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ラオスの不発弾除去を加速化 最新鋭の探知機に関し研修を実施【日本国際協力システム(JICS)援助をカタチに】

ラオス政府関係者の日本の支援への期待
東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の中でも、最も経済規模が小さなラオス。その発展の大きな障害になっているのが、国土に残る不発弾(UXO)だ。その除去を2013年度から支援し続けている(一財)日本国際協力システム (JICS)の取り組みを紹介する。


最新のデュアルセンサー探知機

 今年2月4日、ラオス政府の代表団が来日した。不発弾処理に関する計画作りや調整を行う国家統制機構(NRA)副長官のタマヴォン・ドゥアンシイ氏ら 7人だ。一行は仙台空港から入国し、翌5日に東北大学を訪問した。
 同大学では東北アジア研究センターの佐藤源之教授が開発した最新鋭のデュアルセンサー探知機(ALIS)の導入レクチャーに参加した。ALIS はすでにカンボジアなどで地雷や不発弾探知に活用されているが、ラオスでは初導入となるため、基本構造や操作方法などの説明を受けたものだ。
 一行は 1 週間日本に滞在し、仙台のあと外務省や国際協力機構(JICA)、ラオスでの不発弾除去活動に係る社会経済影響調査を監修する立命館大学の柿中真教授を訪ねた。
 一行の来日とプログラムをアレンジしたのはラオスの不発弾除去案件の調達代理機関として従事する JICS だ。
 ここで、ラオスの不発弾問題の経緯と実情について見ておこう。
 ラオスは国土面積が約 24 万㎢と、日本の本州ほどの広さに人口約 740 万人が住む。中国、ベトナム、タイ、カンボジア、ミャンマーの5カ国に接した「陸封国家」であり、森林で覆われた国土をメコン川が流れる。

ALIS 導入レクチャーにて佐藤源之教授と共に

ラオス最大の”負の遺産”

 古都ルアンパバーンなどの観光資源もあるが、経済開発は遅れている。そのラオスが抱える最大の“負の遺産”が、不発弾である。
 ドゥアンシイ氏らの説明によると、1960 年代から 1975 年まで続いた第2次インドシナ戦争でラオスは米軍の空襲によって全土に200 万トン以上の爆弾が投下され、「世界で最も激しい爆撃被害を受けた国の一つ」となった。
 その結果、回収・処理されないまま埋没し、残存している不発弾の数は全土に約 8,000 万個に及ぶと推定される。とりわけクラスター爆弾の小爆弾は、2億 7,000万発以上が飛散したとされるが、正確な実態はつかめていない。
 不発弾が残存する「汚染地域」は 87,000㎢以上あり、国土総面積の3割以上を占める。だが、「これまで除去された地域はその0.99%に過ぎず、除去するには数百年かかる」という。特にラオス南部のセコン、サラワン、チャンパサックの3県の状況が深刻だ。
 ラオス南部はメコン川によって形成された肥沃な大地に恵まれている。「メコンのナイアガラ」と呼ばれる巨大な滝など観光名所があり、カワイルカも生息する生物多様性に富んだ地域だ。タイなどから来る外国人観光客も多い。だが、メコン河岸の畑に爆弾の残骸が横たわっているのに気づき、驚く旅行者もいる。
 不発弾の存在は、住民の命や安全な暮らし、農地の拡大、食料安全保障に対する大きな脅威で、インフラ開発の阻害要因でもある。貧困を招く原因の一つでもあり、不発弾汚染の深刻なコミュニティが最貧困地域となっている。山間部や遠隔地など不発弾が潜む地域では、爆発による生命の危険を冒すおそれがあっても伝統的な生活を送るために、住み続ける人々も少なくない。

不発弾処理にUXO Lao設立

 ラオスでは 2010 年 11 月、「クラスター弾に関する条約(オスロ条約)」の第 1 回締約国会議が首都ビエンチャンで開かれ、ラオスにおける不発弾の問題が国際社会で知られるようになった。
 南に隣接するカンボジアで知られている地雷対策に比べ、ラオスの不発弾対策は十分に知られてこなかった。カンボジアでは内戦終結後の 1992 年、国連主導でカンボジア地雷対策センター(CMAC)の前身である地雷除去訓練所ができた。ラオスでは少し遅れて不発弾対策が動き始めた。
 ラオス政府は 1996 年、「ラオス国家不発弾処理プログラム(UXO Lao)」を設立した。設立支援には、国連開発計画(UNDP)のほか、国連児童基金(UNICEF)も加わった。不発弾が出産・育児、子供の通学にも影響する問題でもあるためだ。
 ドゥアンシイ氏は「わが国は不発弾問題を国のあらゆる分野の発展に関わる『分野横断的な問題』と考えている。そして『持続可能な開発目標(SDGs)』の 18 番目の目標に不発弾対策を独自に位置付けている」と語る。
 UXO Lao は労働社会福祉省の管轄下、同国内で最大の除去活動実施機関として不発弾の調査、探査、除去、処理、啓発教育、被害者支援などを行っている。
 2005 年には、ラオス政府間や各ドナーとの不発弾対策の全体計画の立案や調整を担う NRA が設立された。現在、NRA は外務省の管轄下、窓口機関として日本などからの支援を受け入れている。

NRA副長官 ドゥアンシイ氏
UXO Lao長官 アヌサック氏

調達代理を務めるJICS

 JICS はラオスで日本政府が進める不発弾除去支援において調達代理機関として従事している。2013 年度「不発弾除去の加速化計画」および 2015 年度「不発弾除去の加速化計画フェーズ 2」にて灌木除去機(7台)の調達と操作トレーニング、除去活動用機材(車両、修理工作車など)の調達、除去活動支援、除去隊員用宿舎建設(8施設)などを行っている。
 また、2018 年度の「南部地域における不発弾除去の加速化計画」では前述の灌木除去機用アタッチメントの調達と操作トレーニングの実施、除去活動用機材(車両、金属探知機、無線機、防護服など)の調達、除去活動支援、社会経済影響調査などを行った。
 現在実施中の 2022 年度「南部地域における不発弾除去の加速化を通じた開発計画」では前述のALIS を含む除去活動用機材の調達、除去隊員用宿舎の補修、除去活動支援、社会経済影響調査などの支援を行うことで不発弾除去の加速化、貧困地域の開発阻害要因の削減を進め、地域開発や不発弾被害者の減少に寄与することを目標としている。
 ドゥアンシイ氏は、「JICS は透明性・公平性の確保といった日本政府からの支援の基本を厳しく遵守しながら、プロジェクトの準備段階からサポートしてくれており、各調達の円滑な実施に感謝している。将来に向けて引き続き緊密に連携をお願いしたい」と語る。
 その一方、今後の課題については厳しい展望を示す。「ラオス政府が立てる不発弾除去の目標は年1万 ha だが、現在年 6,000haしか除去できていない。目標の達成には、資金と人員などの資源と技術が必要だ」と述べる。
 カンボジアとは、CMAC との間で経験やノウハウを共有する技術面の「南南協力」が進む。だが、ラオスの不発弾対策への資金援助は日本、米国、ニュージーランドなどの先進国が主なドナーだ。
 「日本の支援は UXO Lao の基礎を確立するのに大きな貢献をした。不発弾問題に長期的な対処をするため、技術や専門的知見のさらなる支援が必要なことを多くの日本の人々に知ってほしい」。ドゥアンシイ氏はこう力説した。

UXO Lao に供与された灌木除去機

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本記事は国際開発ジャーナル2024年5月号に掲載されています。
(電子版はこちらから)


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