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仮想通貨LUNAはなぜ暴落したのか ステーブルコインUSTとTerraテラチェーンの将来は暗雲

仮想通貨、ビットコイン価格が暴落

仮想通貨、ビットコイン価格が暴落

日本では大型連休明け2022年の5月2週目、仮想通貨市場にとっては悪夢のような一週間でした。ビットコイン価格は一時、24時間で8%以上値下がりし、重要なサポートラインだった1BTC=32000ドル、そして3万ドルも切ってしまい、28000ドル近くまで下がっていました。今は3万ドルまでで戻ろうとしているところですが、20000ドルまでの値下がりも視野に入っているという人もいます。

ビットコイン暴落の原因はインフレ対策の利上げ

ビットコインの値下がりの原因で一番大きいのは、このところのインフレ懸念と、それに対応するためのアメリカ、ヨーロッパなど各中央銀行の利上げ懸念によって、ダウ平均など株価が暴落しているところにあります。

目先の決算発表などは日本でも海外でも比較的好調が目立ちますが、やはり高いインフレが先行き企業収益を圧迫するという懸念も出ています。拙速な利上げによって、インフレが解消しないまま景気後退するスタグフレーションを危惧する投資家も少なくありません。

中央銀行の利上げで安全資産の債権に資金が退避

また中央銀行による利上げだけでなく、資産圧縮も行われていますよね。これまで中央銀行がお金を市場にばら撒く代わりに買ってきた国債などを、逆に市場に放出することで、膨れ上がってきた資産を圧縮する動きです。当然債券の価格が下がって、利回りも上昇します。マイナス金利やゼロ金利に比べれば、銀行貯金でも良い訳で、安全な方向に投資家のマインドも向いてきます。株式や仮想通貨、暗号資産に投資していたお金を、債権に移す動きが増えています。これがマクロ経済学的な(教科書どおりの)動きですよね。

壁を破れず勢いに乗れなかった仮想通貨市場

仮想通貨市場ではどうなってるんでしょうか、やはり、「もう一息上がりたいな」というところでビットコイン価格が上昇しきれず、その間に株価が下がってきたことで下落トレンドが定着してしまっています。昨年のBTC先物のETF化承認以来、仮想通貨市場もダウ平均株価に引きずられる相関性が上がりましたよね。金融の世界全体でリスクオフ、弱気相場という心理になっています。そのためボラティリティ(変動幅)の大きい暗号資産、仮想通貨は嫌がられているということです。コインベースCoinbaseの決算発表で300億円の赤字、そして、「倒産した場合、預かった通貨は戻ってこないだろう」というQ10の発表も仮想通貨にはマイナスの影響です。

コインマーケットキャップによると、この一週間ほどで仮想通貨市場からは2000円億ドル(26兆円)の資産が無くなっているということです。ビットコイン価格は2年来の安値となっています。(しかし、この間にビットコイン保有量の上位100ウォレットは、ビットコインをかなり買い増ししている、というオンチェーン分析があります。)

仮想通貨LUNA暴落の原因は?

仮想通貨LUNA暴落の原因は?

それに合わせるようにして、この春先、数百億円をかけてビットコインを買い増していた仮想通貨$LUNA(ルナ Terra)の価格が値下がりしました。一時120ドル近くまで行っていましたが、5月5日には80ドルまで値下がり、その後一気に暴落し、2022年5月13日現在、0.0002ドル、実に60万分の1まで暴落しています。この5月6日以降の暴落はUSTがペッグを外れてしまった(de-peg)というのがきっかけになっています。

ステーブルコインUSTのドルペッグが外れたのがLUNA暴落の原因

ステーブルコインUSTのドルペッグが外れたのがLUNA暴落の原因

仮想通貨LUNAで知られるテラ・プロジェクト(テラフォーム/テラ・ファウンデーション)が発行するステーブルコインの UST(TerraUSD)が1UST=1ドルのペッグ(peg 連動)を外れて、一時0.12ドルまで下がりました。ざっくり1/10に値下がりですからね。これにあわせて、LUNAも暴落しました。これは単純にテラプロジェクト/USTへの信用が減っただけではなく、5月10日以降、発行しすぎた UST を減らす(バーンする)ための処理の過程として、仮想通貨LUNAがたくさんミントされてしまった影響もあります。$LUNAの発行量は、この一週間で数十倍になってしまいました。


仮想通貨市場を普段あまり見ていない、単純に韓国ヘイトの方たちはヤフーニュースなどを見て、「こんなマイナーな仮想通貨を勧めていた人たちは詐欺師だ」「韓国発仮想通貨なんて買ってる人いるの?」みたいなことをつぶやいてる人もいますが、実際のところは、$USTも$LUNAルナもマーケットキャップ(市場循環供給量)、株式で言えば時価総額でベストテンに入っていました(テラ$LUNAは7位 4月3日には時価総額410億ドル(4兆円)でした $USTも180億ドルに達し、昨年$USDTを越えたと話題に)から、マイナー通貨には程遠いです。ヘイトなんて最もたるものですが、感情が入ると本質は見えなくなるし、投資も勝てません。

共同創業者のドゥ・クウォン(Do Kwon)さんは確かに韓国人です。テラ・ファンデーションは韓国とシンガポール両方に拠点がありましたが、最近はシンガポールの方にウエイトを移していたようです。恐らく資金を集めるにはソウルよりもシンガポールのほうが簡単ですからね。

さらにこのUSTという論理ステーブルコインを発行するテラプロジェクトなんですが、優良コインリスト銘柄として、2019年の開始以来、高く評価されてきました。

USTやTerraってどういう仕組み?

このテラというプロジェクトの中心は、「価格を1ドルに維持する仕組み・アルゴリズムがあるトークンをUST という非中央集権的な論理ステーブルコインとして発行する」というものです。UST の取引額は2022年4月21日には1.44ビリオンなので14億UST(当時は14億ドル 約1400億円の価値)が取引されていましたが、暴落した5月11日には100億USTまで跳ね上がっていますが、金額で考えれば12億ドル 約1200億円)くらいです。

担保に紐づいたステーブルコイン USDT,USDCとの違い

これに対して USDT や USDC のように実際のドルやそれ以外の安定した資産の裏付けがあるステーブルコインは「担保に紐づいたステーブルコイン」と呼ばれています。まぁ一見、安心ですよね。

しかし、そもそもブロックチェーン・ビットコインのスタート地点は「政府の都合で差し押さえられたりしない非中央集権(De-centralized)」という概念と深く結びついています。USDTやUSDCは例えばA国に本社があって、何かの理由でA国政府に差し押さえられたら、それでアウトです。

そのため、仮想通貨・暗号資産の世界では「非中央集権的なステーブルコインが必要だ」と言われ続けてきました。(もちろん各国政府や中央銀行からは睨まれますが)

テラチェーンと言う独自のブロックチェーンがある

テラには独自のブロックチェーン・Terra テラチェーンがあります。 テラチェーンに関してはチェーン上での稼動プロジェクトがまだ比較的少ないことも大きいとは思いますが、ここまで動作は安定していて、ガス代も安く、処理も速いほうでした。このテラチェーン上のプロジェクトも開発には時間がかかりましたが、LunaVerseなど最近やっとトークンセール 、IDOなども行われるようになっていて、業界内でも高く評価されているプロジェクトが集まっているチェーンでした。

テラ・ステーションTeraStation という独自のウォレット

テラステーションのウォレットの中では UST は常に1ドルぶんの価値として取引できます。

テラ・ステーションTeraStation という独自のウォレットもあります。特定のサイトにアクセスしなくても、この独自のウォレットの中だけで、他の通貨へのスワップやステーキングなどが可能になっています。テラステーションのウォレットの中では UST は常に1ドルぶんの価値として取引できます。2019年6月から始まって、WALLET は410万以上になっています。このウォレットの存在が、今回の件で「キモ」になりますので、使ったことがない人も覚えておきましょう。

USTのステーキングで20%の利息がつくアンカープロトコル

USTのステーキングで20%の利息がつくアンカープロトコル

テラチェーンには、USTをアンカープロトコル(Anchor $ANC)にステーキングすると約20%の高い利息が得られる、という貯金に近いシステムがあります。普通のの仮想通貨のステーキングだと1ブロック(単位時間)あたりの報酬総額というのは決められていますので、そこにステーキングする通貨が増えると、利回りが下がってしまうのが普通なんですが、アンカーに関してはそれがないということで、 USTを購入するインセンティブになってきました。

$LUNAのステーキング報酬は1000%以上に!

他の仮想通貨もそうですが、トークンをステーキングすることでステーキング報酬が得られるものは多いですよね。テラステーションでも簡単にステーキングができ、ステーキング報酬はずっと7%ぐらいだったのですが、5月11日ぐらいから上がり始めて5月13日には1173パーセントの利回りとなっています。「$LUNAを売らずにステーキングして欲しい」という防衛策ですね。しかし、$LUNA ルナの発行数は6.91T(トリリオン 691,000,000,000,000 691丁)まで跳ね上がっています。

UST(TerraUSD)を1ドルの価格に収束させる仕組み・アルゴリズムとは

そもそもこのUST(TerraUSD)、どうやって1ドルの価格を維持する仕組み・アルゴリズムなのかと言うと、テラのホワイトペーパーに記載があります。

UST(TerraUSD)を1ドルの価格に収束させる仕組み・アルゴリズムとは

1.市場でUST が1ドルより安く取引されているとします。しかし、テラステーションのウォレットの中では UST は常に1ドルぶんの価値として取引できます。このスプレッド(差額)で利益を得ようというヘッジファンドは常に存在します。「例えばバイナンスなど、他の仮想通貨市場でUSTを安く買ってきて、 terastation の中でLUNAに買い換える」というアービトラージによって、儲けたいという人が出てきます。そのため UST は一時的に値段が下がっても、アービトラージをする人に買われて徐々に値上がりしていくはず。

2.逆に UST が1ドルよりも高く価格がついた場合には、Terastation の中の UST を他の市場で売って、USDT やビットコインなど、他のトークンに買い換えようという動きが出てきます。そのため ust の値段は下がっていくはず。

というアルゴリズムです。このようなアービトラージ( ARB)をするヘッジファンドなどがいるため、最終的には1ドルに収束するという理論です。そして、このシステムが簡単に壊されないように利用されているのが、 Terastation 内で通貨をスワップする時の手数料と、アンカープロトコルでの20%の高い利回りインセンティブだったということです。

死のスパイラルや市場操作の危険性の指摘も

ここまで見ると理にかなってるようですが、仮想通貨市場自体が盛り上がっている時にはいいですが、「すでにルナの価格がどんどん下がっているような時には、デススパイラル(死の循環)に至るのではないか」といった懸念を指摘する人もいました。

さらに、「凄い大金、例えば1000億円とかを使って $UST とルナを同時に売り込みながら、バイナンスなどの取引所でレバレッジをかけたショートでさらにust やルナを売り込む市場操作のような仕込みをすれば、ヘッジファンドは、この1ドルへのペッグを壊して、手数料などを払ってでも大金を得られるのではないか」ということを指摘していた人もいます。

実際、最近仮想通貨暗号資産の規制なども検討しているアメリカ財務省のジャネット・イエレン長官も指摘していたのは、「取引総額が少ないために、誰かが市場操作できるのではないか」と言う点でした。

実際今週のビットコインの暴落の中で、UTCやLUNAの暴落に絡んで結構大きな額のビットコイン「35kBTC( 10億ドル1.2兆円ぐらい)の BTC が動いている」という指摘もあります。


またこの仕込みのタイミングに、テラの方で「4つ目のプールを作るために資金を移動した」とクウォン氏が Twitter で発表していたタイミングを狙われたのではないか、とか、ブラックロックBlackrock、シタデルCitadelなどのヘッジファンドによる陰謀論なども噂されています。

今のところ真相は定かではないのですが、論理的に「裏づけの価値」ではなくあくまで「価格を維持する仕組み」だったのがUST なのです。実際にウォレット内では1ドルとして使えるのでいいはずなのですが、なかなか市場と言うのはそうもいきません。実際に1ドルのペッグを外れた(depegged)ことも過去にあり(2021年5月)、その際も$LUNAの価格は下がりました。$USTをアバランシュ$AVAXやイーサリアム$ETHチェーンに広げたのも制御できなくなった遠因ではないか、と言う指摘もあります。


多額のBTC購入が裏目に出たか

USTは、USDTやUSDC のように必ずしも裏付けになる担保資産が必要だったわけではありません。しかし2022年の春先、テラ FOUNDATIONはジャンプファイナンスのアドバイスを受け、10億ドルの資金を調達してきてBTCを購入すると発表しました。そこから低迷していたビットコイン価格も値上がりして、それに伴いLUNAルナの価格もメキメキと上がっていったのは記憶に新しいですよね。2022年3月末時点でマイクロストラテジー、テスラについて世界第3位の大量ビットコイン保持者となっています。

しかし、筆者の個人的にはこの動きあまり好きではありませんでした。「ビットコインの価格が上がった時にはいいけど下がったら大変だな。(BTC値下がり→LUNA値下がり→DeFi市場値下がりを嫌気してさらにBTC値下がり)」、と思っていました。

結果論ですが、ビットコインの価格がどんどん下がってしまい、おそらくテラファウンデーションも数百億円の含み損があるはずです。

「担保」として考えるとすると、それまでに比べて担保が不足した状態になります。多すぎたUSTトークンをバーンして発行量を減らさないといけません。しかし、このUSTをバーンするのに時間がかかっているようです。24時間でバーンできる量に限りがあるので、この余ってしまった UST のぶん、供給過剰の状態になったというのもさらに暴落を助長する要因になったようです。


このUSTバーンの過程でLUNAがミントMINTされる仕組みのようなのですが、この$LUNAトークンの発行枚数が、これまでの供給量の数十倍になっていますので、これで$LUNAの価格が普通ではないくらい大幅に値下がりしました。1ヶ月前には120ドルだったものが、5月13日夕方0.0002ドルになってしまっていました。

仮想通貨が追加で発行されることは少ない

このように仮想通貨が一旦 TGEで発行された後に、追加で(大量に)発行ミントされることは、通常まずありません(市場に出回るトークンの数は減ることはあっても増えることはない、という一般的な前提や共通認識)。そのため、普段、LUNAにそれほど興味が無かった人は、半額や1/10に値下がりした$LUNAを見た時には「お、安くなってる」と思って買う人も増えてしまいますよね。というわけでバイナンスでは、先物に続いてLUNAやUST現物の取引も一時的に停止をしました。他の海外取引所もそれに近い動きとなっています。

テラチェーン自体もこの一週間で数回停止しています。

$USTのペッグが外れると連鎖倒産する危険性

ステーブルトークンだった UST はアーブaaveなどのレンディングのプラットフォームでも担保として人気でしたし、その他の流動性ファーミングなどでも、ペアの相方として結構利用されるようになっていました。

今回の件では、冒頭に上げたような単純にテラに投資していた人だけではなく、$USTを担保にしていた人や流動性ファーミングを利用していた人が、リクイデーション(Liquidation いわゆる「溶けた」)という状態になってしまった人も少なくないようです。資産が1/100になるどころではなく、文字通りゼロ円になっている人がいるわけです。

このあたり UST の破綻がなぜ De-fi、仮想通貨・暗号資産業界全体に影響を与えるのか、といったことは日本人でDeFiに詳しいDeFiタージョンさんが、わかりやすく解説してくださっていますが削除しちゃったようなんですね。

テラ側の対応もまずかった

今回はテラ側の対応もまずかったですよねバイナンスの創業者の CZ も結構怒りと不信感を露わにしています

普通に考えれば、LUNAよりもUSTのペッグを復旧するのが最優先のはずですが、、

復活プラン提案も今後のテラ、$LUNA見通し、先行きは明るくない

今後のテラファウンデーションの対応ですが、先行きそれほど明るくなさそうです。せっかく出来上がってきていたテラチェーンのコミュニティがもったいないところですよね。テラ上で構築されていたプロジェクトも既に他のチェーンへの移行を決めているところもあるようです。

タンデム(2でひとつの運命共同体)だった UST とLUNAトークンですが、おそらく両方を延命させる方法はないのではないか、と今のところ考えています。ここからの復活は、ゼロから作るより、ある意味難しいかもしれません。ただテラファウンデーションには、 ust の担保として数千億円の資金は残っているはずなので、今のUSTとLUNAの価格というのは過小評価されてると言えますが、UST自体には、その「価値」を「価格」に置き換える仕組みはありません。まあそもそも「価格」というのは、「その裏付けになるもの(プロジェクト・資産や将来の収益性)に対する評価でしかなく、あくまで市場が決めるものであるということですよね。ペグが外れた後、5月9日にはLFGが1500円を調達して担保を増やしましたが、焼け石に水でした。


テラ $LUNA をフォークする再生プランを発表


もう今後の対応策次第です。ドゥ・クウォンさんがLUNAをフォークするリバイバルプラン再生プランを提案して、現在LUNA保有者・コミュニティの投票を受けているところです。投票のほとんどは賛成ということですが、個人的にはこれがベストな再生プランなのかな、と疑問符がつきます。そうは言っても結構短時間でやらなければいけませんので、逆に言えばこういうリカバリープランて、ある程度事前に用意しておく必要があるということですね。自信や洪水など災害時の企業に BCP(企業経営持続プラン)が求められるようになっていますが、ブロックチェーンのプロジェクトでも、そのようになって来るかもしれません。