小説④~Center of the X~



2161年 8月2日 12:00 体育館

「はぁ、はぁ、はぁ、」
 終は、部活の時間にやることを終わらしていた。あの事件の後、帰れる生徒は帰され、家が壁の向こう側になってしまった生徒は学校に残ったままである。終の家は、かろうじて無事だが、こんなことで自分のバレーボール人生を終わりにしたくなかった。自分にはバレーボールしかない。
彼の中でバレーができないのは『死』である。

(大会まで時間がねえんだよ。こんなことで立ち止まってる場合じゃねえんだよ。壁?知らねえよ。。。俺は。。。)

 大会まで二ヶ月を切った終は切羽詰まってた。終の中でバレーボールは人生の全てだった。幼いことは母が英才教育をさせたく、いろいろなことをさせられてきたが、唯一バレーボールが、自分にも相手にも闘争心を燃やせるスポーツであった。

《お前だけじゃ何もできないよ》

 スパイクの練習をしながら、一年前に言われたあの台詞を思い出す。

「―何もできないよ。」
【バン】

 天才少年が打ったボールが床を打ち、大きな音を発した。それと同時にネット越しにいた少女が声をかけてきた。その台詞はまるで、天才少年を普通の人間に戻すかのように。

「お前なんでここにいるんだよ。かれん」
「こっちの台詞よ。なんでここにいるの?なんでバレーボールやってるの?」
「ほっとけよ。」
「は?別に心配したわけじゃ無いけど。力貸して。」
「、、、、俺が?」
「うん。壁を壊したいのよ。力貸して」

 その一言は、現実だと認めたくない、事実であった。



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