「アクロイド殺し」読書感想文
著者
アガサ・クリスティー(1890~1976)
5月19日読み始め5月24日読了。
訳者
羽田 詩津子
あらすじ
金持ちのアクロイドが殺された。その数日前には、恋仲との噂もあったフェラーズ夫人も殺されている。二つの事件の相関関係は? そして真の犯人は?
印象に残った人物
キャロライン。医師ジェームズ・シェパードの姉。噂話好き。人の話を聞かない。自分の推測は絶対正しいと思っている。狭い世界で生まれ育った女性にありがちな気質を全て詰め込んだ様な性格。本人は全く悪気がなく、純粋に「いいこと」をしていると信じ込んでいる。できれば近づきたくない人物だけど、弟の冷静な分析を通して見ると、どこか滑稽で憎み切れない。意外と情に厚いのも好印象。
感想
大人になってからは推理小説の類を読んだことがない。一番古い推理小説の記憶は、小学生時代に読んだ江戸川乱歩シリーズだろうか? とにかく、読む対象外のジャンルだった。
いざ読んでみると、やっぱり面白い。文章も分かりやすく、ストレスなくグングン読み進めることができた。
謎解き自体は、自分の理解力がないせいもあると思うが、あまり面白いものではなかった。「わお! なんて結末なんだ!」という感想を持てると思っていただけに、少し残念。
犯人が分かったのは終盤に差し掛かったところ。記述してある事実の積み重ねで分かったというわけではなく、名探偵ポアロがそれまでと違う言動をしたことで、「もしかしてこの人が犯人なのか?」と疑うようになった。最後の最後まで「いや、まさかこの人が犯人ってのはないだろうな……」と思い続けてもいたので、完璧に分かり切っていたわけじゃないけど、自分なりのアプローチの仕方で犯人にアタリをつけられたのは、読書人としてなんだか嬉しい。
犯人捜しという楽しみ以外にも、イギリスらしい皮肉の効いた描写もかなり楽しめた。たとえば、アクロイドの義理の妹セシルが「アクロイドに死因となるナイフが刺さったのは、手が滑ったか何かだったのですわ」と、トンチンカンな推測を披露した後の、聞いていた人たちの描写。
サラッとバカにしているのがなんとも面白い。こういう描写は随所に見られて、物語のいいアクセントとなっている。
約四十年ぶりの推理小説は十分に楽しめた。
ただ、その面白さの種類は、たとえるなら“遊園地”のようなもので、人生に対して何か深く考えさせられるといった類ではないかった。やはり私は、海外古典や日本の純文学のように、「いったい何が言いたかったんだろう」と、いつまでも考え続けられる小説の方が性に合っているようだ。
ただ、それでも、「推理小説」というジャンルには改めて興味を持つことができた。また違う作家にチャレンジしてみたいと思う。
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