憲法十七条

日本書紀 : 原文 下巻 (日本古典全集 ; 第3期 [第17])

『日本書紀』第二十二巻
憲法十七条


一曰  和やかにおさまる貴さを考える


和  なごやかに
爲  おさまる
貴  とおとさを
以  考える

忤  くいちがわ
無  ない
宗  根本の考えの
爲  ために

人  ひとは
皆  みな
黨  なかま(党)
有  ある

亦  また
達  志を遂げる
者  ものは
少  すくない

是  これで
以  もって
順  ある見解や立場を踏まえ守る
不  こと出来ない

或  ある
君  統治者
父  君主
隣  となりの國では
里  憂い悲しみ
乍  たちまち
違  逃げるに
于  いたる

然  しかれども
上  上に立つ者が
和  和やかなれば
下  下の者は
睦  むつまじい

於  よって
事  ことの
論  討論
諧  やわらぐ

則  すなわち
事  物事の
理  道理
自  おのずから
通  さえぎられることなく達する

何  なんの
事  あらそいも
成  生み出され
不  ない


二曰  三つの宝を篤く敬う


三  三つの
寶  宝を
篤  あつく
敬  敬う

三  三つの
寶  宝
者  もの(人)は、
佛  亡くなった祖先
法  祖先の残した業(わざ)
僧  それを伝える者
也  なり

則  すなわち
四  過去の業(わざ)から
生  うまれ
之  ある地点や事情に達し
終  完成させたことを
歸  かえりみる

万  ばん
國  こく
之  の
極  きわまった
宗  根本の考え

何  いずれの
世  よも
何  いずれの
人  ひとも
是  この
法  手本を
貴  とおと
非  まず

人  ひと
尤  とりわけ
惡  あくは、
鮮  まれ

能  有能な人の
敎  おしえに
従  したがい
之  ゆく

其  その
三  三つの
寶  宝を
歸  帰り
不  みず

何  なにを
以  もって
枉  よこしまなさまを
直  なおす


三曰  詔を承れば必ず謹む


詔  みことのりを
承  うけたまわれば
必  かならず
謹  つつしむ

君  統治者は
則  自然の条理
之  の
天  そら

臣  庶民は
則  自然の条理
之  の
地  ち

天  統治者
覆  おおい
地  庶民
載  従事する

四  四季の
時  流れ
順  道理にしたがって
行  行われ

方  あまねく
氣  雰囲気は、
通  順調に
得  うまくいく

天  統治者
地  庶民
欲  私欲に
覆  おおわれれば

則  模範とすることを
耳  聞く耳
壊  壊れるに(もたなくなる)
致  いたる

是  これを
以  考えて
君  統治者の
言  ことばを
臣  庶民は、
承  受け入る

上  上の者の
行  行いにより
下  下の者は、
靡  なびく

故  ゆえに、
詔  みことのり
承  受け取れば、
必  必ず
愼  つつしむ

謹  厳格につつしま
不  ざれば
自  おのずから
敗  やぶれる


四曰  禮をもって根本とする


卿  上級官職に
群  むらがる
百  多くの
寮  官職

禮  れいを
以  もって
本  根本と
爲  する

其  それは
民  たみを
治  おさめる
之  ための
本  根本

禮  れいの
在  存在は
要  重要
乎  であろう

上  上の者に
禮  れい
不  なければ
而  すなわち
下  下の者
齊  整わ
非  ず

下  下の者、
無  ぶ
禮  れい
以  なせば
必  必ず
罪  とがめ
有  あり

是  これを
以  考えて
君  統治者も
臣  庶民も
禮  れいを
有  持つ

亂  秩序をみだ
不  さないように
位  職を務める
次  序列を決め

百  多くの
姓  民に
禮  れい
有  あれば

國  こっ
家  か
自  自ずから
治  おさまる


五曰  賄賂をたち私欲を棄てる


饗  供物を受けるを
絶  絶ち
欲  私欲を
棄  すて

明  あきらかに
訴  そ
訟  しょう
辨  治める

其  その
百  多くの
姓  民
之  の
訟  うったえ

一  いち
日  にち
千  せんの(多い)
事  こと

一  いち
日  にち
尚  で
爾  このありさま

況  ます
乎  ます
歳  年を
累  重なれば

須  待ち受ける
訟  うったえを
治  管理する
者  ものは
利  利益
得  えるを
常  つねと
爲  する

賄  金品を贈って買収されれば
見  詳しく聞き
廳  役所は
讞  判決する

便  都合よく
財  金銭
有  あるもの
之  の
訟  うったえは、

石  石を
水  水に
投  投げる
如  ごとく(通り)

乏  まずしい
者  もの
之  の
訴  うったえは

石  石に
水  水を
投  投げる
似  ようになる(弾かれる)

是  これを
以  考えるに

貧  まずしい
民  人は
則  すなわち
由  任せる
所  ところ
知  しれ
不  ず

焉  つまり
亦  また
臣  庶民の
道  方法は
闕  不足
於  する


六曰  悪を懲らしめ善をすすめる


惡  あくを
懲  こらしめ
善  ぜんを
勸  すすめる

古  いにしえ
之  の
良  よき
典  手本

是  これを
以  もって
人  ひとは
善  ぜんを
匿  かくしだてする
無  ことなく

悪  あくを
見  みれば
必  かならず
匡  ただせる

其  しかし
諂  人(他国)にこびて従い
詐  あざむく
者  もの

則  模範と
爲  なす
國  こっ
家  かを
覆  壊滅する
之  ための
利  巧みな
器  うつわ

人  ひと
民  たみを
劔  剣で人を殺し
絶  絶やす
爲  ため
之  の
鋒  きっさき

亦  また
佞  言葉を巧みに使い
媚  こびへつらう
者  もの

上  上の者に
對  たいして
則  模範とし
好  善良に(振舞い)
下  下の者には
過  あやまった
説  説を知らせる

下  下の者に
逢  あえば
則  きまって
謗  過失を責め
上  上の者には
失  間違いを犯す
誹  悪口を、かげで言う

其  その
此  この
如  ごとき
人  ひとは

皆  誰にでも
於  ある
君  統治者への
忠  誠実な心は、
无  存在しない

於  (皆に)ある
民  たみへの
仁  いつくしみも
無  ない

是  これ
大  おおいなる
亂  動乱
之  の
本  根本
也  なり


七曰  道に背かず和やかにつかさどる


人  ひとに
各  おのおの
任  能力・才能
有  あり

濫  道にそむか
不  ず
宜  なごやかに
掌  つかさどる

其  その
賢  才能と徳を持ち
哲  明らかに察して判断を下せる
官  役人に
任  まかせる

頌  たたえる
音  声に
則  きまり
起  おこる

姧  国にそむく、邪悪な
者  ひとが
官  官職に
有  あると

禍  わざわいや
亂  秩序をみだす
則  きまり
繁  さかんになる

世  世の中に
生  生み出せども
知  知れることは
少  少ない

聖  天子の
作  作った詩文や規則に
念  考えをめぐらせ
剋  刻み

大  だい
少  しょうの
事  勢力のいいなりに
無  ならない
人  ひとを
得  えれば
必  必ず
治  おさまる

時  ときに
急  いそぐことも
緩  おそいことも
無  なく

賢  善良に
遇  対応し
自  自ずから
寛  寛大な処置をする

此  このように
因  順応すれば
國  こっ
家  か
永  ながく
久  ひさしく

社  國
禝  家の
危  危険
勿  なかれ

故  ゆえに
古  いにしえの
聖  せい
王  おうは

官  公を
爲  管理する
以  ために
人  ひとを
求  もとめ

人  (私欲ある)人の
爲  ための
官  公は
求  もとめ
不  ず


八曰  朝早く来ておそく退く


羣  もろもろの
卿  上級官職
百  多くの
寮  官職

朝  あさは
早  早く来て
晏  おそく
退  しりぞく

公  おおやけの
事  仕事は、
盬  休むことは
靡  なく
終  いち
日  にちでは
盡  終わらせ
難  がたし

是  これを
以  もって
朝  あさ
遲  おそく
于  かけつけ
急  いそいでも
逮  おいつか
不  ず

早  はやく
退  しりぞけば
必  かならず
事  仕事
盡  終わら
不  ず


九曰  ことごとに信はある


信  しん
是  これは
義  道理の
本  根本

事  こと
毎  ごとに
信  しんは
有  ある

其  その
善  ぜん
悪  あくを
成  実現するも
敗  そこなうも
要  かならず
于  ここに
信  しんは
在  ある

君  統治者
臣  庶民
共  ともに
信  信頼する

君  統治者
臣  庶民に
信  信頼
無  なければ

何  なに
事  ごども
成  なせ
不  ず

万  おおくの
事  こと
悉  ことごとく
敗  やぶれる


十曰  うらみを絶ち怒りをすてれば、人のあやまちに腹立たず


忿  うらみを
絶  たち
瞋  怒りを
棄  すてれば

人  ひとの
違  あやまちに
怒  腹を立てること
不  なし

人  ひとは
皆  みんな
心  こころ
有  あり

各  個々の
心  こころに
執  主張
有  あり

彼  あの人
是  これ
則  すなわち
我  自分で
非  なし

我  自分
是  これ
則  すなわち
彼  あの人で
非  ない

我  自分は
必  必ず
聖  聖人で
非  なく

彼  あの人も
必  必ず
愚  おろかでは
非  ない

共  ともに
是  これ
凢  ぼん
夫  ぷの
耳  話すところ

是  これ
非  誤り
之  の
理  ことわり

誰  (これでは)だれの
能  なすべき
定  決定に
可  同意できる

相  互いに
共  そろって
賢  かしこくも
愚  おろか

鐶  円環状のものに
端  はしは、
无  存在しないの
如  ごとし

是  これを
以  考えて
彼  あの
人  ひと
瞋  いかると
雖  いえども

恐  威嚇を
失  けして
我  自分を
還  かえりみる

我  自分
獨  ひとり
得  徳があるとみる
雖  といえども

衆  多くの人は
同  共有することに
從  したがい
擧  実行する


十一曰  細かに見る手柄は明らかな過ち


察  こまかに見る
功  てがらは
明  あきらかな
過  あやまち

賞  ほうびを与えれば
必  かならず
罰  ばち
當  あたる

日  日々を
者  過ごす者の
功  てがらに
賞  ほうび
在  存在
不  せず

罰  ばつ
在  あるも
罰  ばつの
不  ないも
事  ことに
執  従事する
群  多くの
卿  上級官職への
賞  ほうび
罰  ばつは、
宜  正当な道理を
明  あきらかにする


十二曰  欲する事なかれ


國  くにの
司  役人により
國  くには
造  つくられる

百  多くの
姓  人は、
歛  欲する事
勿  なかれ

國  くにに
二  ふたつの
君  統治者
非  あらず

民  たみも
兩  ふたつの
主  あるじ
無  なし

率  おおよそ
土  国土に住む
兆  全ての
民  人々は、

王  おうを
以  もって
主  あるじと
爲  見なす

任  まかせる
所  ところの
官  役人の
司  つとめ

皆  みな
是  これ
王  おうに
臣  したがえる

何  なにを
歛  欲するほど
公  役所に
與  さずけるために

敢  あえて
百  多くの
姓  人より
賦  とりたてる


十三曰  同じ職場の職務の共有


諸  各々
任  担当する
官  官職の
者  人

同  おなじ
職  職場での
掌  職務処理を
知  しっておく

或  もしも
病  病気や
或  かりに
使  使いに出るに
於  して
事  職務
闕  欠けて不完全な状況は
有  ある

然  しかれども
知  しっておけば
之  この
日  ひも
得  うまくいく

曾  すなわち
識  見知っていれば
和  ととのうさまに
如  いたる

其  それを
聞  き
非  かずとも
與  くみし
以  ことを行えれば

公  こう
務  むの
防  さまたげ
勿  なかれ


十四曰  嫉妬を無くす


群  多くの
臣  民
百  多くの
寮  官職

嫉  うらみ
妬  ねたみ
有  持つことを
無  無くす

我  われ
既  すでに
人  ひとを
嫉  うらみ

人  ひとも
亦  また
我  われを
嫉  うらむ

其  その
極  最も根源的なことを
知  しら
不  ず

嫉  うらみ
妬  ねたみ
之  これに
患  わずらう

所  本来あるべき状態を
以  考え、

智  社会規範に照らして是非を正しく判断し、事理をあきらかにするあり方
於  で
則  すなわち
己  おのれに
勝  かち
悦  愉快に思わ
不  ず

才  生まれつきの性質
於  である
己  おのれの
優  たわむれ、
則  すなわち
嫉  しっ
妬  と

是  これを
以  考えて

五  ご
百  ひゃく
之  の

今  いま
乃  の
賢  才能と徳をもった人と
遇  めぐり会い

千  せんをも
載  積み重ね
以  採用しても

一  ひとつとして
聖  聡明に
待  対応するのは
難  むずかしい

其  その
賢  才能を持った人も(嫉妬あれば)
聖  聡明に
得  対応
不  できない

何  なにを
以  もって
國  くにを
治  おさめる


十五曰  公共の場をけがさない


私  私欲に
背  そむき
公  おおやけと
向  むかいあう

是  これ
臣  庶民
之  の
道  みち
矣  なり

凢  ぼん
夫  ぷも
人  ひとも
私  私欲は
有  あり、
必  必ず
恨  うらみも
有  ある

憾  残念に思う気持ちも
有  ある

必  (それは)必ず
同  同じでは
非  ない

則  すなわち
同  同じで
非  ない
私  私欲で
以  もって
憾  不満に思う気持ち
起  おこり

公  おおやけを
妨  さまたげる

則  すなわち
違  よこしまな行為を
制  抑えて従わせる
法  法律を
害  おかす

故  ゆえに
初  さいしょに
章  規則、条理、一貫性を
云  いえば

上  うえの者も
下  したの者も
和  調和
諧  かなう

其  それも
亦  また
是  これも
情  本来的な性質で
歟  あることだなあ


十六曰  大規模公共事業は時を考える


民  たみを
使  つかう
時  ときは

古  いにしえ
之  の
良  よい
典  規範とすべき重要な文献の
故  ことわりを
以  考える

冬  冬の
月  月日の
間  期間
以  でもって
有  そなえある
民  たみを
使  つかうに
可  よし

春  はる
從  から
秋  あきに
至  いたるは

農  稲作や
桑  くわ作
之  の
節  期間で

民  たみを
使  つかう
可  べから
不  ず

其  それ
農  稲作を
不  さまたげれば
何  なにを
食  食べ

桑  蚕の餌
不  なければ
何  なにで
服  服をつくる


十七曰  一人で決断を下すべからず


夫  それ
事  ことを
獨  ひとりで
斷  決断を下す
可  べ
不  からず

必  かならず
論  討論し
衆  多くの人の
宜  適切なあり方で
與  対処する

少  (一人では)小さい
事  こと
是  これを
輕  あなどる

衆  多くの人なら
必  かならず
可  みすご
不  さない

唯  ただ
大  おおきな
事  ことの
論  討論に
逮  乗じて

若  もし
失  間違いを犯すこと
有  あると
疑  うたがえば

故  ことさら
衆  多くの人で
相  力を合わせて
辮  交互に順序立てて、組み立て
與  対処し

辭  ことばでとがめられる
則  すじみちの
理  道理を
得  手に入れる





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