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レーザー墨出し器の暴力性

 垂直と水平、これは大工仕事をする上でとても重要です。どれくらい重要かというと、当たり前すぎてわざわざ誰も口にしない、サッカーで言えば「手を使わない」くらい当然の前提条件と言えます。
 昔は、下げ振りや水平器、さらには水盛缶といった道具を使いました。私は大工歴20年足らずですが、それでも下げ振りや水平器は普通に使っていました。ところが今の建築現場では、レーザー墨出し器が当たり前のように使われています。これはとても便利な器械で、床や三脚に設置してスイッチを入れれば、墨出し器自体の水平を器械が自分で調整した後に、水平や垂直のレーザーを部屋全体に張り巡らせます。器械なので、余程のヘマをしない限りド素人がやっても確実に水平・垂直を出す事が出来ます。なんなら、訓練さえ積めば、犬でもできるかもしれません。
 この便利な器械が、私はこの上なく嫌いなんです。
 建築現場は、棟梁を頂点とした上下関係があります。上下関係と言っても差別的な意味合いではなく、技術のない者が技術のある者を尊敬するという当たり前の感覚です。水平・垂直を出すもの(それほど難しいわけではありませんが)、歴とした技術でした。しかし、レーザー墨出し器は、その技術を完全に「無」にしてしまいました。ピッとボタンを押して一瞬に水平・垂直を出されるのを見ると、その無機質な光線が、現場の上下関係をもズタズタに切り裂いているように私は思ってしまうのです。
 もっともこんな事を思うのは私だけのようで、私の想いを大工仲間に伝えても、共感されたことは一度もありません。
 そんな事を言いながらも、「早いが正義」の現場では私も使っています。ただ、ボタンを押すたびに大工として大事な何かを失っている自覚だけは持ち続けたいと思っています。

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