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東海道NOW&THEN 17 「由比」

蒲原から由比へ1里。約4km。

 JR東海道線に沿って歩く、ときおり左に海が見える。蒲原を出て、1時間ほどで由比宿の入り口だ。地名は「由比」だが、なぜか広重は「由井」と書いている。

 広重の絵は、由比と次の宿場・興津の間にある東海道難所の一つ「薩埵峠」からの富士を描いている。絵の中、左上に旅人が描かれていて坂道が急であることがわかる。実際に歩くと、峠に上る道はクルマ1台がやっと通れるほどの狭い急な坂道。左の急斜面にみかん畑、その下に東名高速と駿河湾が見える。上がりきると、展望台。この展望台は、ここからの眺望が広重の絵を彷彿させるようにと設置されたのだと思える。写真は、興津に向かって下りながらときどきふり返り、撮った1枚。というのは、展望台からの写真(追記でお見せします)は、あまりにも観光パンフまんまの見事過ぎる写真。最後まで読んで、その写真を見てください。それと比べて、こちらの方が絵に近いと思っていただければ幸い。

 由比宿の手前に、銘酒「正雪」の神沢川酒造がある。由比は、江戸幕府の転覆を図った慶安事件の首謀者・由比正雪の生誕地。それにちなんだ酒。本陣の正面には「正雪紺屋」。由比正雪の生家で江戸時代から続く染物屋。現在も営業中。藍染めの日本手ぬぐいを土産に買いました。
 本陣は現在公園になっていて、その中に「広重美術館」がある。広重の作品の展示と浮世絵版画の製作過程を紹介している。それを見ると、彫り師と刷り師の存在がいかに大きかったかよくわかる。絵師が描いた微妙な線をきちんと版木に彫り上げる。また、同じ絵でも刷り師によって色調が変化する。広重のみならずあの頃の見事な版画作品は絵師・彫り師・刷り師が一体となって作り上げたもの。その技術は称賛に値する。
 美術館のロビーに版画体験コーナーがある。用紙を買うと、広重の「由井・薩た嶺」の刷りを体験できる。版木は合成樹脂で復元されて計5版。絵の大枠を墨色で刷ることに始まり、色を変えて5回刷る。それが下の写真。ヘタッピーもいいとこ。あらためて、刷り師ってのは偉大だったとタメ息が出る。

 宿場を西へ出ると、東海道は由比駅前を通る。通りのアーチには「由比桜えび通り」とある。由比は駿河湾の桜えびが有名。駅近くには桜えびを食することができる食堂が並び、直販所もいくつかある。駅前を過ぎ西倉沢の一里塚を経て、急な坂道を息を切らしながら上る。薩埵峠越えだ。

 薩埵峠を上りきると、次の興津までは約5km。

追記:
 薩埵峠を上り始めたときは快晴で、由比からは富士がよく見えていた。展望台に着いて見ると、富士は雲に隠れている。1時間ほど待ったが晴れる様子はなし。雲に隠れた富士を撮影して、興津を目指す。それが下左の写真。
 翌早朝は見事な晴れ。江尻の宿からは富士がきれいに見える。大急ぎで荷物をまとめ、宿から由比へとって返す。再び展望台へ行き、撮った写真が下右の写真。東名高速を見下ろし、正面には青空を背景に富士。なんだか観光写真のよう。それで興津に向かって下りながら、もう1枚。それが広重の絵と並べた写真です。


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