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島サミットではICTセンターを目玉に

日本の「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)や中国の「一帯一路」構想で重要地域に位置付けられるなど、国際社会からの関心が高まる大洋州。2021年には三重県志摩市で第9回太平洋・島サミット(PALM9)の開催も予
定されている。近年、「自国中心主義」の強まりや相次ぐ政権交代、そしてコロナ禍など、情勢が大きく変動しているこの地域と、日本はPALM9を機にどのような関係を構築していくべきか。東海大学の黒崎岳大講師に聞いた。

東海大学 講師黒崎 岳大氏
早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。早稲田大学文学部助手、在マーシャル日本国大使館専門調査員、外務省アジア大洋州局事務官などを歴
任。日本と太平洋島嶼地域との貿易・投資・観光の促進を通じて地域の経済的発展を促すことを目的とする国際機関、太平洋諸島センター(PIC)に副所長として勤務。2010年より現職

求められる協力の“質”
 ―PALM9では何が主要テーマとなると思われますか。

 PALM9は日本がポストコロナ期に主催する最初の国際会議になる可能性がある。焦点はいやおうなく「ポストコロナの国際協力」となるだろう。これまでのPALMでは、研修事業など「人と人との交流」が必ず協力の柱の一つとなってきた。だが物理的な人の往来ができない今、新たな柱となり得るのは情報通信技術(ICT)分野の協力だ。ポストコロナの世界では、遠隔でのコミュニケーションが行えなければ、外交や貿易、ビジネスなどにおいて取り残される可能性がある。しかし、自給自足で生活している人が多い大洋州地
域ではそうした危機感が薄く、デジタル・デバイド(情報格差)が深刻化する恐れがある。
 実は、日本の政府開発援助(ODA)では大洋州地域の遠隔コミュニケーションを促進する上で大いに役立つ協力をすでに実施している。例えば、大洋州の各国に分校を持つ南太平洋大学(USP)における遠隔授業向けの衛星通信ネットワーク(USPNet)整備を、オーストラリアやニュージーランドとの連携による無償資金協力で1998年に実施した。2008年にも無償資金協力でUSPのフィジー本校にICTセンターを建設しUSPNetサービスを向上させるための関連機材の供与を行った。
 これらの協力は、この地域の発展を阻害する要因となってきた「遠隔性」を解消するために行ってきたものだ。インフラ整備に重点を置いてきた中国など他のドナーにはないアプローチである。だからこそこの実績は日本の大きな強みとなる。今後、ICTセンターを基盤に応用技術の研修を実施するなど、さらなる協力を展開して、PALM9でも目玉としてアピールしていくべきだ。ICTセンターのサテライト設備を用いて、三重の会場と現地をつないでもいいかもしれない。
 ただ、ICT活用を進める上では、気を付けるべき点もある。距離の弊害がなくなることは、その分各国からより“質の高い”協力が期待されるようになるかもしれない。今までは長距離を移動して現地の人に会うこと自体にも大きな意義があった。だがオンライン会議で「会う」ことへの特別感がなくなってしまえば、「いかに実りある会議を開くか」「いかに魅力的な提案をするか」がより問われるだろう。

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