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気になるコトバ⑦ーーー「〜の方」

「ぼかし言葉」といってもいいのかもしれませんが、この10年くらいで、物事をはっきりと言わない、断定しない、なんとなくぼかすような言い回しが増えてきたように思います。今回は、そのような言葉づかいのひとつとして「〜の方」という言い方をとりあげてみます。

おおげさなな言い方になりますが、こうした「ぼかし言葉」は、おそらくリーマンショック以来、景気が落ち込んでから増えてきたのではないかな、と想像します。

大人から若者まで、なんかこう自分に自信がもてない。するとコミュニケーションにも距離をとって、極力無難におさめたい、そんな心理が働いているのではないかと思います。

その良い事例が今回とりあげた「〜の方」という言い方。だいたいの方角、だいたいこの辺、というニュアンス。

そういえば、最近は耳にしなくなりましたけども「消火器サギ」というのがありますね。「消防署のから来ました」と言って、消火器を高く売りつける手口。「消防署から来ました」とは絶対言わない。買い手側が消防署員だと誤解するのは買い手の責任だというわけです。

皮肉なことにこの場合の「〜の方」の使い方は正しい。「だいたいの方角を示す」という本来の意味にかなっている。

ところがいまはちょっとずれた使い方がはびこっているのですね。

「お電話の方」「メールの方」「ご契約の方」「ご注文の方」「お品物の方」etc. すごいのになると「こちらが〇〇の方になります」「ご注文の方はこちらでよろしかったでしょうか?」ですよ。ちょっとまいりますね。

えーと「〜になります」と「〜でよろしかったでしょうか」もかなり気になるコトバなのですけれど、今回は触れません。

さて、前述の例をみると、「〜の方」は、対人関係において、へりくだって話すときによく使われるらしい、ということがわかります。お客さんと店員さんとか。話し言葉ですね。書き言葉、文章では使われないでしょう。

バカ丁寧という言葉がありますが、バカ丁寧というのともちょっと違う。バカ丁寧は必要以上の丁寧さ、ということですけれども、そうではないですね。「〜の方」を付けたって丁寧になるわけじゃない。そう思っている人もいるかもしれないけど。

ここでは、コミュニケーションにおいて、「自分←→相手」という近距離で対峙する構図を避けたい心理が働いているのでしょう。「自分←〜〜〜→相手」こんな感じの(心理的)距離をとりたい。そんなこんなで、どんどん核心的な意味合いから遠心的になっていく。

これはやはり、「自信のなさ」からくるものと考えてよいのではないかと思います。個々人のというより世相的な自信のなさ。

冒頭で触れたように、日本という国の衰退というとおおげさだけれども、経済も政治も学問も低空飛行のような状況が続いています。「時代の雰囲気」が言葉遣いに影響を与えているといってもいいかもしれない。その一つの証左としての「〜の方」の氾濫。

言葉は生きもの、というステレオタイプがまだ通用するとすれば、まさに「〜の方」は、揺れ動く言葉の大海の荒波を受けている真っ最中といえるかもしれません。

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