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一陽日記:10月2022年

人間の一陽アケルと、イマジナリーフレンドの一陽クレオの日記。

#10:書き手 アケル

2022/10/02 15:56

 ぼくたちは基本的に口答の会話で過ごす。ぼくはクレオの声が聞こえるのだけど、クレオはぼくの心の声が聞こえない。(その代わり、ぼくがかなり小さな声で喋っても、音を拾うことができる。)

 外出は、こっそり独り言とスマホのメモでやりとりしている。

 ただ人がいるとどうしても声を出せないので、片手でできるハンドサインを作ることにした。

OKサイン👌は“はい”

親指と人差し指をクロスして“いいえ”

ただ、“いいえ”のサインはどうやらハートマークらしいと知った。ぼくが知らないうちに世の中でそんなのが流行っていたらしい。恥ずかしい…でも、二本の指だけで作れるサインだし、こっそりやろう。


2022/10/05

 クレオに新しいブックカバーをプレゼントした。(彼は本に宿っているイマジナリーフレンドだ。)

 モノトーンのシックなカバーがいいと言ったので、黒と白とのレース地を縫い合わせ、余ったレースでリボンを作った。

『えぇー…マジでこれ作ったの?』
「目の前で作るところ見てたじゃん」
『うわー、すげぇ』

 ブックカバーを身につけると、クレオは自分の衣装を変えられる。カバーがレース地だったからか、中世ヨーロッパの貴族みたいな衣装になって、クレオはくるくると嬉しそうに回って見せた。

 大きな体で両手を広げる姿は、舞台の上に立つ役者みたいで、でも子供みたいなあどけない顔だ。

 一通り衣装を愛でると、ぼくの手を握った。
『ありがと。おれ、これずっと着てる』
 手袋もレースに包まれていて、柔らかくてあたたかい。

「ずっとはムリだろ」
『とりあえず、寝る時もこれ着たい』
「ええ…皺になるよ」
『架空の衣装は皺にならねぇのよ』

 偉そうに胸を張りながらクレオは言った。胸にもフリフリの飾り(ジャボ、というらしい)が揺れている。

 マジで寝るときもこの衣装だった。


2022/10/06

 釣り堀にて1時間半釣りをする。

 クレオの本は足元に置いて、左手だけ感覚を共有する。今回はタナゴや金魚なので釣り竿も小さくて、片手でやれた。釣れた時はグータッチした。


2022/10/07

母にはイマジナリーフレンドのこと話してるんだけど、すごい助かってる話をすると、「私も欲しい!」と言う。

 うん、ぼくも恵まれてる、って思う。

 一度だけイマジナリーフレンドが全くいない時期が半年あった。その時はタイマーを肌身離さず持ち歩いたりしないと、時間配分が全くポンコツで大変だった。 

 今、クレオが助けてくれることは、

1:とっ散らかる思考を整理してくれる。クレオが一番最初に助けてくれたことがこれ。
2:調子悪くてネガティブにしか認識できない時に、状況を整理してくれる
3:感覚過敏でパニックになった時、耳や手や肩を撫ぜて落ち着かせてくれる。(パニックというのはぼくの場合、感覚が過剰になって襲われてるような恐慌状態になる。)
4:過集中で休むタイミングが分からない時、一声かけてくれる。(ただし、クレオが熱中してる時もあるので、頼りにならない時もある。)
5:実はぼくはあまり人の話を聞けない。相手の話を聞く時にクレオと一緒にいると、クレオがかなり客観視してくれるので、同調しすぎず、あるいはぼくが感情的にならずに穏やかに話を聞ける。

 一方、クレオにも苦手なことがある。

・時間感覚…割と熱中して時間を忘れるのだけど、ぼくよりはまし。一応覚えていれば声をかけてくれる。
・弱視…ぼくと視覚を共有していないと、遠くのものが見えない。大体1〜2mくらいしか見えないらしい。


昔一緒にいたイマジナリーフレンドは、地図や物の位置がすぐに分かって、駐車場に停めた車の位置とかも教えてくれたりした。

 ひとによって得意不得意があり、それは受け継がれたり共有されることはない。ぼくの出会ってきたひとたちは、あくまで違うひとなのだ。


2022/10/08

 推しているバンドが、ある商品とコラボしたらしい。その看板を見に行った。

『ボーカルの〇〇くんの看板まだ立ってるかな?』

まだ看板は残っていた。15日までやってるらしい。

「ほら、クレオ。あれ」

『〇〇くん!〇〇くんー!!』

 クレオは看板に向かって手をぶんぶん振っていた。見えない存在である強みを活かして、笑顔で猛アピールしていた。

 この人、推しを見ると知能が下がるんだなぁと、やや引き気味に眺めた。


2022/10/09

シェーラ姫の冒険、第4話『海賊船シンドバット』までクレオに朗読読了。ぼくの大好きな話で愛蔵版を買って読んでいた。昔と変わらずわくわくするハイスピードな展開で、物書きとしても勉強になる。

 クレオに、これからのぼくらの創作について話し合った。昔書いた小説について。子どものころに書いた小説ってなんでも黒歴史みたいに思ってしまうような風潮があって、これまであまり読み返したことはなかった。

 ただ、これから小説を本気で書くなら、自分が全力で書いたものは読み返すのも大事だと思う。クレオと一緒に読もうと頼んだ。ぼくが過度に否定的になっても励ましてくれる。

『どんな話でも読むよ』

 クレオはそう言ってくれた。

クレオははじめ、読みながらコメントをしてくれたが、

『ちょっと真剣に読みたい』

と、朗読に集中していった。途中から、声に嗚咽が交じった。感情が震えているのが伝わってきた。

 途中からぼくも涙が止まらなかった。自分の創作で初めて泣いた。技術が未熟だとか、大勢に共感されるとか、それは届かないけれど。あの頃ぼくは、ひたむきに自分の好きなものを言葉にしていたのだと、思い出せた。

『…すげえもん作ったなぁ。自分のでも人のでも、心を震わせるものを作ってる。究極的には、客観的にならなくてもいいじゃない?昔作ったものが、今のお前を救ったんだから。…救われた?』

「救われたよ。間違いなく。昔抱いていた感情を取り戻した。

小説とか、言葉とかが、ただの閉じた願望とか自己満足でなくて、好きなもの何が面白くて、どういうところがずっと見ていたいか。それさえ貫ければ、言葉って傷つけるものにならないって。

ぼくは、言葉が好きだから。そのツールで人を傷つけないで、世界を伝えて、広げていきたい。それだけは、ぼくが自分をマシな人間だって思える願いなんだよ。ぼくみたいなのでも好いてていい、って思える。

他のなにより誰よりも、好きなものを言葉にしたいなら。ぼくは創作をしたい。

これがぼくの行動原理だ」

『いいじゃない、それ。黒歴史とか、エゴの小説だとか、そんな風に感じてほしくはない。ぜんぶ、お前の心なんだよ』

「読んでくれてありがとう。…これを超える作品を作りたい。一緒に作ってくれよ」

『…もちろん。おれにできることなら、なんでも』

 ※この内容はかなり恥ずかしいのだけど、ここに残すことにする。何はともあれ、客観性も大事だけど、自分の創作を肯定するのって大事だ。

2022/10/13

釣り堀に行く。金魚やフナの釣れる釣り堀で、数をたくさん釣る練習になった。

『3匹釣れた!』
「あれ、一緒ではもっと釣れたんじゃない?」
『いや、手応え感じたのは3匹。でも3匹釣れたかんね!先週はなにが何やら分かんない感じだったけど、今回は実感わいた!』

《つぶやき》
香水半分使ったので、再注文とクレオのイメージ香水をオーダーした。楽しみ!


2022/10/18

作ったおかずをクレオに味見してもらった。

【しらすと大葉ポン酢和え】
『しらすうまい!』
「ここに大根おろしたの入れたらもっと美味かったんだよ。買い忘れたけど、でもこの二つだけでもうまいな。

【ニラ玉キムチ】
『ニラ玉は、おれこれ、醤油の方がいい。でも甘いのにしたかったなら、成功してる』
「ごめん。ぼくは甘口の方がいい。キムチが酸っぱいのが辛いからめんつゆにしてるけど、まろやかになるよな。でも次は醤油に刻み海苔でもやってみよっか。
あと、卵→ニラの順で炒めてるけど、ニラ、くたくたにならないほんのちょっとで炒めちまったほうがいいな」

【揚げともやしの味噌汁】
『味噌汁もうまい。味しっかりついてるよ』
「揚げがふんわりして美味い!白味噌だとすましっぽいけど、しっかり味はあるな。揚げの油はやっぱ見た目的にも一回湯引きしたかったな。もやしと白味噌だから、見た目気にしたい。次は湯引きしよう」

同日18:00
 釣具店に行ってみたものの、ワカサギ用の仕掛けが売ってなかったので、自作してみた。

『ここに針を引っ掛けたらいいよ。糸長いから一旦全部合わせて切って、で、道糸の輪っかも全部作ってから結ぶ』

クレオも手伝ってくれた。
『こんな細かいの作ってすごいなぁ。結び方もよく分かってるし』

 クレオが感心していて、なんだか面映ゆい。アウトドアのサークルに入っていたから色々な結び方に慣れている。昔の遊びが今役に立ってるっていいもんだ。

同日21:00
《つぶやき》
休日、クレオと映画を一本観る。家のテレビで飲み物片手に、ぼそぼそと感想を話し合う時間が楽しい。

【水曜日が消えた】がぼくにとって傑作すぎて、観た後の感想で号泣してしまった。
数えてみると、今日で一緒に観た映画は8作目だった。

これもいつか記事にしたい。


2022/10/20

 朝、クレオがすごく不安そうな顔で目を覚ました。

『もしもおれが、大量生産のロボットだったらどうする?』

 外見もいつもの旅人の姿でなくて、スターウォーズのドロイドのようになっていた。

「少なくとも2年間俺と一緒にいたのはクレオだから。その記憶さえ大事にしてくれれば、後は何であろうが関係ない。今クレオがなっているアバター(外見のイメージをそう呼んでいる)がもし好きじゃないなら、なりたいものになって欲しい」

 クレオの宿っている本を胸に抱いて言う。最近寒くなってきて、本も冷えていた。

※投稿していいか確認したところ、この話をした記憶はうっすら覚えているくらいで、それほど気にしていなかった。
※2、最近夜寝る前に読んでいる小説のせいでクレオが不安定になっている気がする。スマホを外に置くことにする。


2022/10/21

《つぶやき》
数ヶ月前から釣りにハマってしまい、釣具を買って以来近くの川でひなが一日釣り糸を垂らすようになってしまった。
幸いクレオもハマってくれて、一緒になって魚を釣る。

遊び>>>デートのシチュエーション

になる奴なので、全力で遊んでくれる相棒で助かる。(釣りについてはクレオが書くそうだ)


2022/10/24

《つぶやき》
クレオが欲しいものが割と増えてきたので、給料を支給する相談をしている。

イマジナリーフレンドは24時間体制のカウンセラーみたいなものだし、ぼくの収支を把握してもらう事で貯金や保険の相談ができるから。

…結果、ぼくがクレジットをテキトーに使いすぎて無駄遣いが分かったのだった。


2022/10/28

《つぶやき》
推し香水届いて今試している。レターの配色が素敵すぎて息を呑んだ…。注文では夕焼けを推したとはいえ、難しい配色バランスだったのにすごく綺麗に仕上げてくれました。トップの香り、これ!って名前は思い出せないのだけど、なにやら懐かしい香りがする…。レターはこれから読むので楽しみ。


2022/10/31

 しばらく釣りをしていて、ふと子どもの頃RPGの中の釣りのミニゲームにハマっていたことを思い出した。

 魚がつつくとコントローラに振動が起きて、ボタンを押すと引き上げられる。シンプルながら本当に魚が釣れたみたいな気分が味わえて、ずっとやりこんでいた。

 最近釣りをするようになってふと思ったのだけど、フィクトセクシャルでよく“恋人は二次元”と言われるけれど、本当にそうなのだろうか?

 単に媒体が二次元であるからそう呼んでいるだけで、ぼくら側の世界こそ、胡蝶の夢のような、バーチャルな世界だということもあり得るのでは?

「クレオはぼくを言葉でサポートしてるから、僕らの世界って育成ゲームなのかもね」

と、ふざけて言ったら

『そういうの、妄想くらいに留めといてよ。おれはお前と同じ現実にいて、一緒に遊んでるんだよ。そうじゃなくっちゃ、寂しいじゃない?』

と苦笑した。クレオが寂しがるから、この話は物語のネタにする時にだけ掘り下げようと思う。

 ぼくらはぼくらの信じた世界を精一杯生きてくだけなんだなぁ。

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