。スーパー〇リオに由来するツアータイトルに因んでか、やたら疾走感溢れる&タイトルに「道」を連想させるワードの入った曲がチョイスされたSE(サーキットでよく流れているイメージのあるアレとか、虎舞竜の『ロード』とか)。

件の「サーキットでよく流れているイメージのあるアレ」のタイトルが『truth』と言うらしい、などの豆知識を博識な相方にご教授頂いたりしている間にも開演時間は迫り、遂にSEが止まった。来るぞ!



(※以下、今公演終演後の落書きのようなメモそのままの内容です。うろ覚え・想い出補正多々ありますがどうぞ生温い目でお見守りくださいませ。て言うかあれからもう三ヶ月経とうとしてるんだからもうみんな忘れてるよね?忘れてるでしょ???(厚かましい))



今回は舞台バックにスクリーン的なサムシングがあり、そこにレーシングゲームのチュートリアルのような映像が映し出される。流れる音楽もツアータイトル由来のマ〇オを彷彿とさせるサントラ、舞台の左右を囲む柱型のネオンにはテトリスのようなカラフルなグラフィックが表示。なんかバンドが登場する前からバブリーーーーーだぞ!?



鳴り止まない拍手と歓声、そしてバンドの登場!一曲目からいわゆる“ボルテージは最高潮”ってヤツだ!!!因みに冒頭三曲はアルバム収録順そのまま、『ワルシャワの夜に』『ロトカ・ヴォルテラ』『暁のザナドゥ』!カッチョイイタイトルを裏切らないキラーチューンばかり!音源で聴いてる時からあまりのシブさと歌の強さに打ち震えていたが、ナマはアツい……しんどい……。



何がしんどいって、このライブ、特に冒頭三曲で彼等は遂に色気を抑えられない年齢に差し掛かり、オトナのバンドへと成長を遂げようとしている事が明確になった事だと思うんですよ!!!今まではそのキャッチーさと瑞々しさから“フェスに引っ張りだこの元気いっぱい若手バンド”としての扱いが多い印象だったし、それはそれで悪くはなかろうと思ってたさ、でもこの時の彼等は!!!確かに!!!いつにも増して今までで一番、オトナのオトコの色香を全身から放っていた……!!!



いつものように舞台狭しと駆け回りながらも、その佇まい、タイトでストイックなサウンド、そして深みを増した歌声は今まで以上に出色で、音の波動を食らった瞬間に僕は脊髄から痺れたね。



まるで熱情を抑えきれないかのように音源よりも少し走り気味な巨匠の歌、吐き捨てるような荒々しいその語尾と相反するように伸びやかなヴィブラートに抱かれたい歌声大賞2018の称号を与えたいと何度言ったらコガレコーズに伝わるんだ!?

対してもうひとりのフロントマン・シモテに舞い降りたセクシーフェアリーこと首藤義勝!僕は彼の作る楽曲も好きだし彼の歌声も好きだしなんなら彼の全てが大好きだと言ってはばからないのだけれど、この日の彼は最高にキレていた。下腹部に響くようなリッケンバッカーの重低音をまるで己が歌声のように操りながら、その唇から流れ出す声はいつも以上に甘く中性的で脳味噌に絡みついてくらくらしそう。いつもより余分にねっとり甘い。台湾のミルクティレベル。正に恋の味。

そのくせ『暁の〜』の1サビ後のシャウトは喉の奥から絞り出すようなオトコ臭い発声で、何なんだお前のそのギャップ!?なんか畏れ多い呼び方してごめんなさいね!殴ってくれ!!!その青磁色のジャズベで!!!!!!



そんなふたりの歌をガンガン底上げする楽器隊のふたりも最高〜〜〜に美しかったです!!!いつもはビタミンC1000ミリグラムと言った趣のレモンもびっくりな笑顔が魅力的なドラム八木氏が……ポーカーフェイスでストイックに叩いてるよ……!!!

腹に響く、と言うよりは足元から這い上がってくるようなじわじわくるビートがこの日の彼は非常に素晴らしかった。振り乱す栗色の髪は夜叉のようだがこの日の八木にゃんはニャルラトホテプスタイル。しかしお衣装が何故かコバルトブルーのオーシャ……中日ドラ〇ンズのユニフォームだったのだけは異様に気になる。まあ、八木にゃんだもんな。しょうがないよな。
(※八木優樹氏はバンドマン界隈きってのド〇ゴンズファンとしてよく知られています。)

更にギター!TAKEMASA!ONO!!!天然パーマがチャームポイントな金髪を気まぐれに「よしかつのヘアアイロンでストレートにしてきた☆(本人談)」彼の破壊力がまたすごい。圧倒的なアレンジ力・アドリブ力とそれだけじゃないテクニックの炸裂具合はプレイヤー的観点ではド素人な五十嵐から見ても相変わらず抜群で、猛烈なプレイングのせいでサラサラの前髪が目元に陰を作っているのが彼のヨーロピアンな彫りの深い顔立ちを際立たせており最高に美しかった……。

今まで拝んだ彼の姿の中でも指折りの美しさ。その気まぐれは完全に罪。TAKEMASAオブザイヤー受賞作だよアンタ。



五十嵐「ねぇ……僕達さっきまで〇―プランド街にいたんだよね……情報過多で道忘れそうだよ……マダムの園までどうやって帰ればいいんだよ……」

相方「武氏(※たけまさ氏の事です)、パーマ取れてきちゃったね。汗と熱気のせいかなぁ」

五十嵐「サンダラバンダラすらお洒落に聞こえるよ、演奏がカッコよすぎるせいかね……ギルティ……曼荼羅か何かかな……」
(※「サンダラバンダラ」とは……物真似が得意なたけまさ氏が少しグレ気味だった学生時代の巨匠の物真似をする際に繰り出す翻訳不可能な謎の呪文)



相方「イタリア語っぽくもあるね」



成程、ブエノスアイレス的なね。




ブエノスアイレス、イタリアじゃなかったわ





■欲望の街が加速させた首藤義勝の色香についての覚書

馬鹿な事をのたまいながらも我々の視神経や触覚には彼等の勇姿や艶姿や場内の熱気がしっかりと刻みつけられていて、三ヵ月近く経過した今でも昨日の事のように思い出せる程。特に印象的だったのは、先に述べた「オトナのバンドとしての進化」にも関係しうる事なのだけれど、本編半ばで披露された『雨宿り』のパフォーマンス。



KEYTALKは基本的には巨匠と義勝さん、ボーカルふたりの激しい掛け合いや爽やかなハーモニーが最大のウリであるバンドなのだけれど、この曲は義勝さんのソロボーカルが特徴的な楽曲になっていて。

今までも彼等はアルバムに必ず一曲はツインボーカルそれぞれのソロボーカル曲を収録していて、ライブでも長年披露されている楽曲も少なくないのだけれど、この曲のパフォーマンスは中でも群を抜いてインパクトが強かった。



ひとつ前の曲が終わった途端、暗転した舞台の上から雨音が流れてくる。スクリーンにはしとしとと雨降る街角の映像。いつもベースを弾きながらシモテからあまり動かずに歌っているのが常である義勝さんが、徐にベースを手放しセンターに現れる。手にはハンドマイク。イントロに合わせて揺れる細身の身体。



別れの気配に怯えながらも恋人への想いを断ち切れない女性の目線から描かれた切なくて色っぽいこの曲を、彼は身体全部を使って表現していた。肩で切り替えの入った黒と白のドルマンスリーブのオーバーサイズカットソーが、首から肩にかけての美しいシルエットを際立たせている。ベタの尾びれのように揺れる裾、マイクを優しく掴む細い指、こなれた様子で軽くステップを踏む足元……。



元々はベーシストとして、ボーカルは執らない目的でKEYTALKのメンバーになった義勝さんだからこそ、僕はその姿が美しくて誇らしくて目が離せなかった。初めから「こう言うバンドだヨ!」と言われたら信じてしまいそうな程、その時の彼の姿や歌声には“ボーカルとしての信念”があった。それは間違いなく「KEYTALKのベースボーカル」として彼が生きてきた時間によって築き上げられたものであり、オトナの自信、色香そのものだった。

いつも彼がいるシモテには巨匠がいて、ギターを弾きながらずっとコーラスしていたのだけれど、コーラスのないパートでもずっと口パクで歌っていたのがたまらなかった。このひと本当にバンドの曲が好きなんだな……愛だな……。



よしかつ「僕あんまり日頃汗かかないタイプなんですけど、今日は多めに汗かいてまぁす」

オーディエンス「\ウォォォォォォォォ/」

(この発言の後に盛り上がる我々もちょっとよくわかんないな)



よしかつ「だからぁ……もっともっと、よしかつをビショビショにしてください♡♡♡」



五十嵐「する♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡(血涙)」



相方「はいティッシュ、あと肩ベシベシ叩かないでください」





■任〇堂さんに叱られないかだけ心配

この時のライブは冒頭でも記した通り、“テレビゲーム”をモチーフにした演出が印象的だった。パフォーマンス中のスクリーンやネオンサインも勿論だけれど、MCの楽しさが更に凄い。

突然曲振り前にドラムセットの向こうの八木氏が言葉もなくマ〇オの帽子を身につけてヤギオに変身していたり、そのヤギオを巨匠が徐に取り出した原寸の十倍ぐらいの巨大なコントローラー(はりぼて)で操縦し始めたり。一瞬何が起こったのかわかんなかった。



いつの間にやらMCはテレビゲームと言うテーマをかけ離れて物真似大会の様相を呈し始める。徐にしゃくれ始める巨匠。どうやらク〇キン〇パパのつもりらしい。めちゃめちゃ似ている。写真撮って見せたいぐらい似てる。そのしゃくれたクッ〇ング巨匠に〆られる魚(ノドグロ)に扮する八木氏。隣で突然スラムダンクの仙道の物真似を始める義勝さん。こちらは打って変わって全然似てない。ただの低い声の義勝。ライブMC恒例の、持ちネタ(?)である「ぺーい」と言う掛け声をコール&レスポンス的にオーディエンスにかけまくるたけまさ氏。同じく「ぺーい」と返す我々。同じく「ぺーい」と返すノドグロ(八木氏)(瀕死)。


キャラ大混戦スマッシュブラザーズである。


最早バンドマンの語りの場と言うよりはシュールギャグ漫画を読まされている感じになってきた会場。収集がつかない。しかしこれがいつもの彼等である。とてもとてもエモーショナルで尚且つ技巧的な音楽をやっているひと達だと言うのに、彼等はいつも飾らず、自然体だ。寧ろわざとふざけてみせるぐらい。



本編最後の一曲、『Rainbow road』。アルバムでは半ばに収録されているこの曲が最後に披露された時、とても驚いたけれどとても納得した。上手いなぁ、と思った。



一曲目に披露された『ワルシャワの夜に』。これはアルバムでも一曲目に収録されている楽曲だ。“死を目前にして為す術もない友情”を描いた、力強くも儚い曲。義勝さんが手がけた、「僕らはいつも追いかけていた あの放物線を」と言う歌詞がとても美しい。

対して『Rainbow road』は、“永遠に続いていく憧れと友情”のようなものが描かれている曲。作詞は巨匠。しかも、この曲にも「いつか 僕にも 描けるだろうか 君が憧れる 七色の放物線」と言う歌詞がある。まるで示し合わせたように、引き合うように、ふたりは同じ言葉を歌詞の中で使った。



『Rainbow road』が最後の一曲として披露された瞬間、僕はぼろぼろ泣いた。例えるならば、少年漫画でよくある「第一話の主人公が口にした台詞が全く別の意味を持って最終回で再び出てくる」あの現象を目にした時、みたいな気分になって。

まるでセトリの中にロールシャッハのような鮮やかなシンメトリの模様が描かれたようで、あまりの美しさに僕はばかみたいに泣きじゃくってしまった。めちゃめちゃ明るくてアッパーで楽しい曲なのに、涙が止まらなかった。



この「別のメンバーが書いた歌詞の中にたまたま同じ単語が登場する」現象、彼等にとっては結局単なる偶然でしかないのかもしれない。でも、五十嵐にとっては運命と言っても過言ではないものだった。しかもふたりはいわばバンドの両車輪であるツインボーカル。音源で初めてその事実に気がついたその時からただならぬものを感じてはいたのだけれど、この“神セトリ”のお陰で、ますますそこに単なる「好きなバンドの曲」以上のものを感じ取ってしまうようになってしまった。



ロックバンドは「ロックをやるバンド」の事で、極論良質なロックを生み出す事だけに執心していれば良いわけだから、「曲さえよければ良い、ルックスもファンサも、ましてやバンドのバックボーンなんてどうでも良い」と考えているひとも少なくないだろうと思うけれど、僕はそんな硬派な音楽ファンにはどうにもなれない。どうしても、それ以上をロックバンドに望んでしまう。



そこにあるかもしれないし、ないかもしれない、そんな不確かなドラマをロックバンドと言う存在から勝手に見出して、想像して、勝手に感動して泣いてしまうのだ。



だって、言ってしまえば何処にでもいそうな若いオニーチャン達が、額を突き合わせて手ずから曲を作り、大勢のひと達の前に立って圧倒的な存在感を放つ“アーティスト”に変身するんだから。そんな奇跡の裏側に、ドラマがないなんてありえないじゃないか!



眩い程の虹色のレーザービームや予算足りんのかっていらん心配してしまうぐらいふんだんに用いられた火薬の火炎放射を背負っても尚負けない存在感を放つ四人の姿を見上げながら、僕は改めてそんな事を思っていた。

オタクは勝手なもんで、妄想がそのまま生きる糧になる。“推し”の背後にある人生の物語を勝手に妄想して、勝手に感動し、勝手に苦しくなったり満たされたりする。

KEYTALKだけではないけれど、ロックバンドは僕にとって週刊少年ジャンプにも匹敵する大いなる偉大な“物語”だった。



たったの四歳しか歳の離れていないオニーチャン四人がオトナの階段を上る姿に、僕はこれからもずっと支えられながら生きるのだろうと改めて思った。



天井から舞い落ちてくる銀テープを思わず必死で掴み取る五十嵐。やったぜ!振り向いた隣にいた相方は目を輝かせて身体を揺らしていた。大体胸の前で手を組んで大人見している彼女ですら軽く跳ねるKEYTALKのハイテンションさ。天晴れ。

しかも次の瞬間その肩に、さっき僕が手に入れたものと同じ銀テープがひらりと落ちてきたではないか!急に慌て始める相方と僕。これも結局は偶然に過ぎない現象だろうが、今思い出しても何処か神々しさすら感じる不思議な瞬間だったと思う。



とめどないエモさと笑いの五月雨攻撃。アンコールまで入れて約三時間、あっという間のショータイムは大歓声の中大団円を迎えた。



アンコール後の退場時、メンバー全員が袖に掃けたのち巨匠だけが舞台の上に残った。何事かと見守るオーディエンスを尻目に、彼は徐に足元から何かを持ち上げる。何やら酒樽のような形をしているそれの側面には、張り紙がしてあった。



「テキーラ」



まさか、と息を呑む我々。

そんな心配をよそに初めは小さなグラスを取り出し、樽の下部に据えられた蛇口的なサムシングを捻って中身を注ぎ込み、ちびちび煽っていた巨匠。次の瞬間、彼はさっきまで美声を轟き渡らせていたその口元に樽の蛇口的なサムシングを持っていき、遂に身体を反らせて直接樽の中身を注ぎ込み始めたのだった!

オイオイオイオイオイ!?いくらメンバー内でも随一の酒の強さを誇る漢・寺中でもそれはちょっとアブナイんじゃないのかい!?この後もツアーファイナルまでまだまだ公演があるのだから……ひとりの身体じゃないんだから大事にして……。

会場から聞こえるのは悲鳴のようなザワザワ感だけ。誰ひとり一気コールかけたり煽ったりしていないところから川崎と言う街の優しさを感じて嬉しかったけれどそれとこれとは別。勇ましきゴリ……もとい、大虎巨匠の気持ち良いぐらいの飲みっぷりは留まるところを知らない。ハラハラするオーディエンスの心情を知ってか知らずか、その肉感的な唇の隙間にぐいぐい吸い込まれてゆく滑らかな黄金の煌めき。



ふいに、彼が樽を口元から離して上体を元に戻した。半笑いの苦笑いでそっと見守る我々を見渡し、ニヤリと不敵に微笑んだ彼は一言、



「……あ、これ、お茶ッス」



その大きな逞しい手には、「茶」と書かれた丸いパネルが威風堂々掲げられていた。



(続きます。)

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