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血液培養は血行性転移を見つけるために実施する

本日は「血液培養」のお話です。

読者の皆様もしくは周囲の方々が細菌感染症になられたことがあるでしょうか?

たとえば、細菌性肺炎

肺に特定の細菌が感染して発症するのですね。

そして、一番頻度の高い細菌性肺炎の原因微生物が「肺炎球菌:Streptococcus pneumoniae(正式な菌種の名前:学名)」です。

2つの診断を確認しましょう。
・臓器・解剖学的診断:肺炎
・微生物学的診断:肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae

では、どのように診断するでしょうか?

臓器・解剖学的診断は、患者さんの症状で肺炎を疑わせるようなもの、
例:息苦しい、痰がでる、咳が出る・・・
があれば、肺炎を「予想」します。

そして、まず臨床医は肺の音を聴いて見ます。
肺炎っぽい音が聴診で聞こえたら「予想」していた肺炎の可能性が高くなります。

さらに「予想」の確からしさを上げるために、胸部レントゲンやCTを撮ります。肺炎に合う画像所見があれば、当初の「予想」通り「肺炎」でよろしいとなりますね。

では、微生物学的診断はどうでしょうか?

肺炎の原因微生物として、頻度の高い肺炎球菌を「予想」して、患者さんに痰を出していただきます。

痰を細菌検査室に搬送し、グラム染色という方法で顕微鏡で痰を見ます。

そして、「予想」していた肺炎球菌に合う見え方(所見)があれば、予想があったていた可能性が高くなります。

ちゃんと「2つの感染症診断」ができましたね!

じゃあ抗菌薬を選択して治療しましょう・・・


ちょっと待った!

実は、もう一つ大事な検査を忘れています。

それが、本日の話題の「血液培養検査」です。

「肺炎なんだから、ちゃんと痰を細菌検査に出して『肺炎球菌』ぽいってわかっているんだから、それで十分何じゃないの?教科書にも血液培養が必要なんて書いていないものもあるよ?」

このように考える方もいるかも知れませんね。

でも、この「予想」された肺炎球菌。肺だけに感染しているわけではない場合もあるのです。

恐ろしいことに、肺に感染した肺炎球菌が、肺から血液中に侵入して、血液を介して(血行性)全身のあらゆる臓器に感染が波及(転移)してしまうことがありえるのです。

これを、筆者は血行性転移と呼んでおります。

転移なんて、「がん(悪性腫瘍)」のときくらいしか聞いたことがなかった・・・なんて方々もいるかも知れません。

でも、細菌感染症はしばしばこの「血行性転移」を生じることがあるのです。

また、さらに大変なことに、この細菌感染症の「血行性転移」。感染症が治ったと思ってから、しばらく時間が経ってから、ようやく転移先の感染症の症状が出る「時間差攻撃」をしてくる場合もあるのです。

でも大丈夫!

この「血行性転移」をあらかじめ「予想」して、抗菌薬治療開始「前」に「血液培養」検査を適切に実施しておけば、この恐ろしい「血行性転移」の可能性を早期に見つけることができるのですから。

本日のまとめ

細菌感染症では、血行性転移を見つけるために抗菌薬治療開始「前」に「血液培養」検査を実施する!

それではモンダイ。

『血液培養検査』は、
・原因菌が検出された場合(血液培養陽性)
・原因菌が検出されなかった場合(血液培養陰性)
どちらが患者さんにとってよろしい状態でしょうか?

こたえ:検出されなかった場合(血液培養陰性)

なんで?:抗菌薬治療開始前の血液培養が陰性であるということは、血行性転移が生じている可能性が低くなるから。







おまけ

肺炎の治療前に血液培養を採取する必要性がおわかりいただけましたか?

肺炎の頻度の高い細菌
・肺炎球菌
・インフルエンザ桿菌
は、実は細菌性髄膜炎の頻度の高い原因菌でもあります。

肺炎・気道感染症のみに限局されているのか?
既に血行性転移を生じているのか?

これは血液培養検査を抗菌薬開始「前」に行っておかなければ、その後の患者さんの「最悪の事態」を「予想」することが困難となってしまいますね。

診療において、最も重要なことは「最悪の事態を『予想』すること」です。


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