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現地とのコミュニケーションを絶やさずに

アフリカで技術協力プロジェクトを推進する(株)JINの大野康雄社長に聞く

 新型コロナウイルスの感染拡大は、国際協力現場にも大きな影響を及ぼしている。3月下旬、アフリカから緊急帰国した開発コンサルタント、(株)JINの大野康雄社長に現地の状況と、これまでの取り組みを聞いた。

国内から現場を支える

Q大野社長は3月下旬、ウガンダから帰国されました。

現地を発ったのは、首都カンパラの国際空港が閉鎖される前日のことだった。帰国後は2週間自宅待機し、その後は会社で2月下旬より実施しているテレワークを自分も続けている。他の社員についても同じ対応をとらせている。

Q御社が技術協力プロジェクトを実施しているウガンダ、ソマリア、ナイジェリアの3月時点の状況は。

 ウガンダ、ソマリア、ナイジェリア、南スーダン各国の首都はほぼロックダウン(都市封鎖)状態にあり、国境も閉鎖されていた。直前まで滞在していたウガンダは、夜は戒厳令が敷かれ、公共交通機関の使用も制限されていた。また、レストランなどの飲食店はテイクアウトのみの営業となっていた。今後は解雇などによる雇用不安が高まる可能性もあり、さらには治安の急激な悪化を引き起こすかもしれない。在宅勤務を続けるJINの現地スタッフは、「カンパラ市内は平穏を保っているものの、今後、感染による死者が増
えていけばどうなるか予測はつかない」と懸念を示している。
 現状、感染者数はまだ限られている。だが、医療体制は極めて脆弱であり、病院のベット数も非常に少ない。爆発的な感染が起こったら、と考えると不安で仕方がない。共に仕事をする現地スタッフには、緊急時のために消毒液やマスク、食料などをあらかじめ確保しておくように、と伝えている。

Q協力期間の長い技プロでは、コロナ危機下、どう現地の活動を支えていますか。

 何より大事なことはコミュニケーションを絶やさないことだ。言葉の絆が途絶えてしまえば、現地関係者の気持ちは萎えてしまうし、モチベーションの低下は避けがたいものになる。メールやスカイプなどを有効に使い、「私たちは日本でこういう準備をしている」、「研修の内容はこうしよう」、「状況が良くなったら早く再会しよう」と呼びかけを続けている。アジアやアフリカなどで展開する協力プロジェクトの一つひとつで、“希望の架け橋”を架けていくことが、開発コンサルタントの大きな役目になっていると思う。

海外M/Mの追加措置も

Q開発コンサルティング企業の経営問題も懸念されます。

 国際協力機構(JICA)の資金ショート問題から回復し、今年こそという局面だっただけに、これは大変な問題である。ただ、JICAの危機感も相当に強く、コンサルタント契約について非常に柔軟に考えていただいている。背景には、パートナーとなる会社がなくなってしまうかもしれないという危機感があるのだと思う。
 現在取り組んでいるアフリカの3案件については、国内業務への振り替えを行っており、そこにマンマンス(M/M)を付けていただいている。当社は現場を重視する観点から、国内の仕事はある意味サービスと捉えて自社負担で行ってきた。だが現在は、研修マニュアルの作成など必要な業務についてはリーズナブルな形でM/Mを積み上げている。とはいえ税金を使わせていただいている以上、無駄な積み上げはできない。
 また、各プロジェクトで現地スタッフの雇用や、事務所の維持にかかる経費など一般業務費が発生する。今回は一般業務費の原価部分も精算対象になっており、非常に柔軟に対応していただいている。

Q国内業務への振り替えに伴う海外業務のM/Mの不足分については、追加措置も検討されています。

 私たち開発コンサルタントの持ち場は、あくまでも開発途上国の現場であり、そうした踏み込んだ措置は是非お願いしたい。日本での感染が終息に向かったとしても相手国の状況によっては動くに動けない状態が続く。治療薬やワクチンの開発を待って再開という流れになるのか、先行きはまったく不透明だが、希望を持ってまずは今出来ることを着実に進めていきたいと考えている。

Qポスト・コロナを考える時、政府開発援助(ODA)の機能、目的も一変しているかもしれない。

 戦後復興支援に近い形になるのではないか。国のリハビリとともに、もっとも脆弱な人々の生活・経済基盤の確保が重要になるはずだ。利便性を追求する大型のインフラ整備から、安全な水や公衆衛生、食料など人の命を守り、平和な暮らしの確保を主眼とした支援に完全に比重が移るだろう。 当社もその時のため、準備を進めていかなければならない。

取材対象者:㈱JIN 代表取締役社長 大野康雄氏

『国際開発ジャーナル』2020年7月号 掲載記事

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