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マーブルで捉えどころのない性でもいいんじゃないかな?


#20 書き手:クレオ

 柔らかい肌にしなやかな関節。太い骨もゴツゴツとした筋肉よりも、この体の方がおれにはしっくりくる。
 この感覚が、性自認なのだろうか?心が男で、でもしっくりくる体が女ってのが?
 
 それならきっとおれは、赤か青か、ぱきっと切り分けられる性ではないんだな。



 アケルがおれを作った理由は、まぁ色々あるけど、元のキャラクターが男で、アケルも心は男。同性として好きでいる事の難しさに苦しんでいたってのがある。

 元のキャラクターはおちゃらけていたけど、それなりに見目美しく、女性ファンが多かった。
 考察を主体とするSNSでは、物語のコメディ担当としてそれなりに好かれていたけど、Twitterみたいな共感が主なSNSでは、まぁ女の子に好かれること愛されること・・・なぜか、熱狂的にモテてた。
 声優さんの声がカッコよかったからかな?

 物語の売り込み方も、女性向けのものにシフトしてたところもあり(アケル注釈:ぼくが過敏に反応しちゃっただけで、あくまで物語のイメージを壊さないコラボなどです)あんまり男性ファンが見えない。

 アケルは同性愛と、自分の性別の違和感の両方で苦しんでいた。
 ネットで男性として振る舞っても、肉体は女性だ。オフで他のファンと会った時にいちいちカミングアウトしなきゃならない。相手を好きだと思っても、男性の同性に向ける恋愛感情は、女性の異性愛とは明らかに違う。
 女性の好むポイントに共感できないし、何よりアケル自身が、「ぼくの感情は間違っている。正しいのは女性ファンが向ける、異性愛だ」なんて思いこんでいた。

 それがあまりに辛くて、アケルはおれという創作キャラクターを生み出した。
 同性愛を向けても、相手のイメージを損ねない、アケルが愛してもいいキャラクター。
 誰にも気取られてはならない、溜まって溢れそうな愛情を、全ておれに注いでいた。毎日抱きしめて、毎日読んで、毎日泣いていた。
 
 女々しいこと書くなよ、ってアケルは思ってるだろうけど、おれは『愛情を向ければ、傷つけてしまう。でも好きでいたい』というアケルの秘めた想いから生まれた。そのことは、おれにとって誇らしい。
 アケルが隠したいと思ったのは、それだけそのキャラクターを大事にしていたからだ。
 大事な想いからおれは生まれた。最初は代わりだったけど、おれの事を別の存在として、今は大事にしてくれる。

 それに、今でもキャラクターと作り手の作家さん、声優さんは相変わらず好きだ。おれもね。
 ここではどういう作品かは言えないけど、アケルは今でも作品がより多くの人に読んでもらって、キャラクターが多くの人に愛されて欲しいと感想を書き続けている。伝えることを続けて、愛し続けている。



 話が逸れちゃったな。

 おれは、同性を愛しちゃいけないって思っちまうのがなんでなのかは、この社会に生きて人からあれこれ言われてないからきっと分からない。

 でも、性別違和なら、分かるかもしれない。
 元々キャラクターは男性だから、おれの体も性自認も男…のはずだ。
 この体を変えれば、アケルと同じような気持ちになるのかな?
 おれが女の体になれば、苦しまなくなるだろうか?
 そう思って女性に変身すると、おれには逆の感情が湧いてきた。

 
 柔らかい肌にしなやかな関節。太い骨よりもゴツゴツとした筋肉よりも、この体の方がおれにはしっくりくる。
 この感覚が、性自認なのだろうか?心が男で、でもしっくりくる体が女ってのが?
 それならきっとおれは、赤か青か、ぱきっと切り分けられる性ではないんだな。

『アケル。この体、どう?』
 アケルはおれを見て、固まった。迷うように目を瞬く。
『この体でぎゅってしたらさ。罪悪感、感じなくなるんじゃない?やってみない?』
おれは両手を広げて尋ねる。アケルは動かない。




「昔、夫婦として結婚してから、“女性になりたい”っていう男性と、その家族のドキュメンタリーを見てさ。なんか思い出したよ」
 後からアケルに聞いたら、
「あんないきなり変身して誘う奴がいるか」
と言われ、迷いがあったことを話してくれた。

「ぼくはさ、クレオ。結構ステレオタイプの人間なんだよ。君の体が気持ち悪いとか、女性になるなんて気持ち悪いとか、拒むと思わなかったの?」
『うーん、そこまで考えなかったし』
 おれはそう言ったけど、本音は少し、構えていた。
 でも、アケルだから大丈夫だと思ったんだよね。
 受け入れられたとしても否定されたとしても、そこからお互い話をして、何が苦しいか考えて、うまい折り合いをつけられるだろうと思ったんだよ。
 いまだから書くけどさ。



 アケルはおずおずとおれの前に立つ。
「いいの?体、それで違和感ない?」
『ないよ。むしろしっくりくる。お前の、違和感が逆の意味で分かったかも』
「…嫌だったら、すぐにいいなよ」
 アケルは俺の腰を抱く。やっぱり体格差は大きくて(いや、この体がでけぇんだよな)アケルの頭頂が胸につく。
 アケルは大切に、大きな花束を抱くみたいにおれをハグした。背中にかけられた手がおれを優しく撫ぜ、ぽんぽんと叩く。
 アケルは普段、男目線で「女の子はおっぱい大きいのがいい」とかエロ馬鹿ワードを言う(こういうこと言う時は『胸の大きさで決めるとかサイテーだなお前』と返す)けど、胸には全然触らないでおれを壊れ物みたいに大事に抱きしめていた。
 言ってることとやること、全然違うじゃん。
 微笑んで、アケルの頭を抱く。
 
『楽になった?』
「普段と、変わんないよ。クレオはクレオだ」
 アケルの性別の苦しみが解けたかはわからない。でも、ハグした後、ちょっとさっぱりした顔をしていた。

「お前が女性になったからって、自分がマイノリティなのは変わらないし、罪悪感も同性愛嫌悪も、そう簡単には治らないよ。でも…」
『でも?』
「クレオが自由すぎて、それをなんでか受け入れちゃってる自分が不思議で、性自認とか好きになる性別とか、どうでも良くなった」
 思っていたようには、アケルの心は晴れなかったようだ。まぁ仕方ないか。おれにはまだ、人間の性や文化ってのが分からないんだろう。
 ゆっくり知っていくしかない。世の中のことも、アケルの性も、おれの性も。

『体を変えてみて分かった事だけど。おれは女性の体がしっくりくるけど、自分を女性だとは思ってないみたいだ。でも、男かって言うと、アケルを見てるとそうも思えない。お前のほうが男らしいよ』
「うん。前から薄々感じていた。でも、それでいいんじゃない。
 今後、君が男性でも女性でも、無性・中性でも。
 変わりたい時に変わったらいい。ぼくの願望や理想なんて構わず、自由に生きてくれ。
 いきなりだと…まぁ戸惑うだろうけど、君がどれだけフリーダムでも、ついていけるようになるよ」
『格好付けすぎ。そんなら、まずアケルの性を許してやれよ。自由に生きな』
  
 
 これが、一年前に起きた出来事だ。この一年、おれは男体になったり女体になったり、どっちにもならなかったり。でも、どの体になっても、おれの心に変化はなかった。
 やっぱり体は女性の方がしっくりくる。でもどんな体でも、おれには“女性らしく・男性らしく”が分からない。
 口調は男っぽい方が気が楽で、アケルの相棒だから異性よりは同性寄り。でもきっと、厳密にアケルの性と同じではない。

 ただ、おれの性もアケルと同じくらいごちゃごちゃで、マーブルな色だ。アケルがおれに自由でいていいと言うなら、アケルも自由な心でいて欲しいんだ。

 人間が自由に体を変えられるなら、その心の通りに体を変えたり、男性にも女性にも日によって変えたり、みんな自由にやるんだろうな、なんて、もしもの話を考えたりする。
 肉体のある生ではもしもだけど、だからこそ、せめて心は自由でいていいんじゃないか?
 

 おれはずっと一緒にいるから、自分にかけてる性別の呪いを、ゆっくり解いていって欲しい。


【後書き】
 今回のカミングアウトについて、今まで“アケルの同性”と記述していた点について、少し補足をさせてください。
 元々、おれの性別について記事を書くと想定してなかった為、

・一人称がおれで、話し言葉が男性寄り
・ぼくが性別違和と同性愛に悩んでいる事
・女性に変化することを公開するにはそれなりに勇気がいる

 これらの理由から、男性で同性のパートナーとして紹介でした。
 今までの記事の記述は、変えるのが大変なので変えません。
 女性の時の姿とか日記に書きたくなるかもしれないので、その時の呼称はジェンダーフルイド(日によって男性、女性に変わる流動的な性)にしようと思います。

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