大和俗訓 巻之三 心術上
一
心は、身の主にて、萬事の根本なり。
此の故に、心正しからざれば、身修まらずして、家を調え、人を治め難し。
譬えば、草木の根、堅からざれば、枝葉栄えず、家の主不徳なれば、家治まらざるが如し。
心を正しくする道は、先づ、善を好み、悪を嫌う事、眞實なるを本とすべし。
心の内に、善を好む誠なく、悪を嫌う事、忠實ならずんば、猶、悪人の境界を免れ難き故、心を正しくすべき用なかるべし。
是れ、大学の道、心を正しくせんと欲しては、先ず、其の意を誠にするに有り。
既に、善を好み悪を嫌う事