2024.7.23 GOD SAVE (FU◯K)THE WORLD
こんなに暑いと、あの日の夏の予感みたいなものは嘘だったのだろうか、と訝しむ。
夜になっても気温は下がることはなくて、先に降ったスコールとこれから降るスコールの合間の湿気で、纏わりついている。
纏わりついているのに淋しいのは、多分久しぶりに君の街に降り立ったからで、それも君に用があるからでなくて、隣町に用があって待ち合わせまで時間があったから歩いただけだ。
夏が何度となく来て、枯れて燻んでいく紫陽花を何度となく見慣れたような気にもなって、それでも思い出すのは、思い出すことだけが増えて影が濃くなっていくのは、やはり毎年異常に暑い東京に汗をかいて暮らしているからだ。
駅前の喫煙所で煙草を吸って、構わないなと思って、そのまま歩き煙草をして住宅街を抜けている時、俺はあの時に煙草を止めるべきだったのだろう、と思った。今になって吸えば、もっと鮮明にあの頃の俺や君を思い出せたのかもしれない。でも結局俺は煙草を止めなかったから、今頃にパトロールしている警察に見咎められて、過料の2000円を払えば、まぁ少しは溜飲が下がるか、と思ったけど、通り過ぎていくのは全く俺に無関係のこの街に暮らしている人で、君も一人でこの街を歩く時はこんな顔をしているんだろうなと思う。
駅前で、振り返ってほしいと思った瞬間に、振り返って笑いながら手を振った君が、それを見て振り返した確かな十代の俺が、それが何年前なのかももう思い出せないのに、ずっと揺れている。
俺が大事にしてきた優しさも責任感も、月日が経ってみれば何一つ意味を成して俺や誰かを守ってくれるものではなくて、やはりこういうものかと思いながらも、虚しいとは思う。
俺がどれだけ人に優しくあろうとしても、その人は俺の知らないところで、くだらない目線やくだらない言葉に晒されていて、でもその俺の優しさはその人のためにもならないし届かなくて、その人はくだらなさの中に生活している。
俺はそんなことを考える俺を一番くだらないと知っていて、結局俺は俺のことしか考えていなくて、俺が君のために出来ることが何かあったとしても、君がそれを俺に望んでいないのなら、まぁそれでしかなくて、俺はひとりごちる。
俺は俺の勝手でしかなくても、何もかもブチコワシテヤリタイと思う。
それが誰かの為になったらいいのに、とずっと十四歳みたいに思う。
俺はこの一年間責任を取ろうとしただけだ、これじゃあ責任を取ろうとすることが、なにか、小学校の掃除当番みたいだ。
俺も人間だから生きていれば嫌われて、俺は強くないからその度に傷ついて、でも俺は俺を嫌いな人の気持ちがわかるから、俺を嫌いな人にも優しくしたくて、それも上手くいかなくて、傷ついた俺は一体どこにいくんだろう。
去年の秋に全部皮が捲れた掌とか、痩せたくもないのに痩せていった俺の肉体とか、映画を撮ってないコンプレックスとか、一人で書き続けて結果を待っている新人賞の原稿とか、これから書く原稿とか、じゃあ何か最後に俺に何か残してくれるんだろうか。
大学に入ってから、俺はずっと何かを勘違いし続けているんじゃないだろうか。
当たり前に暴力が行われていて、俺も暴力に加担していて、それがずっと十代の頃から苦しいのに。俺はずっと自由になりたかったし、優しくありたいだけだったのに。
俺を否定するならせめてお前が正しさを担保してほしい。
お前らが俺を落胆させるようなことをして、それでお前らが救われるなら、もうそれでいいから、俺の目に入らないところで一生やってろ。
馬鹿の気持ちなんか分からないし俺が馬鹿に手を差し伸べる義理なんてないから、一生汚くて薄暗い屋根裏部屋の隅っこで、埃混じりの雨漏りだけ舐めるように暮らして死んでいけばいい。
それは俺と同じような生き方だから、そうすれば俺のことを少しは分かってくれるかもしれない。
こんなクソみたいなことを書いているのは、夏の盛りの銀座五丁目の騒がしい小さな喫茶店で、俺は何もかもを遠ざけて自己弁護をしていて、やはりくだらないと思う。
汗を大量にかいて、冷房で汗が急速に引いていって、俺は俺でなくなっていく。
全部ディスプレイの奥の世界情勢より遠くなった俺の切実はもう帰ってこないのに、俺はやはり夏休みに一人で何某かの気持ちを拾おうとする。
俺はこんなになっても世界も他人も自分も明日も信じたいと切に願っていて、多分全てを嫌うことと全てを抱きしめたいと思うことは一緒だと気づいていて、だから愛を叫ぶことを迷わずに選択し続ける。
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